表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/146

第80話 扱いに困る魔剣(Side:Lawless)

「これなんかどうだ? 水属性の魔核(マナコア)を装着すれば、魔素(マナ)が尽きるまで新鮮な水が湧く水源(ソース)(バッグ)!」


 仏具【蓮華座】があれば水には困らないので、不要だと答える。


「ならこれだ! 火属性の魔核の魔素を使って火種を作る発火石(フラッシュポイント)!」


 発火(ファイリング)があるので要らないし。


「くっ! ならばこれでどうだ! うちの一押し商品、容量拡張鞄!」


 既に持ってます。付与(グラント)されている空間拡張の等級(グレード)的に手持ちの方が高性能です。


「……坊主、お兄さん自信なくなっちゃうよ」


 肩を落としながら一本の短剣を取り出す。


「魔剣寸刻砕(スキップモーメント)。瞬き程の短い時間をすっ飛ばす魔剣、なんだが……」


 なにやらとんでもない物が出てきた気がする。瞬きを一秒弱と考えて、正に一瞬ではあるが時間を飛ばすと言うのだから破格の性能に思える。だが先程同様歯切れの悪い物言いの男を見るに、その能力を使うには犠牲や制限等の(マイナス)の要因が必要なのではないだろうか。


「発動条件がはっきりしてないんだよ。知り合いに頼んで何度か模擬戦してもらったんだがな、どうもこいつで(ダメージ)を負った瞬間、時間が飛ぶらしいんだ。ただし時間が飛んでいる間は完全に固定されるらしくてな」


 つまり、短剣で手傷を負った対象の主観的な時間を飛ばすのではなく、世界に対して相対的な時間を切り飛ばす効果を持っているようだ。対象の絶対時間を切り捨てることで世界から隔絶させ、存在自体を否定する効果、といったところだろうか。存在が否定されている以上その物質に効果を及ぼすことは不可能であり、あらゆる干渉を受け付けない。

 伝説にある希少(レア)技能(スキル)(アブソ)(リュート )(ディフ)(ェンス)がこれに当たり、対象となる範囲の時間を止め、空間を固定してありとあらゆる干渉を拒絶する無敵の防御技能である。無論こんな破格の技能を対価無しでは使えるはずも無く、生きて還る者(デッドアリエネーター)の名を持つ伝説の生還王をして死に至らしめる程の代償を必要としたらしい。


「攻撃した相手に疑似的な絶対防御を一瞬とは言え与えちまうんだ。倒さなきゃいけない相手を護ってどうするんだって話だろ? この短剣自体もそれほど切れ味の良い武器でもないしな。瞬き程の時間を稼ぐ為に接敵して攻撃力に乏しい武器でどうしろって話だ」


 一瞬の完全静止を有効に活用できる位の腕の持ち主にはこの短剣を使わずとも隙を作る手段はいくらでもあるだろうし、ローレス程度の接近戦技量では相手を一瞬止めたところで何が出来る訳でもない。せめて短剣としての性能が良ければ武器として使えたかもしれないが、(なまくら)よりまし程度のこれは武器としても使いづらい。


「坊主はさっきの限定特化(ピーキー)な盾なんて買うような物好きだから、これもどうにか買っちゃくれないかね。同じく城壁迷宮産だけど安くしとくよ」


 使い勝手の悪さを差し引いても研究資料としての価値は十分ある。男はそういう機関に伝手が無いので売り込むわけにも行かず、かと言って武器として役立てる方法も思いつかない。


「ってな訳で金貨五枚でどうだ? 高いと思うかもしれないが、お兄さんも生活か買ってるからなぁ」


「それで買うよ」


「だよな、やっぱり高……え!? 買ってくれるの!?」


 ローレスの即決があまりに意外すぎたのか、言い値で売れたというのに男は酷く驚いた。


「どうせもうちょっと下げてもお兄さんの懐は痛まない計算くらいはしてるんでしょ? でも僕にしてみれば金貨五枚だったらこの短剣は安いよ」


 使い勝手が悪いからこそ、ローレスの戦闘形式(スタイル)には(はま)るのだ。何れ何処か信用の置ける革細工の職人にでも頼まなければならないが、ローレスの様な素人でも既製品を少し加工すれば、今思いついた使い方の準備は出来そうだ。


「おいおい、こんな訳の判らない武器の使い道を思いついたってのかよ。どういう風に使うつもりだ? って訊いても教えちゃくれないよな」


 ローレスの言動と態度から短剣の有益な使用方法を閃いたことは判ったようだ。男は呆れながら「やっぱ年取ると頭が固くなるのかねぇ」と肩を竦めると、金貨と短剣を交換した。


「お兄さん、随分と高性能なガラクタを持ってるみたいだけど、他にも無いの?」


「待て待て、失礼な餓鬼……おっと、露店始まって以来の上客に餓鬼はねぇな。だがガラクタってのは聞き捨てならねぇぞ。どれも城壁迷宮産の高品質だぞ。……使い勝手は悪いが」


 言わなくても良い事まで口にするあたり、この男は商売には向いていないのかもしれない。


「そうだね。ガラクタって言うか、使い手を選ぶような尖った物ばかりって感じだね」


 ローレスの言葉に手を打つと、我が意を得たとばかりにローレスの肩を叩く。


「おお! 良い事言うじゃねーか! そうだよ、使い手を選ぶ物を扱う隠れた名店、それが俺の露店さ!」


 男が調子に乗り出したようだ。少し暑苦しくてうっとおしい。


「見たとこ連れのお姉さんの羽織ってるのは変装外衣(ディスガイズローブ)か? 中までは詮索しないが、顔なり姿なりを隠したいって所だろ? それならこいつなんかどうだ?」


 取り出したのは中央に鮮やかな蒼玉(サファイヤ)が嵌め込まれた首飾り(ネックレス)を取り出す。台座は簡単(シンプル)な銀細工で、蒼玉自体も小指の爪程度でそれほど大きくも無い。装飾品としてはそれほど目を引くものではないが、それでもそれなりの値段はするだろう。

 だが、この男が出してきたものだ。見た目で図れない()()があるのだろう。


「ローレス君、私青い宝石は好きよ」


 アイオラはこの首飾りを気に入ったようだ。あまり過剰な装飾を好まないらしく、普段もあまり着飾ったりはしないようだ。そんなアイオラが興味を持ったと言うだけで、ローレスはこれを買う方に天秤が傾いていくのを自覚していた。


「お姉さんは気に入ってくれたようで嬉しいねぇ。まぁ、こいつも色々厄介な一品な訳だが、説明しなきゃ駄目だよな?」


「当たり前です」


 普通に装飾品として売れそうな空気を感じたのか、購入を止める要素になりそうな説明をしたく無さそうだ。そんな態度をされて説明不要で即買うと言うような人は居ないだろう。


「はぁ、そりゃそうだよな。これは(リジュヴェ)(ネーション)の石(ジュエル)を嵌めこんだ銀細工の首飾りでな。蒼玉に力が宿ってるんだ。銀の台座は後付だな」


 最初は蒼玉の原石の状態で入手されたらしい。原石の状態で一定時間所持していると、少しずつ若返っていく事から最初は不老の石と呼ばれ、非常に高値で取引されていたそうだ。所持している間だけ若返るということで入手を巡って争いまで起きた。だがその嘘は直ぐにばれる。

 長い争奪戦の末、ある年老いた大富豪が所有権を手に入れた。しかし、永遠の若さを手に入れたと喜んでからそう時を置かずに若い身体のままで彼は永眠した。身内が原石を取り上げると元の年老いた姿に戻ったという。死因は至って単純な老衰であった。若返りではなくただの年齢詐称の幻覚効果があるだけで、本人の年齢はまったく変わってはいなかったのだ。

 騙されたと気付いた大富豪の身内は、原石を売った冒険者を探し出して復讐を果たし、偽りの若さを(もたら)すこの原石を叩き壊した。

 砕けた原石の幾つかの欠片が市場に流れ、加工されて装飾品として再び市場に流れた。欠片の大きさ(サイズ)によって詐称される年齢が変わり、目の前の首飾りの大きさだと容姿年齢で大体十歳程若返る。この欠片の面白いところは、実年齢から十歳引くのではなく、見た目が十歳相当若返って見えるようになるという点だ。


「話では数十年生きた森人(エルフ)の容姿が幼少期の頃まで変化したらしい。実年齢で多少若返ったところでやつらは何も変化しないからな」


 因みに市場には様々な加工が施された(リジュヴェ)(ネーション)の石(ジュエル)が出回っているらしいが、曰くが曰くな事と若返った容姿に視線や手の届く高さが引き摺られるので変装中は随分と不便になる事で、それほど高くは無いらしい。何より若く見えるだけで実際に若返る訳ではないのだから、あまり高くても売れないのだ。


「正直、大富豪の(くだり)は眉唾もんだけどな。そんな金持ってるような奴がこんな幻覚程度見破れない訳無いしな。こんな怪しいもん、鑑定も実験もせずに本人が使う訳が無いだろう?」


 言われてみれば確かにそうだ。言われるままに信じて大枚を(はた)いて怪しげな原石(もの)を買うようなやつが、金儲けで成功できる訳が無いのだ。


「まぁ、誰が流した嘘かは知らないが、そういう曰くがあるとなると高く売れるもんも敬遠されがちになるってもんでな。俺もこれは結構安く仕入れたんだ」


 アイオラは自前の擬装術式に変装外衣(ディスガイズローブ)と二重の擬装を施している。ここに首飾りの擬装を追加すればさらに本命(正体)から目を逸らすことは出来るだろう。


「でも、私まで子供になっちゃったら旅をする上では逆に目立っちゃうんじゃない?」


「あー、それもそうだな。じゃあこいつは駄目だな。となると他に……」


 アイオラの指摘に男は首飾りを引っ込めようとしたが、その腕をローレスが掴んだ。


「いや、買うよ。いくらですか?」


 ローレスの有無を言わさぬ即決具合に、アイオラも男も首を傾げる。


「ローレス君?」


「いや、さっきそっちの姉ちゃんも言ってただろ? 逆に目立つぞ?」


 そういうことではないのだ。別に道中つけておく必要は無いのだ。


「アイオラさんの子供の頃の姿、見てみたいじゃないですか」


 ちょっと恥ずかしそうに言うローレス。男は「そういうことか。マセガキめ」と言いながらも何度も頷いた。男同士の謎な理解が二人の間に生まれたようだ。


「よし、お兄さんが一肌脱ごう。金貨一枚と言いたい所だが、少年の浪漫に免じて銀貨五十枚でどうだ?」


 無言で銀貨を差し出すローレス。男の配慮に返す意味で渡す銀貨は六十枚だ。


「……まぁ、ローレス君が見たいって言うなら別に良いけど」


 若干呆れつつも、そうやって気持ちを向けられること自体は嬉しいアイオラだった。


「少年はまだ財布に余裕はあるだろうな? 次は……」


 男は背後の麻袋を漁り始める。びっくり箱のように次は何が出てくるのかが読めない状況が楽しくなってきたローレスだった。

拙作をお読みいただきまして、ありがとうございます。


15/11/10

仏具【蓮華座】があれば水には困らない。

→仏具【蓮華座】があれば水には困らないので、不要だと答える。

首飾りを持つその腕を→その腕を


15/11/13

言い事言うじゃねーか→良い事言うじゃねーか

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ