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DRIVEN - 感情は、長く抑えてはいけない。  作者: 黒金カズナ


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プロローグ - 候補者

煙が立ち上る。今まさにレポートを打ち込んでいた男の口から。

ドゥアーッ!!

「また罠が爆発した」と彼は呟いた。

男は鳴り止まない着信を連打で弾き続けた。突然、ノートパソコンの画面が暗転し、怒り顔の誰かが映し出された。

「さっきから電話してた!なんで出ないんだよ!? 」画面の向こうの男が怒鳴った。眉がびくびくと痙攣している。

「レポート書いてたんだ―」

「わかってる、それより大事な話だ。アセプ、お前には新しいメンバーが要る!」男は遮った。アセプが指を立てようとすると、「ちょっと待て、言い訳は聞かん。もう決定事項だ。レイヴンはフリード国で二年も隔離されてる。お前のとこは今、人手が足りないだろ」

「でも、任務成功率は百パーだし」とアセプは言い返した。

「百パー、そうだな。でも月にたった四件だけだろ」相手は画面に向かって指を四本立てた。突然、監視カメラの映像が一斉に開いた。アセプはすぐさまそれを閉じようとする。

「大事なのは成果じゃ―」

「ない! 他のファミリーは何十、何百とこなしてる。お前んとこはたった四件だ!」と男は叫び、唾の飛んだカメラを拭った。アセプはまた別の警告映像を閉じる。

「俺のファミリーに合うメンバーなんか、そう簡単には―」

「だから本部が用意してやった」男は眼鏡を直し、強引にファイルをアセプのノートパソコンに送り込んだ。

アセプは閉じるボタンを探したが見当たらない。「なんだこれ?多すぎだろ」警告映像がまた開く。「これも、さっきから何回も出てくるな。誰もいない」

「何が誰もいない?」男の声が一段上がり、彼はコップを手に取った。「とにかく一人選べ―」

「こいつにする」アセプはリサと名前のプロフィールを指差した。

「適当に選んだんじゃないだろうな?」

アセプはチェルートを一口吸った。「してないよ、ちゃんと読んだ……」誤魔化すように口笛を吹いたせいで、画面が煙で白く染まった。

男は煙のない自分の側で手を振り払う。「まあいい」煙の向こうで、男がにやりと口角を上げた。「どのみち、もう着いてるからな」

警告カメラ映像が画面を埋め尽くした。

ドゥアーッ!!

入口近くの最後の罠から轟音と共に爆発が起き、アセプはその爆風を受ける寸前に素早く飛び退く影を目撃した。

アセプはチェルートを灰皿に押し付けた。「悪くない」

「どうだ? 彼女は―」

アセプは通話を切り、正面玄関へと歩いていった。

***

足音が加速する。根のような繊維に覆われた壁が絶え間なく回転し、大砲の砲口へと変わっていく。矢が飛び、ロケットが放たれる。それでも、どれも彼女の歩みより遅かった。

視界の先にある真紅の色に、彼女の目は釘付けになった。――巨大な両開きの扉。彼女は上体を前に傾けた。

「あと少し」

両手を伸ばし、扉に触れようとした。

シュッ――

四つの巨大な砲口が迎え撃った。彼女は両脚を蹴り上げ、後方へ大きく跳んだ。真っ赤な閃光と煙の塊が眼前に炸裂し、彼女は顔を地面と土埃から庇った。

立ち上がり、戦術服についた土と埃を払う。短く息を吸い込み、扉の前へと歩を進めた。

「開けろ!」扉の向こうから男の声が響いた。

彼女が両の扉を内側へと押し開けると、思わず立ち止まった。

目の前にいたのは――ポケットに手を突っ込んだ、若い男。

口が開きかけ、すぐに閉じた。男の目が一瞬だけ下に向き、すぐに彼女の目へと戻ってきた。彼は軽く頭を下げた。

「名前は?」と男は尋ねた。

「リ……リサ」

男は黙った。リサから何かを待つように。リサは首筋に冷たさを感じた。背中にも悪寒が走る。

「……だけ?」

リサはゆっくり頷いた。頭を上げようとしたが、できなかった。彼の目が直視できない。

「まあいい、入れよ」男は促し、先に歩き出した。

リサは重くため息をついてから後に続いた。目の前に続く長い廊下を見つめ、曲がった先のメインルームへと入っていった。

二脚の長椅子が向き合い、長テーブルを挟んでいた。テーブルの脇には一脚の背の高い椅子と机、その上にノートパソコンが置かれていた。リサは端に立ち止まり、男は向かい側の椅子に腰を下ろした。

「なんでそこに突っ立ってんの? 座れよ」と男は言った。リサは慌てて中央の椅子へと歩み寄り、腰を下ろそうとした瞬間――

トン、トン

男がテーブルを二回叩いた。リサはきょろきょろと左右を見渡し、ぴくりと体が固まった。――グラス。テーブルの前に置かれたのは、ただのグラスだった。

白髪混じりの中年女性がテーブルの脇に跪き、男の前にも別のグラスを置いた。

「ありがとう、ビ・ニャイ」男はグラスを手に取った。ビ・ニャイは微笑んで台所へと消えた。リサはビ・ニャイが去るのを目で追いながら、ゆっくりと腰を落とした。

「飲んで。ただの水だ、毒とかない」男は言った。リサは息を吸い込み、グラスを持ち上げた。小さなグラスなのに、やけに重い。水面が揺れ、こぼれそうになった。一口だけ口をつけて、テーブルに戻す。

「そういえば……俺、アセプ」男は言いながら、ポケットからチョコバーを取り出して鼻先に当てた。「……だけ」そう続けながら顔を拭う。

「このファミリー『インフィニット』のリーダーだ」

突然、リサの両肩に重さが落ちてきた。息が詰まる。目の前にいるのは、とても重要な人物だった。

「その背中にあるの……武器だろ? 見せてくれる?」アセプはテーブルの上に手を置いた。リサは小さく咳払いをして、腰の武器に手を伸ばした。

二度、三度引っ張ってようやく抜けた。汗で指がべたついていた。腕を震わせながら、アセプの手の上に差し出すと、ようやく武器が落ちた。

「スタンスティック……バットじゃないんだ?」アセプは片眉を上げた。リサは頷いた。頷いた拍子に見えていたアセプの額は、今は鼻と唇しか見えない。彼の目はいつも視界から外れてしまう。

リサは息を吐き、少し背筋を伸ばして男を見ようとした。アセプはスタンスティックを振り、コメントした。「中でガタガタ音がするな。何番煎じの偽物だこれ?」

リサは再び俯き、ひたすら頷いた。太ももに手を当て、ズボンの布を摘まんだ。

静電音が響いた。リサは驚き、音の方へ顔を向けた。アセプの指は流れるように動いていた。何の反応も示さない。「小さ」とアセプは呟いた。

リサはきつく目を閉じた。

違う。これで、訓練用ロボットを無力化できる。

暗闇の中、首筋に冷気を感じた。静電音が耳に侵入してくる。彼女は即座に目を開けた――光るスタンスティックが、首に当てられていた。

「ほら、小さいだろ」アセプは嘲るように言い、口元に笑みを浮かべた。

リサは首を拭った。スタンスティックがホルスターに収められていく動きを目で追った。アセプは手を後ろに引いた。

シュッ――

スタンスティックが投げられた。リサは驚いて両手を空中に出した。――遅かった。痛みが鼻と目に広がり、スタンスティックは太ももの上に無事に着地した。リサは痛む鼻を摘まみ、ぎゅっと押さえた。視界がぼやけ、正面を見つめる。霞が晴れ、ようやく――丸くて茶色い瞳が彼女を見つめているのが見えた。口からは煙が流れ出ている。

「ちょっとの間もう集中が切れてる。モンスターと戦う時はどうするんだ」チェルートの端が赤く光り、煙が一層濃くなった。

「――終わりだ」

煙の中からアセプの頭が現れ、彼は立ち上がって椅子を回った。そして何も言わず、リサの正面にある部屋へと消えていった。リサはスタンスティックを強く握りしめた。

「終わり……」と彼女は囁いた。スタンスティックをそっと撫でる。

「この武器は……私が選んだ」

記憶が蘇った。訓練のシーン――このスタンスティックで、何体ものロボットを無力化できたあの日。

「これだけで……十分」

リサは震えるため息をついた。頭を持ち上げ、部屋を見渡す。アセプの姿はどこにもない。彼女は立ち上がり、外へと歩いていった。

もう一度だけ振り返ったが、やはり誰もいなかった。長く息を吸い込む。胸が詰まった。外へ向かう足取りは重かった。

冷たく青い森が高い黄色いビルに変わり、排気ガスと二酸化炭素の混じった空気に包まれた。賑やかなはずの街が、その時だけひどく静かだった。風が顔を撫でたが、胸の詰まりは消えなかった。

「……これが、拒絶されるってこと?」

胸を強く握りしめた。目を固く閉じると、涙がにじんだ。しゃくり上げながら、息を吸い込んだ。

「これで十分だと思ってた……」

リサは胸を抱えた。

「痛い」

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