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第101話 刻印文字(Side:Lawless)

今日も大幅に遅れました。申し訳ありません。


話数的にライシールド回の予定でしたが、予定を変更してローレス回になっております。感想のお礼的な意味で。

 ファクトに連れられて店の奥へと進む。裏庭に出て直ぐにまた扉を潜り、店舗の裏の別棟の建物の中へと案内された。

 五メル(メートル)程の正方形の部屋で、今入ってきた扉の向かい側には奥に続く扉が見える。その向こうからは絶えず何かが動いているような音が聞こえてくるが、それが何の音なのかは見当もつかない。

 室内に目を向けると中央に一メル(メートル)程の高さの作業台が置かれていて、その上にはなにやら妖しげな金属部品が乱雑に置かれている。壁の方には奥行きの深い棚が設置されており、完成品と思われる魔道具や組み立て途中の部品等が並んでいる。

 そんな室内を物珍しそうに眺めるローレスに、ファクトはにやにやと同好の士を見つけた子供のように嬉しそうな笑顔で顎の無精髭を擦った。


「儂の工房じゃよ。何か興味を引くようなものがあったかの?」


 ローレスは感じた。この老人は自分を試すつもりだと。恐らくローレスの力量、技術力、洞察力といった付与術者(グランター)の資質を計られているのだ。


「僕はまだ属性付与と属性強化くらいしか使えない素人に毛が生えた程度の付与術者(グランター)です。ですのでここにある全部が初めて見る物で、どれも興味深い。……ただ、お許しいただけるならその床に置かれている球状のそれを手にとって見させていただいてもいいでしょうか」


 ローレスが一番に興味を惹かれたのは作業台の上でもなく、棚の上にある物でもない。ガラクタのように床に転がっていた黒い球、それが目に入った途端、強く気を惹かれた。


「ふむ。これを一番に手に取るか」


 ファクトは球を手に取り、ローレスに投げ渡した。危なげなくそれを受け取ると、ローレスはしげしげとその球を観察する。


「なんだろう。これを見ていると胸の奥がざわざわすると言うか、何かに突き動かされるような衝動が湧き上がってくるというか……」


 不意に脳裏に見たことも無い刻印文字(シールワード)が浮かび上がってくる。知らないはずのこの文字の意味が理解できる。見知った幾つかの文字と組み合わせれば何か出来る気がする。


「これは接続の文字? と言う事はこれと火の文字、火属性の強化に素体の硬化を加えれば……」


 今までローレスは一つの素体に付与(グラント)の文字の焼付けは二文字までが限界だった。角付との戦いの際に、鏃に土の属性の文字を焼き付けて雷気拡散の効果を付与し、同時に衝撃に耐えられるよう鏃自体の硬度を上げる文字を焼き付けた。それ以上は文字同士が干渉しあって効果を弱めたり、最悪打ち消しあってしまったりと思うように出来なかったのだ。

 それが今、接続の文字を得て一段階上の付与(グラント)の技を見出すに至った。接続の文字の意味はその名前の通り文字と文字を干渉しあわないように繋ぎ合わせ、一つの素体に共存させる効果を持つ。


「この鉄片を一枚戴いてもよろしいですか?」


 嬉しそうに頷くファクトを見て、ローレスは作業台に置かれていた札状の薄い鉄片を手に取り、ゆっくりと文字を焼き付けていく。

 火の文字と属性強化の文字を接続の文字で繋ぐ。膨張、加速の文字を接続の文字で繋ぎ、裏面に素体の硬度のを上げる為硬化と強化の文字を繋ぐ。


「ふむ? 火と属性強化は良くある接続じゃが、膨張に加速は何を狙っておるんじゃ?」


「僕も思う通りの効果が出るかの自信がありません。出来れば実験してみたいのですが、割と大きな衝撃があると思うので、室内ではちょっと危険ですね」


 ローレスの言葉に「衝撃……火の文字にこんな構成は見たこと無いのぅ」等とファクトはブツブツと呟きながらローレスを手招きする。

 来るときに通り過ぎた裏庭に出るとファクトの後を着いて行く。店舗と工房の間を抜けると百メル(メートル)はある広い空き地に出た。


「ここは広範囲に効果を及ぼす魔道具の開発と実験の為の場所じゃ。多少の音と衝撃程度なら外壁に配置しておる防音(サウンドプルーフ)衝撃吸収(ショックアブソープ)の魔道具が防ぎよるから好きに実験出来るぞ」


 遠慮は要らんから実験しろ、と言いたいらしい。キラキラした目の老人(ファクト)の期待に答えるべく、ローレスは術式を活性化し、鉄片を広場の中央に向かって投げる。

 狙い違わず中央付近の地面に突き刺さる。鉄片が赤熱し周りの空気が鉄片に吸い寄せられて内向きの風が起こる。想定よりも規模の大きい前兆にローレスはとっさに自分とファクトの足下に廃棄物処理ウィーストトリートメントを発動して穴の中へと避難した。

 次の瞬間想像を遥かに超える轟音と衝撃がローレスとファクトの頭上で巻き起こる。穴の中に居て尚ビリビリと激しく空気が震え、穴の縁が崩れて二人の頭上から土が降ってくる。

 爆発はほんの一瞬だったようで、直ぐに衝撃は通り過ぎていったようだ。ローレスは這い上がって爆心地を見て思わず顔を覆ってしまう。そこには直径一メル(メートル)程の陥没が出来上がっていた。


「おーい、少年よ! 儂をここから上げてくれー」


 ファクトの声に慌てて穴の中に手を差し出し、彼が這い上がるのを手伝う。穴から抜け出したファクトはローレスと同じように爆心地を確認し、目を見開いて「あれだけの文字でこの威力じゃと……?」と呆然と呟く。


「少年よ、何を想定してあの構成に至ったのじゃ」


「熱を発生させて鉄片の膨張を促し、膨張の文字で膨張の度合いを大幅に増加、加速の文字で膨張速度を加速させて威力の底上げをする、と言った想定で組んでみたんですけど、威力が高すぎますね」


 付与(グラント)を爆薬代わりに爆轟(デトネーション)を起こそうと考えたのだ。熱と膨張と加速の相性が良かったらしく、予測を上回る効果が発揮されてしまった。


「うーん、これは失敗ですね」


 残念そうに陥没を見るローレスの肩を掴み、ファクトは相変わらずの楽しそうな目を彼に向けた。


「何を言う! 少年の想定した効果自体はきちんと発動しておるではないか! 威力の大小はこの際問題ではないのじゃ。思うとおりの効果を導き出せたかどうかが肝要なのじゃ!」


 力説するファクトは「あの構成でこの結果を予測出来るのは素晴らしい発想力じゃ!」等とローレスをべた褒めする。当のローレスは前世のうろ覚えの知識を刻印文字(シールワード)で再現しただけで、何も無いところから自力で導き出したものではないので褒められると逆に居心地が悪い。


「おじいちゃん! 何!? 今の爆音は!?」


 広場を挟んで店舗の向こう側の建物の中から、歳若い女性が飛び出してきた。魔道具らしい眼鏡を掛け、長めの茶色(ブラウン)の髪を後ろで雑に三つ編に束ねている。


「見ろ! メントよ、この爆発跡を! これをたった三つの刻印文字(シールワード)で成しおったぞ!」


 陥没地を指差し喜色満面のファクトの言葉に、メントと呼ばれた女性は広場の中央を見て軽く目を見開き、ついでローレスを睨みつけた。


「君がこの大穴を開けてくれたって訳?」


 ただでさえ予想外の被害を発生させて申し訳ない気持ちで一杯だったローレスは、その鋭い眼光に萎縮して肩を縮込ませる。


「は、はい。こんな大穴開けてしまって、申し訳あり「どういう構成か、教えなさい!」ません」


 ローレスの謝罪を打ち消して、メントはずかずかと彼の前に寄ると両手でがっちりと肩を押さえつけた。


「さあ! 穴なんてどうでも良いから! 早く!」


 血走った目で鬼気迫る勢いで訊いてくるメントに(おのの)いていると、彼女の背後から助け舟が出る。追い詰められたローレスを見かねて、ファクトが口を開く。


「火と膨「おじいちゃんは黙ってて!」張と……」


 助け舟(ファクト)、撃沈。


「こういうのは本人に直接聞くのが一番なのよ! さあ、早く吐きなさい!」


 がくがくと肩を揺さぶられ、ローレスは答えねばヤラレルと強い危機感を抱いた。答えねば死ぬかもしれない。


「構成は火と膨張と加速、素体の硬化です!」


 意を決して叫ぶ。それにメントは即座に反論する。


「どういう意図よ。そこは火と分解と拡散でしょう!? 加熱された素体を細かく分解して周囲に拡散して、その熱と拡散効果で周囲に被害を与える。これが爆燃(デフラグレーション)の公式よ!」


「でも、それだと狭い範囲に熱の攻撃を加えるだけですよね? 広範囲に熱の損害を与えることを想定して刻んだ以上、公式は当てはまらないと考えました」


「ってことは何? 貴方公式を理解した上で手を加えた(アレンジした)って訳? おじいちゃん、この子何者よ?」


 言葉をぶった切られて凹んでいたファクトが復活する。


「グランの店で拾った! 儂の初級導術書ビギナーチュートリアルで勉強したそうじゃ。面白そうだから儂のとこに連れてきたんじゃ」


初級導術書ビギナーチュートリアルってあれでしょ? 初歩の初歩だけをアホみたいに丁寧に書き綴った絵本みたいなヤツ。あれでこの技術は身に付かないでしょう?」


 ファクトは例の球を手に取る。


「おじいちゃんそれ使ったの!?」


 メントの驚きようにローレスはあの球が何であるかを尋ねた。その反応を見て尋ねずにはいられない。


付与(グラント)学習球(ラーニングスフィア)。おじいちゃんが初心者に刻印文字(シールワード)を学習させる為に作ったそうよ。その球体だと一つか二つの情報しか入れられないから、その刻印文字(シールワード)を知らないものにしか効果はないの」


「少年がこれが気になると言った時、儂は楽しくなってのぅ。付与(グラント)をより深く学びたいと思う者の目に止まりやすいよう、弱い催眠(ヒュプノ)も掛かっておるからのぅ」


 つまり、初歩の初歩をかじった程度の碌な知識も持たない初心者で、それでも付与(グラント)が好きな人の目に付きやすいよう調整された魔道具だったわけだ。それを判別するために刻んだ刻印文字(シールワード)に圧迫されて、本来の意味である学習能力が著しく落ちている。

 その本末転倒な失敗作の存在に、ファクトがどれだけ付与(グラント)人口を増やすことに腐心しているのかを理解し、その情熱に若干呆れるローレスだった。

拙作をお読みいただきまして、ありがとうございます。


15/12/01

締めの部分のおかしな文章を修正。多少加筆しました。

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