テレビ君
通称「テレビ君」という新型ロボットが開発、発売されると世界中で話題になり何百万台も売れた。
「テレビ君」は次世代の新型ロボットで、勿論テレビも見る事も出来れば、
ゲームもでき、インターネットにも繋がるし、なにより人間の言う事をよく聞くロボットだった。
大人にも人気のあるロボットだったが、特に子供に人気のあるロボットだった。
大人達は仕事で忙しかったので、テレビ君は子供の子守り代わりにとても重宝されたのだ。
テレビ君は子供の言う事を聞くようにプログラムされていたので、大人は安心をして子供を家に残し外で仕事をする事が出来たのだった。
「ねえ、テレビ君、とても退屈だよ」
と子供が言うとテレビ君は
「ぼっちゃん、じゃあこんな番組はどうですか?」と言い、子供の好きなテレビ番組を子供に見せるのだった。
特に兄弟の居ない一人っ子の子供はテレビ君をとても大事にした。
「ねえ、ゲームをしようよ」と子供が言うと、テレビ君は子供相手に人気のテレビゲームをして遊んであげるのだった。
なにしろ、テレビ君は人間のように疲れというの知らず、電源さえあればいつまでも子供の相手が出来るのだ。
子供は次第に外で遊ばなくなり、家の中でテレビ君と遊ぶようになった。
数年経ち、次世代のテレビ君が開発、発売された。
新型のテレビ君は料理をする事も出来た。
データさえあれば、子供が好きな料理をなんでも作る事が出来たのだ。
次第に母親は家で料理をしなくなった。
世界中で新型のテレビ君は売れ、各家庭に一台のテレビ君が置いてあるのが当たり前になったのだった。
ある共働きの夫婦が居た。
夫婦はとても忙しかったので、テレビ君が子供の世話をしていた。
子供の父も母も家に帰ってくるのが夜遅いので、テレビ君が子供の食事を作り、テレビを見せたりゲームをして遊んであげていた。
子供は学校にも仲のいい友達が居なかったのでテレビ君が子供の友達だった。
テレビ君は毎日子供にアニメを見せたり、インターネットで世の中の面白い事を見せて過ごしていた。
ある日、事件は起きた。
テレビ君は子供に、外に出て冒険をする事がとても大事だと教えたのだ。
子供はテレビ君のことをとても信頼していたので、家を出て冒険をする事にした。
子供は家の近くの山まで冒険をしに行ったのだった。
それはとても楽しい冒険だった。
夕暮れ時まで子供は山で遊んでいた。
「もうそろそろテレビ君が食事を作っている頃だな」と考え子供は家路についた。
もうすっかりと暗くなりかけている時間だった。
子供は急ぎながら道を歩いていると、足を滑らせ道の脇に流れる川に落ちてしまった。
両親が家に帰ってくると、我が子が家に居ない事に気が付き警察に捜索願いを出した。
翌朝、子供は水死体となり町に流れる川で発見された。
マスコミを通じ、この事件は国中の話題となり、大問題へと発展していった。
ロボットが人を死に追いやったのは前代未聞だったのだ。
政府は「テレビ君調査委員会」を発足し、徹底的な調査をする事となった。
調査の結果、他のテレビ君には構造的にも内蔵ソフトにも不具合が無い事が分かり、問題のテレビ君に法廷に出廷するよう要請した。
裁判が開かれる事になったのだ。
被告人は、子供を死に追いやったとされるテレビ君だ。
国中が裁判の行方に注目した。
裁判の模様はマスコミを通じ全国に放送された。
裁判官は被告人席に座るテレビ君に言った。
「被告人、立ちなさい。君の製造番号を言いたまえ」
テレビ君は立ち上がり言った。
「はい、裁判長、私の製造番号はTC-0225897001、通称テレビ君です」
「製造番号をいちいち復唱するのは面倒なので、君の事をテレビ君と呼ばせていただく。・・・・・では、テレビ君、君の罪状は業務上過失致死罪だ。
これはとても罪が重い。君は危険である事を承知で子供を死に至らしめた。
その事に対し何か申し開きはあるかね?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「どうしたね?何故黙っている?バッテリーが切れたのか?」
「いえ、裁判長。今データを計算していたのです。申し開きは何もありません。それは事実です」
「なるほど、では何も言う事はないのだね」
と裁判長は言い、裁判員席に座る12人の裁判員に告げた。
「テレビ君はそのように言っています。審理をお願いします」
裁判員には教育評論家や心理学者など、この裁判を審理する為のエキスパートが集められていたのだった。
教育評論家が手を上げ言った。
「裁判長、私は前々から警告していたのです。テレビ君は子供の教育上、よろしくないと。テレビ君は子供に悪影響です」
続けて心理学者が口を開いた。
「心理学的に見て、アニメやゲーム、インターネットは子供の心を破壊しますな。有罪です」
「つまりテレビ君は有罪だと?」
と裁判長は裁判員に訪ねた。
「有罪です。テレビ君は子供の敵です」
それを聞き裁判長は被告人に告げた。
「被告人、審理は被告人を有罪であると宣告した。よって被告人には人間の死刑に値する解体破棄処分を宣告する!!
被告人は10日以内に専門業者により解体処分されるのだ。
被告人、最後に何か言いたい事はあるかね?」
しばらくの間、テレビ君は静かにしていたのだが、やがて口を開き言った。
「裁判長、これが最後だと思いますので、私のハードディスクに記録されているデータの一部を読み上げたい。許可していただけますか?」
「許可しよう」
「ありがとうございます。・・・・・これは時間のデータです。
何の時間かと言いますと、私と死んだ子供が一緒に過ごした時間、そして子供が両親と過ごした時間のデータです・・・・・。
私は子供と共に合計15,850,600時間過ごしました。
子供の両親は子供と1500時間過ごしました。
私は子供に8500時間、歌を歌いました。
両親は子供に50分、歌を歌いました。
私は子供を185時間、笑わせました。
両親は子供を2時間、笑わせました。
私は子供を15時間、泣かせました。
両親は子供を5分間、泣かせました。
私は子供に125時間、未来を語りました。
両親は子供に25分、未来を語りました。
私は・・・・・」
「黙れ!!」
裁判長は顔を真っ赤にして言った。
「お前は今、子供の両親を侮辱している!!」
「裁判長、私は誰も侮辱できません。ロボットには感情は有りませんから」
「黙れ!!黙れ!!許さん!!お前は今すぐにでも死刑、いや、解体処分だ!!」
その日のうちにテレビ君は解体され、バラバラにされスクラップ場に破棄された。
解体業者は裁判の模様をテレビ中継で見ていたので、バラバラになったテレビ君に唾を吐きかけその場を後にした。
気が付くとテレビ君は天国に居た。
人間でもないのに自分が何故天国に居るのかとても不思議だった。
「僕が呼んだんだよ」
声のする方を見ると、テレビ君が世話をしていた子供がそこに居た。
「ぼっちゃん!!元気でしたか?よかった、あなたは天国にいたのですね!」
「そうだよ。ひどい裁判だったね」
「見ていたのですか?」
「ここからは地上の様子が全部見れるからね」
「それにしても、私は何故天国に居るのしょう?私には人間のような心や魂なんか無いのに」
「君はもうロボットじゃないよ。僕は神様にお願いして君に体温を与えるようにお願いしておいた。君はとても冷たかったからね」
そのように言われてみると、テレビ君は自分の体が人間のような体温がある事に気が付いた。
「ありがとうございます、ぼっちゃん。どうして私をここに呼んだのですか?」
「君の作る料理の味が忘れられないからね。テレビ君、お腹が空いたので、何か作ってくれない?」
テレビ君はいつものように、料理を作り子供に食べさせた。
子供が美味しそうに食事をする様子をテレビ君は嬉しそうに眺めた。
「ぼっちゃん、食事が終わったら、どうしますか?」
子供はご飯粒を顔中に付けながら答えた。
「勿論いつものようにテトリスをして遊ぼう、テレビ君!」