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第140話 予選(Side:Lawless)

ちょっと色々ありまして、遅くなりました。

 弓術の練習をしたり細かい依頼をこなしたりナトリの準備の手伝いをしたりしている内にあっという間に予選の日を迎えた。

 それぞれの部門事に予選日が別れていて、ローレスの参加する剣武会予選は初日から二日間行われる。総合技術会予選一日目を行った後、術式観覧会予選が二日行われ、総合技術会予選二日目で予選が終了する。

 勝敗は以前昇級試験の時に用いたものと同じ魔道具が使用される。正式名称は肩代わりの腕輪(テイクオーバー)と言うらしい。ここ首都の魔道具組合(ギルド)が開発したものが冒険者組合(ギルド)で採用されたということのようだ。

 初日は二回勝てば二日目決定となる。ローレスの初戦は盾持ちの短槍使いと当たった。

 開始早々矢を警戒して盾を前面に構える相手にローレスは三射して注意を反らした。足下と構えた盾、後ろ手に下げていたはずの槍の穂先に同時に衝撃を受けて困惑した一瞬を逃さず、隠蔽(ハイディング)隠密(ステルス)を起動、姿を眩ませた。

 ローレスが身を隠してからの展開は一方的だった。防御しにくい角度から放たれる矢に手傷(ダメージ)を蓄積させられた上で止めに盾を持つ左腕を矢が襲い、衝撃で盾を落とすと同時に許容量超過の音が鳴って終了となった。




「あれは正直どうかと思います。ローレスさん」


 観客席に陣取るアイオラ達の下に顔を出したローレスへとテーナが不満げな顔で抗議した。隠蔽(ハイディング)隠密(ステルス)を使った戦い方は面白味に欠けるとの言い分だ。


「そんな娯楽(エンターテイメント)的視点を気にしていられる程僕は強くないですし……」


「ああいうのはもっと強い方と戦う場面で披露していただきたかった!」


 テーナの主張によると、死の危険が無い剣武会においてもっとも重要なのは見栄えであるということらしい。派手な技や見た目的に興奮する戦い方、劇的(ドラマティック)な展開が大事な要素であり、ただ勝てばいいというものではないらしい。

 総合技術会は何でもありの勝てば官軍といった風潮が強く、術式観覧会はそもそも戦わない。剣武会は武器と武器のぶつかり合い、見世物的な側面の強い競技(スポーツ)的な形式の試合が求められる傾向が強い。


「今回は相手を圧倒した試合運びと初戦という事で審判団の物言いはありませんでしたが、決勝やそれに近い試合の場でああいう戦い方は……」


 テーナは言葉を切ったが、その続きは目が語っている。盛り上がりに欠ける試合運びは減点対象である、と。


「……どうも納得しかねる主張ですが、剣武会の趣旨がそういうものであるなら善処します」


 ローレスとしてはそこまで余裕があるわけではないが、それこそ負けてしまっても命を取られるわけでもない、と割り切ることに決めた。


「ローレスさん、期待していますよ!」


「期待に添えるかは判りませんが……頑張ります」


 これも修行と割り切って、戦闘形式(スタイル)の模索に努めるローレスだった。




「あ、居た居た。おーい、ローレス君!」


 次の試合までの間に昼食をとりつつ試合を観戦していたローレスは自分を呼ぶ聞き覚えのある声のした方へと視線を向けた。

 そこには乗り合い馬車で一緒になったライオットとリズリット、二人の姿があった。


「お久しぶりです。ライオットさん、リズリットさん」


「剣武会の観戦に来て、ローレス君の姿を見付けたときは吃驚したよ」


「試合内容も凄かったわね」


 ライオットは腰に片手剣こそ()いているが、盾は持っていない。リズリットは愛用の槍は見当たらず、代わりに短剣が左腰にぶら下がっている。


「そんなことはないですよ。今もテーナにダメ出しされたばかりで」


「あの試合内容で駄目なの?」


 リズリットは首を傾げる。彼女の目にはこれ以上無いほどに圧倒的な試合運びに見えたのだ。


「相変わらずローレス君は自己評価が低いな」


 呆れたようにライオットは笑い、ローレスはそれに曖昧な笑みで答える。初戦でやり過ぎた事が問題だ、等とは言える雰囲気ではない。


「それより、お二人はなぜここに?」


「リズの実家がこっちなんだ。冬の間は出来るだけ帰省する約束で、冒険者をしているからね」


 自分はそれに付き合ってここに居る、とライオットは答えた。そのついでに剣武会を見て少しでも強くなる参考にしようと観戦に来たらしい。


「去年も観戦したんだけどね。様々な武器の戦い方が見られて、いい勉強になるよ。とは言っても、力量が段違いに上の人の戦い方を見ても真似なんて出来ないけどね」


 肩を竦めてライオットは力なく笑った。初級(ノービス)の彼らは伸び悩んでおり、準中級(インターメディエート)への昇級に二度落ちている。手応えが無い訳ではないのでそう遠くないうちには上がれるだろうとは思っているのだが、そこから上は文字通り段違いの世界だ。諦めるつもりはなくても憂鬱になるくらいには厳しい現実が待っている。


「ルクスさんとレイリーさんはどうされたんですか? 姿が見えないようですが」


「あの二人は中央の王国が出身でね。今頃は二人で王都付近の村に帰省してるはずだけど」


 リズリットの帰省に合わせて彼らも生家に顔を出している。とはいえ、リズリットと違って何らかの制約がある訳でもない二人は早々に王都に戻って訓練や細々とした依頼を熟しつつライオット達の帰りを待つことになっている。

 ちなみにライオットは西の都市国家群が故郷だが、身内はもう誰も残っていないそうだ。本人がそれ以上語らないのであれば、聞き返すのも野暮であろうとローレスは話を変えた。


「僕らは雪解けを待って北に向かうつもりなので、後一月くらいは首都にいます。時間があったらご飯でも一緒にどうですか?」


「いいね。行きつけの店を案内しよう」


 現在利用している宿を伝え、剣武会最終日に約束をしてローレス達はライオット達と別れた。そろそろ二戦目の時間が近づいている。


「じゃあ行ってきます」


「無理しないで頑張ってね。ローレス君」


 アイオラの激励を受けて気を入れ直し、ローレスは控室へと移動した。




 ローレスの二回戦の相手は手斧を数本腰に下げ、両手斧を肩に担いだ小柄な男だった。立派な山羊髭(ゴーティー)を生やした達磨のような筋肉の塊を見て、ローレスは昇級試験官(トール)を思い出して身震いする。軽く心的外傷(トラウマ)になっているのかもしれない。

 地人(ドワーフ)の戦士が長さだけで一メル(メートル)半はありそうな分厚い両刃の斧を軽々と振り回しながらローレスを見る。


「一撃で吹き飛びそうな子供じゃの。とは言え、初戦を勝ち抜いた戦士に変わりはあるまいの」


 見た目で相手を判断しない性格らしい。いっそ侮って油断してくれればやりやすいのにと内心愚痴を零し、肩に掛けていた弓を構えて矢を番える。

 開始の合図と同時に地人の戦士が走る。種族ゆえの足の短さからは考えられない速度で迫って来る地人戦士に臆することなくローレスは番えた矢から指を離して迎撃する。

 地人戦士は両刃斧を前面に(かざ)してその矢を防ぎつつ、速度を落とさずローレスに迫る。


「む、どこにいった?」


 斧で防御した一瞬の内にローレスを見失った地人戦士は舞台中央で足を止め、その姿を探して舞台上に視線を巡らせる。その視界の端に不自然に黒い柱を認めてそちらに意識を向ける。

 二メル(メートル)程の高さのその柱は、まるで光を切り取ったかのように不自然なまでに黒く、舞台端のローレスが立っていた辺りに突然発生した。地人戦士の見ている前でその黒い柱が二本、三本と舞台端に沿って増えていく。地人戦士は警戒しつつ腰の手斧を片手で構え、最初に視界に入った柱の根本へと投擲、地人戦士の手を離れた手斧は凶悪な風切り音を響かせて柱に到達すると抵抗なくその中へと消え、舞台床にぶつかる鈍い音が上がった。


「目隠しの術式か? 俺の視界を切って狙うつもりか」


 目眩ましのつもりであるなら考えが甘い、と軸足に体重を乗せて一足跳びに柱の側へと移動し、両刃斧を横凪ぎに振り抜く。その勢いを殺さぬよう遠心力に身を任せて二回転。一メル(メートル)の高さを切り裂く両刃斧が目に写る柱全てを通過する。

 何本かある柱のどこかに潜んで狙いを付けているのであろうと予測していたが手応えが感じられないことに地人戦士は首を捻る。


「ふむ、てっきり柱のどれかに隠れて狙撃してくる腹かと思ったが……読み違えたか」


 手応えどころか回避された気配すらなかった。では一体どこへ行ったというのか。


「いえ、間違ってませんよ」


 油断なく黒い柱を睨む地人戦士の背後でローレスの声が上がった。不意を突かれて慌てて振り返る地人戦士の眉間に斜め下から矢が突き刺さる。

 驚愕に見開かれた地人戦士の目には舞台に空いた穴から飛び出す泥まみれのローレスが写る。


「むぅ、見事、と言いたいところじゃが……釈然とせん」


 複雑な表情を浮かべた地人戦士が不満げに唸る。眉間に突き立った矢は無論彼自身の身体には傷一つ付けていないが、不可視の力場(フィールド)に突き刺さって留まったままだ。

 間を置かず致命的攻撃(クリティカル)判定を受けて肩代わりの腕輪(テイクオーバー)が甲高い音をたてる。力場(フィールド)が消失し支えを失った眉間の矢が落ちる。

 同時に審判の決着の声が上がり、ローレスの予選通過が決定した。

拙作をお読みいただき、有難うございます。

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