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第14話 闇に堕ちた街、光を愛する者〜6〜

警戒しながら進んだ割には早くアリアの場所に戻ってこれた。これも、前町長の若かりしころの訓練のたまものだろう。今はそのことにただただ感謝しつつ、アリアに声をかけた。

「アリア!連れてきたわ!」


「シルフィー?!」


アリアは驚いていた。やはり彼女もこんなに早く帰ってくるとは思っていなかったのだろう。当人も驚いているぐらいなのだから当然だ。


「こんなに早いなんて……。あなたにまかせて正解ね。」


「いいえ。私もこんなに早く帰ってこれるなんて思ってなかったわ。全てこのベルギンさんの基礎体力が高いおかげ。」


「町長様っ!」


「お怪我はされておりませんか?」


町民からあがった数々の声はみな町長を気遣う物ばかりだった。いい街だったんだなとシルフィーは現町長に代替わりするまえの街を想像していた。こんなにも心配されるほどベルギンは人望があるのだからよほどよい街作りをしてきたに違いない。ただ私腹を肥やす能なしの輩だとしたらあり得ないことだ。


「皆の衆、あまり声をだしてはならぬ。気付かれてはもともこもなくなってしまうじゃろ。さぁ、ゲートから逃げるのじゃ。」


そういうとベルギンは手を空中に伸ばして街の裏道と思える場所と牢獄とをつなぐ道をつくりだした。


「すごい……。」


シルフィーは思わず口ばしった。空間を繋ぐ魔法は上級者でないと使えず、大量の魔力を消費する。ベルギンのような高齢者が玉無しで使えるような代物ではないのだ。一体彼の実力はどれほどのものだろうか、と不思議に思ってしまうほどだった。

そしてベルギンは振り返りながらシルフィーに言った。


「本当に何から何まですまなかったの。ありがとう。わしらはもう大丈夫じゃ。連れがいるんじゃろう?早く行ってやらんと。わしらは街の中にある店の地下に抵抗軍のアジトにもどるとするかの。それから……。」


そう言うとベルギンは一息置いてシルフィーに言った。


「我が娘のことは気にせんでよい。」


思わぬ事を言われ、シルフィーは驚いた。


「え?」


「あんたさんは先を急ぐ身じゃろ?本当はこの街なんて通過するだけに過ぎん街のはずじゃ。それをこんなに時間をかけて町民を救ってくれたんじゃ。それだけで充分。我が娘を浄化する浄化魔法なんて使っとったら、またしても多くの時間を費やすことになる。娘のことはわしらでなんとかする。だから連れを見つけてはようこの街から出なさい。」


「どうしてその事を……。」


シルフィーの身の上を知っている人なんていないはずである。そう、あの裏山の花畑を管理している叔父さんだけのはず。シルフィーには訳がわからなくなった。


「昔の修行仲間にお前のじいさんが居たよ。」


その一言でシルフィーは全て理解した。


そしてベルギンは涙を浮かべて言った。


「すまないねぇ……。あんたらの力になるどころか足を引っ張ってしまって。あんたら一族に世界はたよりきりじゃ。無力な我らを許してくれ。」


アリア達他の町民はベルギンが涙ぐむ様子を見てとまどっていた。その様子を見るにシルフィーの家の事情を知っているのはベルギンだけのようだ。そしてシルフィーは優しく言った。


「ベルギンさん。私達はそれが使命です。そのために生まれてきたのだから。私の祖父母のことも仕方ないのです。だから、もう行ってください。いつか、娘さんも必ず浄化してみせます。」


それを最後にベルギン達は牢獄から去って行った。


「さてと……。」


感傷にひたっている暇はない。早くヘルゼーにあわなくては。ベルギンを探すついでに走り回ったおかげで、この牢獄は2つの塔のようなものでできており、丁度地上の高さのところで塔と塔を繋ぐ回廊があるようだった。とりあえずシルフィーは警戒しながら階段を登った。

と、本当に唐突にクリーム色の髪をした少年が顔を出した。小さな男の子をつれている。見た目8才ぐらいだろうか。とても利発そうな目をしていた。


「シルフィー?!」


ヘルゼーはシルフィーに気づいた。


「どうしてこんなとこ……」


「走って!!」


ヘルゼーはシルフィーの言葉を遮って叫び、こちらに向かって走ってきた。よくみれば後ろにはたくさんの兵士を連れたレイラがいた。


「いたぞーー!!」


走ってきたヘルゼーと合流して出口への道を探そうとした。が、ヘルゼーはもう出口を知っていたらしく、シルフィーの腕をつかんで走った。


「こっちだ!急いで!!」


兵士の足音とレイラの怒号が聞こえる。全力で逃げる。全力で追う。シルフィーの長い黒紫色の髪がレイラの指先に触れようとした瞬間、ふたりは光に包まれた。



まず、耳に入るのは規則正しい機械音と自分の荒い息遣い。こんなにも走ったのは初めてなんじゃないかというぐらいに自分の体に疲労感が広がるのを感じながらシルフィーは隣にいる少年を眺めた。隣にいる薄いクリーム色の髪と透き通るような青い瞳を宿した少年もシルフィーとあまり大差ない状態だった。


「大丈夫?」


とりあえず、確認とでも言うかのようにシルフィーは質問した。


「もちろん。まだけがもしてないよ。」


と、ヘルゼーからの元気の良い返事が返ってきたのとほぼ同時に一人の兵士が牢獄から現れた。


「ほう、この牢獄から簡単に抜け出したか。流石と言うべきかなんと言うか。」


明らかにこの町のほかの兵士とは違う雰囲気を纏う彼に、シルフィーは警戒心を強めた。


「あなたは?」


「もちろんこの町の単なる兵士ですよ御立派な魔道士さん。」


そういい終わるか終わらないかの刹那、兵士は突然剣を抜きヘルゼーに襲い掛かった。否。かかろうとしたがシルフィーにより阻まれた。


「止まれ!!」


シルフィーの指の先から出た白い光によってその兵士はまるで石像のように動かなくなった。


「いったいどういうこと?!」


わけがわからないといった様子のヘルゼーがシルフィーにたずねたところ答えは意外なところから返ってきた。


「当然……かな。ヘルゼー、表向きの支配者が一番強いとは限らないって事をよく頭に入れといて。もちろん本当に一番強い場合もあるけどこの町は違ったみたいよ。」


シルフィーが言い終わる前に先ほどの兵士と似たような雰囲気をかもし出している兵士が、5人ほど現れた。

と、そこに先ほどまで牢獄の中にいたレイラが姿を現し先ほどの口調と同じように兵士に命じた。


「もう、終わったんだ。これ以上追いかける必要は無い。逃がしてやれ……。」


しかし、兵士は誰一人としてレイラの命令に従い退こうとする者はいなかった。


「おい!聞いているのか?!」


レイラが5人のうちの一人の服の袖を引っ張ろうとしたそのときだった。


「この町で一番強いのは、お前じゃねーんだよ!!」


そういって先ほど服の袖を引っ張られた男がレイラの額に中指を押し出すようにあてた。その瞬間、レイラはいとも簡単にその場に倒れて自由を失った。口からは泡を吹き、全身が激しく痙攣しているところから見て、神経にダメージを直接与えたのだろう。


「こいつら……帝国直属の部下だ!!」


最初に声を発し身の危険を知らせたのはシルフィーだった。そして、5人の兵士たちはヘラヘラと笑いながら斧を片手に近づいてきた。


「おねぇーちゃん、やっぱりあんた頭いいなぁ!!」


言うと同時に持っていた斧を振り下ろした。シルフィーは紙一重でそれをよけると、いまだ呆然として現状を把握し切れていないヘルゼーの腕をつかみ全速力で走り出した。


「逃げられねーぜ!おれたちからはさぁ!!」


レイラもなかなかの手練れだったが、こいつらとは比べ物にならない。いくら一般兵とはいえ流石直属。鍛え方がまるで違う。こんなやつらを5人も一度に相手していたら流石のシルフィーでも自分の身が危ないことは容易に理解できた。あとは、ヘルゼーを奮い立たせ自身の力で走ってもらうしかない。幸いにもシルフィーが適当に走っていた場所は、その町の出口に当たる門へと向かう道だった。


「ヘルゼー!!しっかりして!!あなたを抱え込んだままじゃ早く走れない!!」


シルフィーの声により、ヘルゼーはようやく自分のなすべきことと、現状を把握した。

しかし、ヘルゼーが自分の足で走り出したのとほぼ同時に兵士たちからの攻撃も始まった。

流石、少数精鋭といったところか。一人が魔法を使ったらしいのだがその規模の大きさが違った。それは、ゆうに町ひとつを飲み込むまほうだった。今までしっかりと地面に張り付いていた影がゆらゆらとその姿を変え、シルフィーたちの方向感覚や、平衡感覚を奪っていく。

さらに、もう一人がその揺らめく影を人型に変え、実体無き兵士を無数に作り出していた。今では自分たちの影ですら刀を持って襲ってくるかのように思えた。


「実体のない相手とは戦っても無意味。視覚に惑わされないで、今ならさっきまで走っていたのと同じ道を基本的に走っているはずだから全速力ではしりぬけるわよ!!」


シルフィーの声と共に今までにこんな速さで走ったことが無いような速度で二人は駆け抜けていた。途中何度も自分達の姿かたちをした影に襲われそうになったがすべて紙一重でかわしひたすらに走った。

そして、シルフィーの読みは正しかったとヘルゼーは痛感した。この町の出口と思われるところから白い光がぼんやりと見えた。自分達の周りが夕焼けのように赤いおかしなもやに包まれていたからこそ見つけた小さな光。そこを指差し、ヘルゼーは叫んだ。


「シルフィー!!あそこだ!」


「何が?!」


「出口だよ!ほら!光!」


シルフィーはヘルゼーにいぶかしげな顔をしてみせたが、自分にもわかったようで、コクリとうなずくと最後の力を振り絞って走った。


更新が大変遅く更に不定期で申し訳ありません。

これからもこのような事態が予想されますが気長に待っていて頂けると大変ありがたいです。

これからも描き続けていくのでよろしくお願いします。

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