#47 逆恨み
「不味いな。島の奴等の白いヤツ、妨害を始めたぞ! 後ろでゴミ拾いだけしていればいいもの」
戦闘中の《月光丸》のブリッジ。ステラ・シュテルン艦長は席から立ち上がり、戦況の状況が映し出されたスクリーンを眺めて驚きの声を上げた。
積極的に隕石破壊を行うリターナーチームと月のSV隊とは対照的に、イデアルフロート側は撃破を免れた隕石や、その破片を回収しているばかりで活躍の一つも無い。
「左舷、段幕薄いぞ! 石ころ一つ月光丸に触れさせるんじゃないぞ! ついでに〈ツクヨミ〉のチャージも急がせろ」
何かがぶつかった衝撃により艦内が揺れ、ステラはすぐオペレーター達に指示した。
「イデアルの艦に通信は可能か?」
ステラの隣で仁王立ちのレディムーンが口を開く。しかし、その問いかけにオペレーターは首を横に振った。
「いえ、それが先程から何度も問いかけてみてはいるんですが……向こうからは全く応答がありません」
「そう……」
スクリーンに映ったリターナーの白いSVを睨むレディムーンは小さく唇を噛んだ。
「出撃する……なんてこと言わんでくださいよ?」
どこか落ち着きのないレディムーンに対してステラが釘を指すように言った。レディムーンは一瞬、驚いて小さく体を震わせたが顔は平然を装う。
「まだ何も言ってない」
「そういうお人ですよ、貴方という方は。いい加減、組織のリーダーとしての自覚を持ってください……それにその目じゃ、もうSVには乗れないでしょうよ」
「………………わかったわ」
深い溜め息を吐くレディムーン。
防衛ラインは徐々に突破されつつあった。
◇◆◇◆◇
意思を持つ隕石郡はSVに狙い向かってきていたが、いつ間にか再び地球の方へと移動を開始した。
特にそれはマコトたち《ゴッドグレイツ》とアリスの操る白きSVの《Gアルター》を避けるよう加速していた。
「トウコちゃんはともかく、私は単なる逆恨みでしょ!?」
放たれる光のシャワーを隕石で盾にしながら《ゴッドグレイツ》は待避する。馴れない宇宙戦、未だ《ゴッドグレイツ》の力は戻らず、更に遠距離からの武装が無い状態を強いられ絶体絶命だった。
『サナちゃん、今こそ合体! 合体して!?』
こんな状況でどこか興奮したようにトウコが叫んだ。その声はアリスにも聞こえている。
『人が真面目にしているのに、ふざけんな!』
ますます範囲と威力を高めて《Gアルター》はハリネズミのように生やした光のトゲを全身から一斉に解き放った。トゲは何かに触れる瞬間に花火のような爆発を広げ、無差別に周りの物を巻き込み消滅させていく。
『いつもそうだ。自分勝手で、何でも自分の思い通りになると思ってて、それがいっつも叶ってて、そういうところが一番ムカつくんだよ!』
妬み、嫉み、負の感情を吹き出しながら《Gアルター》は周辺を見渡した。キラキラと光り、やがて輝きを失っていく隕石の残骸が辺り一面に広がっている。
『何処だ……?』
「ここだよッ!!」
ドリルの唸る回転音に気付き《Gアルター》は後ろ手で受け止める。その掌を《ゴッドグレイツ》は振動するドリルの刃を押し当てるように削っていく。だが、パワーは《Gアルター》の方が上だった。
『そんな玩具でぇ!』
両手を破壊するよりも前に《ゴッドグレイツ》のドリルは握り潰されてしまった。直ぐ様、アームを切り離し《ゴッドグレイツ》は《Gアルター》なら距離を取る。
『サナちゃん!? 今、助けるから』
トウコの《戦人》はライフルを構えて狙いを付けると、突然その銃身が視角外から飛んできた何かによって切り取られてしまった。
『手裏剣……へぇ、光学迷彩でレーダーに映らないか。貴方が忍者さんね?』
デブリの上に立つ一つ目のSV。両手に刀を構え《戦人》へ突撃する。
「トウコちゃん!?」
『こっちは何とかするからサナちゃんは』
『そんなヨソ見をしてる暇が、あるんですかッ?!』
巨腕から繰り出される《Gアルター》の痛烈なボディブローが《ゴッドグレイツ》を襲う。回転しながら隕石から隕石へとバウンドして吹き飛んだ。
「くっ……腹部に異常が。あぁ、宇宙にウェイトの差は関係あるんだっけ?」
『スラスターもイカれてしまった…………マコトよ、隕石どもが防衛ラインを越えたそうだぞ。本格的に不味いことになった』
「あぁもう、どうすりゃいいのよ……!?」
大きな岩石の上に《ゴッドグレイツ》は大の字で倒れ込む。マコトとオボロは窮地に立たされてしまった。そこへ《Gアルター》がゆっくりと接近する。
『……このGアルターが強い? それとも、私の実力? 違う、この人が弱いんです。前に戦ったときは、こんなのじゃなかった。どうして、どうしてです?!』
倒れている《ゴッドグレイツ》の上に《Gアルター》は馬乗りになって胸部を何度も執拗に殴り続ける。圧倒的なパワーに《ゴッドグレイツ》の赤い装甲にヒビが入った。
『一方的になすがままにされる痛さと恐さはどうですか?!』
身動きの取れない《ゴッドグレイツ》の中で、マコトは衝撃に体を揺さぶられた。
初めは何とか耐えていたが、全身から汗が吹き出し表情も恐怖に歪む。一方、背部座席のオボロは何かを感じ取り、静かに目を閉じて考え事をしていた。
『……つまらない。こんなのに負けたなんて私は……』
ふらっと立ち上がった《Gアルター》の掌から、バチバチと火花を散らせた光球が産まれた。
『汚点は消すのが一番です……さよならです』
数十メートル後方へと下がり《Gアルター》は投球の構えを取る。
ボロボロの《ゴッドグレイツ》に狙いを定めて振りかぶろうとした瞬間、アリスは殺気を感じて右方向へと光球を投げた。
『させるかよぉぉぉぉぉぉーっ!!』
光球をギリギリで避けたトリコロール色のフルアーマーのSV。背部ブースターで猛突進するガイの《スーパーゼアロット》が《Gアルター》に袖部から伸びたプラズマレーザーソードを降り下ろす。それを《Gアルター》は手刀で受け止めた。
「……ガイ?」
『無事かマコト?!』
「あ、うん……」
その言葉を聞いてガイは安堵する。
『白いヤツ……乗ってるのはアアアか!? どうしてそんな島の奴等のSVに乗ってやがる?!』
『うぅ、煩いッ!』
アリスの《Gアルター》は《スーパーゼアロット》を弾き飛ばした。
『これも全部、ガイが悪いんです! ガイが、その女ばかりに気を取られて、私のことなんて見てくれなかったんだ……だから!』
泣き叫ぶアリスに呼応して《Gアルター》から放たれるオーラがドス黒く変貌する。
『私はお姉ちゃんにもサナナギ・マコトにも負けない。私は強い、誰にも負けない。だって、負けたら何も残らない。勝たなきゃ……勝たなきゃ! このGアルターならば』
膨れ上がるエネルギー。強烈なアリスのプレッシャーにマコト達は圧倒された。だが黙っているわけにはいかない、と先に行動したのはガイである。
『アリス……お前がやるって言うなら手加減はしねぇからな。怪我しないうちに投降しろよ!?』
そういってガイは《スーパーゼアロット》の全身の武装を展開させる。
標準を《Gアルター》一点にロックオン。ありったけの肩部・脚部マイクロミサイル、背部と腕部のレーザーの一斉射撃が《Gアルター》を飲み込み大爆発を引き起こした。しかし、
『……やってないな』
『目眩ましの、つもりですかッ!?』
爆煙の中から飛び出し白い巨腕が《スーパーゼアロット》の頭部を殴り砕け散った。
『な、しまっ……?!』
エネルギー・残弾ともにゼロ。コクピットのモニター映像が頭部のメインカメラから腹部のサブカメラに切り替わる。
(格好つけて駆けつけたはいいが、情けねぇ!)
敵を侮っていた不幸は続く。姿勢を崩して後転する《スーパーゼアロット》は地球へ向かっていく隕石の一つに引っ掛かり、連れ去ってしまったのだ。
「ガイっ?!」
マコトが叫んだ時には目にも止まらぬ速度で通り過ぎていき、小さくなって見えなくなった。
『……残るは貴方です。さっさと終わらせる』
今度こそと《Gアルター》が《ゴッドグレイツ》の方へ向いた瞬間、青色の何物かが《Gアルター》の頭部に覆い被さった。
『ナニ? あぁ……あぁぁぁぁぁぁぁー!?』
一切の操作が効かなくなり、アリスは訳も分からすもがき苦しみだす。
その青き鎧兜は《ゴッドグレイツ》の単機形態である《ジーオッド》によく似ていた。デザインの細部に違いはあるものの《ジーオッド》と同じく手足は無く、SVへ纏うように合体する機能は同じであった。
『……遊びが過ぎるぞ亜里亜……』
その《青いジーオッド》のパイロット、FREESの隊長ヤンイェンは呆れて言う。いつの間にかアリスは意識を失い項垂れていた。
『……行くがいい、サナナギ・マコト……』
「え、あ、はい」
ヤンイェンに言われるがまま、マコトの《ゴッドグレイツ》は大急ぎでガイが連れ去られた方向、地球へ向かって飛び去った。
『……お前らは、そのexSVを用いて何を成す? 私は……』
後ろ姿を見送り、残された?ヤンイェンは《月光丸》の方角を睨み、呟いた。




