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煎じたお茶は、

作者: 風紙文

「作品のテーマとは、お茶である」

ある日の昼下がり、珍しくティータイムなどをしている先生は唐突に呟いた。

「はぁ……そうですか」

「え、ちょ、ちょっと。もう少し反応してくれても良いじゃないか」

「とは言いましてもね、もう何度目ですか」

先生は、何かと何かを何かで例えたがる。わたしがここでお世話になるようになってから、これでもう32回目。もはや慣れてしまっている。

「それはそうかもだが、閃きとは我らの業界においては必要なことだ。聞いておいて損になるようなことはない筈さ」

「……ま、そうですね」

先生の言う事は最もだ。閃きはわたし達の仕事にとって重要な要素である。

それに、先生の例えは面白いことが多い。ハズレも無かったわけではないけど。今までに15回くらいしかなかったけど。

「それでなんでしたっけ? テーマとはお茶である、でしたっけ」

「そうさ。まぁ聞いてくれ」

わたしが聞こうとする姿勢になったのが嬉しそうで、先生は意気揚々と話し始める。

「そもそも、お茶とは茶葉から作られる。茶葉を煎じることでお茶は出来上がり、茶葉と作品のテーマは同じであると、考えたのだ」

「はぁ、それはなぜでしょう」

「うむ、つまりは茶葉を煎じることだ。我らのような作者が、テーマという茶葉を煎じることで作品を産み出す。そのテーマが新しく今までにない場合、一番煎じとなるそれは目新しく多くの人に好まれることとなるだろう」

ここで一旦ストップ。先生はカップを傾けた。

「そしてその作品という茶を飲んだものが、自分もと思い同じ茶葉を使用して自ら新たな作品を創り出すこともある」

「それって、いわゆるパクリでは?」

「そうとも言うかもしれない。ゆえに同じ茶葉によるお茶は二番煎じとなり、一番よりも薄く味に新しさを感じず、好まれることが少なくなりやすい」

「そういうもの、ですかね」

「しかし、時に二番煎じのお茶が一番煎じよりも好まれる場合がある。それは煎れた者が最初の者とは異なるからである。この両者では、煎じた順番以前にその茶葉に煎れ方に違いがあるのだ」

「別の人間ですからね」

長くなりそうな雰囲気を感じてしまった。わたしも自分のお茶を入れてくれば良かった。

とりあえず、先生のお茶菓子のクッキーを一枚もらっておこう。

「煎れ方により、作られるお茶は味が大きく異なる。お湯の温度、茶葉を蒸らす時間、カップへ注ぐ順番に、使用する茶器によっても味は変わるものだ」

「むぐむぐ……」

「そもそも、一番煎じとなる者でさえその煎れ方によってはせっかくの茶葉を上手く煎じることが出来ないという可能性もある」

「ふぉーですね……むぐむぐ」

「自ら見つけた真新しいテーマという茶葉は、自らの手で多くの人々に良いと感じてもらえるお茶へと煎じてやりたいものだな」

「……ごくん」

「という感じなのだが、どうだろうか」

おや、思っていたより早く終わった。

「そうですね……共感を得てくれる方は少なくないと思います」

先生の今までの例え話の中では、良い部類に入るだろう。

「そうかそうか、それならばさっそく文章にまとめるとしよう」

先生はパソコンへと向かい、今話したことを文章へとまとめていく。

まとまった後はネット上げて、仕事をしながら共感者を待ち続けるのが先生の日課だ。


今回のは、何人ぐらい集まるだろうか。


「時に先生」

そんな文章をまとめる先生の背中に、声をかける。

「何かな?」

返事をしながら、カップに手を伸ばしてお茶を飲む先生。

「その、今先生が飲んでいるお茶ですが……いったい、何番煎じのお茶だと思いますか?」

「……え?」


一回煎じる毎に味が薄くなっていく茶葉だけど、煎れ方によっては、美味しく感じることもある。

何番だろうと、関係はない。

必要なのは、美味しく煎れる方法だ。

この先生に共感してくれた方、よろしかったら一言残してあげてください。


それでは、

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