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第100話 書籍の著者(Side:Lawless)

一応、話数的には百話の大台に乗りました。これからも頑張って行こうと思います。

今日も大幅に遅れてしまって申し訳ありません。

「ああ、ゲイルさんの紹介ですか」


 ハンカチ(手巾)を手渡すと、青年は困ったような顔で笑った。


「見ての通り、この店はあんまり流行っていなくてね。ゲイルさんは事あるごとにうちの店を宣伝して回ってくれているんだ」


 彼曰く、以前ちょっとした事でゲイルに手を貸したことがあるらしい。店主からすれば大したことはしていないのだが、彼はそれ以来恩返しのつもりなのか事あるごとに星詠みの家を紹介して回っているらしい。


「ゲイルさんの紹介で来られたと言うならボクも気合を入れてご相談に応じましょう。お二人さんは何をお探しですか?」


 奥の部屋から椅子を二脚運んでくると、ローレス達に着座を促す。ローレスはそんな店主の態度に軽い驚きを覚える。アイオラを彼は認識している。今は変装外衣(ディスガイズローブ)頭巾(フード)を目深に被っているというのにだ。

 そんなローレスの態度に合点がいったという顔で手を打ち、自らの顔を、正確には自らが掛けている眼鏡を示す。


見破りの眼鏡(シャープアイ)って言う魔道具です。こういう商売をしていると(たま)に魔道具と偽ってガラクタを売りつけようとする人が来るんですよ。そういう人の対策で店に居るときは常につけているんです。そちらの方は何らかの理由で多重に擬装をされているみたいですね。この眼鏡では表層しか見破れないのでそのローブ(外衣)路傍の石(メディオーカー)の術式くらいしか見破れませんので、ご心配なく」


 正体には感知しませんと言外に伝えてくる。ローレスはその心遣いに感謝しつつ、アイオラと共に着座した。


「魔道書を探しているんです。こちらの女性が」


「出来れば火系か雷辺りが欲しいのだけれど」


 アイオラの言葉に店主は立ち上がると店内の棚を幾つか巡り、数冊の本を持ってきた。


「どういった使い方を想定されていますか? 思い描く形を教えてください。抽象的なもので結構ですので、思いついたことをご自由にどうぞ」


 アイオラに促す。彼女は一瞬思案した後、言葉を(つづ)る。


「ローレス君が戦うときの補助(サポート)か肩を並べて戦えるように出来たら良いわね。ローレス君は前に立つ人が居るのと居ないのとで戦い易さが変わると思うの。だから相手を足止め出来るものか、ローレス君と相手の間を隔てる何かを作り出す事が出来れば、彼を助けられそうね」


 そんなアイオラの言葉を頷きながら聞き、店主は三冊の本を差し出す。


「まずこちらは水と雷を纏う擬似生命体を使役する術式の基礎を纏めた魔道書です。そしてこちらは火と土の擬似生命体、こっちは氷と風の擬似生命体を使役できます。あくまで基礎術式なのでそれほど強いものを生み出すことは出来ませんが、あくまで足止め、壁役としてなら十分かと」


 それぞれ単体の属性での形状維持は実は高度な術式が必要となる。相性の良い二属性を組み合わせることで安定感が増し、使役される擬似生命体も頑強になり、それぞれに特殊な攻撃法を獲得する。

 逆に複合する属性が多いとそれだけそれぞれの属性の制御に精神資源(メンタルリソース)を取られ、擬似生命体が暴走する可能性が上がってしまう。二属性が一番安定し制御も簡単になる。三属性、四属性の複合となるとそれだけ高度な術式となり、純属性の擬似生命体の使役を持って基礎六属性の擬似生命体制御が履修(マスター)となる。


「そちらの方の得意とされている術式の属性を教えてください」


「土が一番扱いやすいかしら。後は火と風が比較的相性が良いみたい。逆に氷と水はわりと苦手ね」


 雷は可もなく不可もなくといった感じらしい。魔術(ソーサリィ)の基礎である六属性の制御自体は問題なく出来ているそうだ。後はアイオラ本人の相性で得手不得手が決まる。

 普通、魔術師(ソーサリアン)は得意な第一属性とそれに次ぐ第二属性を決め、まずそれに習熟する。余裕のある者や得意な属性が複数ある者は第三属性を持つ場合があるが、六属性全てを満遍なく使用できるアイオラは魔術師(ソーサリアン)としての才が高いと言える。

 と言うのはあくまで人族の話。妖魔の上位種であるアイオラにしてみれば、力を落としているとは言え六属性の魔術(ソーサリィ)を使うくらいは問題ない。


「六属性全て使えるのは凄いですよ。無理をすれば出来るのでしょうが、貴女はそれほど無理をしている感じでもないですし。でもお話を聞く限りでは火と土の複合擬似生命体の術式が良いかもしれませんね。どうされますか? この術式の魔道書は金貨二十枚ですが、ゲイルさんの紹介ですし、十八……いえ、十五枚でお譲りしましょう」


 十五枚なら問題なく支払うことが出来る。後はアイオラの気持ち次第。


「ローレス君、これなら貴方の役に立てそう?」


「確かに、僕の前に立ってくれる存在が居るのは助かります。囮として目を引いてくれるでしょうし、相手の意識を分散できるのは大きいでしょうね。僕はアイオラさんがこの術式を使えるようになってくれると助かります」


「それならその魔道書を頂きます。ローレス君、必ず使いこなして役に立って見せるわ」


 店主から魔道書を受け取り、気合を入れるアイオラ。その姿に「無理はしないでくださいね」とローレスは釘を刺す。


「本日の用事はこれだけですか?」


 店主が二人の様子を微笑ましく見守りつつも、商売のことは忘れていないらしくローレス達に尋ねた。


付与術(グラントメント)の解説書ってありますか? 出来ればこの書籍の著者の物があれば嬉しいんですが」


 差し出したのはウルに貰った付与術(グラントメント)初級導術書ビギナーチュートリアル。それを受け取ると店主は著者の名前を見て納得する。


「確かにこの著者の出す解説書は判りやすいと評判みたいですね。どういう製法を確立したのかは一般には明かされていませんが、付与術(グラントメント)の応用で書籍を自ら複製しているそうです。数多く出回っているので比較的安価で手に入りますし」


 著者曰く、付与術(グラントメント)を世に広めるのが自らの使命と位置付け、その為に自らの本を自らの付与術(グラントメント)で複製する術を確立し、世に安価で広めているそうだ。その際利益をギリギリまで落としているらしく、本人は清貧を良しとする生活を送っているらしい。


「随分な篤志家(とくしか)なんですね」


「そう言われてるんですけどね。実際はただの付与(グラント)馬鹿ですよ」


 まるで知っているかのような口ぶりに首を傾げる。


「その著者はボクの祖父なんですよ。この店の裏にある作業場で今も書籍の製作に勤しんでいると思いますよ」


 そう言いながら十冊ほどの書籍を机の上に積み上げる。


「貴方の持っている初級を除いた祖父の著書です。十冊で金貨一枚で良ければ持って行ってください」


 先ほどの魔道書とは随分金額に差がある気がする。その辺りを訊こうと口を開いたのと同時に、店の裏手からどたばたと何者かが店内に入ってきた。


「グラン、また五冊出来たぞ。お前のとこの在庫は今どれだけあったかの?」


「じいちゃん、接客中だよ。在庫は各五冊ずつあるから他に持って行ってくれて良いよ」


 店主がやんわりと書籍を抱えて入ってきた老人を嗜め、店の奥へと追いやろうとする。老人は「なんじゃ、まだ捌けておらんのか。店の前に茣蓙(ござ)でも敷いて、店頭販売でもすれば良いんじゃ」等とぶちぶち文句を言いながら店主に押されるままに奥に下がろうとして、ローレスと目があった。


「……む、少年よ。お主付与術者(グランター)じゃな」


 手に持った書籍を店主に押し付け、強引にローレスの前に腰を下ろすと尋ねた。ローレスが首肯するとにんまりと笑って彼の手を取る。


「そうかそうか! 若いのに良い選択をしたもんじゃ! うちの孫なんぞ、こんな魔道具屋の店主なんぞで満足しおって、儂の後を継ぐ気は無いと抜かしおった。嘆かわしいことじゃよ」


「じいちゃん、後は父さんが継いでるんだから良いじゃないか。それに妹のメントがちゃんと次の跡取りの修行をしてるんだし、ボクはみんなの作ったものを世に出す仕事がしたいだけだよ」


 老人が嘆き、店主が反論する。


「お客さん、ごめんなさいね。この人がさっき話に出た君の持ってる初級導術書ビギナーチュートリアルの著者で、ボクの祖父のファクト。付与術(グラントメント)の事しか頭にない人で、孫の名前までグランとメントとか冗談みたいな物をゴリ押すような付与(グラント)馬鹿」


 呆気に取られているローレス達に謝罪しつつ、店主グランは肩を竦めた。そんな彼の言葉に老人ファクトはフンと鼻を鳴らして笑う。


付与(グラント)馬鹿とはいいのう。儂には褒め言葉じゃ」


 そんな様子を見ながらも、実はローレスはわくわくしていた。ずっと教科書代わりに使っていた書籍の著者が目の前に居るのだ。許されるなら話をしてみたい。


「僕は貴方の本を見て付与術(グラントメント)を覚えました。会えて嬉しいです」


「なんとなんと。儂の本で付与術者(グランター)が増えたとは、出版した甲斐があるというものじゃ! どうじゃ少年、今なら儂自ら解らぬところを教授してやるぞ」


 ファクトを持ち上げつつ丁寧に挨拶するローレスに気を良くしたか、彼は願ってもないことを提案してきた。ローレスは隣のアイオラを見て、頷くのを確認して「ぜひお話を聞かせてください!」と身を乗り出した。


「お、お客さん? もしや貴方も付与(グラント)馬……もとい、強い興味を抱く類の人種ですか?」


 嬉々としてファクトの後に続いて店の奥に進むローレスの背中に疑問を投げかけるが、返事をしたのはアイオラだった。


「ローレス君は夢中になると周りが見えなくなることがあるの。そういうところも可愛くて素敵だけどね」


 途中から惚気だすアイオラにもゲンナリしつつ、店主は大きく溜息を吐いた。


「お嬢さん、お茶でもどうですか? ああなったじいちゃんは中々彼を離してはくれないと思います。長期戦になると思いますので、良かったら奥の机で魔道書を読んでお待ちいただいても構いませんよ」


「でも、まだ代金をお支払いしていませんが」


 そう懸念するアイオラに店主は首を振って答える。


「ボクの目が確かなら、お二人は内容を知ったからといって買うことを止めるとは言わないでしょう? ですので問題ありません」


 そういうのなら、とアイオラはお言葉に甘えることにした。ローレスが戻るまでに魔道書の知識を少しでも身につけておこうと胸中で思うのだった。

拙作をお読みいただきまして、ありがとうございます。

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