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DRIVEN - 感情は、長く抑えてはいけない。  作者: 黒金カズナ


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第三章 温かい朝食

リサは自分の部屋の鏡の前に立っていた。まさか森の中の拠点にこんなにたくさんの部屋があるとは思っていなかった。バッジを袖で軽く拭き、そっと微笑んだ。体につけると軽いのに、約束の重さを感じる。

このバッジは、自分の過ちに対する責任の証だ。最後にしっかりと握りしめてから、リサは部屋を出て、新しい一日へと踏み出した。

「なんで一番端の部屋なんだろう。しかもに階だし」部屋を出ながらリサは呟いた。すると、部屋の前の床をぼんやりと見つめながら腕を組んで立っているアセプに気がついて、思わず足を止めた。

「今起きた?」アセプが聞いた。

「あ、ボ、ボス……まだ7時ですよ?」リサは言い訳した。

「7時に起きてたら、魔物がテントの中に入ってくるぞ」

アセプが先に歩き出し、リサはその後に続いた。アセプの背中を見つめる。そんなに離れているわけじゃないのに、アセプの頭のてっぺんがよく見えた。

ボス、意外と小さいんだな。

「ボ、ボス……」

「ん?」

「なんで私、一番端の部屋なんですか?」

「あんまり堅苦しくしなくていいよ、もう正式なメンバーだ」アセプは少し間を置いた。「デニスがお前のとこに来にくくするためだ」

「あ、そ、そっか……まだ私のこと怒ってますか?」

「さあね。でもまあ念のため。あいつ長いこと彼女いないし……ずっと一人で……色々欠けて――」

「わかりました、ボス。私そこまで古くないです……」リサは小さくため息をついた。

香ばしい匂いが鼻に入ってきた。メインルームの方からだ。部屋の外から見えるコイは椅子の上にぴんと背筋を伸ばして座っていた。足をリズミカルに叩き、尻尾がそわそわと動いている。他の人を待っていたのが明らかだった。

テーブルいっぱいに料理が並んでいた。アセプが部屋に入った。リサも続いて踏み込み――突然何かにぶつかって止まった。

「いた……」リサは額を押さえた。目の前にあったのはゆったりしたタキシード。胸元から濃い体毛がのぞいている。

「おっ、もう帰ってたのか、ベータ」アセプが声をかけた。

リサはゆっくりと顔を上げた。浅黒い肌の大柄な男が立っていた。マスクから温かい息が漏れ、緑色の目がリサをじっと見つめている。リサはその場で固まった。

男はリサを指差した。「これが新しいメンバーですか?」マスクの奥からは柔らかな声が出てきた。

「そう、リサって言うんだ。ベータ」アセプが言った。

「ああ、リサさん。よろしくお願いしますね。ベータの名前はベータだ」ベータは穏やかに手を差し出した。

リサはまだ少し驚きながらも、ゆっくりとその手を握った。大きな手袋をはめているせいか、まるで温かいミトンみたいだった。

「ベータじ、こっちで食べよう。ビ・ニャイがたくさん作ってくれたよ」コイが椅子から呼んだ。

「ああそうかい。でも後でいいよ。ベータの体中が痛くてね、少し休んでから食べるよ」ベータはリサの横をすり抜けてそのまま行ってしまった。

「あ、ベータ、ちょっと待って。ザヒラは?」アセプが声をかけた。

ベータは少しだけ立ち止まった。「ベータもわからない。昨晩からいなくなってしまってね」

「どうやっていなくなるんだよ……」アセプが呟いた。

リサは後ろを振り返り、ベータが去っていくのを目で追った。床板の上を歩く足音が重くくぐもって響く。毛のない尻尾がだらりと垂れ下がっているのが見えた。顔を上げると、大きな耳が二つ、力なく垂れていた。

ベータさんは……犬人間なんだ。

犬人間、猫人間、普通の人間、それからボス。

リサは周りの人たちに視線を巡らせた。軽く首を振って部屋に入り、コイの隣に腰を下ろした。目の前に並ぶ、どれもおいしそうな料理を眺める。

「ビ……ビ・ニャイ」アセプが呼んだ。

ビ・ニャイがフライパンを持ったまま出てきた。エプロンが濡れて泡だらけだった。「はい、ボス?」

「皿洗いは後でいい、こっちで食べて。ベータとザヒラは今は食べないから」

「あらそうですか」

ビ・ニャイは台所に戻り、今度はエプロンなしで出てきた。コイの隣に微笑みながら座った。コイは鼻歌を歌いながら皿を配り始め、しっかりと一番大きな肉を自分の前に確保した。

「野菜も食べなさい」アセプが静かに言った。

コイはぎこちなく笑って首の後ろをかいた。「あはは、は、はい、父様」

コイが野菜に手を伸ばす時の動きが、いかにも名残惜しそうにゆっくりだった。リサは小さく笑った。そして気がついた――自分の広い椅子と、向かい側の椅子に空白がある。一人足りない。

「あ……ボス?」

アセプはちょうどご飯を口に入れようとしていたところだった。「デニス? あいつはめったに一緒に食べないよ。倉庫の番人だから」

「デニスさんはもう先に取っていきましたよ」ビ・ニャイが続けた。

リサはゆっくり頷き、ご飯をよそい始めた。

「もぐもぐ……ビ・ニャイこれうまいっ!!」コイが口をいっぱいにしたまましゃべり、汁が唇の端についた。ビ・ニャイがティッシュでコイの口元をそっとぬぐった。

「口に物が入ってる時はしゃべらない」アセプが言った。

リサはお皿を膝の上に置いた。急に視界がぼやけた。にぎやかな雰囲気が遠くなる。ご飯を見ると、それが果物とビタミン剤に変わっていた。

また、これか……

一人ぼっちの、冷たい、薄暗い部屋。ご飯を見てバナナに手を伸ばすと、それがいきなり肉に変わった。コイがその肉をリサの手にそっと乗せた。

「食べてみてよ、リサ姉。おいしいよ」コイが親指で口元を拭いながら笑いかけた。灰色だった視界がコイの髪の色のオレンジに塗り替えられていく。リサは微笑んで、肉を一口かじった。

おいしい!

***

朝食が終わると、リサとコイはビ・ニャイが汚れた皿を台所に運ぶのを手伝った。二人でビ・ニャイと一緒に皿を洗い、片付けた。気がつけばあっという間に時間が過ぎていた。アセプがやってきて、台所の入口に寄りかかった。

「二人とも、ついてきて」アセプが呼んだ。

手を拭いてから、リサはコイを後ろに連れてアセプの後に続いた。拠点の外に出て、少し森の奥へと進んでいく。

「父様、なんで森に連れてくるの?」

「ちょっと試したいことがあってね。二人にスパーリングしてみてほしいんだ。武器なしで。リサのお姉さんはまだ持ってないから」

「へえ」コイが頷いた。

「どうした、リサ? まさか子供相手に怖いの?」アセプが肩越しにちらりと振り返りながら聞いた。

「え、ボス、本当に大丈夫ですか? 私、人と直接戦ったこと……ないんですけど」コイの肩を見て、あの体より大きな剣を軽々と肩に乗せていたのを思い出した。

「ドラウンドとやったじゃない」

「でも、それは……」

「経験は経験だよ。ちょっとの経験でも経験には変わりない。まあとにかくやってみて」アセプが軽く背中を叩いた。

コイとリサは一メートルの距離を挟んで向き合った。

「よ、よろしくお願いします……リサ姉」

「あ……こちらこそ」

そよ風が吹き、葉が足元に舞い落ちた。コイとリサはとっくに構えていた。

「あれ、まだ始めないの?」アセプが口を挟んだ。

リサはのんびりと木に寄りかかっているアセプを見た。「合図を待ってたんですけど……」

「そんなの必要?」

アセプは首の後ろを叩きながら二人の間に歩いてきて、手を斜め下に傾けた。

「構え、始め」

リサはすぐに前へ踏み込んだ。しゃがまなくても、リサのパンチはコイの頭の上をすり抜けた。コイが左足を前に滑らせ、右手で地面をかいてリサの横へ弾き出す。パンチが放たれたが、リサに当たる前に引き戻された。

リサは横に腕を振った。コイの耳をかすりながら外れる。コイが左手で反撃し、すぐに引いた。

「これはスパーリングだ踊ってない……ちゃんと当てろよ」アセプが呆れたように言った。

二人同時に後ろへ跳んだ。リサは上体を少し前に傾けた。コイが前に出て右手を正面に打つ。リサはコイの体の左側にかわした。コイが左手を引いてリサの頭へと振り抜いた。尻尾が張り詰める。

当たる!

リサはすでに右手を持ち上げていた。コイの左腕を引き込み、コイの正面を大きく開かせる。左の手のひらでコイの胸を真正面から思い切り叩いた。コイが一メートル後ろへ押し出されたが、倒れなかった。

コイの耳が立った。尻尾の毛も逆立っている。低い唸り声と共に、コイの手が空気を掴んだ。前へ飛び出し、一瞬コイの瞳孔が細い線に縮んだ。コイの長い爪がリサの顔すれすれに迫った瞬間、アセプの手がコイを捕まえ、そのまま抱きしめた。

アセプはコイの背中を叩き、コイの顔を自分の肩に埋めさせた。「シュッ……シュッ……もう終わり、スパーリング終わったよ」唸り声がさらに強くなった。

「シッ」

「シュッ、シュッ……大丈夫、大丈夫」アセプはゆっくりとコイの背中をさすった。

リサは黙って立ち尽くした。胸が締め付けられる。アセプの腕の中でもがこうとするコイを見ながら、アセプが少しずつ視界から遠ざかっていく。

「お前はちょっと休んでていい。コイを落ち着かせてくる」

リサは戸惑いながらも、やがて一人で拠点へと歩いて戻った。自分の手を見つめた。

私、叩きすぎたのかな……

***

数分後、リサは拠点のメインルームで休んでいた。足が落ち着きなく床を叩く。呼吸と同じリズムで。左腕をさすり、つまんだ。罪悪感が体中に広がっていく。

アセプが入ってきた。コイはもう落ち着いて、またアセプの背中に隠れていた。

「コ、コイ……大丈夫?」リサは近づいてアセプの前で膝をついた。アセプの後ろに隠れるコイに目を向け、手を伸ばそうとする。

「だ、大丈夫だよリサ姉。ごめんね……さっき、怪我させそうになって」

「え?」

リサは自分の体をもう一度確認したが、大きな傷はどこにもなかった。左手を見ると、自分がコイを叩いたという赤い跡だけが残っていた。アセプはコイの頭を撫でた。コイの耳が手の動きに合わせてゆっくりと垂れた。

「お前が胸を叩いた時、コイのストレスが上がったんだ。痛みはそこまでじゃないはずだけど……まあ、負けたのがショックだったんだろうな」アセプはくすくす笑った。「思春期の男の子なんてそんなもんだよ、負けたくない」と続けた。

コイのアセプの腰への握力が強まった。尻尾も素早く揺れた。「いたたた……爪切ってないじゃないか」

「じゃあ、コイは私のこと怒ってないの?」

コイの瞳孔がふわりと丸くなり、握る手がゆるんだ。首を横に振る。

「怒ってないよ。ちょっとびっくりしただけ。だって……リサ姉、戦い慣れてないはずなのに、なんで僕が負けたんだろって」

リサは少しびくっとして、自分の胸に手を当てた。

傷はないのに、なんでこんなに刺さるんだろう……

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