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鎧装真姫ゴッドグレイツ  作者: 靖乃椎子
《第六話 決戦のイデアルフロート》
33/78

#33 炎恨

 ──物語は始まりに語られた時間に戻る。


 焔を纏いし紅き魔神、《ゴッドグレイツ》が《白き女神》を睨む。

挿絵(By みてみん)

 鉄面皮であるにも関わらず、表情は怒りや憎しみといった負の感情で満ち溢れていた。


「クソッ、少しでも気を抜くと意識を持っていかれそうだ……!」

 前後二段の複座型となった《ゴッドグレイツ》のコクピットは異様な暑さだった。

 内部温度計は三十度を超え、痛む両目と頭を押さえて後方シートに座るガイは必死で耐えみせる。

 機体から肉体に流れてくる強い力に逆らえば逆らうほど苦痛が襲ってきた。


「……壊す。私を邪魔するモノを壊す……」

 全身油汗まみれのガイとは対照的に前方シートのマコトの方は涼しい顔で特に苦しんでいるという素振りはなく、眼前に浮かぶ《ゴーイデア》の見て不気味な笑みを浮かべる。

 ぼんやりと輝く髪の毛は逆立ち、トレードマークの赤い眼鏡が足下に落ちていた。


「そっちはどうか、オボロ……?」

『流石はヨシカの仕事だ。背の低い私でもだ。快適なサブコクピットだなっと』

「そうじゃなくてだな、快適なのか?」

『あぁ、こちらは問題ない……やはり人間にしか、ということか』

 背部の第二コクピットから巫女服の少女オボロは悲しい表情で呟く。


「いいかマコト。俺達の任務は豆連軍より先に女神SVを奪取することだ。何としてでも動きを止める、だが壊すんじゃねえぞ……? ゴッドグレイツは強くなったんだからな」

「……黙れ、ガイ。私の名前を気安く名前を呼ぶな……」

 後ろを振り向くことなくマコトが言う。殺気だった声色にガイの背筋が凍りそうになる。


「ひ……久しぶりの再開なんだ。俺は会いたかったぞ?」

「……殺す……」

「おー怖い怖い。だが、今の感じは目の前の敵に向けて発散してくれよな」

「…………」

 マコトが口した言葉は彼女の本心から出た台詞でないことをガイは読んでいた。

 気持ちを落ち着かせるとガイは声には出さず、心で念じ《ゴッドグレイツ》に問いかけてみる。


 ──お前は本当にマコトの父親か?


 真紅の魔神は答えなかった。



 ◇◆◇◆◇



 睨み合う異形の魔神二機を尻目に戦うのは、鉄の青騎士の鋼の武者だ。


「ちょこまか飛んで鬱陶しい!」

 青騎士こと《ノヴァリス》から放たれた電撃の放射を鋼の武者こと《Gアーク・アラタメ》は回避する。


「攻撃に迷いがあるな青い奴よ!」

「くっ……舐めるな!」

 それもこれま今のゼナスが複雑な心境にあったからだ。

 島を守るべき女神こと《ゴーイデア》が島を破壊せんとして動き回る。

 その狙いは統合連合軍のSVである《Gアーク・アラタメ》なのだが、たかが一機に対しての攻撃なんかじゃない。

 どこか憎しみめいた非情さが動きから見て取れる。

 そして、出現した《ゴッドグレイツ》と呼ばれる真紅の魔神に乗ったサナナギ・マコトに標的を変えると先程から相手の出方を探っていた。


「真薙君が……彼女が、宇佐美さんをやったのか……?」

『余所見をしている暇が君にあるのかね?!』

 ゼナスに考える時間は与えられずトキオの《Gアーク・アラタメ》の弾丸が《ノヴァリス》の頭上を掠める。とっさに《ノヴァリス》は建物の影に隠れた。


「邪魔をするんじゃない!」

『君は島側の人間か? いいのか、こんな状況を許して。止めようとは思わないのか?!』

 と、トキオが説得を試みるも聞く耳を持たないゼナスの《ノヴァリス》のサーベルが《Gアーク・アラタメ》を斬りつけようと突撃する。細身の刃は《Gアーク・アラタメ》の肩部装甲に深い傷を負わせた。


「それは貴方たちが来たからこうなってしまったんだろう?!」

『大半の攻撃はあの女神のせいだというに!』

「他人のせいにするのか?!」

「事実だ!」

 窮地に陥った《Gアーク・アラタメ》は閃光弾を使う。互いのモニターとレーダーに障害が起こり、位置が分からなくなる。


「よく考えることだ。真実をな」

「ま、待て逃げるな!」

 ゼナスの《ノヴァリス》の視界が元に戻った時には《Gアーク・アラタメ》の姿は周囲に確認できなかった。


「…………私は、一体どうすればいいんだ」

 気力が失せるゼナス。

 自問自答するも今すぐに答えは出なかった。



 ◇◆◇◆◇



『もう一度言うが長くは持たない。速攻で倒すぞ、いいな小僧ども?』

「やってやるさ、なぁマコト?」

「……ゴッドグレイツ、火を喰らえ……」

 両腕を左右に広げてシールド型の大きな手甲のクリスタルが光り輝く。周囲の火災している建物の炎が渦を巻き《ゴッドグレイツ》へ集まる。


「「……ボルテクスブレイザー……!」」

 マコトとガイが叫ぶ。エネルギーが充填した腕から火柱が螺旋を描き《ゴーイデア》に向けて放たれた。

 熱の嵐は通る過ぎるモノ全てを吹き飛ばし燃やし尽くす。その渦の中で防御の構えを取るでもなく仁王立ちする《ゴーイデア》だが装甲はじわりと融解していった。


『……ゴーイデア、癒しを……』

 トウコが念じると全身が焼け爛れた《ゴーイデア》の装甲がみるみる内に修復されていく。ものの数秒で元通りの純白な女神に戻っていった。

挿絵(By みてみん)

「へ、バケモノかよありゃ……?」

『紅兜!』

 トキオの《Gアーク・アラタメ》が目の前に現れた。


「君らは月……レディムーンのリターナーだな? 私は統連軍の天草時夫、味方だ。君らを援護す」

 言葉を避け切るように火の粉が《Gアーク・アラタメ》に降りかかる。偶然ではない、意図したように炎が《ゴッドグレイツ》へ近づけさせまいと揺らめく。


「な、何をするんだ?!」

「生憎だが姫は機嫌が悪い。味方してくれるのはありがたいが邪魔だけはしないでくれ、手加減は出来ないからな」

「島の破壊は駄目だ! まだ、この島には秘密がある。それがわかるまでは攻撃の手を」

「……なら勝手に秘密さがしでもしてて、私には構わないでよ。あっちへ行かないなら燃やす……」

 一歩足を踏み出すと地面が割れ、吹き出す炎が《ゴッドグレイツ》を囲んだ。

 レーダーから強大なエネルギー万能を関知して危険を察知したトキオは《Gアーク・アラタメ》はドームの外へ脱出させる。


「邪魔者は無くなった。思いきりやるぞ……マコト!」

「……跳べ……」

 目映い閃光を放つ《ゴッドグレイツ》を中心に大爆発が巻き起こる。

 崩壊する立体交差点、爆炎の中から勢いよく飛び出した《ゴッドグレイツ》は拳を赤熱化させて上空の《ゴーイデア》に迫る。


『あまり足場を崩すなよガイ。こいつに跳躍力はあっても飛行能力は無いんだぞ』

「わ……わかってるさ。お姫様の手綱を引くのが俺の役目だからな」

 繰り出される灼熱のパンチが《ゴーイデア》を包む虹色のバリアフィールドを一撃で割った。透かさず第二の一発を食らわせようと振りかぶる《ゴッドグレイツ》だが《ゴーイデア》も反撃に出る。


『さ……サナちゃん、なんだよね。乗っているのは……』

 トウコの声。それに反応して一瞬だけ動きを止めてしまった《ゴッドグレイツ》は《ゴーイデア》から発射される無数の光の矢を全身に浴びてしまい、地面へと墜落した。


「……トウコ、ちゃん……」

『だ……ダメじゃない。せっかく私が、サナちゃんをSVに乗せないようにして、頑張ったのに……』

 降下しながら《ゴーイデア》の両腕が射出され、瓦礫の山に大の字で横たわる《ゴッドグレイツ》の肩を強く掴んで、身動きを取れないように固定させる。


『力が吸い取られている? ええぃ、ならこいつを食らえ!!』

 オボロが乱雑にスイッチを叩くと《ゴッドグレイツ》の脚部から小型誘導ミサイルが四発発射された。しかし、真っ直ぐ進んでいたはずのミサイルの機動は《ゴーイデア》の直前で逸れ始め、あらぬ方向へと行って何処かへ消えていった。


『ガイ、そちらではなんとかならんのか?!』

「言われなくてもやってるさ……!」

 振り解こうと動くも《ゴーイデア》の腕の力は強さを増し、更に瓦礫の奥へ押し込まれてしまう。


「……白いSV、道を阻む敵は全て燃やす……」

挿絵(By みてみん)

『そ……その赤いSVは危険なんだよサナちゃん、だから、早く、破壊しないと……っ』

 胸部の結晶から生み出された粒子が渦を巻き、球体状に形成され次第に大きくなっていく。


『……イレイザー・ノヴァ……!』

 全てを飲み込む破壊の極光が今、解き放たれた。

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