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第79話 使い勝手の悪い盾(Side:Lawless)

「擬装を暴くには私みたいな特殊な眼を持つものにしか使えない術式か、上級(アドヴァンスド)以上の冒険者並みの術者でないと使えないような術式でもないと無理だねぇ。変装外衣(ディスガイズローブ)と併用すればまず安全じゃないかね」


 女性のお墨付きを頂いた事で、魔道国家入りの懸念材料がひとつ減った。


「そもそも擬装って言うのはどんなに巧くやったって何処かに必ず綻びが出るもんなんだよ。本物じゃないって言うのはそれだけ不自然なものなのさ。だから完璧に隠そうとしちゃダメなのさ」


 具体的な隠蔽解除の術式を教わった。いくつかはローレス自身にも使用できそうな術式だった。

 種族限定や特殊な体質限定の術式もあったが、どれもいくつかの綻びの有無を検知して、そこから辿るようにして擬装を暴く手法を取っていた。違いは綻びの種類と術式の癖。

 その綻びはひとつを潰すと別の場所が解れ、解れを直すと別の場所に穴が開く。一種類の擬装看破は防げても、二種類、三種類と手法を変えてこられるといつかはばれてしまう。

 縫い物で例えるなら穴を塞ぐために当て布をするか、裏から縫い合わせるか、そもそも穴の部分を丸ごと取り替えるか。どの選択でも穴は塞がるが、当て布の縫い目や生地の裏側を見ることで(つくろ)ったことはわかるし、穴の空いた生地を丸ごと変えてしまえば生地の新しさや肌触りで判るものには判ってしまう。


「だから逆に怪しいところを別の場所に作るんだよ。本命の擬装の解れを目立たせないために、変装外衣(ディスガイズローブ)で二重に覆ったり、同行者に目立った特徴を持たせたり、ね」


 義務的に擬装看破をしてくるものは一つ目の稚拙な擬装を見抜いた後に、圧倒的な技量差のある高度な術式に気づくことはまずない。それだけ高度な術式を持つならわざわざお粗末な擬装で目を引く必要などないのだから。アイオラの場合はその美貌で厄介事を引き込みたくなかった、との言い訳も立つ。

 ローレスのような年端もいかない子供が同行者と言うのも良い目眩ましとなる。親子か年の離れた姉弟と見られることで、足手まといに見える子供連れは警戒対象から外れやすいだろう。


「鋭いやつはどうしたって怪しんでくるから、ダメなときはダメと覚悟は決めておく事だね」


 結局はそういうことなのだろう。駄目なときはどんなに場を整えても崩されるものだ。

 ローレス達は女性に礼を言うと、情報料と術式教授の謝礼に金貨五枚を差し出す。そのくらいの価値は十分にあったと判断したためだ。


「貰いすぎな気もするが、指輪の補填と考えて有りがたく戴いとくよ」


 そう言って金貨を受け取った女性に別れを告げ、ローレス達は店を後にした。




「消耗品の補充をしたら、少し回ってみましょうか」


 王都と言うだけあって、商店も多ければ品数も豊富だ。露店も多いし掘り出し物のありそうな気配がする。


「ローレス君に任せるわ。気になるものがあったら声を掛けるわね」


 食料に関しては不自由がない。薬品類も大体が賄えるので本当の意味での補充は必要ない。求めるものは未知の物品、美味しい食料である。


「弓を打つときに邪魔にならないような防具があると良いんだけど……」


 アボミとの戦いで自分に足りていないのは、近接戦闘時に攻撃手段も防御手段も乏しいと言うことだと痛感した。

 近付かれる前に対処すれば良いと思っていたが、やはり限界がある。ラルウァンとの模擬戦を経験して、どうにもならない相手(理不尽)が存在すると知った今、どうにか出来るものなら手札を増やしておきたいと言うのが正直なところだ。

 近接戦闘に関しては一朝一夕でどうにかなるものではないだろう。であれば可能な限り防御を固めるのが先決と思われた。


「ライ君に前衛を任せていた頃は、随分と楽をさせてもらっていたんだな」


 アイオラ自身はそれなりに自衛できるだけの力を持っているのが救いではあるが、二人旅ではどうしても不測の事態に対処し辛い。ローレスがより多方面(オールラウンド)な能力を身に付ける必要があると考えている。

 理想は遠近両方に対応できるだけの力を手に入れることだが、流石にそこまでの才能はないと理解している。どこまでいっても遠距離に特化した弓兵(猟師)であることに変わりはないのだ。

 であるならば取れる手段は前衛を任せられる仲間を得るか、ローレス自身が耐久力をあげて中近距離を補う(カバーする)必要がある。


「理想は柔軟性と耐刃性に優れた革鎧と左手に弓を持ったときに邪魔にならないような防具、右手を保護する耐刃保護具、後は腰から下を護る何かって所かな」


 まずは防具を扱う店を探すことに決め、辺りを見回しながら大通りを歩く。途中武具を扱う店で矢と投げ短刀(ナイフ)を補充し、目についた防具店を覗くが求めるような防具は見当たらなかった。


「特注するという手もあるけど、日数がかかるしなぁ」


 見付からないようなら仕方がないが、どの店に頼むのが良いのかも判らない。最悪ラルウァン邸に戻ってルナに紹介してもらうしかないかな、と思いつつ通りを歩いていると、人の出入りの少ない横道に露店を開いている男と目があった。


「坊主、何か探し物かね?」


 まあちょっと、と言葉を濁す。わざわざ人通りの少ない脇道に露店を開く男に胡散臭さを感じていた。ほとんどの露店は表通りか、横道でも人通りの多いところに集中している。そういった場所ではなく、わざわざ人通りの少ない場所を選ぶのは品質に自信がないのか人目を避けねばならない理由があるのか。


「胡散臭いって顔してるな。そう思う理由も解るがな。まあ買えとは言わんから試しに見ていきなよ」


 一応防具の類いも置いてあるようなので、見るだけ見てみることにした。興味を引かれる様なものがなければさっさと本通りに戻れば良いだろう。

 通りの端に敷き布を広げ、その上に雑多な物を並べている。盾の様なものや革の手袋、指輪や腕輪、短剣など統一性がない。


「これは……盾ですか?」


 指し示したのは前腕部全体を覆うような革の小手。小手部分とその外側に付属した直径五セル(センチ)程の円形の金属板で構成されている。


「こいつはな、こうやって使うんだ」


 男は左前腕部に装着すると「盾よ」と唱えた。

 円形の金属板がわずかに振動すると、金属板を中心に直径二十セル(センチ)の半透明の縦が姿を表す。


不可視(インビンシブル)の盾(シールド)って魔道具だ。見ての通り透明な盾を出現させることが出来る。盾としては小柄なのがネックだが、中央の金属板が破壊されない限りは破損の心配が無いのは利点だと思うね」


 肝心の強度と持続時間について訊くと、男は口ごもり、視線を逸らした。


「発動に一定の精神力を必要とするが、自分で解除しない限り消えることは無いぞ。強度はあれだ。……一撃で砕ける感じ」


 最後の方だけ小声で早口にぼそりと呟く。誤魔化そうとする気満々である。


「一撃で砕けるって、強度は無しって事ですか?」


 それでは盾の意味が無いのではないのだろうか。


「いや、それが特殊な性質の盾を生成するらしくてな。受けた攻撃の衝撃を全て吸収して破砕するらしいんだよ。上限は不明だが、少なくとも並の剣士の一撃は完全に防ぐのは確認しているんだが、いかんせん一撃で砕けちまうからな。どんなにキツイ一撃でも防ぐ反面、二撃目には役に立たないとなるとやっぱり敬遠されがちでな……」


 盾が必要な職種にとっては、一撃だけ防げても意味が無い。回避主体の軽戦士にしてみると受け流しがし易い小円盾(バックラー)の方が使い勝手が良いし、やはり一撃だけ防げても次に繋がらないこの盾は使い勝手が宜しくない。

 逆に普段攻撃を受けない立ち位置の職といえば、ローレスの様な遠隔攻撃主体のものか、術式主体に戦うもの辺りといったところだが、こちらにしてみてもこの盾の必要性は薄い。

 遠隔武器の使い手は相手に接近を許すということは敗北と同義である。如何に接近されない場を作るかが遠隔武器の本領である以上、普通は盾なんて不要である。術式を要に戦うものは更に必要性が無い。接近を想定した戦いをする者は自前の障壁術式や隠蔽術式を持っているし、遠隔術式主体のものは接近が敗北と同義なのは遠隔武器と同じである。

 接近されないように姿を隠したり相手の範囲外から狙いをつける術を身につけていたり、接近を妨害する前衛の仲間と行動をするなど、戦う前から準備を整えるのが最低条件となる。

 ローレスのように遠隔武器使いでありながら、近中距離を補完(カバー)しよう等と考える事それ自体が間違っているのだ。だがそんな間違った戦闘形式(スタイル)にこそこの盾は合致するように思える。一撃を防げれば良いのだ。その一撃を防いだ隙に必殺の反撃(カウンター)を決めれば良いのだから。


「保険代わりになら使えると思うぞ。一応、城壁迷宮産の遺失品(ロストアイテム)だから、金貨五枚……じゃあ高いか、ええい三枚でどうだ?」


 遺失品(ロストアイテム)とは各地の迷宮や遺跡で手に入る道具(アイテム)で、武器や防具、日用品や薬など様々な種類の物のことである。手に入る手段も様々で、倒した魔物が所持していたり、迷宮のどこかに出現する力場(ボックス)と呼ばれる箱状の密閉空間の中に収められていたりする。

 共通するのは現在の各種術式(テクノロジー)では再現が不可能なものであると言う一点で、研究の末再現が可能になった幾つかの稀な物を除き、流通するものは全て迷宮産である。


「使うかどうかも判らないものに金貨三枚か……」


 正直手に入れたい物だが、値段のはっきりしないものである以上、交渉は大事である。指輪のときのように買わざるを得ない状況ではないのだ。何よりこの遺失品(ロストアイテム)は男も持て余し気味の不良在庫のようだ。買っても良いけど高いから悩んでいる、と言う空気を匂わせれば……。


「よし、金貨二……一枚と銀貨五十枚でどうだ! これ以上は足が出ちまう」


「まだ高いけど、お兄さんも大変そうだしそれで良いよ」


 多分まだ利益幅(値切る余地)はあるのだろうが、あまりギリギリを攻めなければならないほど金銭に困っている訳でもない。効果を考えても金貨一枚半なら損には感じない。


「おお! 売った! もう止めたとはいわさねーぞ!」


 貨幣を渡すと押し付けるように不可視(インビンシブル)の盾(シールド)を押し付けてくる。ローレスは「言わないよ」と苦笑いで返すが、内心では小躍りしていた。

 これで一つ選択の幅が広がった。この露店はもしかしたらまだ掘り出し物があるかもしれない。


「折角だから他の物も見せてよ」


 役に立つものがあれば良いんだけれど。上客の予感に嬉々とする男を見ながらローレスは内心期待しながら敷き布の上の物品を眺めるのだった。

拙作をお読みいただきまして、ありがとうございます。


15/11/13

一朝一日→一朝一夕

立ち居地→立ち位置

おじさん→お兄さん


15/12/14

ルビの不備を修正

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