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鎧装真姫ゴッドグレイツ  作者: 靖乃椎子
《第六話 決戦のイデアルフロート》
34/78

#34 父と娘

 時刻は夕方。

 濃紺の空の下で燃え盛る廃墟に佇むビル群が、まるで誕生日ケーキに刺した蝋燭のように明るく灯されていた。

 

「絶対守護障壁、解除……終わったかなァ?」

 灼熱地獄と化した街の中央で光のカーテンに包まれる一際、巨大な塔。

 崩壊したセントラルシティで唯一、無傷の状態でそびえ立っているのは、高さ五百メートルを誇る街のシンボルであるイデアタワー。

 頂上で少女ヤマダ・シアラが白衣の裾を風に靡かせながら双眼鏡を覗いていた。

挿絵(By みてみん)

「むー…………死亡確認? もしかして両方ノックアウトでドローとか、そんな残念エンドなのかなァ?」

 セントラルシティ一面が瓦礫の山で広がっている。

 日本一栄えた街は今、生命の存在を一つも感じさせることはなく、街を覆うドームもハニカム構造の骨組みだけを残して強化ガラスの天井は一枚もない。


「それはないさ。勝者は一人、敗者も一人。ゴーイデアとゴッドグレイツ、勝敗がどちらに転んでも計画は必ず次のステップへ進む」

  シアラの背後、椅子に座って優雅にコーヒーを嗜み書類に目を通すガラン・ドウマが言った。


「破壊の赤と想像の白。ヒトが装う神の器、か。でも、神を討つには武器が足りないんだよなァ……?」

「それは託すさ。私は天涯無頼のように急ぎ過ぎたりはしない。私が出来なくても次世代に望みを受け継がせることも考えている」

 シアラの隣に立つガランが双眼鏡を奪って周囲を覗く。


「それってまるで呪いだよなァ? そーんなもん貰ったって子や孫は喜ばないよん」

 取り返そうとガランの大きな背中に飛び付いたシアラ。ガランの太い指を双眼鏡から一本づつ引き剥がしていく。


「君と言う存在が言えるのかね、ヤマダ・シアラ君?」

「ノンノンノン、ダディの様な他人に丸投げするような大人に僕はならないさァ! 僕には僕のやり方がある……それに、代用にするはあっちのヒトでもね…………こしょこしょーッ!」

 隙を見てガランの脇腹を撫でるシアラ。一瞬だけ力が抜けたガランから双眼鏡を奪い返すことに成功した。

 また取られないようにシアラは少し距離を置き、再び覗き込むと何やら動きがあった。


「おっおっおっ? 立ち上がるよ立ち上がるよ……なんだ、二機ともかァーつまんね」



 ◇◆◇◆◇



『…………い……生きているか? ガイ、マコト』

「見りゃわかんだろ、死んでるよ」

 頭部コクピットでひっくり返るガイは、起き上がって砂嵐が流れる壁のモニターを叩く。所々にノイズが入っているが何とか外の状態が伺えるようになった。


『案外、大した攻撃でも無かったのか……取り合えず機体は、正常のようだな』

「おかげで眠気が頭がスッキリしたぜ。姫は、余裕っぽいな」

 覆い被さる瓦礫を退かしながら《ゴッドグレイツ》が立ち上がる。それと同時に数十メートル先の《ゴーイデア》も宙に浮かんだ。


「……まだ、起きるか……」

『さ……サナちゃん、もう止めよう? お願いだから、いつもみたいに機体から脱出してよ……』

「……いつも……?」

『わ……私にはゴーイデアでやらなきゃいけないことがある。だけど、その赤いマシンは危険だって、ゴーイデアも言ってる。だから、脱出を……』

 説得するトウコだったがマコトにとっては聞き逃せないある言葉に引っ掛かってしまった。


「……やっぱりだ、やっぱりそう思ってたんだ。トウコちゃんも……」

 操作レバーを握る手が小刻みに震える。

 沸々と高まるマコトの感情に呼応して《ゴッドグレイツ》は暗い炎を鉄腕に宿す。


「……私のこと、逃げ腰の強制脱出者ベイルアウターって言うんだ……!!」

『出力が上がって……いや、オーバーヒートって奴なのか? これ以上は危険だ。ガイ、マコトを止めろ! 合体を解除するぞ!』

 背部コクピットのオボロが叫ぶ。だが《ゴッドグレイツ》はあらゆる操作を受け付けない。


「くそ、止まれマコトッ!!?」

「……もう逃げない。 私は父さんみたいなSVのパイロットになりたいんだ。だから……ゴッドグレイツ……!」

 灼熱のオーラを纏いし《ゴッドグレイツ》が高く跳躍。対する《ゴーイデア》も両拳を輝かせ攻撃の構えで迎える。


『……フォトンフラッシュ……!』

「……デトネイトフィンガー……!!」

 真紅と純白の衝突は周囲の廃墟を塵と化し、跡形もなく消し飛ばす。

挿絵(By みてみん)

 その勝負は一瞬だった。


『ど……どうしたのサナちゃん、私の負けだよ……?』

 爆煙が一帯を漂う。

 出来上がった巨大クレーターの中心、仰向けで倒れる半壊の《ゴーイデア》と上で覆い被さるように《ゴッドグレイツ》が見詰める。


「……くっ……」

 勝者はマコト。熱気で揺らめく掌が《ゴーイデア》の顔面にかざすが、とどめを差すのを躊躇っていた。


『だ……駄目だよ、決着はつけなくちゃ。人生にドローなんてない。勝つか負けるかなの……』

「……うぅ……ふぅぅっ」

 マコトは頭を押さえ顔を歪ませた。合体してからずっと頭の中に響く《ゴッドグレイツ》の声が、目の前にいる《ゴーイデア》を壊せと命令してくる。

 この土壇場でマコトの理性は突然、《ゴッドグレイツ》から逆らおうとする。


「私は、サナちゃんになら……いいよ」

 するとトウコが《ゴーイデア》のコクピットから出てきた。ふらつく足取りで額から血が流れている。


「……ねぇ、気付いていると思うけど。サナちゃんも感じているでしょう? マシンの中に誰かいるって。それは何故だと思う? 何で、そこに感じられるんだと思う?」

 大きく深呼吸をするとトウコは優しく語りかける。


「私は子供の頃に両親を失った。それはある組織の陰謀で、父は運悪くソイツらに嵌められ死んだ。嫌いな父だったし、自殺したせいで私の生活はドン底に落ち、いつか復讐してやると誓った」

 いきなりトウコが何の告白をしているのかマコトにはわからなかった。


「それから私は伽藍の叔父様に拾われ……復讐の機会を貰ったの。あの日、新型SV披露会にいたパイロットたちに」

 真剣な眼差しを向けているトウコが語ったことに、マコトの脳裏にはある過去の出来事が過る。


「サナちゃん……いつもお父さんの話するとき、お父さんは凄腕のパイロットだ、撃墜王だって言ってるよね」

「……い……う……な……」

「あれってさ、嘘じゃないのよ。あなたの父、真薙裕志はただの」

「言うなぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁーッッ!!!」

 マコトの絶叫。トウコが言おうとした言葉が記憶の奥底に閉まっていたモノを呼び覚まし《ゴッドグレイツ》に攻撃命令を下してしまった。


「…………ま、守らなくてもいいんだよゴーイデア……これは……私の、罪滅ぼしだから」

 瞳を血走りながら睨む《ゴッドグレイツ》から降り下ろされた拳を《ゴーイデア》はボロボロの両腕で受け止める。トウコは防御を止めるよう言うが《ゴーイデア》は無視してトウコを必死に守る。


「まさか、娘が学園に入学前してくるなんて驚いたよ…………だから、最初は監視目的で近付いて、仲良くするつもりなんて無かったの。それなのに何となくだけど、サナちゃんを見てたらほっとけなくて……」

 頭上で取っ組み合う鉄の巨腕に自ら寄っていくトウコ。


「今まで騙しててごめんなさい。私はサナちゃんが好きだよ。だから、私のことを」

挿絵(By みてみん)

 次の瞬間、台詞を遮るように銃声が鳴り響き、トウコが宙を舞った。


「…………トウコ、ちゃん?」

 音の出た方角を見やるマコトの《ゴッドグレイツ》は丘の上に人影を発見する。

 スクリーンの映像を拡大表示すると、拳銃を構えたレディムーンがそこに立っていた。



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