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第48話 街道の厄事(Side:Rayshield)

最近投稿時間が安定しなくて申し訳ありません。

 鱗熊(スケイルベアー)を倒した夜から更に三日。ライシールド達は森人(エルフ)の大森林の端近くまで辿り着いていた。


「もう半時もあれば街道に出る。今日は街道を少し南下して宿に止まろう」


 久しぶりにベッド(寝台)で寝られる。野宿で地面に敷き布を敷いての睡眠も慣れたが、やはりキチンとしたベッドで寝られる方が疲れは取れる。


「体もきちんと清めた方が良いしな。汚れ物も洗っておかないと、足りなくなると困る」


 ウルがよくこの辺りまで遠征するときに使う宿があるらしい。そこは裏手の井戸で水浴びをしても良いし、洗濯物を洗浄する魔道具と乾燥させる魔道具が常備されている。洗濯は一応有料だがそれほど高く設定されていないので、宿泊客は大体お願いするそうだ。


「今回は鱗熊の素材を卸せばサービスしてくれるだろう」


 先日倒した鱗熊の肉や内臓の薬となる部位等は結構高額で取引される。街道沿いの店ではそういった素材を買い取り、定期的に来る行商人に更に卸す訳だ。

 熊肉は癖がある分好きな人にとってはご馳走だそうで、意外と高値で取引される。特にウルの手によるものは処理の仕方が良いので特別喜ばれるそうだ。


「さて、そろそろ街道に……ん? なんだ?」


 ウルの纏う空気が変わる。何か異常を感じたようだ。

 ライシールドも耳を澄ませて何か聞こえないか探ってみると、遥か遠くで金属のぶつかり合う様な音が聞こえる。


「これは複数のものが武器で戦っているな」


 ウルは様子を見てくる、とかき消すように姿が見えなくなった。相変わらず見事な隠蔽(ハイディング)隠密(ステルス)だ。目の前で注視していてもあっさりと見失ってしまった。


「アティ、何かわかるか?」


 んー、と人差し指を顎に当て、眉間に皺を寄せると何かを探るように目を閉じた。そして数秒の後口を開く。


「人族くらいのが四と馬が二、馬は多分何か馬車のようなものを引いているのかな。その前で街道を塞ぐように十、左右の森に十二と十」


 ほぼ十倍の差か。事情が判らないからなんとも言えないが、どう足掻いても馬車側に勝ち目は無さそうに感じられる。


「拙いな、あれはだいぶ組織立った野盗の集団だ。もしかしたら傭兵崩れかもしれん」


 対するは冒険者の護衛四人に割と豪奢な馬車一台。野盗共の話では南北に伸びる街道のどちら側も荷馬車の転倒で封鎖され、人の往来は止まっているようだ。おそらくこれもこの野盗の仕業だろう。


「人数が人数だ。近くの宿場まで知らせに走れば、街道警備の兵士達に通報することくらいは出来そうだが」


 おそらく救援は間に合わないだろう。野盗集団もうまく逃げおおせてしまうかもしれない。


「どうする? 殲滅は無理でも援護くらいはいけると思うが」


 ウルとしては救援に傾いているようだ。街道にこんな物騒な集団が幅を利かせているようでは、ここを通る者の人数が減ってしまう。それは彼の収入減に直接響く訳で、どうにかしてその事態は回避したいところだ。

 だが今のウルはライシールドに雇われている身。雇い主が危険を避けると決めれば、それ以上何も言えない。


「我はかまわんぞ。高が野盗の十や二十、どうとでもできる」


 アティは獰猛な笑みを浮かべてベルトポーチ(腰掛け小型鞄)から氷色の鞭を取り出した。彼女は完全に戦闘体制に入っているようだ。


「放置して死なれても寝覚めが悪い。一度ぶつかってみて無理そうだったら撤退と言うことで」


 ライシールドの言葉にウルはほっと胸を撫で下ろした。依頼主の許諾さえ取れてしまえば、多少無茶しても問題あるまい。伊達に最前線と言っていい村の安全を護ってきた訳ではない。魔物でもない人族の傭兵崩れ如きに遅れを取るウルではないのだ。


「まずは俺が仕掛ける。街道のこちら側の十二人と街道を塞ぐ十は任せてくれ。ウルは反対側の十を、アティは馬車と護衛の安全確保と俺が取り逃した分を頼む」


「おいおい、二十人以上を一度に相手する気か?」


 任せておけ、とライシールドは足音を殺して森の中に潜む伏兵の背後に回る。紫電の腕で伏兵の場所を確認する。


空穂の(Digestion )(pot)


 蔓の腕を装填、レインと同期して一気に十二の蔓を繰り出すとまず伏兵の足下に捕食袋の素を埋め込み、伏兵の付近の木や草を這わせて彼らの頭上へ。タイミングを見て蔓を落下、口元に巻きついて猿轡の様に声を封じると捕食袋の中に落とし込む。


(Difficult)(y notice)の腕( needle)


 溶かして止めを刺している暇も惜しいのでそのまま蔓で手足を縛り、捕食袋ごと放置する。腕を変えても暫くは捕食袋が消えたりしないのは確認済みなので、このまま放置しておけばそのうち溶けて死ぬだろう。

 それよりも今は迅速に動く必要がある。伏兵の異常事態にまだ気付いていないとは言え、何時気付かれて馬車に攻撃を仕掛けられるか判ったものではない。

 現状、数の有利を盾に降伏を勧告している。護衛の冒険者達も人買いに売れば金になるし、下手に抵抗されて野盗側に被害が出ても面白くないと言うことだろう。こうして油断しているうちに一気に制圧してしまうのが最善だ。

 速度特化の蛇腹の腕を突き出しながら街道を封鎖する野盗集団に突撃する。あえて狙いをつけずに風の針を飛ばして牽制をかける。

 野盗は突然現れたライシールドに驚き、ついで突然の見えない飛び道具で二人が喉をやられて絶命したのを見て、やっと敵襲に気付いたようでそれぞれが武器を構える。


「遅い」


 一番手前の一人が武器を抜き放った瞬間その腕を斬り落とし、返す刀で下から上へと腹を切り裂く。切られた勢いで倒れこむ野盗で一瞬ライシールドの姿を見失ったのが命取りで、切り倒された野盗の背後の二人が相次いで喉を掻き切られて絶命する。

 これで既に残り五人。内一人はどうやら頭領らしく、生き残った四人にライシールドから自分を護るよう指示をして、街道左右の伏兵に攻撃の合図を出した。しかし合図に答える者も無く、街道の反対側からは何時の間に移動したのかウルが弓を片手に姿を現した。


「こっちの十人はもう始末したぞ」


 猛禽を思わせる鋭い眼差しで頭領を睨みつける。一向に始まらない伏兵の攻撃に、頭領は左右どちらも沈黙させられたのだと理解した。


「おいおい、マジかよ。たった二人であの数を、だと?」


 ついさっきまで三十二対四だったはずが、いつの間にか五体六。頭領からしてみれば悪夢でも見ているような気分だろう。


「勿体ねぇが、命あっての物種ってやつだな」


 懐から筒状の物を取り出し、筒の中心に嵌め込まれた魔石を押し込み、馬車に向かって放り投げた。


「馬車も中身もみんな燃え尽きちまえ!」


 放物線を描いて馬車に投げ込まれた魔道具の筒は、赤熱して膨張し始めている。


「おいおい、不味い! 爆発するぞ!」


 叫ぶがウルにはどうすることもできない。地に伏せて衝撃に備える。

 しかし一向に衝撃も爆発も起こらない。恐る恐る目を開けるウルが見たものは、斬り伏せられた四人の野盗と取り押さえられた頭領、そしてアティの鞭で絡み取られ、凍りついて膨張の止まった魔道具の筒だった。




 結局頭領以外は全滅、魔道具は凍りつかせたまま街道の守備隊に処理を任せる事にした。


「最後の魔道具凍結は良かった。アティもやれば出来るじゃないか」


 今回ばかりはアティの大手柄だ。ライシールドの指示とは言え、馬車を護り正体不明の魔道具を無効化した判断は称賛に値する。


「そうかな、そうだろう? これで我もライの相棒(パートナー)って言ってもいいかな!?」


「調子に乗るな」


 詰め寄ってくるアティを適当に交わし、馬車の護衛と情報交換をしているウルを見る。護衛の内二人は南に戻り、転倒した馬車の撤去等をしているはずの守備隊員を呼びに行っている。

 残った二人の内一人がウルを、と言うか正確にはライシールド達三人を護衛として雇いたいと言い出しているらしく、ウルはそれを断るので必死だ。


「だから、俺達は目的があって通りかかっただけで、暇じゃないんだよ」


「金なら払う。普通の護衛任務の相場の三倍出すとうちの依頼主が言っているんだ」


 話の通じない護衛に流石にイラついたのか、ウルはがりがりと頭を掻くと怒鳴りつける。


「勝手なことを言うな! 三倍が十倍でもやらねぇよ! 仕事ほっぽって金に目が眩むほど落ちぶれちゃいねーんだよ!」


 話は終わりだとばかりに踵を返すウルの肩を掴み、護衛は尚も食い下がろうとするが、それをもう一人の護衛が制止した。

 制止した護衛が先程までの男と代わってウルの前に立つと、頭を下げた。


「すまない。我らの依頼主は良ければお願いしたいだけだったそうだ。無茶を通そうとしたのはあいつの独断だ。それで、依頼主が直接お礼と謝罪をを言いたいそうなんだが良いだろうか?」


 確認を求めるウルに、ライシールドは頷いて答える。未だにごちゃごちゃ言っているアティを黙らせてウルに合流する。


「先ほどは護衛の者が無茶を申しました。私の管理不足で大変失礼な事をいたしました。まずは謝罪を。ご挨拶が遅れましたが、私はタラリアと申します」


 薄い茶色の肩まである直毛(ストレートボブ)を揺らして、大人しそうな女性が馬車から降りてきた。シンプルな装飾ながらも高級感のある純白の絹のドレスに身を包み、優雅に一礼する。

 その名前を聞き、ウルが怪訝な顔をして首を捻る。


「どうした、知り合いか?」


「いや、タラリア……ヘルメス商会の娘さんがそんな名前だったと思うが……」


 タラリアはウルのその言葉ににこやかに手を叩くと頷いた。


「我が商会をご存知ですか」


「この辺りに住んでて名前を知らない奴は居ないよ」


 大物が出てきた。厄介なのを助けたもんだ、とウルは小声で呟いた。隣に居たライシールドだけに聞こえるくらいの声で。

 どうやら大商会の関わる厄介事巻き込まれたらしい。面倒なことにならなければ良いんだが、とライシールドは内心溜息を吐くのだった。

拙作をお読みいただきまして、ありがとうございます。

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