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第97話 治癒薬を求めて(Side:Rayshield)

割とギリギリの投稿をしています。今回も予定時間一分前に書き上げた始末で……。今後投稿が間に合わなくなることもあるかと思います。申し訳ありません。

 ライシールド達が小屋に戻ると、まだチラチラと雪が降る中、ヴィアーが扉の前で待っていた。防寒具を着込んでモコモコになった彼女が、ライシールドの姿を認めると満面の笑顔で手を降ってくる。

 ライシールドはそれに手を振り返して答える。


「女の子……狐族か?」


 ダンがぼそりと呟く。その声音(こわね)には僅かに憐憫(れんびん)の色が浮かんでいた。


「銀毛の狐族の娘か。よくもまぁ、あそこまで良い笑顔を残せたもんじゃ」


 この二人は狐族の悪習を知っているらしく、ヴィアーを不憫に思っているようだ。ライシールドはそんな二人に向き直り、小声で釘を刺す。


「その顔をあいつに向けるなよ。あいつは可哀想な奴じゃない」


 二人の返事を待たずに振り返ると、さっさと小屋へと戻ってしまった。その背中を見ながらゲイルは自分の頬を張り、気持ちを切り替えて未だ隣で困惑しているダンの脇腹を小突く。


「そんな顔をしてやるなって事じゃよ。お前さんも普通にしてやれ」


「ああ、そりゃ解るが、難しいことを言うなよ」


 根が単純なダンには感情を隠すと言うことは苦手なことらしい。そんな情けない顔をするダンをゲイルは小馬鹿にするように鼻で笑う。


「図体ばっかりでっかくなって、中身はいつまで経っても餓鬼かよ」


「仕方ねぇだろ!? そう言うのは俺は苦手なんだよ!」


「やっと普段の顔に戻ったな。無理する事はねぇ。優しくしろってんじゃねぇんだ。そのままでいりゃいい」


 ゲイルに煽られてなんとか調子を戻したダンの腕を叩いて、一歩踏み出す。後に続くダンにゲイルはニヤリと笑った。


「それにあいつの仲間ってのは中々の美人揃いだぞ。良い目の保養になる」


「……ほう」


 ダンの目の色が変わる。彼も人並みに美人は好きだし、美的感覚はゲイルとそう大きく変わらない。


「ビリーを治療してくれたって言う美人さんにお礼も言わなきゃな」


 わざとらしく咳払いなどしながら、ダンは心持ち早足でゲイルを追い越す。仕方ないと言った顔で呆れながら「現金なやつめ」と呟いて後に続いた。




 小屋の中では全快したビリーがライシールドに深々と頭を下げていた。衣服の裂け目から覗く、深く傷ついたはずの脇腹はまるで赤子のように綺麗な傷一つない肌を見せていた。


「なぁゲイル。神術(オラクル)ってのはこんなすげぇ奇跡を起こせるもんだったのか……?」


「いやいや、神殿の大司教様でもここまでの御業を使えるものかどうか。少なくともそこらの受託者(トラスティ)様程度ではこんな芸当は無理なはずだ。教会の隠し玉か在野の天才か」


 小屋の入り口でこそこそと喋っている二人に気付いたビリーが、彼らの傍に寄る。


「ダン! ゲイル! 見てくれよ! 私の怪我が綺麗に治ってしまったよ!」


 ビリーはそういうとゲイル達に脇腹を見せる。


「おいおい、ビリー。うら若き乙女が居る場所で随分とはしたない真似を……」


 ゲイルは言いながら背負い鞄(バックパック)から替えの上着を取り出すとビリーの頭に被せる。


「何でも良いからその襤褸(ぼろ)を着替えて来い。さてお嬢ちゃん方、悪いんじゃがそっちの部屋を借りても良いかの?」


 一番年上に見えるアティにゲイルは尋ねるが、当の彼女はその質問をそのままライシールドに投げる。


「ああ、あっちは誰も使っていない。好きに使うと良い」


 アティに代わってライシールドが返事をする。ビリーは「すまないな」とライシールドに一声掛けると、上着を持って扉の向こうに消えた。


「それで、どのお嬢さんがビリーを治してくれたんだ?」


 ダンが部屋を見回して女性陣を見る。ゲイルは「あちらの方じゃよ」と鎧骨格姿のロシェを示してダンに伝える。


「そうか、そちらの勇ましい貴女がビリーの命を救ってくれた恩人か!」


 ダンが男臭い顔でロシェを見る。見上げる程の大男に近寄られても、ロシェは萎縮することなく笑顔を返す。


「わたくしは応急処置をしただけですわ。ライ様の治癒薬がビリーさんを癒したのです」


「治癒薬、ですと?」


 ゲイルがロシェに詰め寄る。その勢いに一歩下がると、ロシェはライシールドに目線で助けを求める。


「ああ、俺の薬を提供した。ゲイル、ちょっと女性に対して近づきすぎじゃないか?」


 さりげなくロシェとゲイルの間に入りながら、ライシールドが(たしな)めた。彼の言葉に己の行動に気付き「っと、すまん」と少し下がる。


「いや、驚かせてしまって申し訳ない。して少年よ。ワシの耳が耄碌(もうろく)していなければ、治癒薬、と聞こえたのだが、間違いないか?」


 ゲイルが真剣な顔で訊いた。その表情に若干の焦りと期待が混じっている。


「俺はライシールドだ。名乗るのを忘れていたな。確かにロシェ、彼女は治癒薬と言った。間違いではない」


 息を呑むゲイルの横で、ダンは呑気に「ロシェさんって言うのか」等とロシェに見惚れながら呟いている。そこだけ空気が違うがあえて無視してライシールドはゲイルに問う。


「それがどうした?」


「不躾な質問で悪いが、治癒薬はまだ残っておるか?」


 ライシールドの質問に、ゲイルは質問で返した。


「それに答えるのはこちらの質問に答えてからだ。お前たちは治癒薬を探しているのか?何が目的かで協力するかしないかを決める」


 冷静に答えるライシールドに、ゲイルは年甲斐も無く焦った態度を取ったことに気付いて大きく息を吐いて気持ちを落ち着けた。いつの間にかライシールドの背後に回ったロシェとヴィアーがいつでも動けるような体制をさり気なく取っており、更にその後ろではアティとククルがゲイル達の様子を伺っている。

 どうやら思った以上に余裕のない態度を取っていたらしく、ライシールド達に完全に警戒されてしまったようだ。そう気付いたゲイルは、敵意は無いと示すように両手を挙げて目を閉じる。


「いや、おかしな態度を取って申し訳ない。ワシらはその治癒薬を求めて中央王国を目指しておったんじゃがの。ちょっと事情があって一旦獣王国に向かう途中じゃったのじゃよ」


 警戒したままのライシールド達にダンはどうして良いか解らず、ゲイルの傍でおろおろしている。その様子に「大人しくしておれ」とだけ指示を出すと、再び口を開く。


「ワシの主が酷い怪我をしての。一命は取り留めたがまともにベッド(寝台)から起きられぬ身体になってしもうたのよ。それで噂に聞く身体の欠損や死に至る傷でも治すと言う薬を求めて旅をしておったという訳よ。どうも中央の城壁迷宮でたまに見つかると聞いてな。獣王国の知り合いに入手を頼み、その足で城壁迷宮に潜るつもりじゃった」


 腕っ節の強いダンと斥候役も勤められるゲイル、後方支援のビリーで治癒薬を求めて迷宮に挑むつもりだったらしい。その前に雪山で全滅しかけた訳だが。


「そこでお主らがもしも治癒薬なり、それと同等の術式の使い手が居ると言うのならワシらの主を救ってはくれんじゃろうか? ワシらに出来る事ならなんでもやる。頼まれてはくれんじゃろうか」


 最後は懇願するように指を組み、祈るようにライシールドに頭を下げる。いつの間にかロシェやヴィアーの警戒は解け、ライシールドは大きく溜息を吐くと「頭を上げてくれ」とゲイルに声を掛ける。


「嘘は吐いていないと思いたい。だがその主とやらが本当に居るという保障も証拠もない」


 そう言われてしまうとゲイルは言葉が出ない。それを証明するためにはライシールド達に主の下に来てもらい、その状況を確認してもらわなければならない。


「お前達の主はどこに居るんだ?」


 どう説得しようと思案していると、ライシールドが問うて来た。ゲイルは「ここから首都よりの町に居る」と答えると、ライシールドはそれならば、と提案する。


「俺達の目的地は魔道国家首都の更に北だ。つまりお前の主の居る町を通ることになるだろう。そして俺はまだ治癒薬を持っている。もしその話が本当だというのなら、治癒薬を提供してやっても良い」


「ほ、本当か!?」


 願ってもないライシールドの提案に、ゲイルは思わず大きな声を上げてしまった。

 一緒に来てくれるというのなら、話が真実なら治癒薬を譲ってくれると言う。主の怪我も治癒薬を求める理由も何一つ嘘はない。手に入ったも同然なのだ。


「対価は主とやらと交渉することにしよう。全て真実であるならば、俺も無茶な要求はしない」


「ワシらに出来る全力を、全霊を掛けて恩に報いると誓おう」


 ゲイルが深く頭を下げる。これで主はまた立ち上がることが出来る。あの笑顔を取り戻すことが出来るのだ。

 傍で話をただ聞いていたダンも事情が飲み込めたのか、ゲイルに倣って頭を下げる。


「それじゃあ早速役に立ってもらおうか。俺達はこの辺りの地理に詳しくない。道案内をしてもらいたいのだが、お願いできるか?」


 ゲイルは首肯する。彼らもこの辺りの地理に詳しいとは言えないが、この山さえ越えてしまえば問題ない。それにこの小屋があるということはここは街道の傍という事になる。雪に埋もれても見失わないように設置された道沿いの目印があるはずだ。そうそう隠れるようなものではないので、目印を頼りに進めば山越えも問題ないだろう。


「それじゃあ、夜明けを待って出発だな。ビリーの防寒具の予備はあるのか?」


 ビリーの着ていた防寒具は大熊に切り裂かれて役に立たない。何とか剥がして治療したので、既に服としての体を成していない。中に着ていた服は脇腹を咲かれた程度で治療にも邪魔にならなかったのでそのまま着せていたが、今頃はそれも着替えていることだろう。


「ワシの分を着せる。ワシは寒さに多少の耐性があるし重ね着でもして次の村まで凌げばよかろう」


 言いながら厚手の防寒具を脱ごうとするゲイルを止め、ライシールドは銀の腕輪(アームレット)から予備の防寒具を取り出す。


「何着か予備を用意している。これを着せれば問題ないだろう」


「おお、拡張収納を持っておったか。何から何まですまんのぅ」


 気にするな、とライシールドは答える。完全に善意と言う訳でもない。不明の道の案内を折角得たのだ。出来れば進行速度を落としたくない、という理由もある。

 外を見ればうっすらと明るくなってきている。幸い雪も止み、風もそれほど出ていない。移動の準備を終えたら出発するとしよう。

拙作をお読みいただきまして、ありがとうございます。

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