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第123話 遺跡の魔物(Side:Rayshield)

生活のリズムが大きく変わってしまったので、中々執筆時間が取れなくなっております。

申し訳ありませんがしばらくは毎週土曜日の投稿に切り替えさせていただきます。

その分一話の分量を増やす方向で調整できたらと思います。

「遺跡に巣食うと言う魔物の情報を教えてくれ。判っている範囲でいい」


 ダンの生存に対する驚愕と痛みで複雑に顔を歪ませたチャックと憑き物が落ちたように大人しくなったダンを兵士達に任せて、ライシールドは呆然とするゲイルに声を掛けた。


「ゲイル? 聞いているか?」


 再度問われて我に返ったゲイルはライシールドの問いに答える前に深々と頭を下げた。


「ワシの身内がとんでもない無礼を働いた。申し訳ない」


「俺達に被害はなかった。それに一人はお前の仲間になり済ました奴だろう? ゲイルの責任ではないはずだ」


 確認した訳ではないが、チャックは偽物で間違いないだろう。責任云々の前に、本物が今どうなっているかの心配をするべきであろう。この偽物がどういう手段で本人の情報を手に入れたのかも謎なのだ。事件を起こしたとされる傭兵崩れの男は殺されている以上、本物が害されている可能性は高い。

 それにダンについては、子供でもないいい大人の責を他者に求めるつもりは無い。何よりダンとライシールドの間には一つの約束がある。


「ダンの罪は自分で償う約束だ」


 彼自身が同意した話だ。裁きを受け、罪を償う。その上で出来るならライシールドに恩を返す。それがダンのけじめであり、ライシールドと交わした約束だ。


「む……被害者であるお主がそう言う以上、これ以上の謝罪は無粋か。いやしかし」


「難しく考えるな。俺がいいと言ってるんだからいいんだよ」


 それよりも魔物の情報を知りたい、とライシールドはゲイルに訊いた。情報を得られる機会があるのに聞かずに挑むほど無謀でも愚かでもない。


「それについては俺が話そう」


 横手からカリスが割り込んできた。ライシールドの正面に立つと、深く頭を下げる。


「その前に俺からも謝罪を述べさせて貰う。情報の精査もせずに貴殿らを害そうとした件、後程改めて賠償させていただく。我らが知りうる情報を全て差し出そう。無論この程度で仕出かしたことの埋め合わせとなるとは思っていない。いずれ賠償もするし協力も惜しまない」


 結果としてライシールド達に損害はなく、逆にカリスら兵士達に少なくない被害が出た事から、これ以上ちょっかいをかけてこないと言うのなら目を瞑るつもりであった。

 だがカリスの貴族らしからぬ謝罪にライシールドは彼に対する印象を上方に修正する。話の解らない頭の固い傲慢な男だと思っていたが、こうして己の非を素直に認め、頭を下げることが出来ると言うのは出来そうで中々難しいと言うことはライシールド自身もよく解る。


「こちらに被害はない。気にするなとは言わないが、有益な情報を貰えるのならそれでいい」


「寛大な対応感謝する」


 カリスは補佐官を呼び寄せると報告書を受けとる。


「軍事機密も含まれているので、流石に直接見せるのは勘弁していただきたい」


 そう前置きし、カリスは討伐隊の持ち帰った情報を開示した。魔物の姿は百足を思わせる多足の節足動物の形状をしている。ただの百足と違う点がいくつかある。まずはその体長は頭の先から尾の先までで約十メル(メートル)はある。毒を含んだ吐息(ブレス)を吐き、その毒性は麻痺。また強力な麻痺毒牙を持っており、耐性の弱いものは内蔵まで止まって死に至ると言う。周囲に弱毒性の麻痺瓦斯(ガス)を噴霧することもあり、集団で挑んでもこの毒で一気に形勢を逆転されてしまうと言う。

 そして何より恐ろしい違いは一対の蟷螂(かまきり)を思わせる鎌の腕を持つと言うこと。鉄の鎧を両断し、迷宮産の盾をして数度の防御で使い物にならなくなった。魔剣も何本も折られ斬られ、白兵戦での討伐は不可能であるとの結論に至った。


「遠距離からの強力な攻撃か、術式を用いた殲滅が有効であろうと思われる。中央の魔道師団の出動を要請しているのだが、緊急性が低いと未だに討伐要請の受理がなされない」


 魔物は遺跡から動かないし、近付かなければ危険はないと、再三の要請は後に回されてしまっていた。

 近隣の領民からすれば近くにそんな凶悪な魔物が居る時点で大問題なのだが、中央からはそういった部分は些細な問題と切り捨てられてしまっていた。


「我々もただ手を(こまね)いていた訳ではない。少なくない損害を出しつつもいくつかの弱点を発見している」


 まず一つ目、見た目の通り節足動物と弱点は類似しているらしく、冷気には弱く、高温の炎を嫌う傾向にある。

 また麻痺毒は直接牙から注入されでもしない限り、臓腑を侵されるほどの強烈な効果は発揮されない。吐息(ブレス)の毒性はそこまでではないが、直接吸い込むと危険なことに変わりはない。また、広範囲に撒き散らされる麻痺毒は尾の部分から噴射される。ある程度の傷を負わせると、危機を感じて噴射させる事が多い。


「そして未だに討伐がならない最大の理由が……」


 この魔物は驚異的な回復能力を持っている。多少の傷程度だったら戦闘中に癒えてしまう。数え切れないほどある足を数本斬り飛ばしたところで数日の内に生え替わってしまう。


「長期戦になって不利になるのは我々の方だ。我々には倒しきるだけの火力が足りず、幾度も失敗してきた。我々にはやつを倒せなかった」


 だが先ほどライシールド達の攻撃力を見た。防御力を見た。少なくともカリス達が手も足も出ないほどの力の差を感じた。


「我々が開発した対麻痺毒の魔道具だ。短期間ではあるがやつの麻痺毒を無効化出来る」


 カリスは赤い結晶が填まった首飾り(チョーカー)を差し出してきた。数は十本。無論噛みつかれて直接麻痺毒を注入された場合には効果はない。あくまで散布される範囲型の弱い毒に対しての備えに過ぎない。


「赤い結晶が紫を経て青に変わると効果がなくなってしまう。事前の実験では二十秒から五分。本人の耐性にも左右されるようだ」


 つまり、実際に使ってみないとどれ程持つかは判らないと言うわけだ。


「無いよりはまし、程度に考えてくれ」


「良いのか? これだって易々と渡していい物ではないんじゃないか?」


「良い。貴殿らがあれを倒してくれると言うのなら何でも協力しよう。必要なものであれば、出来うる限り用意するから言ってくれ」


「この魔道具だけで十分だ。後は戦闘中に万が一にも余計な邪魔が入らないよう、あの辺りを封鎖しておいてくれると助かる」


「近隣の住民を一時避難させよう。あの辺りの街道も封鎖する。他にはないか?」


「そうだな……ああ、ゲイルを屋敷で保護(かんきん)しておいてくれないか」


 側で話を聞いていたゲイルが目を見開く。


「何故じゃ!? ワシもお主らを手伝わせてくれ!」


「と、こうなるからだ。正直に言えば足手まといだ。大人しく屋敷で待っていろ」


 ダンとの約束については口にしない。彼の裏切りの理由を知れば、ゲイルは更に責任を感じるだろう。正直ライシールドとしてはそう言う面倒なことに関わりたくない。いずれ判るだろうが、今さえ凌げば十分だ。討伐の後なら放置して出ていくと言う手も使える。

 尚も詰め寄ろうとするゲイルを、カリスの背後に立つ護衛の騎士の内二人が前に出て左右から拘束する。


「お前が責任のようなものを感じているのは解るが、それは無用だ。遺跡の魔物を倒すのはあくまで俺の都合だ。この領地の為でもなければダンの為でも無い。ゲイルが気に病む要素など無いんだ」


 むしろ強力な魔物の情報を得られたのは幸運だとさえ思える。

 この後、彼らは火神の玉座(ウルカヌストローン)を擁する北の大山脈に挑まなければならない。コルトブルの書庫でおおよその場所の目星が付けば良いが、判らなければ更なる調査を続けながらの旅となる。

 知られざる場所へ辿り着くには、どんな障害があるか判らない。力があって損はないのだ。


「さて、そちらのお話は終わったかしら?」


 次に現れたのはこの領地の領主であり、コルトブル家当主のビアンカであった。強引に下がらされたゲイルを苦笑いで見送り、ライシールドに声を掛ける。


「近くで見るとまだ年若いと言うことがよく解るわね。伝え聞く話とゲイルから送られてくる報告を読んで、どれ程の厳つい方かと思えば……信じられないけど、貴方がライシールド君で間違いないわね?」


 問われて首肯するライシールド。貴族相手にする返礼ではないが、ビアンカ子爵はその辺りに寛容であるらしく、特に気にした様子もなかった。


「そう。まずは私の身体を治してくれたことに対しての感謝を」


 そう言って彼女は頭を下げた。ライシールドは貴族と言うものは下の者には頭を下げないものだとばかり思っていたが、ビクトリアやカリス、ビアンカを見て大分認識を改めることになった。勿論ライシールドの想像通りの貴族も居るだろうし、ビアンカ子爵家の者達が特殊なだけかもしれないとは理解した上でだが。


「後は私のバカ息子と身内の不始末の謝罪ね。落ち目のコルトブル家に支払える範囲の賠償で勘弁してくれると嬉しいのだけれど」


 そう言いながら頬に手を当てて困ったような顔をした。


「そうだ。うちのビクトリアちゃんで手を打たない? お転婆でちょっと融通が利かないけど顔は悪くないと思うのよね。まぁ胸は残念だけど」


「お、お母様!? 何を言い出すんですか!」


 ビアンカの後ろに控えていたビクトリアが真っ赤な顔をして叫んだ。ビアンカは心外だとばかりに眉根を寄せると戯言を続ける。


「実際良い案じゃない? ライシールド君はそこそこ美人な奥さんと貴族の地位を得られるし、コルトブル家は賠償金で潰れることもなく優秀な戦士の血を入れることが出来る。双方良いことだらけじゃない」


「ライシールド殿の気持ちを無視しています!」


「あら、ビクトリアの気持ち的には大丈夫ってことなのかしら?」


「ライシールド殿は私なんかは眼中にありません!」


「そう。じゃあ別に私でも良いのよ?」


「お母様!? 歳を考えてください!」


「まだまだいけると思うのだけれど。どうかしら?」


 些細なことを訊くようにライシールドを見るビアンカ子爵を、彼は呆れ顔で見て肩を竦めた。


「悪いが貴族になる気もこの地に留まるつもりもない」


「あら残念」


「こちらの要望はゲイルから聞いてくれ。ほかに用がなければ俺たちは遺跡に行かせて貰うぞ」


 これ以上ここにいて、おかしな話に巻き込まれる前に出発してしまいたい。そう思うライシールドであった。

拙作をお読みいただきまして、ありがとうございます。


次回は30日に投稿予定です。


01/30

魔物の情報をより詳細に更新しました。


02/20

漢字と文章のおかしいところを若干修正。

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