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DRIVEN - 感情は、長く抑えてはいけない。  作者: 黒金カズナ


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第十章 塩気のない汗

一週間が過ぎた。包帯はもうリサの足枷ではなくなっていた。右手は自由に動き、回転させても、曲げても、ダンベルを何セットも持ち上げても問題なかった。

バンッ!!

ダンベルが汗と一緒に地面に落ちた。「ボス……私、退院したばかりですよ」

「プロフィールがアクティブになってる以上、トレーニング再開だ!」アセプは木に寄りかかってにやりとした。「ウエストベルトはどう? ちゃんと合ってる?」アセプが聞いた。

リサはウエストベルトを回してみた。腰にしっかりと巻きついている。「あ、うん、ぴったりです。でもたまに鞘ごと抜こうとしてもダガーだけ抜けちゃって」リサは腰からダガーを上に引っ張った。確かにダガーだけが出てきた。

「コツは簡単。今みたいに上に引っ張った時、ベルトが鞘を自動で押さえてくれる。鞘ごと抜きたい時は下に押してから引くんだ」

リサはダガーを鞘に戻した。下に押してから引いてみると、今度は鞘ごと抜けた。

「それと戦闘中に鞘を外す必要がある時、手で開けるな。ベルトに戻してそのまま上に引けばいい。そうすれば鞘がどこかに飛んではいかない」

リサは言われた通りにやってみた。ベルトに戻して上へ引く。ジャブを打つと、ダガーが日差しを反射してきらりと光った。アセプが後退して目を細めた。

「まぶしい、アホ!」

***

アセプはリサを拠点からさらに奥へと連れていった。霧が二人を包んでいた。ついさっきまで空は晴れ渡っていたのに。アセプが手を振ると、霧がゆっくりと視界から消えていった。

リサはアセプの手を見た。「ボス、今何を――」

バキッ!!

ガオォォォ!!

リサは右のダガーを引き抜き、横からの飛びかかりを受け止めた。背中が地面に叩きつけられた。ダガーの鞘が目の前に迫る爪を受け止めている。「ボス!」と叫んだ。

返事がない。

牙と唾液が視界いっぱいに迫ってきた。リサは左のダガーを押し込んで魔物の頬を切り裂いた。魔物が横に跳んだ。

リサは膝をついて、荒い息の中で四足の魔物を鋭く見据えた。魔物は何度か頭を振って血を飛ばし、目をリサに向けたまま横に歩き始めた。

リサはちらりと後ろを覗いた。アセプはあくびをしながら木に寄りかかっていた。

ガオォォォ!!

リサは右へかわし、左のダガーを魔物の背中に叩きつけた。浅かった。

魔物が体を引いて左の爪を前へ振った。リサは左へ避けた。鞘をベルトに戻し、右のダガーを引き抜く。魔物の目に鋭い一閃。

ガウッ!!

右のダガーのボタンを二回素早く押して魔物の首に突き刺した。目の傷に集中していた魔物が激しく吠えた。電流が全身を貫いた。焦げた匂いと共に、魔物はぐったりと前に倒れた。

リサは二本のダガーをくるりと回してから鞘に収めた。すぐにアセプの方へ向き直った。

「ボス、なんで手伝って――」

ガオッ……

また?

リサが振り返った。強烈な衝撃が左肩に当たった。受け流して跳び、横に転がってすぐに膝をつく。両ダガーを再び引き抜いた。目の前の魔物は別の種類だった。さっきのより背が高く、幅も広い。太陽の光が二本の爪に反射してまぶしかった。

リサは後ろへ跳んだ。さっきの魔物が再び立ち上がり、両脚で地面を踏んだ。吠えながら爪を交互に振ってくる。リサはかわし続けながら後退した。背中が木に当たった。上を見た。魔物が両爪を同時に振り下ろした。リサは前へ転がって抜けた。インパクトが木に深く刻まれ、木が傾いた。リサは立ち上がり、右のダガーを下向きに回して魔物の背中に突き刺した。

カンッ!!

火花が散った。手が弾き返された。

硬すぎる!

一歩引いて低く構えた。魔物が向き直り、交互の爪攻撃のスピードが上がった。リサはかわし続けた。かわせていた、はずだったが――

下からの爪が顎すれすれを掠めた。リサは思い切り前に蹴りを放って魔物の腕を押し返した。魔物にダメージはほぼなかった。

「正面突破は無理だ」リサが囁いた。

荒れる息を整えようとしたが、魔物は休む間も与えなかった。腕を下ろして突進してきた。リサはちらりと後ろを確認した。アセプが四足魔物の死体に近づいているのが見えた。リサはくるりと向きを変えてアセプの方へ全力で走った。

アセプはリサが魔物を引き連れて走ってくるのに気がついた。

「え?」

リサはアセプのすぐ隣にぴたりと止まり、盾にした。

「賢くなってるわね!」アセプが呆れた声で言うのと同時に、轟音が鳴り響いた。

リサが振り返った。魔物の上半身が吹き飛び、周りの木々に血が散っていた。リサは息をゆっくり落ち着かせた。アセプは魔物の方向にただ手を伸ばしていただけだった。リサはアセプと倒れた魔物の死体の間で何度も視線を往復させた。それからぺたんと地面に座り込んだ。汗が全身を濡らしていた。心臓の音が頭の中で響いていた。

「魔物連れてきて満足か?」アセプは眉をひそめた。

リサはまだ息を整えながら満面の笑みを浮かべた。「さ、サボってたボスが悪いです!」口の端を汗の塩気が伝った。

アセプが二体の魔物からクリスタルのコアを取り出している間、リサは木に背を預けて休んだ。

「それ何に使うんですか、ボス?」リサが聞いた。

「売れるんだよ。確かアシンが15ルピ、ウルスが30ルピだったかな。でもこうやって直接戦って取るのはコスパ悪い」

リサはアセプをただ見つめてため息をついた。やがて立ち上がり、拠点の方へと歩き始めたアセプの後に続いた。ウルスの上半身の死体の横を通り過ぎる時、胸の部分に自分のダガーが通らなかったのと同じ硬さがあることに気がついた。リサはほっと息をついた。

「正面から無理に攻めなくてよかった」振り返ってもう一度死体を見た。「え、ボスはどうやって倒したんだ?」

「リサ、早く来い。迷子になっても知らないぞ」

「は、はい!」リサは小走りでアセプに追いついた。

***

拠点にまっすぐ帰らず、アセプはリサを街へと連れていった。

「腹減ってない?」

「別に減って――」リサのお腹がぐうっと鳴った。顔が瞬時に赤くなった。さっきまで何ともなかったのに。お腹をさすった。

「先にこれ売ってから飯にしよう」アセプは大きさの違う二つのクリスタルを手の中でくるくると回しながら、一軒の店へと曲がった。

「クリスタル売買専門店か、こんなのあるんだ。漫画では見たことなかった」リサは中に入った。ドアベルが鳴った。店内を見渡すと、壁一面に魔物の頭の剥製が飾られていた。さっき戦ったのと同じようなアシンとウルスのものもあった。

「ウルスは私が倒したんじゃないけどね、ふふ」リサはアシンの頭をそっとなでた。

なんかコイの頭なでるのと似てる……

「リサ、終わったぞ。早く行こう」アセプが入口のドアを手で押さえながら呼んだ。

リサは店を出た。アセプが前を歩く。「クリスタルのコアって何に使うんですか?」

「ん? ああ……アクセサリーとか、指輪や首飾りとか。あとは能力強化にも使える。さっき見せるの忘れたけど、アシンとウルスのは種類が違う。ウルスのは大きめで、一時的なバッテリーとして使えるんだ。詳しい仕組みは俺もよくわからないけど」リサはゆっくり頷き、そのままアセプの背中に顔からぶつかった。突然止まっていた。

「ボス、なんで急に止まったんですか?」

「着いた」

横を見ると大きなガラス窓に「ワルン・ナシ・ウフイ」と書いてあった。食べ物のショーケースがあり、店の中には大勢の人が食事をしていた。リサはその人数を見ただけで、急に体がひんやりとした。

「行くぞ!」アセプが入った。リサも少し頭を下げながら続いた。ショーケース前の席に座った。

「注文の仕方教えるよ。店員さんがご飯を持ってきたら――」

「何にしますか?」向かいの店員さんが早速聞いてきた。

「ちょうどいい。目の前の画面でおかずを選ぶんだ」

「これと、これを少しだけ。あとこのスープも少しおねえがいします」アセプが三種類のおかずを指差すと、向かいの店員さんが手際よく対応した。

「どうだ? すごいだろ。食堂なのにタッチスクリーンがあるなんて」アセプがにやりとした。しかしリサの顔は赤くなっていた。隣と後ろのお客さんからくすくす笑い声が聞こえてきた。

穴があったら入りたい……

「そこのお姉さんは何になさいますか?」店員さんは湯気の立つご飯を乗せたお皿を持ってきた。リサはしどろもどろになった。口は開いたが言葉が出てこない。すでに自分の食事を食べ始めているアセプを見た。

リサはたまごと肉を指差した。「こ、これと……こ、これだけで」

「他には?」

リサはまたアセプを見た。アセプもちょうど顔を上げた。「何? それだけ? ご飯のお供はそれだけでいいの?」

リサが頷いた。

「じゃあそう言って」

「は、はい、それだけです」

「コイを初めて食堂に連れてきた時みたいだ」アセプがぼやきながら食事を続けた。スプーンが歯に当たる音がした。

お皿がショーケースの上に置かれた。リサはただ見ていた。

「取って」アセプが静かに言った。

「あ、そうか」リサは立ち上がってショーケースからお皿を取り、座った。すると店員さんが大きなグラスを二つ置いていった。お茶が入っている。アセプが両方取り、一つをリサの隣に置いた。

「あ、ありがとうございます、ボス」

リサはお茶を一口飲んで、舌を出した。

「熱い……しかも味がしない」

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