第27話 地人達の反撃作戦
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日付は少し遡る。
ジェダと別れた後、法生は一人街中を歩いていた。武力がないのは仕方ないが、それを補う努力を怠るのは違うと思った。故に何か役に立つものがないかと色々な店を見て回っているのだ。
まず見つけたのは砂糖。法生の知る上白糖とは違い、薄く色がつき少し粒も大きい気がするが十分砂糖と言えるだろう。小さな小瓶で結構な値段がする。岩塩はあるが砂糖の登録はまだしていなかったことを思い出したので、一番小さな容器を一つ購入した。大体百グル程だろうか。一緒に粉末状に砕かれた塩や胡椒なんかもあったのでついでに購入した。
次に服飾を扱う店で動きやすそうな上下を三着ほど購入した。万が一があったとき、着替えがあるとないではやはり違う。ついでに汚れを拭いたりする時に使えそうな布の端切れを多めに買っておいた。
道具屋では綱や紙束、簡易発火装置等も売っていた。魔物から採取される魔石を用いた魔道具で便利そうなものもいくつか売っている。
常に新鮮な水が涌き出る水筒や任意で光を点けたり消したり出来る角灯、常に北を指し続ける魔石式方位磁石や小聖鏡の位置を把握して一日二十五時間を正確に刻む懐中時計など。
面白いものでは金属棒の先端に取り付けた魔石を擦ると火が点く永久燐寸とか、竈の火力調節用の風を作り出す鞴の魔道具とか、遠くの物を手が届く程精緻に拡大したり出来る片眼鏡等、中々興味深い。
幸いお金も鞄の容量も使い切れないくらいあるので、便利そうだと思う物は片っ端から買っていった。
次に訪れたのは麺麭屋。白麺麭や黒麺麭、黒麦麺麭なんかは登録してあるが、他にも乾燥果物を錬りこんだ生地を使って焼いた物や燻製肉や野菜、乾酪を乗せた窯焼き麺麭等、美味そうな物を幾つか購入、登録しておいた。今回役に立つかは判らないが、登録して置いて損はないだろう。
「そういえば普通に発酵麺麭が売ってるって事は、“あれ”もあるのかな」
発酵麺麭には欠かせないある物と手持ちの物を上手く使えば、面白いものが作れるかもしれない。まぁ役に立つかはやって見ないとわからないけれど、物は試しだ。
麺麭屋の店主に頼み込んで、そのある物の入手に成功した。準備が終わって時間に余裕があったら一度実験してみよう。
武器屋では投げ短刀や小型弩等、飛武器を中心に購入していく。どれも使ったことはないが簡単に使用方法を教えてもらえたので、まぁ援護くらいには使えるといいなといった感じか。
防具に関しては、現在着用している袖無外套が防刃性に優れた割と丈夫な物なので特に必要なさそうである。手や足を保護する皮製の保護具は購入した。少しでも怪我の可能性は減らすに限る。
露天でも幾つか便利そうなものを見つけたので買っておいた。水に入れると発熱してお湯が沸く魔石であるとか、嵌めた指の筋力だけが上がる指輪とか。
「これは何を売っているんですか?」
そろそろ宿に戻ろうかと考えていたところ、道端の屋台で籠に山積みになっている黒くて丸い物を見つけた。指先ほどの丸薬のように見えるので、薬か何かを売っているのではと思い声を掛けてみた。
「おう、これは似非黒石って果物でな、そっちの丸いのは種だ。この赤い果肉を錬り潰して糊状にしたものは甘みがあって美味いんだ。鎮痛効果があるから切り傷に塗っても良いしな」
そう言いながら赤い練り物が入った小さな瓶を差し出してくる。値段も安いし、切り傷に効くとの事なので、一つ購入した。
「そっちの種は捨てるんですか?」
籠に入った種を指差すと、店主は首を振ると説明してくれた。
「こっちも薬になるんだよ。腹痛に効くんだ」
「へぇ、このまま服用するの?」
法生がそう訊くと、店主は大きな声で笑いながら「食えるもんなら食ってみな」と一粒差し出してきた。受け取った種を口に放り込むと、奥歯で噛み潰した。バキボキと凄まじい音を立てて噛み砕くと、店主は呆気に取られた顔で法生を見た。
「うわ、苦っ」
顰めっ面になる法生を見て、店主ははっと我に返ったのか屋台を回り込んで法生に慌てて詰め寄った。
「おいおいおい、大丈夫か!? 歯、折れちまったんじゃねーだろうな!?」
「大丈夫ですよ。って言うかこれ凄い苦いですね」
特になんともなさそうな態度に、店主は呆れたような顔で肩を竦めた。
「鉄より硬いって言われてる似非黒石の種を噛み砕いてなんともないって、お前さんの歯と顎は一体どうなってやがるんだ」
ああ、それで慌てていた訳か、と納得する法生。そういえばマリアに不滅の顎とか言う一生歯が健康な技能を貰ったっけな、と今更思い出していた。
店長曰く、長く天日干しして水気を抜き、強火で炒ると硬い外皮が弾けて中身を取り出せるらしい。それを磨り潰したものが薬になるとのこと。逆に長く水に漬けてしまうと、外皮が柔らかくなる代わりに中身が変質し、そのまま放置すると萌芽するそうだ。
「すまんな、これやるから勘弁してくれよ」
そう言って手渡されたのは先程言っていた種から作られた腹痛に効く薬。さらさらの粉薬で、紙に包まれている。
別に怒ってもいないどころか逆に面白いことを思いついたので感謝したいくらいだったのだが、店主の申し訳なさが半端ではなかったのでありがたく頂いておいた。何時か役に立つかもしれないし。
その後は特に面白そうなものも役に立ちそうなものも見当たらなかったので、ようやく法生は宿への帰路に着くのだった。
そして今、採掘施設入り口付近の広場に、様々な格好をした様々な種族の人達が集まっていた。無論地人の聖地だけあって彼らの人数が圧倒的に多い。次は何処にでも居るといわれる人族と獣人族。獣人族は更に細分化されるが、基本一括りで獣人と呼ばれるし、彼らもそう自称する。
逆に森人や旅小人の姿は殆ど見ない。森人は地中が苦手な者が多いので、この地下都市にはよほどの用事でもなければまず訪れない。旅小人は利に聡く、今回見入りと危険回避を天秤に掛けて危険回避に傾いたものが多かったのだろう。街中ではそれなりに見かけたことを考えると、今この場にいるものはよほど腕に自信があるのかもしれない。
「ああ、ローレスさん。やっぱり来たんですね」
背後からの聞き慣れた声に振り返ると、予想通りジェダの姿があった。地人女性にしては高いその身を完全武装で覆い、一メル半はあるジェダの身長よりも長い斧槍を杖のように片手で支えていた。
「ええ。僕は僕の目的があります。ここで逃げるわけには行かないんです」
正直逃げ出したいくらいには怖いけれど、とは流石に口に出来ない。
ライシールドは特に緊張もなく恐れを感じてもいないようで、欠伸なんかしていたりする。随分余裕な模様。レインは例の如く袖無外套の衣嚢の中だ。
「もうじき坑道内の説明が始まります。私は自分の部隊の方に戻りますね」
じゃあ、と守備隊の集まる方へと移動していくジェダを見送り、法生は自分の準備の点検をする。
腰巻鞄の中身を確認。ライシールドの物とは違い容量拡張はされていないが、そこそこの物が入るくらいの大きさで、あまり動きを阻害しないくらいには扱いやすい。
腰紐には革で作られた短刀入れを吊ってあり、短刀を一本一本刺すようにして収納されている。ちょっとした腰周りの保護具にもなる。
背中にはいつもの背負い鞄、右側の腰には腰紐に金具で吊った小型弩もある。弩の矢は纏めて腰巻鞄の中に入っている。無論背負い鞄にも大量に収納済みだ。
右手親指と人差し指には指力強化の指輪が装備されている。小型弩を扱う際に少しでも楽にしようという事と、とある攻撃の為だ。
また、遠距離武器を使用する際の標準代わりに片眼鏡も用意してある。さすが魔道具、目元に持っていくと自然と固定される。普段は首飾りのように銀細工の鎖で首に掛けている。
「そろそろだ」
集団の前方に設置されていた高い台の上に、見るからに高い役職に就いていそうな壮年の地人戦士が立ち、集団の端から端までをぐるりと見回した。
「本作戦の責任者に任命された、守備隊第一大隊大隊長、べリルである!」
一メルと八十はあろうかという、地人族にしては巨大すぎる体躯を鈍色の全身甲冑に包み、背中には身の丈と同じくらいの巨大な戦斧を背負っている。灰褐色の立派な髭が顔の下半分を完全に隠している。全身から滲み出る歴戦の戦士と言った雰囲気は見るものを圧倒する。
べリルは今回の作戦の参加者に対する謝意を表明し、作戦終了の暁には十分な報酬を用意すると約束した。その後副官と思しき小柄な地人に代わり、作戦の詳細が伝えられた。
簡単に言えば幾つかの集団に別れ、それぞれが決められた順路を魔物を掃討しながら進み、最終的に最深部へと続く一箇所に集合する。ある程度の人数が集まった時点でその場にて再編成、最深部侵攻組と防衛線構築組に分かれて現場の安定を図る。防衛線が構築された時点で守備隊以外の面々は作戦を終了し、坑道を出て各自報酬を受け取ってもらう、と言う流れだ。
「それではこれより、作戦を開始する!」
まずは坑道に入って直ぐの採掘された鉱石を集める集積所にて部隊編成。各部隊毎に指定の順路に突入である。
暗い坑道に吸い込まれるように人が消えていく。出来るだけ多くの人間が無事戻ってこれることを法生は願わずには居られなかった。
拙作をお読みいただきまして、ありがとうございます。
15/09/23
風を送り火力調節をする道具→火力調節用の風を作り出す鞴の魔道具
修正 15/10/01
外套→袖無外套
15/12/14
改行ミスを修正