表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/146

第43話 再会(Side:Rayshield)

本日一回目の投稿です。

 気がつくとライシールドは森の中に立っていた。マント(袖無外套)フード(頭巾)を取り、森林の香気を含んだ風を感じる。


「ライ、まずは“知り合い”に会いに行こう」


 木々の隙間から射す光の柱の中で、小聖鏡(たいよう)の陽射しを浴びてキラキラと輝くレインが遥か先を指差す。


「その知り合いって言うのは誰の事なんだ?」


 心当たりがない。そもそもブレイド(剣の勇者)大陸は彼の住んでいた大地ではない。知り合い等居ないはずだが。


「あれ、気付いてないの? ちょっとは成長したと思ったのに、ライはやっぱりちょっと抜けてるよね」


 随分な言われようである。気付けていないのは事実なので、あまり強く反論は出来ないが。


電翅(Electrical)の腕( feather)


 神器【千手掌】を起動、紫電の腕を装填し、紫電結界を張りつつレインの示す方向に森を歩く。途中から広く切り開かれ、踏み固められた道に出て、東側に進む。


「止まってください」


 不意に頭上から声が掛かった。紫電結界に引っかからないと言うことは隠密(ステルス)持ちか。


「この先は灼鱗の火竜様の住まう地です。貴殿は何用でここを訪ねられたか」


「姿も見せない、名乗りもしない。そんな相手に答える義理はないと思うが?」


 ライシールドの目の前に突如長身痩躯の金髪の森人(エルフ)が姿を現した。右手を胸に当て、左手を真横に伸ばして一礼する。森人の礼の一つで、敵意がないことを示している。


「これは失礼を致しました。私はファイドレ(火の子供)族のアスガルと申します。この先は我らの崇める灼鱗の火竜様の御座す場所に続いております。我らは火竜様に害意を持つ者を排除する役を任されておりまして、こうして貴殿に伺わせて頂きたく声をかけさせてもらった」


 返答次第ではここを通さないという事だろう。このアスガルの言う火竜という単語に、ようやく知り合いに思い至りライシールドは答えた。


「灼鱗のアティック・ローズに会いに来た。ライシールドが来たと伝えてくれれば判ってもらえると思うのだが」


 アスガルが怪訝な顔で「ライ……シールドだと?」と呟いた。どうやらこの名に心当たりがあるようだ。


「火竜様をお救いになった勇者の御名を名乗るか。怪しいことこの上ないが、この御名を名乗る者が来たら連絡を寄越せとの仰せだ。申し訳ないが暫しここで待ってもらえないか?」


 火竜様の所から迎えが直ぐに来るだろう。そう告げるとアスガルは再び姿を消した。やはり紫電結界には何の反応もない。


「紫電結界に頼りすぎると痛い目に遭いそうだな」


 自らの感覚を鍛える必要があると強く感じた。この程度では(襲撃者)は到底見つけ出せないだろう。




 アスガルが消えて二十分ほどだろうか。紫電結界が六名の反応を捉えた。こちらに向かって結構な速度で向かって来ている。


「レイン、念の為だ。出て来るなよ」


 マントの内ポケットの中から「了解」との返答がきた。マントの下で腰に佩いたシミター(偃月刀)の柄に手を添え、相手が来るのを待つ。


「ライシールド様でございますか!?」


 息を切って現れたのは年老いた竜皮族(ドラゴニュート)。年経てもなお青く光る鱗にライシールドは見覚えがあった。


「……ガズか?」


「はい、ガズでございます。お久しぶりです。……と、言いたいところですが」


 最後に会ったのはもう七十~八十年は昔のはずである。にも拘らず当時とまったく変わらない姿のライシールドに疑問を持たない方がおかしい。


「疑問はもっともだが、正真正銘俺がライシールドだ」


 マントを翻すと、紫電の腕を見せる。放電する腕を持つ人族などそうそう居るはずがない。


「私も居るよ~」


 内ポケットから飛び出すと、ライシールドの肩に座ってガズに向かって手を振った。その姿に再び歓声を上げ、ガズは滂沱して頬を濡らした。


「事情は話せないが、()()の俺で間違いない。久しぶりだな、ガズ」


「お、お久しぶりです。ライシールド様、レイン様」


 よろよろとライシールドに近寄り、その手を取って頭を下げた。


「ガズは老けたな。ゲドは元気か?」


 あの竜皮族一と自称していた金目の戦士の姿はない。ガズは一瞬言葉に詰まり、顔を伏せて呟いた。


「ゲドは、もう随分と昔に逝きよりました。火竜様を護って、恐ろしい敵と戦う最中に」


 その敵と言うのは『追放者』のことだろうか。それとも異族だろうか。どちらかは判らないが、戦士として立派に戦い、散っていったのだろう。


「……そうか。悪いことを訊いたな」


「いえ、ライシールド様に覚えていていただけていたと知れば、あいつも喜びましょう」


 涙を拭い、ゲドは道の先を示した。


「ご案内いたします。我らが主がお待ちです」


 踏み固められた道の先に、若い竜皮族の一団が待っている。ライシールドはゲドと一緒に彼らに合流すべく歩き出した。

 あの駄目蜥蜴だった火竜が、今はどうなっているのだろうか。あの頃のままと言うことはないだろうが、若干の不安は残った。




 あの洞窟の周辺は広く切り開かれ、竜皮族の町になっていた。下手な人族の町よりも大きく、武装した竜皮族の戦士が目立つが、武装していない竜皮族の町人や子供の数も多い。

 森人も竜皮族と偏見無く付き合っているらしく、至る所に彼ら彼女らの姿もあった。


「長老、年も考えずに無茶して走ったりしたらいかんよ」


「ちょーろーさまー。その人族、誰ー?」


 町中をゲドと歩いていると、次々と声が掛けられる。ゲドはこの町で高い地位に居るらしく、気安くはあれど敬意を持って接せられているようだ。


「死に損ないましてな。老体を晒してこの町の長を勤めさせていただいております」


 道すがらゲドに接する人たちの態度の意味を説明する。この町ではもっとも年を経た竜皮族で、もう随分と昔から長を務めているらしい。


「いい町だな。皆笑顔だ」


 ライシールドの素直な反応に、ゲドは「貴方のお陰ですよ」と答えた。

 あの日あの時、ライシールドが大鬼(オーガ)共を片付けてくれなければ、この地の竜皮族はほぼ全滅していたことだろう。あそこで生き延びたからこそ、今この町があるのだ。


「あんなのはただの偶然で、きっかけになっただけに過ぎない。この町を作ったのはお前達だろう?」


 ライシールドは救ったとも思っていなければ感謝も求めていない。あれはただ障害物を取り除いただけだし、あそこから盛り返したのは紛れも無く竜皮族の努力の賜物なのだから。

 どこかで子供達の笑い声が聞こえてくる。この町は平和だ。これは竜皮族の勝ち取った平和なのだ。




 洞窟の入り口は、あの当時とさして変わりが無いように見える。あの日小鬼(ゴブリン)の群れが徘徊していた洞窟前広場は綺麗に踏み固められ、洞窟の入り口周辺には竜皮族の戦士が常駐している。


「火竜様にお客様だ」


 ゲドの言葉に戦士達は道を開ける。洞窟の中は等間隔に松明が掲げられていて随分と明るい。

 見覚えのある道を抜け、竜皮族がかつて追い詰められた水場の横を通り、急激に熱を持ち始める空気の中、辿り着いた広場の中央にそれは居た。

 窪地にその身を横たえた巨大な赤い竜が、じっと金色の瞳でライシールドを見つめている。

 首を高く上げ大きく口を開くと喉の奥で炎がチロチロと下を伸ばし、炎気を振り撒きながら大きく咆哮した。壁や床、天井をビリビリと揺らし響く大音量に思わず目を瞑り耳を押さえる。


「ライシールド!」


 完全に油断していた。目を閉じ耳を塞ぎ、それでも脳を直接揺さぶるような咆哮に一瞬意識を持っていかれそうになった。朦朧とした意識の中、ライシールドは真正面から飛び掛ってくる何かに地面に引き倒され、強かに後頭部を打ちつけた。


「ぐぉ! だ、誰だ!」


 思わず呻き、瞼を開くと目の前が真っ赤な髪の毛で覆われていた。何がなんだか判らなくて、圧し掛かる何かを押し退けようと伸ばした手が、何か柔らかい物体を押し潰した。


「痛い痛い! 胸が潰れるじゃないか!」


 聞き覚えがあるような無いような女性の声に怪訝になりつつ、握り締めた柔らかい肉の塊のようなものをそのまま投げ捨てる。

 ようやく開けた視界の先には、真っ赤なウェーブの掛かった長髪の女性が倒れていた。全裸で。


「……誰だ?」


 本気で判らなかった。年の頃十七、八くらいの、うら若き美少女と言って良い顔立ちの女性が、一糸纏わぬ姿で目の前で転がっている。まぁライシールドが投げ飛ばした訳だが。

 見覚えがない。顔も髪の色も、少なくとも一度見たらそうそう忘れること等なさそうな顔つきをしていると言うのに、まったく見覚えがない。


「感動の再会で投げ飛ばされるとか……」


 強かに臀部を打ちつけたようで、彼女はブツブツ言いながら尻を擦り立ち上がる。特に自らの姿に頓着することなく、裸体を隠そうともせず立ち上がると半泣きでライシールドを睨み付けた。


「酷いじゃないか! 久しぶりに会ったというのにこの扱いは!」


 ライシールドは無言で銀の腕輪(アームレット)を起動。大き目の毛布を取り出すとグルグルと小さく纏めて振りかぶった。


「どうでも良いからまずは服を着ろ! この変態が!」


 毛布はまるで投網のように彼女の前で大きく広がり、巻きつくようにして彼女を覆い隠す。


「へ、変態って! 我は変態ではないわ!」


 毛布を被ってジタバタと暴れながら、何とか顔を出した女性が抗議の声を上げる。


「いきなり全裸で飛びついてくる馬鹿女を変態と言わずして、他になんと言うんだ」


「しかたないじゃろ!? お前らが来るのが早すぎるんじゃよ! 変化して着替える暇も無かったじゃないか!」


 どうしたら良いのか判らず、おろおろするガズたちを指差し、涙目で怒鳴りつける。理不尽に怒鳴られて、ガズたちは微妙な顔をして、何かを言おうとして、結局諦めたような表情でため息をついた。


「我は灼鱗のアティック・ローズ! よもや忘れたとは言わさんぞ!」


 ライシールドはあえて女性から視線を外し、ガズに同情の目を向ける。


「そうか。あれはあのままか。……大変だったんだな、本当に」


 ライシールドの心からの同情の声に、ガズは肩を落として泣いた。


「待て! なんか我の扱い酷くない? 仮にも上位火竜じゃよ? 人化が出来るって凄いんじゃよ!?」


 不安は的中。残念火竜、ここに現存せり。

 レインの「可愛い女の子に裸で抱きつかれた反応じゃないと思うの……」の言葉が虚しい。そういう反応が欲しかったらもう少し考えて頂きたいものだ。

 ライシールドは一気に暗雲が立ち始めた先行きに、大きくため息をつくのだった。

拙作をお読みいただきまして、ありがとうございます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ