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第44話 火竜の中身(Side:Rayshield)

本日二回目の投稿です。43話を未読の方はご注意下さい。

 竜皮族(ドラゴニュート)の面々の達ての希望により、感動の再会は仕切り直しとなった。

 ライシールドとしてはもうどうでも良いからさっさと話を進めたいところだったのだが、ガズの土下座せん勢いで拝み倒されては受け入れざるを得なかった。


「本当に、申し訳ありませんでした」


 火竜の寝床の手前通路に、わざわざ机と椅子を持ってきてライシールド達にこの辺りの名物だと言う花茶と森人(エルフ)の焼き菓子を振舞う。レインは嬉しそうな顔で焼き菓子を頬張り、ライシールドは気持ちを落ち着かせるために花茶に口をつけた。


「いや、ガズが謝る話じゃないだろう、これは」


「主の不始末は我らの不始末でもあります。どうか謝らせていただきたい」


 頑として譲らぬガズに、ライシールドは折れるしかなかった。


「解ったよ。別に怒っている訳ではないんだ。だからもう気にするな」


 と言うかもう面倒くさいからさっさと話を始めたいのだが、火竜とは言え女性の準備は時間が掛かるらしい。結構な時間が経ったと思うのだが、未だに準備完了の連絡が来ない。


「遅いな」


「森人の女性達に色々とお願いしておりますので。我ら竜皮族と違い、彼女らは着飾ることに拘りますからなぁ」


 男にはわからない世界というものがある。きっとそういうことだ。机の上で焼き菓子に舌鼓を打ちながら、レインは「これだから男は」とか言っている。妖精でも心は乙女ということらしい。

 結局呼ばれたのは更に三十分後となる。




 やっと準備が終わったらしく、漸く火竜の寝床に呼び戻された。

 寝床の窪地の前には白塗りの丸テーブルが置かれ、机に合わせた白い椅子には、深紅のドレスに身を包んだアティック・ローズが座っていた。煌びやかな宝飾や派手になり過ぎない程度の化粧で容姿的には魅力度二割上昇と言ったところか。


「あら、お久しぶりですわね。ライシールド様、どうぞお掛けに……って、なんで帰ろうとするんじゃ!」


 しかし、そんな容姿の良さも中身のお陰で台無しだ。優雅な貴婦人でも演じるつもりだったのだろうが、それこそ今更である。

 仕切り直しとは言ったが、よもや先ほどの醜態を無かったことにして最初からやり直すとは思っていなかった。散々待たされた挙句これでは、もうこの駄目火竜は諦めて自力でどうにかしようと決心するのも無理は無いだろう。ライシールドは呆れ果てて踵を返した。


「悪いな、ガズ。流石に付き合いきれん」


 ガズにも庇いきれない。傍らで盛大にため息を吐いて、肩を落とした。


「正装に着替えて先程の事を正式に謝罪されるとばかり思っておりました。私ももう少し確認すべきでした。……主を信じた私が馬鹿でありました」


 味方であるはずの竜皮族の長にまで見限られている事に気付き、これはいよいよヤバイと気付いたのか、アティック・ローズは机を蹴倒してライシールドの腕を掴んだ。


「待て、待ってくれ! 我だってちょっと位格好つけたかったんじゃ。ずっと待っておったお前との再会があんななのは嫌なんじゃよ!」


 ライシールドの腕に縋り付いて遂には泣き始めるアティック・ローズ。見た目年上の美女に泣きつかれては流石に邪険にも出来ず、とりあえず彼女の方に向き直った。


「お前は基本駄目なんだから、良い格好したって直ぐ襤褸(ぼろ)が出るんだ。普段どおりにしてれば良いんだよ」


 擁護になっているんだかなっていないんだか判らない事を言いながら、ライシールドは彼女の腕を優しく解く。この空気の中で強引に引っこ抜くと言うのは拙いと判断したのだ。


「じゃあ、普通にしてたら帰らない?」


 俯いてもじもじと手遊びしながら訊いてくる。時々ちらちらと上目遣いに様子を伺ってくる。年上っぽい容姿なのに年下のような仕草がやけに似合う。精神年齢が滲み出ているのだろうか。


「ああ、帰らないからもうちょっと落ち着け」


 段々子守りをしている気分になってきていた。ライシールドはこれ以上面倒になる前にさっさと用事を済ませてしまおうと話を切り出す。


「ここに来たのは、アティック・ローズ、お前に頼みがあるんだ」


「アティと呼んでくれ」


 とりあえず無視する。


「この森の近くに、風に関係する建物か守護者か、そういった類いに心当たりはないか?」


「アティと呼んでくれ」


 下手に相手をするとさっきの二の舞になりそうなので、敢えて聞き流す。


「もしくは森に詳しい者を紹介してくれてもいい」


「アティと……」


 話が進まない。見かねたレインがアティック・ローズの側まで行くと耳元で囁いた。


「もう少し考えて話さないと」


「だって、我はライシールドにはそう呼んで欲しいし」


「だっても何もないですよ。と言うか、そんなにしつこくしたら嫌われますよ」


 現にライシールドは大分嫌になっている。こいつに頼らず、自力で行くべきかと本気で考え始めている。


「嫌われるのは困る!」


「だったら、まずはライの言うことをきちんと訊いて、ちゃんと答えないと。それでですね……」


 レインの言葉にいちいち頷いて、ライシールドの様子を時々チラチラ伺う。


「ライシールド、お前の話の前に一つ我からいいか?」


 ライシールドの肩に戻ってきたレインが「訊いてあげてよ」と囁く。他でもないレインの頼みでは訊かない訳にも行かない。


「面倒くさい話でないなら」


「我はお前に会えて少し高揚しすぎていたと思う。ちょっとお前には迷惑を掛けたかな、と思う。それでその……」


 正直ちょっとどころではない。だがきっとそこを突っ込むとまた話が長くなる、とライシールドはぐっと堪えた。もじもじするアティック・ローズに視線を固定し、話の続きを促す。


「我、反省した。反省したらまずごめんなさいじゃろ? だからな、ライシールド。ごめんなさい」


 ライシールドは気付いた。目の前で頭を下げるアティック・ローズは、年経た上位火竜であり強大な力を持っているが、同時にまだ心は幼い子供なのだと。早くに母親を亡くし、周りには強く叱る者も無く、この地の外を知らない彼女は人との接し方も覚える機会が少なかったのだろう。時間ばかりが過ぎて体は成長しても心は追いついていないのだろう。

 これはライシールドが過去に与えた焔の欠片に因って無理矢理に成長させられたことも遠因としてあるのかも知れない。


「反省したのなら良い。お前はもうちょっと落ち着け」


 ため息を吐く。それは見た目大人の癖に中身が子供なアティック・ローズに対してであり、同時に子供相手に大人気なかった自分自身に対してであった。


「で、風に関係するものか森の案内人の紹介だが、心当たりはあるのか? アティ」


 自分自身にも反省すべき点はあった。ならば呼び方くらい譲歩してやっても良いのではないか。ライシールドはそう自分を納得させる。


「! あ、ああ。任せてくれ。この大森林を東に行った所に森を南北に縦断する広い街道があってな、その東側が疾風の森林(ゲイルフォレスト)と呼ばれておるそうだ。森の中心に近付く程に強く風が吹き、その中心には風を司る大いなる力が居る、と我は聞いておる」


 レインが「位置的にもそこらへんが怪しいんじゃないかな」と補足する。


「それにな、今我らの町と交流がある人族の狩人がおってな。其奴は森人すら相手にならん程の森の専門家じゃ。案内を頼めば必ずお前を送り届けてくれるじゃろう」


 森に於いて森人に勝ると言う言葉は俄かには信じがたいが、もし本当だとするなら心強い。ただ、そんな人物が果たしてライシールドの依頼を受けてくれるかどうか。

 その旨を尋ねると、アティに代わってガズが答える。件の狩人は今、産まれる子の為に金を集めているらしい。多めに報酬を設定すれば断られることも無いだろう、と。

 幸い神域で受け取った金銭が唸るほどある。多少の増額等痛くも無い。


「わかった。連絡は直ぐに付けられるのか?」


「無論です。森人の連絡員にお願いしてまいりましょう。半日もあれば一先ずの返事はくることでしょう」


 それまでは暫しここでお寛ぎください。そう言い残し、ガズは竜皮族の戦士を連れて出て行った。


「しかし、何でライシールドはそんなところに行きたいんだ?」


「詳しくは言えないが、届け物だ。後、俺のことはライでいい」


 自分だけ略称で呼んでいると言うのも気持ち悪い。


「いいのか!?」


 キラキラした目で見つめられて、無言で頷く。「えへへー、やった」等とだらしない笑顔で呟くアティを見て、一々表情が子供っぽいな、とライシールドは呆れた。


「とにかく、俺は余り時間を無駄に出来ない。もし件の狩人が駄目だった場合は、せめて街道のこちら側を抜ける位は案内を誰かにお願いできるか?」


 そのときは、森人の案内人でも付けてくれたらありがたいところだ。


「他ならぬライの頼みだ。無論案内はきちんと用意する。とりあえずお茶でも飲まないか?」


 折角用意したし、と先ほど蹴倒した丸テーブルを戻しながら誘う。急ぎの旅ではあるが、身動きできない今焦っても仕方が無い、とライシールドは席に着いた。




 火竜の下を訪れたのが既に昼を回っていたこともあり、返事如何に関わらず今夜はここで一晩泊めてもらうことになった。とは言っても洞窟内に宿泊施設があるわけでもなく、洞窟外の町まで戻って宿の一室を貸してもらい、翌朝に結果を聞くという予定となる。

 町で夕食を一緒に摂るとの事で、アティは「我は準備があるから、ガズに案内してもらってくれ」と早々に引っ込んでいった。寝床の奥に個室があるらしく、そこで着替えるようだ。

 今度はどれだけ待たされることになるのやら、と考えながら宿で身体を拭き、着替えて身を清める。宿には洗浄の魔道具と乾燥の魔道具があるらしく、食事に出ている間に洗濯して部屋に届けておいてくれるらしい。中々に便利なものがあるものだ。

 さて、待ち時間で何をするかと考えていると、宿の従業員がやってきてライシールドに来客を告げられた。アティの準備が思ったよりも早かったんだなと部屋を出ると、食事の前に先ほどの火竜の寝床に戻って欲しいと頼まれた。


「またアティが我侭でも言っているのか?」


 町で落ち合う約束だったはずだが、迎えに来て付き添い(エスコート)をしろとでも言うのだろうか。


「いえ、主はまだ準備中ですので。案内人が()()したものですから」


「その報告は明日聞くことに……案内人が到着?」


 ライシールドを呼びに来た若い竜皮族の戦士の言い回しが少し気になった。連絡がついたではなく、案内人が到着したと報告してきた。


「はい。狩人の男が()()いたしました」


 どうやら随分と乗り気のようだ。迅速に動ける者は嫌いではない。後は案内人としての腕次第だが。

 ライシールドは身の回りのものを持って竜皮族の戦士の後を着いて行く。どちらにしても今日はもう遅い。一晩この部屋に泊まることに変わりは無いだろう。

拙作をお読みいただきまして、ありがとうございます。

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