第5話 危険な日食に襲われる村 後編
ついに、日食村編の完結です!いや〜ここまでくるのに思った以上に時間がかかってしまい申し訳ありませんでした!!読んでくださっている方、(居てくださると良いな……)こんな作者ですがこれからもよろしくおねがいします!
シルフィーは頼みごとでもなんでも突然言ってくる。今回も例外ではない。
「ヘルゼー、体力には自身あったわよね?」
「え゛……?」
「分かってるわね?」
「はい゛……わがっでまずども……。」
ヘルゼーはしぶしぶ娘を家のなかに運んだ。娘が予想以上に軽かったのがせめてもの救いだった。ミケ氏と一緒にベットに寝かせて家にあがった。
「娘は?!」
心配で心配でどうしようもないようだった。
「大丈夫。落ち着いてください。気を失っているだけです。が、このままではいけませんね。生身の人間が体を変形させるということは体への負担が半端じゃないですから。それに意志に反しての闇の化身への変身ですから、より魔物に近くなってしまいますし……。」
「どうにかなりませんか?討悪師様。」
シルフィーは少し考えてから言葉を紡いだ。
それにシルフィーには気掛かりなことがいくつかあったので思い切って聞いてみることにした。
「あの……、二つお聞きしたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」
「もちろんですとも。なんなりとお申し付けください。」
「村の方はみんな討悪師の存在を知っているのですか?それと、なぜこんな危険な日食に襲われてまでこの村におられるのですか?」
「村長から聞かれたと思いますが使命をはたそうという意欲のあるものだけが残りました。その使命とは討悪師様が危険な旅をしてまで追い求める、村の秘宝。『聖玉』を守るためです。その事を当時の村長が村人に話したので討悪師の存在も、『聖玉』の存在も知っているのです。」
シルフィーはうっすらと目に涙を浮かべていた。
「すべて承知のうえで、私達……旅する討悪師の為に……闇に沈むかもしれない茨の道を選んだというのですか?!」
シルフィーの目から大粒の涙があふれ頬を伝って床に落ちた。美しい涙だった。悲しみではなく、感謝の涙だった。
「そうです。すべては討悪師様の為、世界の為。討悪師様がこの逆境の中つらい旅をしてくるのに私達だけあきらめて逃げるわけにはいかなかった。」
シルフィーは心から感謝の意を表し、深々と礼をした。
「必ず、娘さんは何が何でも治してみせます。村の方々の決意、無駄にしないためにも。もし、儀式で浄化しきれなければ旅に同行してもらうことになるかも知れませんがよろしいでしょうか?」
「そんなに強力な呪いなんですか?この村での儀式だけでは治らないのですか?」
「満月の夜。つまり今夜試しては見ますが何とも言えません。」
「そう……ですか……。」
「まぁ、まずは今夜です。ですからあまり気をおとさずに…。」
「はい、わかりました。妻の様子を見て参りますので失礼します。」
「はい。」
シルフィーは軽く会釈した。
そしてヘルゼーの頭に1つの疑問が浮かんだ。
―――儀式って何?―――
僕って本当に無知だ……。実感しながら恐る恐るシルフィーに聞いた。すると……あ〜やっぱり……。
「浄化の儀式も知らないの?それでよくついてこようだなんて思ったわね。浄化の儀式っていうのは、満月の夜に討悪師が湖の上とか、泉とか、神聖な場所で行なう儀式の事よ。あなたも知ってる様に討悪師には邪を払う事が出来るでしょう?だからその儀式で彼女の邪を払ってみるのよ。」
ふ〜ん。でも湖の上とか、泉の上とかって立てるのかな?水の上だけど……、まぁシルフィーの事だから魔法でチャチャっと出来ちゃうんだろうな……。羨ましい限りだ。
「まぁ普通は多少の邪気なら夜じゃなくて昼でも神聖な場所じゃなくても出来るんだけどね。闇の使者になるくらいだから相当闇が濃いと思うの。だから、略式じゃなくて正式な方法でやってみるけど。それでも例外的にダメな時があるのよね。その時はすべてを浄化する旅の最後に完全浄化っていう形になるかもね。」
なる程なる程。旅の目的ぐらいヘルゼーだって知ってる。でもなんで最後なんだろう?ヘルゼーの中にたくさんの疑問が浮かんできたが、聞くのはやめた。否、出来なかった。シルフィーはすでに精神統一の為に一人になるといってどこかへ行ってしまったため聞けなくなった。とりあえずヘルゼーは森に入ってすぐにある、切り株に腰掛け、休み休みだが玉の変形の修業を続けていた。
一方、シルフィーは湖を眺めながらヘルゼーの事を考えていた。
この世界では色が濃い程魔力をためやすい。
髪でも瞳でも。
明らかにヘルゼーは矛盾している。
髪が白で瞳は青?何か変だ。
髪は一番魔力をためにくい体質を表す白い色をしているのに瞳は青なんて。
青は紫の次に魔力をためやすい色なのだ。
誰がどう見ても矛盾している。
それに母親のことも。
玉で見て母親の情報が見えないなんて経験は初めてだ。ヘルゼーの手前、よくある事のように振る舞ったが実はめずらしいケースなのだ。玉で見えない情報、体に矛盾点。なにかある。シルフィーはヘルゼーにたいして興味がわいた。こんなに色々特殊な人間を相手にするのは初めてだ。精神統一のはずが色々気になりだして、全く集中出来なかった。
そして時は流れて夜。満月が綺麗に輝いていて、まるで漆黒の闇の海を照らす、灯台のようだった。シルフィーはミケ氏とその娘ライティアを連れて湖のほとりにいた。ヘルゼーも修業を中断し、立ち合った。シルフィーが最初に湖の上に立ち、ライティアを手刀で気絶させた。が、ライティアは倒れる事無く、静かに湖の上で横になったかと思いきや、フワフワと軽く50センチぐらい浮いていた。
「すっげぇ……。」
あんたも浮いてみる?とか言われそうだから小さく呟いて終わりにした。でもそんなコト言ってる時じやぁないなっていうのが明らかに伝わってきた。シルフィーの様子が変だ。柄にもなく緊張してるようだったし、とにかく普通じゃなかった。何が始まるんだろう……。するとシルフィーは湖の上に立ち、村人に深々と礼をし、玉を杖に変えた。そして、自分の涙を玉に一滴たらした。すると、シルフィーが水の大きな球体に包まれた。呼吸は大丈夫なのか心配だが、シルフィーはにっこりと微笑んでいるので大丈夫だろう。
途中村人の話を盗み聞きしたが、どうやら例の『聖玉』とやらに自分の実力を認めさせるとかなんとか。儀式自体よく飲み込めていないヘルゼーにはさっぱり何が何だか分からなかった。
と、考え事をしているうちに儀式は進んだらしい。
第2段階へ移行したようだ。
湖の上で水に包まれて立っていた(浮かんでいた?)シルフィーが、そのまま湖の中に入っていった。
儀式の途中なのにいいのか?そう思ったとたんシルフィーがあがってきた。村人達はびっくりして、みんな息を呑んでいた。シルフィーの手には綺麗に水色に輝く大きめの玉があった。あれが……聖玉?なんか、シルフィーが聖玉を持って来て以来、空気が変わった気がした。なんかビリビリする感じた。しかもなんとなくひんやりとした感じの空気。
そして儀式は最終段階になったようだ。シルフィーが聖玉を持ちライティアのそばに立った。そして持っていた杖の中に埋め込まれていた玉と聖玉を交換し、昼間ライティアにやった様に光を出した。だが昼間とは違いただ眩しいだけじゃなく青く清らかなとてもとても綺麗な光だった。ライティアの体から邪が抜けていくのが見えた。黒いモヤが見えた。
―幻想的な光景だった―
そしてシルフィーはミケ氏と村長に二言三言会話を交わし、そのまま地面に崩れ落ちるように倒れた。魔力を使いすぎたのかなぁ……?でも計測器でも計りきれないシルフィーの魔力を使い果たすような魔法があるのだろうか?
とりあえず詮索は後にして、ヘルゼーはシルフィーを引き取り、(抱えて)ミケ氏の部屋を貸してもらい寝かせた。シルフィーが回復するまで旅は中断ということになるだろう。。。もう、夜も更けていたのでヘルゼーも眠ることにした。
―――――翌朝―――――ヘルゼーが目覚めるとシルフィーはまだ眠っていた。やはり魔力回復には時間が掛かるらしい。そっとしておいた方がいいと思い、ミケ氏にシルフィーを頼み昨日の湖へ向かった。
湖はいたって普通。
ときどき吹く風に、水面を揺らすことはあるけれど得に変わった点はない。じゃあ昨日シルフィーが湖の中に入れたんだから、と思い潜ってみた。しかし何回潜っても途中までいくと壁のようななにかに阻まれて進むことが出来なかった。シルフィーは湖底に何を見たのか確かめたかったが、引き上げるより他になかった。
しかたなく、他にやることもないので、シルフィーの様子を見に一度戻ることにした。すると大声で僕の名前を呼び続けている人が居る。あんま呼ばれると恥ずかしいんだけどなぁ……………。ってミケさんじゃん!なんかあったのか?ヘルゼーはミケ氏のもとに駆け寄った。
「何かありました?!」
「おぉ、ヘルゼー君。やっときたか。シルフィーさんとうちのライティアの意識が戻ったぞ!!」
「本当ですか?!」
「あぁ!会ってくるといい!」
「ありがとうございます!」
ヘルゼーはミケ氏の家に入り階段を駆け上がった。扉を開けると、起き上がっておかゆを食べているシルフィーがいた。
「シルフィー!」
「あぁ、おはようヘルゼー。」「もう大丈夫なの?」
「えぇ。魔力を使いすぎただけだから。心配した?」
するとヘルゼーは絶対悪いことを思いついたと分かる不適な笑みを浮かべた。それはもう背筋が凍るぐらいの。
「なっ!何よ!その顔は!何が目的?!」
「フフフ……シルフィーには心配かけさせた責任を取って頂きます!」
「何しろっていうのよ?!」
シルフィーが不安そうな顔をする。
「大丈夫大丈夫!そんなたいしたことじゃないから!」「なによぅ……。」
「魔法&聖玉&儀式のこと詳しく教えて!」
「つまり、魔法関係の講義をしろと?」
「流石!よくわかってるぅ〜!!」
「はぁ……私はなんて弟子を取ってしまったんだろう……。」
「ねぇねぇ、いいよね?シルフィー?」
まるでわんぱく5歳児の子供のような顔つきで迫ってくるヘルゼーにとうとうシルフィーは折れた。
「わかったわよ。しょうがないなぁ。ただし、旅しながらだし、その間修業もちゃんとするんだからね?」
「わかってるよ!ありがとシルフィー!」
全くこいつのこの笑顔にはかなわないなとシルフィーは悟った。
「話し変わるけど、もう少し回復してライティアの様子を見たら旅を再開するわよ。いつまでもここに居てもしょうがないし。」
そう言うとシルフィーは下へ降りていった。もう平気そうな顔をしている。空元気じゃなければいいんだけど大丈夫なのかなぁ?
意識が戻ってからの行動が早い。ヘルゼーも続いて下に降りた。
「おはようライティア。具合はどう?」
「すこぶる快調よ。あなたから頂いた手刀の衝撃さえなければ全快といったところかしら?」
初めて声を聞いたが容姿と同様に美しい声だった。まさに鳥のように少し高めの声だ。
「まぁいいわ。ヘルゼー君、シルフィー、あたしにかかっていた呪いはどうなったの?」
「ちょっとまってね?今聖玉で調べてみるから。」
「また眩しく光らす気?」
「まさか!とうしてみるだけよ。」
「それならいいんだけどね!」
「えっと……。闇の比率は大分減少したわね。この調子なら日食が起きていても光の玉さえ持ってれば大丈夫!」
「本当?!嘘じゃなくて?!本当の本当に?!」
ライティアは目を輝かせて言った。
「えぇ、本当よ。もう大丈夫!良かったわね!」
シルフィーはにっこり笑って答えた。するとライティアは信じられないという顔をしていたが、目からはとめどない量の涙がこぼれ落ちていた。
「もう、みんなと一緒に働けるの?外で遊べるの?自由に外出してもいいの?」
ライティアが言っていることは全部、普通の人なら毎日の生活の一部にあるような自然なものだ。いままでどれだけライティアが寂しい思いをしてきたのだろうと案じることは容易に出来た。
「良かったわね!」
2度目のシルフィーの言葉に、ようやく理解したのかライティアは号泣した。シルフィーに抱きついて。
「ありがとう!ありがとう!」
「本当に良かった。でも、こっちもあなたのおかげで聖玉も1つ手に入って良かったと思っているのよ?あなたがいなければ焦ってできなかったかもしれないし。」
「フフフ……そんなこと思ってないくせに!」
「バレたか……な〜んてね!本当にそう思っているから安心しなさい!」
2人は友達みたいに話していたのでそのままそっと家を出た……………つもりだったんだけど!!なんで扉を開けた瞬間に村長+村人×40(つ〜か村人全員じゃないか?)がいるの?しかもみんなヘルゼーの顔を見た瞬間に
「ライティアは!?」
て、異口同音ってこの事かっていうぐらい揃ったよ。だけどみんなが期待と不安の交じった顔してるから、本当に心配してるんだなっていうのは物凄く伝わってきた。
――暖かい良い村だな――
ヘルゼーの居た町じゃ考えられないことかもしれない。村中の人々がみんなで1人を心配するなんて……。みんな働いて疲れてやつれた顔しながらでも生活のために働いていたし。
――子供でも例外なく――
倒れたら、看病ぐらいはするけどみんな自分のことだけで精一杯だったから基本はほうっておく形になってしまう。
正直な所、ライティアが羨ましかった。でも、みんなが答えを待っているから長い間ためてもいられない。
「大丈夫。呪いは消えたよ。今はシルフィーと話してる。」
「本当か?!」
第一声は村長。
「嘘ついてもしょうがないでしょ?」
そのヘルゼーが発した言葉は村人を不安から喜びに変えるものだった。
わぁっとあがる歓声。耳をつんざくほどの音だけど、ちゃんと祝福の気持ちは伝わる。ヘルゼーはその歓声に交じる言葉もちゃんと届いていた。
「よかった!」
「おめでとう!」
そして―――
「ありがとう!」
こんなに感謝されたのは初めてかもしれない。正確にはヘルゼーではなく、シルフィーとライティアのことだけどそれでも嬉しかった。
まぁバシバシ叩かれていたかったけどね……。
「みんな!めでてぇめでてぇ!ライティアが解放されたんだ!今日は1日宴と行こうぜ!」
生きのいい比較的若めの男性が威勢よく言うと、みんながそれに答えた。
「畑仕事終わったらな!」
現実的な一言のあと、ライティアの体に障るからと、みんな畑へ戻っていった。
そして公約通り一晩中お祭りのような騒ぎだった。
回復したライティアも参加し、大盛り上がりだった。一方シルフィーはというと、もう少し寝ているといってベットへ逆戻りしていた。
本当に大丈夫か心配だったけど翌日元気にヘルゼーを叩き起こしにきたので問題ないだろう。
そして―――――――――
「お世話になりました。いつまでもここで止まっているわけにはいかないので次の町にいきます。」
「いいえ、お世話だなんてとんでもありません!ウチのライティアを解放させて頂いて本当にありがとうございました!」
村人達と挨拶をかわし、ヘルゼー達はまた旅にでた。
感想・意見・批評等作者の成長のためくださるととても嬉しいです!よろしくお願いします! 大橋結菜