新たな日々
二千十二年 四月七日 午前六時
ここだ、この学校が俺の新しい学校生活の舞台…だが、生徒ではない、教師だ。
年齢は去年十七歳を迎えたばかり、つまりは普通ならまだ高校生活と言う名の最高の青春時代を送っているはずなのだ。
しかし…この私立中学校の理事長…つまりは俺の母のとんでもない一言で、この学校の教師をする事になった…だが、その反面自分で望んだ部分もあるので文句は…多分ない。
しかし、アスファルトジャングルの都市に似つかわしくない、風体の学校だ…祖父が最初の理事長だったらしいが、いったいどういった思考回路を持ち合わせていたのだろう。
ファイナ○ファンタジーのような、ダンジョンのごとく入り組んだ廊下…増改築を繰り返して、次第に肥大化するにしては、限度を越えてる…中庭には、裸の銅像から噴水が出て、綺麗な水のアーチを作っている。
さらに、なんと言っても…あの巨大な時計塔だ、校内の北側に位置する、あの時計塔は一般生徒の出入りが禁止になっているらしいが、それ以前になんの目的があって存在しているのか全く理解不能だ。各教室に一つ時計があれば時刻を知るには充分なはずだ。
まだ、早朝と言う事もあり…生徒は殆ど来ていない、何故こんな早くから学校に来ているかと言うと、勿論下見だ。
自分の教室や体育館、職員室や多目的教室などの場所を知る為、早くから来ている。
昨晩、理事長(俺の母)から渡されたゲームの攻略本の暑さ程度はある、ガイドブック片手に校内を徘徊…殆どの場所を回ったと思った所で、職員室に戻った。
戻る途中校内の自動販売機からホットココアを購入して職員室にて一息ついていた。
「不安だらけだな…」
そう呟いて首にぶらさげてるヘッドホンを耳に当てて、少し寝る事にした。
ちょうど時刻が7時を回る頃、ヘッドホン越しに廊下から足音や話声が聞こえてくる。
生徒達が登校してきたのだ、そういえば、この学校まだ男女共学になってから一年しかたっていないらしく、女子生徒の方が男子生徒より多い。
俺は上半身をゆっくり起こす、ヘッドホンを外して、職員室の自分の机の引き出しを開けて、クラスメートの顔プラス、名前が乗っている名簿を確認した。
「うっわ、女子生徒しかいないな…男子生徒一人も居ないじゃないか…まぁ仕方ないか、ちょっと前まで、お嬢様学校だったらしいからな…」
名簿に目を通していると、一つ気になる名前があった。
【出席者番号22番 三年A組 宮野沙羅】
沙羅…最近連絡がとれなくなった、俺の彼女だ。
まさか…思っていたが、やっぱりこういった展開になったか…まぁ悪い事ではない、むしろ望んでいた。彼女に逢える。
「どうしたんですか? 神崎先生」
かすれた老人のような声が俺を呼んだ、振り向くと声のイメージ通りのスーツを着た老人が立っていた。
「あ、確か学年主任の…えーと」
「渡辺です…随分難しい顔してますが?」
「いや、何でも無いです…八時から、体育館に集合でしたね」
「そうですよ、もうすぐ八時ですから、急いで下さい…」
時計を見るとあと十分程度で八時だった…随分、時間が経つのが早く感じられた。
俺は学年主任に「先にいってます」と伝えて、軽くお辞儀をして職員室から出て体育館へ向かった。
新任の教師が体育館の壇上の横に並んでいた…俺が最後のようだ…ん? みんなスーツか…まさか俺だけか私服は、しくじったなぁ…スーツなんて考えてなかった。
それにしても俺だけ、やたら若く見えないか…まぁまだ十七歳だから仕方ないか。
そんな事を考えていると、寝ぼけ眼の俺の母が壇上に上がって、理事長らしからぬ適当な挨拶をした。
「あーみんな、おはよー…まだ眠いんだけど…ほら今日から新年度だから、仕方なしって感じで起きたんだ」
ゆっくりとした口調でペラペラと喋り出した…うざい上に長い…生徒達の視線が妙に痛い。
「次は新任の先生方の紹介ですよー、はいどうぞ」
それだけ言うと、信じられない事にその場で倒れ込んで眠ってしまった…自分の母親だと思いたくない…しかしそんなんで、今まで学校の理事長をやって来たのだから驚きだ。
眠っている母を壇上から生徒役員達が運びだす、すまないみんな…そいつには後で俺がキツく言っとくよ。
生徒会長が壇上に上がり自己紹介をした後、ようやく新任教師達の出番がやってきた。
…今になって緊張してきた自分に腹が立つ…だが来てしまった、教師になってしまったのは、もうどう足掻いても仕方ない。
新任の教師は全員で六人、列の順番的に俺は最後に自己紹介をする事になりそうだ。
待つ時間はたっぷりある、今の内に自分のクラスの生徒でも眺めておくか…ああ、みんなまだ、あどけない感じが可愛いな…待て待て俺はここに何しに来たんだ?
自分の目的を忘れるな! そういえば沙羅の姿が無い…いったいどこなんだ。
何度も見渡したが彼女の姿は見つからなかった。
そして自己紹介の順番が回ってきた、生徒達がなぜか、ざわざわと騒ぎ出す。
「若い…」「なんかちょっと可愛い」「私服?」「あれはあれで、いいかも」「どこかで見たような」
うぅ…やっぱり目立つよな…まぁいいや自己紹介だ、落ち着いてハキハキ喋ろう。
「神崎咲です、受け持つクラスは三年A組です…好きな物はゲームと音楽で嫌いな物は特にないです、身長も男性としては低いし、足や腕も細いですが根性だけは、どこぞの平面カエルよりはあります、教師として活動するのは、この学校が初めてで…至らない点も沢山あると思いますが、皆さんと共に楽しい学校生活にできたら良いなと思ってます。以上です。」
最後にちょっと笑顔で礼をして、壇上から降りた。
「ハスキーボイス…」「最後笑わなかった?」「ステキ…」「もろタイプだわ…」「短めね…自己紹介」
あー怖かった…人を殺す視線だったぞ、女子生徒達の目は。
本来なら昨日読んだ、面白い本の話しでもしようと、思っていたのだけど…あんな目で見られたらヤクザですら、逃げるわ。
新年度の挨拶が終わって行く、新任教師達の集まる、体育館の端で…俺は一人目を瞑って、残りの時間を過ごした。つまり眠っている。
さて、これから新任教師達は各担当のクラスに行くのだが、この学校は授業が今日はない、つまり即刻教室に戻り、必要な連絡事項伝達、及び配布物を配布し終わったら、生徒達を下校させる役目が残っている。
しかし下校時間、完全厳守である為、逆に下らない話しでもしながら、時間を潰さなければならない…これも教師としての役割なのだろう、きっと誰もが知っているだろうが、そんな話しも、面白くなければダルいだけだ。
そんな面白くない話ししか今脳内にない俺はどうするべきなのだろか。
容赦なく時間は過ぎ去り、三年A組の教室の前にやってきてしまった、観念して教室に入り、ドアを閉める。
「みんな、おはよう…」
どこか落ち着かない雰囲気…教卓へと向かい、黒板の方を見てチョークを手にして、黒板に自分の名前を描いた…「神崎咲」何度見ても女の子の名前だ。
「改めて自己紹介させてくれ、神崎咲だ…今日から君達の担任になる、新しく教員になったばかりだが、三年を受け持つ事になった…つまりは君達の名前や顔をまだ覚えてなくてね、みんなから俺に自己紹介してくれないか?」
全員黙ったままだ…何でこんな静かなんだよ…逆に恐いよ。
そんな事を思っていると、教室の廊下側の一番右側の一番前の茶髪のショートヘアをしてる女子生徒が手をあげた。
「えーと君は」
「七原香織です」
「ああ、香織ちゃんね」
しまったいつもの乗りでちゃん付けしてしまった! 絶対引かれた…あばよ、俺の大切な何か。
「アハハ、神崎先生って親しみ易いですね」
笑いながら返してくれた?…ふぅ、ならセーフだな、多分。
「質問いいですか?」
香織ちゃんが聞いてきた。
「なんだい?」
「先生何歳ですか? 結構お若く見えるのですが…」
あ、早速きたか、確か母から渡されたガイドブックには、こういう質問には、こう答えろと描いてあった。
「ひみつだ」
「へ? ひみつなんですか?」
「うん、ひみつだ…こう見えて、歳かなり食っててね…見た目とのギャップが激しいって事がコンプレックスなんだよ。」
大丈夫なのか、これ…あの馬鹿母が考えたのだが、すごく不安だ…変に興味持たれないか?
「え、じゃぁ、もう結婚とかしてます?」
興味を凄く持たれた、喜々とした笑顔で聞いてくる…今すぐガイドブックをビリビリに破り捨ててしまいたいのをグッと堪える。
「結婚なんてしてないよ」
「じゃぁ、好きな人はいますか? もしくは彼女は?」
香織ちゃんは、沢山質問してくるな。
俺の彼女は現在この学校の、このクラスの宮野沙羅って子なんだよ、でも口が裂けても今は言えない…ここらへんで、ちょっと反撃してやるか。
「それも秘密だ、逆に聞くけど香織ちゃんは好きな人いるの?」
「…います! けど、秘密です」
「そうか…きっと後輩の誰かだね」
周りからクスクスと生徒達の笑い声がする、ここまでほぼアドリブの話し方だが、空気は和んでいるようだ。
「香織ばかり、神崎先生と話してずる~い!」
教卓から見て一番右、窓側の一番前の黒髪のツインテールの子が言った。
「風見遥です、趣味はゲームで、好きなタイプは神崎先生みたいな人です」
聞いてない上にさらっと、凄い事言ったぞ、この子…変な子だな。
「香織ちゃんと同じく、遥ちゃんって呼んで下さい!」
「う、うん分かった…」
すっげー勢いだな、まぁ周りの生徒達が笑ってるからいいけど。
こっちからも何か聞いておくかな。
「どんなゲームするの?」
「メタル○アソ○ッドです、今ようやくメタル○アソ○ッド4まで、物語に追いついたんですけど、最高難易度のザ・ボスエクストリームのラスボスが強くて苦戦中です」
「ああ、リ○ッド戦か、あれは強攻撃で最初はハメて…第三ラウンドでオ○ロットに戻ったら、手を開けてない時に攻撃を当てて行けば倒せるよ」
「先生、本当に何歳ですか?」
「ひみつ」(笑顔で)
この子はゲームの話しで盛り上がれそうだな、俺もゲームは大好きだ。
「モ○スターハンターサード持ってます?」
「絶賛、ギギ○ブラ亜種で苦戦中だ…」
「電撃耐性ないとキツいですよね~」
「そうそう、あの電撃からくる麻痺が辛いんだよな~」
ヤバい色々脱線しかけてる…軌道修正しないと。
「それじゃ、遥さんの後ろから、席…いや出席番号の順番で自己紹介をお願いするよ、ついでに今日の出席もとるから。」
生徒達が揃って「はい」と答えてくれた。
とりあえず最初のつかみはこれでバッチリだろう、よし…あとは規定道理だ、配布物を配り、必要連絡事項を伝えて…ちょうど下校時間だ。
「はい、起立…礼…さようなら」
『さようなら』
生徒達が教室の外に出るのを見送ってから、教室内で一息つくことにした。
意外にうまくやってけるかもな。
「先生~」
ん? 誰だ、教室に生徒がまだ残ってるのか? 悪いな先生は今、今日の緊張感から解放されて、教卓に突っ伏してるんだ。
「先生起きて下さい!」
あ~分かった分かった…今起きる、俺は渋々顔を上げる、顔を上げて前を見ると七原香織が立っていた。
「ああ、香織ちゃんか…なにか用?」
「あなたの母の理事長様から、伝言があります」
伝言? あの馬鹿母の事だ、どうせ夕飯のおかずを買い忘れた、とか言って俺に買わせに行くって所だろう。
いや、待てよ…何故、香織ちゃんが「母の理事長」なんて言葉を言う? 理事長が俺の母ってのは、母と俺以外知らない筈だ。バレたら終わり。
「理事長様からは、あなたの補佐を任されてます、何なりとお使い下さい」
「それが伝言?」
「はい…」
「どこまで、知ってるんだ?」
「何をですか?」
「俺と母親の事だ…」
香織ちゃんは、にっこりと笑うと答えた。
「全部です、親子って事は勿論…そして神崎先生がここへ来た理由や年齢、宮野沙羅さんの事」
…さっき自己紹介の時、何故年齢を聞いてくるんだよ…。
段々香織ちゃんの顔に影が掛かったような笑顔になってきてる、間違いないこれは「お前の秘密を皆にバラされたくなかったら…フフフ」って顔だ。
不味いな真実を知る前にここを去るなんて出来ない。
「心配しなくても、なにも要求しませんよ」
「じゃぁ、どうする気だ、その笑い方は、まるで何かを要求する時の悪役だ」
「まぁ、確かに神崎先生の弱みを握っている訳でもあるんですが、どうにもさっきの自己紹介を思い出すと、笑えてしまって…先生らしく、女子生徒をさん付けで呼ばずに、ちゃん付けにするなんて、滑稽ですよね」
褒めてるのか、わからない…だが香織ちゃんが言う事は本当だ、俺も迂闊だった。
彼女が俺に協力するからには、なにか条件があるに違いない、その条件について質問した所「吹奏楽部の顧問をやってくれませんか?」という条件だった、以前の顧問は定年退職したらしい。
確かに音楽は好きだし楽譜だって読める、楽器はギターだけだが。
こんな事知ってるのは確か、母親くらいしかいない、要らん事吹き込みやがって。
俺は香織ちゃんの条件を呑んだ、補佐役なら協力は当たり前だが、俺的に無条件で協力されるのは気が進まなかった。
「部活の活動は何日から?」
「えーと、四月十二日からです、校歌を演奏するので、楽譜に目を通しておいて下さい、先生は指揮者をお願いします」
指揮者? ああ、そういえば…どこの学校も先生が吹奏楽部を指揮してるような気がする。
指揮やった事ないんだけど…楽器なら経験あるのに。
「先生、指揮者の経験あります?」
「あ、あるに決まってんだろ」
「それじゃ頼りにしてますから!」
俺の馬鹿やろう…素直に言わなくてどうするんだよー! 悪い癖だ。
「それじゃ、下校しますね、さよなら」
「ああ、気をつけて帰れよー」
これは不味いな、なんとか自力で指揮を覚えなくてはならない…俺の信用に関わる。
それ以前に沙羅の事を聞き逃してしまった。
教室の戸締まりを済ませて、春の陽気が刺す廊下から外の時計塔を見た、ちょうど十一時三十分頃を時計の針は刺していた。
昼時…狙いすましたかのように腹の虫が大きな音をたてて鳴った。
「…俺も今日の日報を書いたら、昼飯にしよう」
日報を職員室にて黙々と書く、他の教師達はみんな帰ったようだ…早いな。
「さて、どこで飯食うかな…」
そういえば、この学校から、すぐ近くにファーストフード店があったな…だが、間違いなく、この学校から帰り途中に立ち寄る生徒達が、わんさかといる筈だ、また変に興味を持たれたりすれば…質問攻めにされるのが、脳裏に浮かぶが、俺の空腹は最早限界レベルだ。
体は小さいのに対して、胃袋はやたらとデカい体質のようで、以前カレーの大食い大会で優勝した事すらある。
やむを得ず、入店…ハンバーガーを二つ程注文し、生徒達から離れた席を探してみる。
まるで空いてる席がない。
「あ、神崎先生」
ゴフッ…知ってる声だ、間違いない…この声は遥ちゃんだ…。
ぶっちゃけ関わりたくない。
「やぁ、遥ちゃん…」
無視するのも良くないから、遥ちゃんの方を見て、俺らしい挨拶をする。
「もしかして席なくて困ってます?」
「まぁそんな所かな…テイクアウトにするべきだったな、こりゃ…」
「私の隣で良ければ…」
顔を真っ赤に染めて言う。
確かに遥ちゃんの隣は一人分空いてる…カウンター席なので、向き合って食べる事は出来ないが、まぁいいか。
「先生は学校慣れました?」
「いや、慣れないね…広すぎて…」
「ですよね、広すぎですけど、まぁ一月有れば…慣れますよ。」
他愛のない話…今日の中ではなかなか普通の空間と時間。癒される。
「FPSでもやろうかな…帰ったら」
「FPS?…」
「先生しらないんですか?…ファーストパーソンシューティング、略してFPS」
「しらないな…面白いの?」
遥ちゃんの話によると、一人称視点のシューティングゲームで最近はその作品の中でも、CODブラックオ○スと言う作品にはまってるらしい。
「面白いので是非先生も」と言われた。
そうだ、香織ちゃんに聞きそびれた沙羅の事でも聞くか。
「遥ちゃん…今日、宮野沙羅さん来てなかったけど…何か知らないかな?」
遥ちゃんの表情が固まる、これは何かあるな…。
「知らないです…」
「嘘を言うな…何か知ってるんだろ」
「し、知りませ! 学校の…」
遥ちゃんは「学校の」と言った時点で、黙ってしまった。
「…わかった無理には聞かない…話す気があったら、ここに連絡して」
自分のP○3のIDを書いたメモを渡しておいた。
「今日にでも、ブラックオ○ス買って、オンラインを楽しむかな~」
「ひ、卑怯です…」
悪く思うな、遥ちゃん…俺にも助けたい人間が一人はいるんだ。
ハンバーガーを完食、速攻魔法を発動したかのような速さで、ブラックオ○スを近所のホビーショップで購入した。
家へ帰宅し、一息…母親は居ないようだ。
狭い自室に閉じこもって、ブラックオ○スを起動、メニュー画面からストーリーモードを選択した後、チュートリアルで操作方法を把握。
「おもしれぇ、操作方法覚えたし…今日はもう、オンラインやってみるか」
そう思った時にテレビ画面の右上に【フレンド申請が届きました】の知らせ、遥ちゃんだな。
申請を承諾して、しばらく…チャットルームに招待された。
「神崎先生ですよね?」
「そうだよ…」
「良かった、間違いないみたいですね」
しばらくチャットで会話をした後にブラックオ○スのオンラインを二人でプレイする事になった。
ルールはチームデスマッチ、8対8で相手を倒し、先に7500点という、スコアリミットに到達した方のチームの勝ちだ。
民兵チームとレンジャーチームにランダムで別れる、遥ちゃんと同じ民兵チームに入った。
因みに、このゲームにはプレイヤーレベルがあり、レベルが高ければ高い程、豊富な武器をアンロックしている事になる。
「遥ちゃんのレベルは…最高レベルじゃないか! まだこのゲーム発売して間もないというのに、若さって奴か。」
いや、俺もまだ十代後半だ…なにを言ってるんだ?
遥ちゃんが、最高レベルに対して俺は、レベル1…武器は初期…経験皆無。
周りのプレイヤー達も遥ちゃん程、レベルは高くないがそこそこの修羅場はくぐり抜けている。
それは、相手チームも同じのようだ。
「神崎先生?」
「あ、マイクチャットか…聞こえてるよ」
慌ててマイクチャットのスイッチを入れて、マイクに向かって話す。
「慣れない内は出来るだけ、後ろで戦って下さい、慣れたら特攻しても構いませんから…」
「うーい。」
ここは中東のどこか、屈強な男達が迷彩服を纏い、ライフルを担いで敵を倒す。
この戦いに果たして意味はあるのか…負ければ死が待つだけ。
そんな戦場に咲く一輪の華の如く。
彼女はそこにいた。
『ゲームスタート』
「神崎先生、右に敵!」
「うわっ、危ない」
遥ちゃんの声に反応して、コントローラーを使って自分のキャラクターを建物に隠す。
「…気が抜けないな、このゲーム」
さっきまで自分がいた場所には、おびただしい数の銃痕が残っている。
カランカランと言う音がする、足元を見ると手榴弾が転がっていた。
画面に手榴弾のアイコンとR2が表示された。適当にR2を押す。
「あ、投げ返した…」
ドカーンと音が建物の外ですると、兵士の断末魔が聞こえた。
左上に自分のプレイヤー名と、トリプルキルと言う、表示がされた。
「初キルがトリプル!? 神崎先生やりますね!」
「え~結構でたらめにやってるよ? まぐれ当たりだよ。」
『UAV偵察スタンバイ』
「なんだ?UAV偵察?」
「右上のミニマップに敵位置が表示されるキルストリークですね、味方全体に反映されるのでやってみて下さい。」
コントローラーの十字キー右を押す、言われた通りに敵位置がミニマップに赤い点で表示され、しばらくして味方のキル率が飛躍的に上がった。
この後も、遥ちゃんについて行き、援護をする形でキル数を順調に伸ばして行き、スコアリミットに到達、ラストキルはナイフで俺が決めた。
「やりますね! 先生!」
「おもしれぇな、このゲーム!」
「先生本当に初心者ですか? デス数0じゃないですか」
「遥ちゃんの後ろにいたからだよ」
「先生が守ってくれた、おかげで私も0デスですよ。」
しばらく二人でチームデスマッチを暴れ周り、俺のレベルは僅かな時間で30レベルになっていた。
「今日はこの辺にしとくかな」
「そうですね、神崎先生なかなか上手いですよ、大会とかいけるんじゃないんですか?」
「大会あるんだ~、出てみるよ~」
「じゃあ、私もお供しますよ」
「おう、頼むよ…またな」
「はい、また明日学校で。」
あ~楽しかった、ん? 何か忘れてる気がするぞ? あ、ゲームに夢中で沙羅の事聞きそびれた! うわぁ、やらかした…最悪。
まぁ明日聞くかな、沙羅にも申し訳ない気がするが、今日はまだ教員生活一日目…これから、上手くやって、必ずしも、沙羅を助け出そう。
大分時間が経過したが、まだ午後五時だ…しかし母はまだ帰ってきて居ない。
「遅いな~、夕飯どうするんだよ携帯で連絡するか…」
携帯を手に取り、居間のソファーに座ってリラックスした状態で、メールを打った。
「まだか~?早く帰って飯作ってくれ~。」
送信。
どこからか着信音、居間の部屋の隅に、目をやると、充電しっぱなしの母の携帯が置いてあった。
「…まじかよ」
深いため息が思わず出る、仕方ないので学校へ直接電話をする事にした、教師は全員いないが用務員くらいは、いるはずだ。
「すいません神崎ですけど」
「あ、新任の…理事長ですか?」
「ええ、お願いしたいのですが」
「今ちょっと理事…うわぁ! 理事長なんですか、止めて下さいよ! いきなり何するんで…」
ガシャガシャドン! ぱん!ぱん! アッー!
断末魔とも叫び声とも何とも言えない音が電話越しに響いた。
仕方ない迎えに行くか。




