一番の出会い
平均6000字×全30話ぐらいになる予定です。
まだまだ、夏だった。
誰か早くこの暑さをなんとかしてほしい。いや、願うなら多分神様に。
二学期に入っても、体が溶けるような八月の暑さは、相変わらずこの地上に停滞していた。神様はあたしの願いを聞いて、涼しくしてやろうとか考えないのだろうか。ほら、あたしは一応ピチピチのJKだし、誘惑とかしたら意外にコロリとかイッちゃったりしないだろうか。
校舎の屋上から何気無く街を見下ろしてみる。何も変わらない、昨日と同じ景色。でもそれはそれでいい。変わってほしい所はいっぱいあるけれど、変わらないで欲しいことも同じだけたくさんある。
あぁ、そうだ。変わったといえば昼休みのあたしの過ごし方かな。一学期はオカルト研の部室にいることが多かったけれど、最近は屋上にいることがほとんどだ。言ってみれば、秘密の空間のようなものだ。本来は封鎖されていたけど、あたしが無理やり屋上へのルートをこじ開けて使えるようにした。
屋上の住人はあたしの他に、もう一人いる。
それは、私より学年が一つ上の先輩。性別は男。ちょっと変な、というかまぁまぁ変な、いや結構変な先輩。
「せんぱいはオカルトって信じますか」
「どうだろうなー」
せんぱいは手に持ったライトノベルを閉じて、空を見上げた。
「オカルト的な現象は実は全部科学で説明できるんじゃないかと思ってはいるよ。けど、本当にあればいいなとは思う面もある。魔法とか使えたら楽しいだろうし、空を一度飛んでみたいよね」
「へぇ、せんぱいは少年みたいですね」
「んー、どういう意味で?」
「夢見がち」
「えっと、世間知らずな僕を馬鹿にしてるの?」
「別にそういうわけじゃないですけど……いいと思いますよ! ほら、魔法とか超能力とか、空飛ぶ箒とか時をかける能力だとか、すんごく欲しいですよね」
「欲しい欲しい」
「夢見がちな少年。あたし的には好感度アップ要素なんですけど?」
「ふーん。君的にはどうなの、オカルト。あればいいとは思ってるみたいだけど、本当にあるかどうか。もしかして幽霊が見えたり?」
「あたしは見えないですけど、見える人を知っています。だから、そうですね……信じましょう。科学では証明できないものが、世界にはあります」
それはきっと、あたしのよく知る人が命を懸けて見つけようとしたものだ。
信じている限り、可能性はゼロじゃない。彼女はそう言った。
「でも、どうして?」
「……何がでしょう」
「どうしてそんなことを聞くの? オカルトを信じるかどうか」
「ぬー」
せんぱいは出会った時の頃、あたしの行動の理由を聞いてくることが多かったと思う。
何も考えてなさそうで、他人のことなんて興味なさそうで、いつも教室で独りで寝ているせんぱいも、実は好きな女の子の一人や二人がいるのかもしれない。
わたし、気になります!
というのは、某アニメの清楚系ヒロインの言葉だったと思う。あたしはそのアニメを見ていないからわからないけれど、兄はその子を見て「天使だ! 天使が舞い降りたんだ!」と叫んでいたから、多分あっち系のアニメなんだと思う。萌えーとか、ぶひーとかオタクの皆さんが言っちゃうような、アニメなんだと思う。
閑話休題。そう、オカルトの話。
「非常に単純な話ですね! なぜならあたしはオカルト研部員だから!」
「オカルト研? 聞いたことないなぁ」
「部員は四人でしたから」
「幽霊との交信方法とか古代文明の呪いとかを研究する感じ?」
「普通にのんびりとお話するだけですね」
「羨ましい」
「はい。とても居心地の良い場所でしたよ。まぁ……今は色々あって活動してないですけど……」
夏休みに入る前、部員が一人抜けた。抜けたのはたった一人ではあったけれど、そこから喧嘩が起こり、結果的にあたしともう一人の部員しか残らなかった。
「……へぇ。そっか」
敢えて何も聞かないのか、興味が無いのか。
まぁ、いい。
せんぱいは優しさだということにしておこう。それはきっと、あたし以外の誰も知らないせんぱいの秘密だろう。
それっきりせんぱいもあたしも黙ってしまう。次の言葉を探す。せんぱいもライトノベルを眺めながら、何も言わなかった。人と無言でも苦にならないタイプなのだろうか。
「暇って良いことですよ」
「普段忙しい人はそう思うんだよ。僕はずっと暇なんだ」
「可哀想ですねー」
「そうかもしれない。暇だから本を読む人もいれば、本を読むのに忙しい人もいる。見方によるって話」
「なるほど。じゃあせんぱいは昼休みをのんびりと過ごすのに忙しいんですね!」
「まぁ……どちらにしろ今この時間は、意外と良いものかもしれないね」
せんぱいはそう言って、ニヤッとする。
そしてフフっと、息を漏らす。今のはライトノベルの内容に笑ったのかな? よくわからない。
きっと誰も知らない、せんぱいの秘密その二。せんぱいも、たまに笑うのだ。