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DRIVEN - 感情は、長く抑えてはいけない。  作者: 黒金カズナ


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第八章 アリバイ

「ボス、ドラウンドって怪物なんですか?」リサが聞いた。

「そうでもない。一面では本人たちのせいとも言えるけど、ほとんどのドラウンドはむしろ被害者だよ」アセプが説明した。「チー・ロク、さっき倒したドラウンドのプロフィールを開いて、リサに説明してあげて」

チー・ロクは頷いて腕時計のインターフェースを開いた。「ブディマン、25歳。憎しみの引き金になったのは自分の妻です。些細なことで妻と口論を繰り返し、仕事から帰宅した時に妻が自分のベッドで浮気をしているのを目撃しました」

「どう思う、リサ? 加害者? 被害者?」

浮気……

リサは少し天井を見上げた。今まで読んだスーパーヒーローの漫画の中に、浮気に関する情報はほとんどなかった。確かそういう場面は、理解できないテーマだからといつも閉じていたような気がした。

「被害者……でしょうか?」リサが答えた。

「『でしょうか』?。まあ、要するに奥さんが悪いんだよ。奥さんのアリバイは実際にあるんだけど、教えない。どちらかというと防御的で、自己正当化に向かってる内容だから」アセプが説明した。

「な、なるほど……じゃあドラウンドが全員怪物というわけじゃないんですね?」

「そう言っていい。大事なのはそこで、ブライトに感染した人をむやみに殺してはいけない」

「こ、殺す?」リサは驚いた。聞き慣れない言葉ではないが、消化するのが難しい。漫画の中でヒーローが怪物を倒すことはよくある。でもドラウンドは怪物じゃない。

「な、なんでですか、ボス? ドラウンドを殺さないといけない状況って、あるんですか?」リサが慎重に聞いた。

アセプはチー・ロクに視線を向けた。視線に気づいたチー・ロクは軽く咳払いをして説明した。「さっき戦ったドラウンドは、すでに高度危険レベルに達していました。放置していたら、街一つを壊滅させていた可能性があります。リサ先輩とデニス先輩の助けがなければ、私はドラウンドを殺す判断を下していたかもしれません」

リサは目を大きく開いた。口も開いたが、言葉が出てこなかった。

「もちろん、弟が危険にさらされていたから、というのも理由の一つです」チー・ロクが続けた。

強い理由がチー・ロクにはあった。リサは漫画でよく見たケースだと思った。悪役ではない人物が、誰かを殺す選択をする場面。

「気持ちだけなら問題ないんだけど、ドラウンドを殺すことには代償がある」アセプがコメントした。

「代償?」リサが聞いた。

チー・ロクはリサの質問を聞いて目を丸くした。リサはその驚いたような視線の意味がわからなかった。

「前まで引きこもりだったから、大目に見てやって。えへん」アセプが咳払いをして、腕時計のインターフェースを開いてファイルを読み上げた。「ドラウンドや、ブライトに感染した者を殺した時の代償は、強制的な憎しみの輸血だ」

「ドラウンドを一体殺すと、そいつの憎しみの記憶が頭の中に溢れ込んでくる。それに耐えられなければ……」アセプが微笑んだ。

リサの目がぴくっとした。一瞬、頭が軽くなった気がした。チー・ロクが下を向いているのが視界に入った。リサの左手がシーツをきつく握りしめた。

「耐えられなければ?」リサが聞いた。

「自分もドラウンドになる」チー・ロクが答えた。

ドラウンドになる……?

「……」リサは口を開いたが、何を聞けばいいかわからなかった。

「だからむやみにドラウンドを殺してはいけない。『私は女だから、他の人の奥さんが浮気するのを見ても何も感じない』とか、そういう話じゃなくて。憎しみそのものが強制的に送り込まれてくるんだ」アセプはしばらく間を置いた。待っているように見えた。

チー・ロクが小さく頷いた。

「ドラウンドを減らそうとして、自分がドラウンドになっちゃうわけだ。はは、ごほっごほっ」アセプが咳き込んで喉をさすった。「ほこりが……」リサとチー・ロクは黙ったまま、アセプが口の中をまさぐるのを見ていた。

「お姉ちゃんが電話に出るよ、リンリン、お姉ちゃんが電話に出るよ」

チー・ロクの腕時計から大きな音が鳴り響いた。たくさんの子供の声が混じったような着信音だった。

「失礼します、オム。エージェント・リサも。お時間をいただきありがとうございました」チー・ロクは最後にもう一度頭を下げてから部屋を出ていった。ドアが閉まり、リサの視線がアセプに戻った。

「ボス、あの人って……」

「チー・ロク。天才一族、チー家の子の一人だよ」

「八つ子で、みんな天才。白髪で染めてないのを見かけたら、それがチー家の子だよ」アセプが答えた。

「八つ子? 天才?」

「本来は専門はブライト対応じゃなくて、魔物生息域の管理や超大型魔物――怪獣への対処だよ」アセプは両手で大きな丸を描いて巨大なモンスターのサイズを表現した。リサはゆっくり頭をかいた。

「まあそのうちわかってくるよ。それよりも今の状態はどう? 体じゃなくてね」

「体じゃなくて?」リサは頭上の白い電灯を見た。

「大丈夫そう? この一週間で経験したことが、これからの日常になっていくよ」

「日常に?」

まるでキャンバスに描かれるように、鮮明に浮かんできた。あの日の市場。初めて出会ったドラウンド。ドラウンドと戦った時の苦しさ。助けられなかった人。そして首を絞められたこと。倒れていたチー・ルン。

これが全部、これからの日常になる?

リサの息がしゃくり上げ始めた。視界がぼやけた。頬に涙が伝い始めた。口がもう堪えられなかった。

「うあ……はあ……」リサの泣き声が溢れ出した。

アセプは本を開き直した。リサが泣くのをそのままにしておいた。慰めの言葉は一言も出てこなかった。ただ静けさだけがあった。リサの目が重くなり、痛くなり、もう涙が出なくなるまで。

「終わった?」

まだしゃくり上げていた。目が痛くて瞬きするたびに辛かった。

「ボ、ボスはこれを毎日やってるんですか……?」リサが泣き声混じりに聞いた。

「俺には普通だよ」

「普通? これが全部、普通?」

「俺たちの間にはギャップがあるんだよ、リサ。俺、お前、他のファミリーのリーダー、メンバー、ベータ、コイ、ザヒラ、デニス。さっき会ったチー・ロクだって同じ」アセプが本を閉じた。「信じられる? あの子、まだ16歳なんだよ?」

「16歳?」リサは左手で鼻水を拭き、目をアセプの顔に向けた。

「あの子は経験がある。辛い経験じゃなくて、戦場に慣れている、それだけ。だからちょっと強い、ちょっとだけどね」アセプが指で少しだけの隙間を作った。

「デニスやザヒラとは違う。あの二人はここに来てまだ一年だ。わかるだろ、どういう選択をしてきたか。チー・ロクがもう少し年上か、お前と同い年だったら、指揮を取れるくらいになってたかもしれない」

リサの涙が止まった。アセプを見つめた。「デニスとザヒラ先輩がまだ一年?」

「そう、まだそんなに長くない」アセプが頷いた。「今は想像できないかもしれないけど、デニスも最初は断った。ザヒラも断った。でも結局、状況が二人を引き込んだんだ」アセプはその重い本をリサの顔の上に乗せた。リサの視界が完全に塞がれたが、本の冷たさが腫れた目に少しだけ心地よかった。

「才能があるからできるんじゃない、リサ。慣れるから、追い込まれるから、できるようになるんだ」

視界が暗い中で、ザヒラとデニスの姿が浮かんだ。さっきまで強くて大きな存在に見えていた二人。彼らも断ったことがあった。怖かった時があった。デニスが汗だくで震えていたのを直接見た。

リサの手が持ち上がり、本を掴んで少し上げた。

「ルクマン博士&レザー教授共著」リサは本の裏を見て驚いた。知っている名前がそこにあった。

「これ、父の本だ」

アセプは本を引き取り、ベッド脇のテーブルに置いた。その上には花束と果物が置かれていて、リンゴ以外は皮だけになっていた。

「読みたければどうぞ。ただ途中で力尽きると思うけど」

リサの目がアセプの顔に戻った。頬にバナナの果肉が少しついていた。

「それで、どうする? リサ」

「どうするって、何がですか、ボス?」

「退院したら、最初の任務があるかもしれない。またドラウンドと会うかもしれないし、それより強いものと会うかもしれない」アセプは指で空中に絵を描いた。「怪我も今よりひどくなるかもしれない」人差し指がリサの顔の前で止まった。

リサはゆっくりと目を閉じた。目の前でヒーローが真っ直ぐ立っていた。

「ヒーロー様、なんでここにいるの?」

ヒーローがリサに近づき、肩をしっかりと掴んだ。

「お前の迷いに答えるために来た。自分の道を選べ。後悔しない道を」

『なんで独り言言ってんだ、こいつ』 アセプの声がかすかに聞こえた。

「でも……これから先、もっと多くの人を傷つけてしまうかもしれない」

ヒーローが口を開いた瞬間、アセプの指がリサの目を強引にこじ開けた。

「おい起きろ、まだ話してるのに。五秒も経たないうちに夢見てどういうことだ」目の腫れた部分にアセプの指が当たって、さらに痛くなった。リサはその手をぽんと叩いて小さくため息をついた。

アセプと反対の方向へ顔を向けた。なんとなく腹が立った。頬を膨らませ、右肩を左腕で抱えた。

「リサ」

「ふんっ」リサはそっぽを向いたままだった。

「聞く聞かないはお前が決めていい。でもこれはいつも他のメンバーにも言ってることだ。『救えるだけ救え。その後で自分を救え。救えなかった人は、置いていけ』」

リサはすぐに振り返ってアセプを見つめた。

「どういう意味ですか、ボス?」

「お前の安全が一番だってこと。被害者については、救えるだけ救う。お前が救った人が他の誰かを救える保証はない」アセプはリサの肩を指差した。「でもお前は? 絶対に救える」

私なら、絶対に救える?

体の強張りがすっと消えた。ベッドに背中を預けると、体が軽くなった気がした。アセプの頭が輝いて見えた。その光が少しずれて、ゆっくりと消えた。「あ、スマホ落とした」懐中電灯の光が消えた。「あ、再起動しちゃった」アセプが画面をこすった。

リサは深くため息をついて、小さく笑った。

「ボス、私、覚悟ができました」

「何の?」アセプの頭がベッドの脇からちょこんと出てきた。

「ファミリー・インフィニットのエージェントとして、ちゃんとやっていく覚悟です」

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