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プロローグ・00 管理者

初めての連載投稿です。よろしくお願いします。

 膨大な量の書物が、室内の壁一面に備え付けられた棚を埋め尽くしていた。中央には頑丈な机があり、うずたかく書類の山が積まれていた。その山に囲まれるようにして、くすんだ金髪の男が黙々とペンを走らせている。書類を黙々と切り崩していた男が、不意にその手を止め、正面の扉を見た。

 と同時に、控えめに小さく扉を叩く音が響いた。

 

「どうぞ」


 男は短く言うと、静かに扉が開いた。


「失礼します」


 年の頃15程の銀髪の少女が、紙束を胸に入室する。少女の顔を確認すると、男は再び書類に視線を落としペンを走らせる。

 手を休めない男を見ながら、少女は手元の書類に目を落とし、数枚の紙を選り分ける。


「件の問題を対処するに当たり、協力者の選別を行いました。解決するに足る格と総量を鑑みた上で、介入者候補を絞りました。理想は一人での対処でしたが、残念ながら対象世界内で発見された適合者01は総量的に足りません。格に関しては現状第一段階は辛うじてクリア」


 ペンを走らせる男の目の前に、纏められた書類束を一束差し出す。ペンを執務机に転がして、男はその書類を受け取ると目を通した。


「もう一人必要だな」


 少女は候補者の一覧の記された書類を追加で差し出す。男は受け取り、それに目を通す。


「二人目以降を繰り上げるのは現実的ではないな。適合者01を上回るものは役割上動かせない訳か」


「はい。対象世界内には候補になりそうなものが見当たりませんので、横滑りできそうな世界を対象に再度検索して見ました」


 少女は言いながら、もう一束の書類を差し出す。


「いくつかの世界の管理者と超越者に話を通しました。条件、格、総量、全て規定値をクリアする対象を発見しました。適合者02の横滑り許可は戴きました。後は対象者本人の承認のみです」


「これなら妥当だろう。横滑りの悪影響の可能性も少なそうだ」


「では、許可書にサインを」


 少女は手元に残った書類を差し出した。男はそれを受け取ると、ざっと目を通してから署名欄にサインを書き込んだ。

 差し出された書類を受け取り、少女は一礼すると踵を返した。


「マリア」


 退室しようとレバー型のドアノブを下げたところで、背後から男が声をかけてきた。押し下げられたドアノブを戻し、マリアと呼ばれた少女は男のほうへと向き直った。


「介入者01は目的と容量的に左に例の神器に変更だ。02には01との兼ね合いも考慮して右に例の仏具の方がいいだろう」


「……あれは、少し過ぎた力になりませんか?」


「問題ない。むしろ最終的にはこちらの予定を後押ししてくれるだろう」


 それだけ言うと、男は用は済んだとばかりに再びペンを走らせた。


「解りました。では、作業に戻ります」


 男の返事を待たず、マリアは退室した。扉が完全に閉じられて暫し、男は無言でペンを走らせる。書類の山が一つ消え、反対側に同じ高さの一山が出来上がり、男はペンを置いた。


「あれの影響で大規模に消耗された世界の総量を回復するにもちょうどいい。人の生きる時間程度で補填し切れるとも思えんし、多少均衡が崩れたとしても問題あるまい」


 対象者の詳細が書かれた書類に視線を落とし、男は呟くと天を仰いだ。


「遠いな。次の段階まで上がるのは近いと思っていたのだが」


 最終的にたどり着ければそれでいい。だが、手段が選べるのなら多少強引でも、少しでもいい道を選びたいのだ。

 見上げた空は遠く、手を伸ばしても届かない。それでも一歩ずつ進むしかないのだ。

拙作をお読みいただきまして、ありがとうございます。

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