第2話 黒衣に身をまとう少女
今回はとても長くなってしまいました。更新もおそくてすみません!
「はぁ…はぁ…はぁ」
息を切らせながらヘルゼーは裏山の急な坂道を登っていた。
「な…んでっ…いっつも‥こん‥なに‥ふうっ急なんだ――――!!!!」
文句を叫び汗だくになりながらなんとか頂上にでた。
「ぜぇ…はぁ…こんなとこに用のある客って、どんな人なんだろ??」
一面の花畑。ここは、この世界では欠かせない魔法や生活用品で使われる“玉”を作り出す特殊な花が植えてあるところだ。“玉”とは(ぎょく)と呼ばれ、“玉”そのものではあまり使用されず何らかの形に加工されてから皆の手元に届く。みんながみんな、魔力に長けていれば“玉”をいちいち加工するなんて面倒なことはしない。魔力がありさえすれば“玉”をそのままの形で持たせても変形させて自由自在に使えるからだ。
いや、むしろ加工されたものを使うより“玉”そのままのほうが軽くて持運びに便利だし使用者が思い描き、願ったものになるから別々に分けて使う必要が無く、便利である。しかし“玉”の変形は使用者の魔力を恐ろしく消費するため、特殊な訓練を受け、さらにもともと魔力をためやすい体質でないと扱うことは難しい。だからわざわざ手間をかけて加工するのだが、その“玉”そのものが欲しいというひとはなかなかいないため、ヘルゼーは少し興味があった。
監督官の言っていたとおり。まだ客は来ていなかった。先にこの花畑の管理人にあいさつをした。
「じーちゃん!こんちは!オレだよ、ヘルゼーさ!」
血のつながった祖父ではないが、ヘルゼーと管理人は実の親子の様な親しさだった。
「おぅ、ヘルゼー。よくきたの。あの坂はきつかったろうに。今日ここに呼んだのはな、ヘルゼーに会いたいと言っている者がおっての。じゃがいくぶん待ち合わせの時間に遅れているようじゃ。すまんが、草むしりでもしてまっとってくれんか?」
頼りにされるのは嫌じゃないヘルゼーは素直に
「わかったよ。」
といって草むしりをはじめた。いつのまにか15分以上時間がたっていたらしい。ヘルゼーは1つのことに没頭しやすいタイプなのですっかり花畑の8割を綺麗に片付けてしまった。
「おーい!ヘルゼー!お客さんがいらしたぞ〜」
やっと我にかえったヘルゼーが出来るかぎりの大声で返事をした。
「わかったよ〜今いく〜!」
ヘルゼーが戻ってくるまでの間に客人が管理人に一言告げた。
「本当に彼、孤児なんですか?とても見えない…」
確かに孤児というものはたいていすねたり、さみしがりやになったりと、内向的になる者が多いが、ヘルゼーは違った。いつも明るく純粋。素直でおせっかいだった。もちろん弱者を助けるタイプ。小さい子はほっとけない。いつもなにかと面倒をみてしまうため、小さい子達からは厚い信頼を手にしていた。「あの子は強い子じゃよ。無論、貴女には及ばないけどね。」
「それほどたいしたものでもありませんよ?」
そういう話をしているうちにヘルゼーが近づいてきたため、話は中断された。
一方、ヘルゼーは例のお客さんが気になってしかたなかった。
(僕に会いたいなんてどんなひとなんだろう。)
近づくたびにわかってくる客人の外見。
服は黒、ブーツも黒。
肌は色白、女の子だ。髪が………黒?!黒とはめずらしい!魔法の事をあまり知らないヘルゼーでさえ知っている程有名な話だ。
髪の色は黒が一番魔力をためやすいのだ。
魔力に恵まれているんだなぁと思いながら、自分の髪をみて少しがっかりした。白い髪は一番魔力をためにくいからだ。わかってはいたけどねぇ…。彼女にもう少し歩み寄ってみると瞳の色は紫がかっていた。きっとこの女の子は魔力をためやすい体質なんだなぁ…なんて思いながら彼女をみていると管理人にどやされた。
「何ぼさっとしとるんじゃ?挨拶ぐらいせんかい!」管理人にどやされてよかった。ヘルゼーは我にかえった。
「あっ…えっと、はじめまして、僕はアドベア・ヘルゼーと申します。」
「はじめまして、私はカトレア・シルフィーと申します。」
そして、ヘルゼーは単刀直入にきいた。
「あのっ!僕に用事ってなんですか?」
「玉の採集を手伝ってほしいの。玉は採る人によっても多少の変化があるからね。あなたみたいに純粋な人に採られるのが一番いいのよ。」
果たして僕は純粋なのかはなぞだったが、仕事なのでとりあえず必要事項を尋ねた。
「どんな玉をお探しですか?」
僕らみたいな孤児は何かと位が下にみられてしまいがちだから、初対面の人には特に気を使う。もし、差別的主観のある人だったら僕はきっと簡単に職をなくしたり、その場で投げ飛ばされてしまう。女だって魔力では絶対に勝てる気がしなかった。そんな予想をよそに彼女はさらっと言った。
「旅の準備でね、私一人ではとうてい集めきれない量でね。色々と必要だから…」
そう言った彼女の横顔は少し悲しげだった。
「いいですよ。どんな玉をお探しですか?」
と悲しげになった顔のことはあえて聞かなかった。誰にだってあることだ。暗い過去なんて。もしかしたらこの子も孤児かもしれない。そしたら深く聞く事は失礼に値する。この世界の常識だ。
「えっと、地図に利用できるもの。それから能力を写し取れるもの。あとは魔法へ転用、再構築できるものがいいわ。採り方は知ってるわよね?」
「え?ただ採ればいいだけではないのですか?」
少し驚いた質問だった。が、彼女は僕以上に驚いていた。
「なっ今までそんな採り方をしていたの?よく花が傷まなかったわね。」
そー言うと彼女は彼女の採り方で採りはじめた。
「玉の花は繊細だからまず実を押さえる。そして軽くひねるの。そうすると花の軸を傷めずに、綺麗にとれるわ。」
いつもしている方法だったがあえて言わないでおいた。彼女の気をそこねてはいけない気がしたからだ。そんなこんなで採取しているうちにヘルゼーは思った。旅をしながらでも自然の玉は採れるし各地に玉の名産地は山ほどあるのに。ヘルゼーは話を聞いてみることにした。
「あの…何故ここで全ての玉を集めるのですか?旅に必要な玉は旅の途中で集めれば荷物にもならないのに。」
「この土地ほどいい玉が作れる所は世界中探してもきっと見つからないわ。ここの玉には心がこもっている。特に玉の成長に一番重要な優しさや愛情がね。」
「そうなんですか?」
「見かけでは判断できないからね、コレばっかりは。」
そしてヘルゼーは彼女に一番聞きたかったことを聞く事を決意した。先程から彼女は魔法関係の事しか話していない。それも、一般人の常識の範囲を明らかに越えた知識を持っている。そして、ヘルゼーには少しばかりだが心当たりがあった。
「あの…違ったら申し訳ないのですが、もしかして討悪師ではないですか?この旅ための玉の種類にしてもそうとしか思えない。」
彼女は本当に驚いた顔をしてこちらにふりむいた。
「なっ…何故討悪師を知っているの??!」
「両親がいつも語ってくれました。この戦争が意味の無いものだということ。そして、戦争によってうまれてくる邪悪な感情、悲しみ、憎しみ、恨み。これらの邪悪なる心を完全に浄化することのできる唯一の存在。討悪師。両親は討悪師を尊敬していました。」
「そうだったの。それなら知っていてもおかしくはないわね。その通り、私は討悪師よ。知っている人はおろか今だに尊敬していてくれた人がいるなんて驚きね。」
彼女は納得したように採取に戻った。そしてヘルゼーは自分でも思いもよらない言葉を発していた。
「あのっ!!!」
「ん?」
「僕を旅に同行させて頂けませんか??」
「は?」
もちろん当然の言葉だった。そして彼女は急に顔が冷たくなった。
「1つ聞かせてもらうけど、それは単なる憧れ?それとも工場で下働きさせられている現状から逃げたいから?討悪師と知っていてこんなことを言う人を見たのは初めてよ。それにご両親から聞いているでしょう?旅の目的とその末路。一緒に居ても何の得にもならないわ。」
末路?そんなの聞いたことが無い。
「違います、僕はただ世界をみてみたい。僕は生まれてから国はおろか、この街からすら出たことが無い。それにあなた方の仕事の事をもっとよく知りたい!」
「ダメね。」
速答だった。答えるまで0.2秒(勘)
「世界をみたいとか言ったわよね?」
「はい!」
「あなたのいるこの街が今、一番安全かつ綺麗だわ。この意味はいずれ解ることよ。世界なんて知らなくったって生きていける。悪いことは言わない、やめておいたほうがいいわ。私と居てもむなしくなるだけよ…」
いつもの温厚なヘルゼーならここで留まっていただろう。でも今日は違った。
「そんなことない!僕はいつか世界に出て本当に人の役に立つ仕事がしたいとずっと願っていた!お願い!」
そういった時だった。ヘルゼーが意識する迄もなくたまたま持っていた玉が形を変形させていた。変形した形は剣。まさに今のヘルゼーの勢いを表したような大きな剣だ。鍔の所にしっかりと玉が納まっていた。彼女は信じられないというような顔をして絶句した。
「あ…あなたソレ?!何処で身につけたの?玉を攻撃用の武具に加工するなんて修業しなければ身につけられない高等技術よ?!」
そう言われてはじめてヘルゼーは玉の形が変わっていることに気がついた。
「あっあれぇ?!!」
本人が一番驚いていた。そして彼の様子をみて、シルフィーの頭のにすごい推測が浮かんできた。(この子もしかして無意識のうちに玉の変形・加工をしたというの?!もしこの推測が本当なら…)
そんな彼女をよそに彼は剣を玉に戻そうと必死になっていた。」
「こんなの初めてだよ。何で?!戻ってよ!」
「戻さなくていいのよ…。」
彼女は静かに言った。
「え――――?」
「戻そうと考えなくていいの、用がすめば結果がでれば、自然と玉にもどるわ。」
そして彼女は言った。
「まさか玉の変形を修業もぜずに行なってしまうとはね。正直、驚きよ?いいわ。気が変わった、旅に連れていってあげる。あなたには世界をみて現状をしる。学ぶ権利があるみたい。」
「ほ…本当!!?」
「もちろん。玉の採取が終わったらすぐに出発の準備して、みんなにもあいさつしなきゃだしね。!おっと玉はもうほとんど集まったから先に行って用意していいわ。待ち合わせ場所は中央広場ね。なるべく早くね。」
「はい!!ありがとうございます!!」
「それとその敬語、やめてくれる??変だよ。歳もそんなに変わらないのに。」
「わかったよ!本当にありがとう!!」
ヘルゼーは勢いよく山を下りていった。上り出見せた顔とはまったく別。まさに生き生きとしていた。
そんなヘルゼーをよそに彼女は暗く、落ち込んだ気持ちでいた。管理人はその意味がよくわかったので、軽く2、3回シルフィーの肩をたたき、一緒にため息をついてやった。シルフィーは管理人の方を向き
「ありがとう」
といった。
そのころ街ではヘルゼーが居なくなるということで大騒ぎだった。この街を出ることが嬉しくてたまらないヘルゼーが子供たちにいいふらして廻ったからだ。大人達はみなあまり大きな反応はしなかった。街から一人孤児が居なくなるということか皆、さみしくて言葉がでなかったのだろう。そして昼の12時ジャスト、広場から2人は15年暮らしたこの街を出ていった。
第3話目は早めに更新するように努力します。感想など頂けるととても嬉しいです。よろしくお願いします!