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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

聖女より私の知識が強かった

作者: にしはじめ


 最初に記載しておく。

 この世に聖女というものは存在しない。


============================================================


「以上の観点から、私が提唱した考察は裏付けられる……っと。できたぁ」


 学校へ提出する論文がたったいま完成したところだった。

 すでに時刻も深夜三時に近い。

 いい加減、そろそろ寝ないと明日に響く。

 明日は二コマ目からだし、五時間くらいなら寝る余裕はある。


 数時間、椅子に座りっぱなしでキーボードを打っていたので、かなり背中が痛い。

 うーん、と背伸びをして……ついでに、大きなあくびもしてしまった。


 二十三時くらいにブラックコーヒーを飲んで、カフェインを摂取したけど、もう切れてる頃だね。

 よし、とにかく寝るか。


 書き上げた論文をしっかり保存して、ノートパソコンの電源を切る。

 赤が入った場合すぐ修正できるように、大学へはノートまるごと持っていくつもりだ。

 ちょっと重いんだけどね。


 電源が落ちたことを確認し、そのままベッドへと潜り込む。

 すでにパジャマ姿だし、お風呂や歯磨きを終えてから作業を始めたので、そのまま寝られるのだ。

 目をふさぐと、すぐ睡魔に襲われた。

 あ、これ秒で寝られるやつだ。

 おやすみなさい。




 そして起きたら……見知らぬ天井が視界に入った。

 ……どういうこと?


============================================================


 わたしシャルロッテちゃん、ななさい。

 きょうも、わたしはひとりおへやで、ごほんをよんでるの。


 という前置きはさておき、どうやら私は異世界転生というやつをしてしまったらしい。

 ボスマンス侯爵家の長女なんだけど、ドアマットという扱いのようだ。

 というのも、ごはんは自分で用意する。部屋の中は見事なまでに、空に近い状態。

 衣類も普段着一枚と寝巻一枚だけだった。

 室内に調度品は一切なく、ベッドは立派だけど、ここ何か月も干されていない布団が敷かれている。


 この家が貧乏、というわけではない。

 だってね。部屋の外に出れば侍従、侍女たちが何人もいるし、和気あいあいとした雰囲気が漂っている。


 シャルロッテの記憶を覗いてみると、暴力や過度な教育は行われていなかった。

 しかし誰もがシャルロッテを無視している。

 なぜこのような扱いなのか?

 小さいころ……今でも小さいけど、二年くらい前かな、その当時はごく普通の生活だった。

 だが妹が出来てから、徐々に構われなくなり、一年前には完全にいないもの扱いとなっていたようだ。


 妹って何者よ?

 

 二年くらい前の話なら、現在妹は二歳だ。

 二歳児って、話すこともおぼつかなく、まだまだ手間のかかるお年頃なのは分かる。

 しかしこれだけ侍従や侍女がいて、人数が足りないはずがない。

 なぜシャルロッテが無視される、どころかごはんすら用意されない事態になっているのか。


 どうせ無視されるのだ。

 ならば堂々と姿を見せて、情報収集してやろうじゃないか。こちとら大学に通ってた、一応成人していた女なのだ。

 そして今の私は侯爵家の長女である。

 家族相手ならまだしも、侍従侍女相手なら、多少は上から目線でも問題はないはずだ。



 ということで、若くて気弱そうな侍女を一人、とっ掴まえて部屋まで連行してきた。

 若いといっても、高校生くらいかな? 前の私より少し年下くらいだ。

 この人たちは命令されることに慣れていたのか、ちょっとお嬢様っぽく上から目線で命令したら、簡単に落ちてくれた。

 助かるわー。


「で、貴女の名前はなに?」

「は、はいっ! オータン男爵家の三女でリタと申します」

「男爵とか、それはどうでもいいわ。リタ、今から私の問いに答えなさい、いいわね?」

「はい!」


 そうして、知っていることを洗いざらい吐かせた。

 まとめるとこうだ。


 妹は、教会認定された聖女であること。

 侯爵家としては、聖女を”長女”として、大々的に広く発表したいこと。

 幸いにも貴族のお披露目は八歳で行われるため、私という長女の存在は、なかったことにできること。


 ……ひっど!!


 なによそれ?

 そんな理由で、放置したの?

 腹が立ってきたわ。


「リタ、貴女はどう思ってるの?」

「え、えっと……私はご命令されただけで……」

「命令とかそんなのどうでもいいの。貴女自身がどう思っているのかを、知りたいの」

「貴族は家の利益を優先させるため、よくあることとは思います。しかし、さすがにお披露目すらされていない方を対象とするのは、いささか理不尽と思います」


 えーっと、要は貴族ならば受け入れろ。

 ただし、お披露目もしていない子供まで含めるのは理不尽、ということかな。


 しかし逆に考えると、お披露目さえ済ませれば、それはもう貴族の一員だ。

 貴族の価値観を受け入れるべき、ということか。

 きびしい世界だね。


 ここまで理由は分かった。

 では次に聞きたいのは、聖女とやらのことだ。

 聖女って何者?


「はい、聖女とは教会が認定された方です。この世の暗き闇を照らす存在、とされております」

「抽象的すぎて、わからないわ。具体的に何ができるの?」

「私も詳しくは存じません。聖女認定された方は、ここ何十年もいらっしゃらなかったので」

「ちっ、使えないわね」

「ひっ! で、ですが伝え聞くには、豊穣をもたらす方だと」


 豊穣?

 対象が国まで広がった座敷童子みたいなもの?

 しかし豊穣、ね。

 つまり国民が飢えず、たくさん食べられるような国になる、ということかな。それは素晴らしいと思う。

 でもね、そんな人を、どうやって教会が判別しているのか。


 魔法などという、不思議なものがないことは知っている。

 なぜ知っているのか?

 答えは単純。

 もし魔法が一般的なものならば、日常のどこかで目にする。

 逆に希少だとしても、侯爵という権力を持った貴族の家なら、一度くらいは見かけるはずだ。

 それに、目の前にいるリタからも確認したからね。


 では、聖女とはなにか。

 もしかして政治的ななにか?

 国ぐるみで聖女など、一種のスターを作って国民の目をそらす。

 プロパガンダだね。


 おっと、思考が逸れた。教会が聖女認定する方法だったね。


「何か聖女の証ってあるの?」

「ございます。左右の瞳の色が異なる方です。テオフィラ様は右目が金色、左目が青色のため、教会から認定されたと伺っております」


 あ、両目の色が違うやつだ。

 ヘテロクロミアだっけ?

 超珍しい体質の人だ。


 えっと、詳しくまでは覚えていないけど、完全に左右非対称の色だと、数万人から数十万人に一人とかだっけ?

 それくらいの確率なら、数十年に一人ということもある。

 だって元の世界に比べれば、こっちの人口はかなり少ないと思うしね。


 それにしても、なるほどねぇ。

 珍しい体質の子だから、神の祝福だ、なんて言って国と教会が祭りあげる。

 うっわ、ありえそう。


 それに巻き込まれたシャルロッテちゃん、可哀想すぎない?


 でも、これで方向性は見えた。

 つまり、聖女をプロパガンダとして豊穣を餌に、求心力を高めるのが国と教会ってことだ。

 それに我が家も乗っかったと。

 教会が聖女認定して、次世代の王族へ、我が家の妹が嫁ぐ。

 国も教会も我が家も、暫く安泰……と。



 では私がやることは?

 今のままだと、シャルロッテちゃんは要らない子、いつでもぽいっと捨てられる。

 むしろ、よく今まで捨てられてなかったよね。

 それに第一、妹ちゃんだって被害者だよね。判別もできない二歳児に、聖女だなんだと押し付けるなんて。


 ということで邪魔をする。

 聖女なんて、必要なかったんだ!

 こう認知させれば勝ちだ。



 よし、ではどう具体的に進めるか。

 現時点で、私は要らない子だ。何の権力も持っていない、ただの七歳児だ。

 ということで、権力を持っている味方を見つけよう。

 幸い私にはある程度の農業に関する知識を持っている。

 大学に感謝!


 あとは伝手だ。


「ねぇリタ、ものは相談なんだけど」

「……はい?」


============================================================


 そこからが大変だった。

 家をこっそり抜け出して、リタを通して男爵家へ売り込んだ。


 こっそりというけど、誰も相手にしてくれないから、抜け出すのは楽だったけどね。

 そして、リタの帰省に合わせて連れてってもらった。

 肝心のお金については、リタにお任せした。ごめんね、あとで返すから。


 そして御当主のおじさん相手に農業などの知識をプレゼンして、自分の価値を証明した。

 教授や助教授、ゼミの仲間相手にプレゼン練習していてよかったよ。


 「シャルロッテ嬢がただの子供でないことは十二分に理解した。ただし知識については、実績がなければ判断が付かない」


 ごもっとも。


「我が領地も困窮している。その分、人手は常に必要だ。ここでシャルロッテ嬢の意見を聞いて、実際試してみて、失敗した場合の損失は大きい」


 これもごもっとも。


「だが、今のままではじり貧ということも理解している。ここで賭けに乗るのも一興か?」

「オータン男爵、なるべく損失を抑える方法がございます。麦踏み、というものがありまして……」


 麦踏みってのは種をまいたあと、まだ背の低い時期に麦を踏みつけることで、植物が危機感を持って茎を増やすのだ。

 もっとも、踏むのは地面が乾燥しているときなど、条件はあるけどね。


 これを行えば収穫量は一割、上手くいけば三割増くらいになる。


「これなら単純であり、そこまで労力を必要としませんし、効果もかなり見込めます」

「うーむ。踏んでも大丈夫なのかね?」

「麦は非常に強い生命力を持っていますので、執拗に踏みつけない限り、枯れることはありません」


 まだ迷っている男爵。


「失敗しても今年一度きりですし、成功すれば来年以降ずっと使えます。まず一区画のみ試してみれば?」

「そうだな、私は賭けたのだ。やることに決めた、これは当主判断である」



 そこから数か月後、実際に麦の収穫量は増えた。

 三割は無理だったが、他の区画と比べ二割少々増の収穫量となったのだ。

 よかったぁ、自信満々に言っちゃったけど、増えなかったらどうしようかと思ってた。


 これにより、男爵領は全区画で麦踏みを実施。

 麦踏み以外にも、間引きやうねを盛り上げること、作付け時期を数日ずらすなどの対策を行った。

 三年後には、ノーフォーク輪作……は難しいので、区画を分けて豆と麦を交互に育てた。




 そして六年が経過した。

 男爵領は、過去に比べ最大五十パーセント増しの収穫量となった。

 もちろんオータン男爵も、にこにこ笑顔である。


 作付けには時間がかかるため、多くの空き時間があった。

 もちろんチャレンジするのは、天然酵母だ。

 だってこれまで食べられていたパンは、凶器にもなりそうなくらい非常に硬く、それでいて全く美味しくないのだ。

 スープなどに浸さないと、食べられないくらい。


 しかし天然酵母を作る事に成功してから、変わった。

 さすがに日本で売られているようなパンには劣る。

 酸味は強く、そんなに美味しくもない。

 でも腹持ちがよくて、以前より比べ物にならないほど柔らかくなった。


 そして、ピザも作ってみた。

 こちらは結構成功したんじゃないかな?

 ピザ生地にチーズと豆を載せただけのシンプルなものだ。

 それでも焼きたてはびっくりするくらい美味しかった。

 ……チーズが美味しいだけ、という説もあるけどね。



 こうして豊かになった男爵領の噂は近隣のみならず、王都にまで広がった。

 それに加え、天然酵母を使ったピザやパンの存在もある。



 教会は大々的に、聖女のおかげだ、と宣伝し始めた。

 でも、聖女は全く関係ない。

 私の知識と、それ以上にオータン男爵含めた領民たちの力である。


 当然真っ向から教会に盾突いた。

 こちらは聖女の奇跡だなんて曖昧なものではない。

 知識と技術がもたらした結果だ。

 特別なものは必要でなく、誰でも出来る方法である。


 技術に精通した民を各地に派遣し、着実に成果を残し、味方を増やしていった。

 教会派と男爵派の二つに分かれたが、次々と実績を作っていく男爵派が強くなり、最終的には教会が折れた。


 奇跡がなくとも、技術によって畑は実り、パンも美味しく食べられる。

 聖女は必要なかった。


============================================================


「……なんだかものすごく長い夢を見ていた気がする」


 スマホのアラームで目覚めた私は、なんだか体がだるく、それでも何とかベッドから起き上がった。

 夜中の三時まで作業したのは失敗だったかなぁ。

 それにしても、何の夢を見てたっけ?

 全然記憶に残ってない。


 眠気覚ましにシャワーを浴びて、ノートを持って大学へと行った。

 夢は気になるけど、今は現実。昨日書いた論文、通るかなぁ。



 ──お疲れさまでした。貴女にほんの少しの幸せを。



 ふっと、どこからか誰かの声が聞こえた気がした。

 振り向いても、誰もいない。

 気のせいかな?





「え? 赤なしの一発? マジで? やったぁ!!」




論文なんてきらいだー

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― 新着の感想 ―
一生を終えた後、魂を元の時空に送り返したワケか
はっっ…Σ(ノ゜Д゜)ノ派遣?!…しかも本人に未承認? (夜遅くまで起きてレポートしてたのに…なんてブラックな!) 騙されてるぞー( `д´)!ヒロイン! レポート一発通過ゎ《努力》か?…はたまた聖…
急に無能になるシャルロッテちゃんの今後が心配になる 男爵たちはちゃんと世話してくれるのかな
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