第1話 旅立ちの夜明け
1話目から長くなってしまいましたが、やっと始まります。これからよろしくおねがいします!!
カトアニア共和国 B 175番地区 南東エリア
一人の少年は今、寂しげな朝を迎える。彼の名前はアトベア・ヘルゼー。真っ白な髪に、今ではめずらしい青く澄んだ大きな瞳。少しそばかすの多い丸みをおびた鼻にはまだ小さな子供の雰囲気が残っている。色は白め。頼りない肩には、まだ昨日着ていた赤いチョッキがそのままたれさがっている。
「ふぅ…」
一息ついた彼の姿はまさにわんぱく少年といったところか。緑の短パンに、少し大きめのブーツににた靴。そして青のΤシャツ。(赤のチョッキはその場に脱ぎ捨てた。)
彼に両親はいない。彼は戦争で親を無くした。つまり“孤児”だ。今の世界には彼のような子供はいくらでもいる。彼のような15、6歳の子供でも遊んでばかりはいられない。一日きっちり働いて、もらえる金額はたったの1.2ショート(日本円で120円)やっと一日分のパンとバターが買える程だ。朝食を済ませ、彼はやっとある一つの重大な事に気付く。
「え―――?」
彼は、…今初めて時計を見た。普段の仕事をはじめる時刻は9:00、そして只今10:30。
「う…嘘だろォォォォ!」
ドタバタと着替え、髪の寝癖も直さず通りへと駆け出した。
「やべぇ…そうでなくても、今日は大切な仕事の日なのにっ」
路地裏の一角にある彼の家からメインストリートの仕事場までは約5分。寝坊したのはバレバレだ。
人目も気にせず走り込みセーフ―――のはずがない。突然大きな壁…いや、腹に激突する。ハレン・カルブァード監督官の大きく出た腹だ。
「アトベア・ヘルゼー!」
大声で呼ばれ、彼は更に状況が悪くなった事に気付いた。
「最悪だ…よりによって監督官にぶつかるなんて…」
「何か言ったかね?アトベア・ヘルゼー君。」
「いっ…いえ何も。」
彼が硬直しながら答えると
「何も言ってないだと?!!1時間35分28秒も遅れておきながら、私に言うことばが何もないと君はいうのかね?!!」(きこえてなかったのかよっ)とかなんとか思いながらもヘルゼーは一応謝った。否。できなかった。
「すいませ…」
「もちろん君の先程の発言も聞こえているがね…」
(いやみなやつ…)
そう思いながらもヘルゼーは自分を作った。
・・・
「すみません監督官。昨日の無礼をお詫びしようと思い夜遅くまでコレを作っていたもので、ついつい寝坊してしまったのです。」
そういいながら、ヘルゼーはあるものを取り出した。
ヘルゼーが取り出したモノは監督官が唯一気をよくする品。
郷土料理:アドニクト。肉の一種だが、脂肪分が少ないうまい鴨肉を調理し、包み焼きにしたものだ。
「ほぅ。」
監督官はゴクリと唾を呑んだ。
特にヘルゼーが作るアドニクトは子供達の中でも群をぬいてうまい。きっとこの辺ではヘルゼーの右に出るものは一人たりともいないだろう。それに今回の出来はヘルゼーの中でもよくできたと思うほうだ。
「ふん、初の遅刻だしな。まぁよしとしてやろう。それに今日は客が遅れてる、運がよかったな。そのまま表に出て裏山にある花畑へ行け。手入れをして客を迎えるのだ。」
「はい、わかりました。ありがとうございます。」
そう言い残すと、ヘルゼーは飛び出し、急いで裏山にむかった。
――取り残された監督官がむなしく言った。
「このアドニクトを食べれるのもコレが最後かもしれんな…」
感想・意見などなど頂けると嬉しいです。2話目からからはキャラが一人ずつ登場しますのでお楽しみに。