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第99話 すれ違い(Side:Lawless)

投稿が大幅に遅れました。申し訳ありません。

今年一杯は更新時間が不安定になるかもしれません。出来るだけ遅れないように頑張ります。

 三階の客層は大きく二つに分けられる。

 一方は店外から直接三階に上がる入口側で、上品で高級そうな衣類に身を包み、きらびやかな装飾品を身に付けた層。ほとんどが男女の二人(ペア)で来店している。夫婦で来ているのか、愛人連れか。

 もう一方はローレスも上がってきた店内側で、こちらは如何にも冒険者といった空気を纏った者が多く、階段を上がって直ぐの受付で武器や鞄は持ち込み禁止と言われて預けているので、武器こそ持ってはいないが大体がそれなりの武装をしている。

 ローレス達はまず魔道書類が置かれた棚へと移動した。

 この大陸では印刷技術がまだ未熟なようで、全て手書きの写本となっている。手間がかかると言うことで書籍は基本的に高い。魔道書のような技術書類は更に付加価値がつくので内容如何(いかん)を問わず価格は跳ね上がる。


「あ、この初級導術書ビギナーチュートリアル、僕が持ってる物と一緒だ。うわ、これ一冊で金貨二枚か」


 入門書関係はやはり他と比べると割安となっている。単品で見ると高く感じるが、周りの書籍の値段を見ると安く感じてしまう。


「まずはアイオラさんの要望から行きましょうか。魔術(ソーサリィ)の魔道書は……あった」


 ローレスの示す棚には十冊程の書籍が並べられていた。厳重に封がされているので中身を見ることは出来ないが、代わりに一冊ずつ簡単な内容の解説書が添えられている。


「こっちが氷系の術式の初級、中級。これが炎系の初級。後は風系統の中級と雷系の中級」


「おいおい、初級はともかく、坊主に中級は早いだろう。そもそも金貨二十枚なんて払えるのか?」


 書籍に目を通していると、不意に真横から声を掛けられた。街中ということもあり気配察知に意識を向けていなかったのもあるし、本を探すことに意識を集中して油断していたとは言え、声を掛けられるまで近づかれていることに気付かなかった事にまず驚いた。己の油断を反省し、薄く気配察知を店内に張り巡らせる。声のした方に目を向け、ローレスは思わず一歩後退(あとじさ)った。

 そこには厳つい顔をした見上げる程の大男が立っていたのだ。


「おっと、驚かせちまったか。すまんな。坊主が値段を把握しているのかが気になってな。因みに今手に取っているヤツ、金貨五十枚な」


「いえ、値段は把握しています。お気遣い感謝しますが、僕が入用なものではないのでご心配には及びません」


 どうやら大男は親切心から声を掛けてくれたらしい。ローレスはそう判断すると頭を下げ、彼の心配が杞憂だと伝えた。


「そうか、お節介だったか。悪いな」


 ばつが悪いといった顔で大男は頭を下げた。他者に威圧感を与える大柄な体躯と強面に似合わず素直な性格のようで、ローレスはこの大男に好感を抱いた。


「おい、ダン。何を遊んでいる」


 少し離れた棚の側に立つ初老の男が大男に声を掛ける。店員に何事か尋ねている線の細い青年を然り気無く気に描けているように見える。


「遊んでねぇよ。人生の先輩としてだな」


「お前は中身は餓鬼じゃねぇか。さっきからみとったが、そっちの少年の方がよっぽど大人じゃな」


 辛辣な言葉を投げ掛けられ、ダンと呼ばれた大男は言葉を詰まらせる。


「いや、そりゃないぜ、ゲイル。確かに俺はおつむの出来は良くないけどよ」


「少年、連れが失礼したの。ワシからも謝ろう」


 ゲイルと呼ばれた初老の男がローレスに頭を下げる。


「すまんが、ワシらはちと急いておる。そのアホは連れていっても良いかの」


 首肯する。ローレスはダンに特別な用もないし、そもそも特になんとも思っていないのだから、引き止める理由もない。


「余計なことを言って悪かったな。お詫びに良いことを教えてやるよ。魔道書ならここより町の反対側の魔道具屋に行った方がいいぞ。ここは金持ちが道楽で金を落とすことを狙って商品を仕入れているから、見た目重視で中身が大したことないもんばっかりだからよ。実用的じゃねーんだよ」


 ダンはゲイルの方へと振り返ると「名前は干し柿の館だったか?」と顎を擦りながら尋ねる。ゲイルは大きな溜息を吐くと、頭を抑える。


「……星詠みの家だ。そんな美味そうな名前の訳無かろうが」


 疲れたようなゲイルの返事に「ああ! それそれ」と手を打つと、ローレスの方に向き直る。


「って訳で星詠みの家って所だから。俺の名前を出せば悪いようにはされねーと思うから、言ってみると良いぞ」


「少年。こいつの名前を出したらいかんぞ。買える物も買えなくなる。ゲイルの薦めだと言えばいくらかは融通してくれるじゃろう」


 そう言いながら懐からハンカチ(手巾)を取り出すと、ペン(硬筆)に携帯用の黒インク(染料)で何事か書くとローレスに手渡す。


「これを見せれば良い。店主が少年の相談に乗ってくれるじゃろう」


「ここまでして頂く理由がありません。何もお返しできませんし、これは受け取れません」


 言うなれば道で袖が触れ合った程度の縁でしかない。ここまでしてもらう義理も無ければ返す当てもない。とやんわり断ろうとするが、ゲイルは「ダンのアホがお前さんに掛けた迷惑料だと思ってくれれば良い。そこの店の宣伝じゃとでも思って精々金を落としてやってくれぃ」とローレスに強引にハンカチを渡すとダンを引っ張って離れていった。


「じゃあの、少年よ。何時かどこかで会ったときはよろしくじゃ」


 ひらひらと手を振るゲイルに「僕はローレスって言います。またどこかで!」と返礼する。ダンの「元気でな!」との声にも手を振って見送った。


「やっぱり擬装の術式が効いているのね。私の事殆ど目に入ってなかったみたい」


 ダン達がもう一人と合流して店員と共に店の奥へと消えたのを見て、アイオラがローレスに声を掛ける。彼女はずっと傍にいたのだが、結局意識を向けられることは無かった。


「これなら安心して魔道国家に入れそうですね」


 結局ダン達の言葉に従ってここでは何も買わずに店を後にするのだった。




「で、薬は手に入りそうなのか?」


「駄目じゃな。ヘルメスのとこの店員にビリーが訊いておったが、もう随分と長い間入荷しとらんらしい」


 ダンの質問にゲイルは首を振る。ビリーは先に宿で休んでいるので、今は二人だけだ。


「そもそも、ここ半年は迷宮からも出てきていないらしいな」


「中央王国は絶望的ってことか」


 苦虫を噛み潰したような顔でゲイルは首を振る。


「いや、それでも城壁迷宮がここ数年では幾つか数が出ておるんじゃ。この半年ほどが偶々という可能性もある。やはりここが最有力じゃの」


「じゃあ俺らで潜るのか?」


 ゲイルはその問いにも首を振る。


「一旦屋敷に戻ろうと思う。あの薬の様に欠損部位を再生させるだけの効果はないが、傷を癒す薬は手に入った。それを主様に届けて、一旦獣王国へ向かう」


 ゲイルの言葉にダンは訝しげに首を傾げる。


「獣王国? なんでまた」


「ワシの古い(つて)にお願いしようと思っての。あまり会いたい相手ではないのじゃが、この際背に腹は代えられん。その後は再び中央に入って城壁迷宮じゃな」


 ダンの「また随分と大回りだな」との言葉を肩を竦めて交わす。

 彼らは知らない。彼らが追い求めて止まない治癒薬を手に入れる機会を、先ほど逃していたということを。




 その後、ローレス達は店を後にして町の反対側という大雑把な説明を頼りに星詠みの家と言う魔道具屋を探して歩いていた。


「アイオラさん、疲れてませんか?」


 道を訊きながらの移動は調子が乱れるので疲れやすい。そろそろお昼時と言う事もあって通りは人も増えて歩きにくい。


「私は大丈夫だけど、そろそろお昼を考えないとどこも一杯になりそうよ」


 アイオラは周りを見回しながら言う。確かに通り沿いの食事処はどこも一杯になっている。のんびりしていたらどこも埋まってしまうかもしれない。


「それじゃあ何処か入りましょうか。何か食べたいものとかありますか?」


「んー、ちょっと軽めのものが良いかな」


 軽食を出すお店を探し、どうにか二人分の空きがある店舗を見つけて昼食にありつけた。いつの間にか時間も過ぎて通りに人も減り、ローレス達は再び道を尋ねながら目的の店を目指して歩き出す。


「意外と遠いですね。多分この辺りだと思うんですが」


「さっきのお兄さんもそう言ってましたしね」


 先ほど花屋の店先で掃除をしていた男性に尋ね訊いた話では、もうそろそろ見えてきても良い頃合である。


「んー、星詠み星詠み……しかし、どう記憶違いすれば干し柿になるんですかね」


 ダンの事を思い出し、思わず笑みが漏れる。アイオラも「あの大きな人は雰囲気が子供の様で、面白かい方でしたね」と相槌を打つ。


「あ、あそこじゃない?」


 アイオラの指差す先にこじんまりとした商店があった。店先には確かに星詠みの家と書かれた看板が掲げられている。

 入り口の扉を潜り、店内に足を踏み入れる。きちんと整頓された店内には、日常使うような安価な魔道具から特別な作業の為に使うような特殊な魔道具まで、色々置かれている。


「いらっしゃいませ。星詠みの家へようこそ」


 店の奥から明るい青年の声がローレス達を出迎える。ゲイルのハンカチを手に取り、ローレスは店の奥へと進んでいった。

拙作をお読みいただきまして、ありがとうございます。


15/11/29

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