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第28話 地人部隊の危機

 結果から言おう。法生達の所属する部隊はもう法生とライシールド、レインの三人だけになっていた。

 部隊編成で片腕の剣士と戦闘能力が低い補助要員の法生の二人組は売れ残り、同じく能力の低そうな人員で纏めて比較的弱い魔物が多い領域の殲滅を任された。

 潜入早々小鬼(ゴブリン)の集団に襲撃を受け、過半数が何らかの怪我を負い来た道を引き返した。小鬼相手に後れを取るのも実は当然で、その殆どはまだ新人の冒険者や腕に自信があるだけの町の住人だったりするのだ。

 その後も数度の戦闘を繰り返す内に一人また一人と抜け落ちていき、道半ばにしていつもの三人と相成った訳だ。


「まぁ、返って都合が良いって言えば良いんだけどね。怪我程度で済んでくれて」


「まぁ、足手まといが居なくなって助かったさ」


 ライシールドは肩を竦めると坑道を進み始める。いくらも行かないうちに小鬼が十匹程屯しているのを発見する。


「まず僕が小型弩(ライトクロスボウ)で牽制する。こっちに寄って来たらよろしく」


 法生は片眼鏡(モノクル)を装着すると小型弩を構え、標準を小鬼の喉元に合わせて引き金を引いた。

 何度か撃つ内にこの弩の癖も大分判ってきたようで、狙い通りに一匹の額の真ん中に命中し、当たった小鬼はひっくり返って動かなくなった。

 何が起こったのかわからない小鬼共が混乱するうちに法生はもう一射。次も吸い込まれるように額に突き刺さり、ようやくこちらの姿を見つけた小鬼共が法生目掛けて突進してくる。

 まだ若干距離があるので、法生はもう一射する。今度は流石に頭打ち(ヘッドショット)とは行かなかったが、巧い具合に片足に命中し、小鬼がすっ転ぶ。巻き込まれて二匹が足を取られてひっくり返る。

 残り五匹がやっと法生の近くまで辿り着いた所で、小鬼共の頭部は揃って中を舞っていた。横手から姿を現したライシールドが五匹の首を瞬く間に跳ね飛ばしたのだ。途中で転んだ二匹は再び弩を構えた法生が正確に射抜き、最後に足を撃たれた一体の元に近づいたライシールドが止めを刺して戦闘は終了した。


「法生も大分上達してきたみたいだな」


 偃月刀(シミター)に残った小鬼の血を払うと、ライシールドは法生の戦果を賞賛する。この坑道内に入ってからだけでも随分と射撃の腕が上がっているように見える。元々相性が良かったのか最初からそこそこ当ててはいたのだが、先程の戦闘では頭打ちを何度も成功させるという少し異常な位の正確さを発揮していた。

 実は片眼鏡が非常に役に立っている。遠距離拡大時に命中補正でも入っているかのように矢が当てやすい。そんな状態で法生は昨日までの短い間ではあったが嫌と言うほど射撃訓練をしてきたのだ。多少は上達してくれないと凹む位には考えていた。因みに片眼鏡が無い状態だとちょっと巧い程度の命中率にまで落ちる。この辺は純粋な経験不足だ。


「ライシールド君が撃ち漏らしを絶対に僕の所まで通さないって判ってるからね。安心して撃てるよ」


 まぁそういう段階の話ではないんだけれどな、と思いながらも巧くなって悪いことは無いと思いなおす。


「ま、その辺はいい。それより俺のことはライでいい。長ったらしく呼んでる内に間に合わなかったら目も当てられないしな」


 ライシールド改めライの言葉に、遂に態度の軟化が(デレ期)来たか! と法生は思わず拳を握り締めた。


「解ったよ! ライ君!」


 君もいらねーんだけどな、と呟くと「俺もローレスで統一するぞ。周りに人が居るかどうかで使い分けるのはめんどくさい」と断りを入れてくる。法生としてもそちらの方が何かと都合がいいので勿論了承だ。


「そろそろ先に進もう、ライ君」


 首肯して先を進む。法生はその少し後を警戒しながら続いた。




 流石に一番緩い領域の担当に回されただけあり、特に苦労することもなく殲滅を続けている。出てくる魔物も小鬼が大半で、二度程大鬼が現れたがライシールドの敵ではない。


「そろそろ合流地点か」


 魔物が弱いとは言え、こちらも人数の制限があるので一度の戦闘ではそこそこ時間を食っている。下手をするともう侵攻部隊が出発してしまっているかもしれない。

 防衛線の構築とこの辺りの安全確保も大切な仕事だが、ライシールド的には強敵が居るであろう深部侵攻組に入りたいところではあった。ここ暫く神器に登録できるほどの敵と遭遇していない。


「防衛線組に組み込まれたとしても機会はあるよ。深部組だけで魔物を全滅させるなんていくらなんでも無理だし」


 防衛線構築後、協力者を募って深部組の撤退線の維持も行われる。それに潜り込めば、最深部とはいかなくても深部の強い魔物と渡り合う機会はあるだろう。


「その辺で我慢しとくしかないか」


 前方でなにやら騒がしい音が聞こえてきた。何かを打ち付けるような音や、大きなものを落とすような音等、既に設営準備でも始まっているのだろうか。


「着いたみたいだね。僕らも取り合えずは設営準備をてつだ「止まれ!」わないと……え?」


 先に進もうと踏み出したところで、ライシールドが法生の肩を掴むと強引に後ろに下がらせた。袖無外套(マント)の胸元を軽く叩くと「レイン、起きろ。同期するぞ」と囁く。


「ライ君、一体どうしたの?」


 電翅(Electrical)の腕( feather)を装填し、紫電結界を展開しながらライシールドが答える。


「あれは戦闘音だ。この先で誰か戦っている」


 通路の角まで寄ると紫電の腕をゆっくりと角の向こう側に向ける。幸いその先は合流予定の防衛線設置場所のようで、広い空間の様子を紫電結界がライシールドに伝えてくる。


「……これは、大型(デカイの)が四体、小型の雑魚は数え切れないほど居るな」


──この間の変な気配の奴は見当たらないよ。


 まずは大型の注意をこちらに向けるか、と呟くと速度特化の蛇腹の腕を装填。


「ローレス、雑魚が山ほど居る。密集殲滅出来るって言ってたな? 任せたぞ」


 魔物が密集している地点を幾つか(レインがライシールド経由で)指示し、返事を待たずに飛び出した。

 法生は背負い鞄(バックパック)を降ろすと中から大き目の鍋を取り出し水を複製、鍋の半分ほどまで水が溜まったところで親指大の魔石を投入。体感で四十~五十℃のお湯になったところで魔石を取り出し、今度は極限まで薄くした硝子瓶の中に神気の篭った聖水を複製、お湯で温める。一回り小さい薄硝子の瓶に水と砂糖、そして麺麭(パン)屋で手に入れたある物を一つまみ入れると密封して同じくお湯の中で暫く温め、頃合を見て聖水の中に投入。聖水瓶も密封して紐で縛り、弩の矢にぶら下げると密集地帯の直上に向けて打ち上げた。

 的外れな方向に飛んでいく矢に変化が訪れたのは、魔物の群れの上空。突如矢にぶら下がっていた瓶が弾け飛び、吹き飛んだ神気の篭った聖水が広範囲に渡って魔物の頭上に降り注いだ。

 法生は瓶の中で発酵による二酸化炭素の大量発生を起こした。水と砂糖と麺麭を発酵させる為に必要な酵母(イースト)菌を四十度位まで温め発酵を促進、矢で打ち上げる際の振動で更に発酵を促すことで内側の瓶の耐久力の限界を突破、膨張破裂した衝撃で外側の瓶も破裂させ、聖水を空中高くでぶちまけたのだ。

 聖水には魔を退ける力があり、そこに神域で篭められた純度の高い神気が込められている。魔物とは魔素(マナ)に強く依存した存在であり、魔素は神気の元となる要素を含み、かつ相反する力でもある。弱い神気は強い魔素に犯され魔素還りを起こし、弱い魔素は強い神気に奪われ浄化現象で霊力(スピリチュアリィ)に変換される。

 もっとも強い神気に満たされた神域にて神気を篭められた聖水はこの場の魔物を一斉に浄化する。魔素依存が高くない物質界(マテリアル)の人は、少量であれば火傷に似た症状を発症する程度ですむ。


「環境にも人にも優しい殲滅兵器ってことで」


 撃ち損じた一つが運よく大型の足に命中。高濃度の神気入り聖水を浴びて片足を失った大型は雑魚を巻き込んで転倒、好機と見た地人戦士達に群がられて止めを刺された。

 空間の半分程を埋め尽くしていた雑魚魔物共の大半が消滅、もしくは部位欠損で戦闘不能に陥っている。止めは他の人たちに任せて、法生は後片付けを始める。


「後の大型はライ君がどうにかしてくれるでしょ」


 後は高みの見物で問題ないだろう。遠くから弩でお手伝いはするけれども。




 一つ目巨人(サイクロプス)が振り下ろす木の幹のような棍棒が地面を叩き、その衝撃で地人戦士達は足を取られて転倒する。倒れこむ戦士達目掛けて、振り下ろした棍棒を引き摺るようにして横薙ぎに振るい、数人の戦士が防御も回避も出来ずに吹き飛ばされ、打ち上げられる。

 潰しても潰しても一向に減ることのない雑魚魔物に気を取られると頭上から棍棒が落ちてくる。一つ目を気にしているとあっという間に雑魚に囲まれる。数の不利と頭上を取られている事の戦い難さが加速度的に戦局を魔物側に傾けていく。

 このまま押し切られ、都市部まで攻め込まれてしまうのかと諦めかけた所で、急に雑魚の圧力が減少した。叩き潰した先に雑魚が居ない。さっきまで壁のように立ちふさがっていた大量の雑魚(かずのぼうりょく)が消滅していた。


「あちっ! 何だこの水!?」


 頭上から降りかかってくる水が肌に当たると火傷したような痛みと痕が残る。武器を振るう上では問題ないが、少し鬱陶しい。

 だがそれが我々の救いだったと気付いたのは次の瞬間だった。大きな音を立てて一つ目が横倒しになっている。片足を失ったらしく、周りの雑魚を潰しながら起き上がろうともがいている。


「行け! 起き上がる前に止めを刺せ!」


 思うように戦えず鬱憤の溜まっていた戦士達が暴れる一つ目を叩き、斬り、突き刺し、よじ登って力の限り武器を叩きつける。

 一つ目の倒れるまでを見ていた戦士に話を聞くと、何か瓶をぶら下げた矢が足に当たり、瓶が割れて中の液体がかかった途端に一つ目の足が溶け、転倒したとの事だった。

 雑魚が急に数を減らし、何か水のようなものが降り注いだ。一つ目は液体が掛かって溶けた。つまりこれは味方が何らかの範囲攻撃で雑魚を殲滅させたということか?

 なんでもいい。今が反撃の好機だ!


「雑魚の圧が減ったぞ! 掃討戦だ!」


 離れた場所で一つ目が派手に倒れ歓声が上がる。さあ、反撃開始だ!

拙作をお読みいただきまして、ありがとうございます。


酵素のCO2発生でここまで激しく反応するかは、現実には微妙なところです。


修正 15/10/01

外套→袖無外套(マント)

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