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「妹にしか思えない」と婚約破棄したではありませんか。今更私に縋りつかないでください。  作者: 木山楽斗


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第15話 これからのこと

 私とクレイド殿下は、ギルトア殿下と向き合って座っていた。

 ハウダート伯爵夫人に関する事件は、大方片付いたといえるだろう。そんな中、私達は二人で彼に呼び出されたのである。


「さて、まずはあの二人がどうなるかを話しておくべきだろうか」

「ハウダート伯爵と夫人のことですか、大方の予想はついています。伯爵は極刑、夫人は終身刑でしょう?」


 ギルトア殿下の言葉に対して、クレイド殿下はそのような回答を返した。

 その意見には、私も同意である。状況的に考えて、二人はそのような罰を与えられるようになるだろう。


「クルレイド、君はまだまだ見通しが甘いようだね。もう少し考えてみたまえ」

「違うのですか?」

「ああ、今回は違う結果になるだろう」


 しかしギルトア殿下は、クレイド殿下の意見を切り捨てた。

 それに対して、私達は顔を見合わせる。違う結果など、まったく考えていなかったからだ。


「まさか、何かしらの司法取引を働くという訳でしょうか? それは感心できませんよ、兄上」

「そういう訳ではないさ。ただ、これから何が起こるかを一度冷静になって考えてみてくれ」

「そう言われましても……」


 ギルトア殿下は、またも他人の重大な事柄をクイズにしていた。

 それはあまり褒められたことではないだろう。ただ、私達としてはできればこのクイズに正解しておきたい所だ。


「重要なのは、我々のことだ、クルレイド。今回の件で、父上はミスを犯した。その責任を取らなければならないだろう」

「……父上は王位を退くということですか? なるほど、少々早すぎるような気もしますが、仕方ありませんか。夫人に良いようにされていた訳ですし」

「そうすると何が起こる」


 ギルトア殿下は、笑みを浮かべている。

 そこで私は理解した。彼が何を考えているかということを。


「ギルトア殿下は、恩赦が与えられると考えているのですね?」

「ああ、恐らくはそうなるだろう。ハウダート伯爵の処刑が実施される可能性は低い。父上はあれで人情を重んじるからな。伯爵の処刑は、回避するだろう」


 ギルトア殿下も、ハウダート伯爵の処刑の実施をそこまで望んでいる訳ではないのだろう。それは表情から伝わってくる。

 彼は体の芯まで冷たい人間という訳ではないようだ。できることなら、命を奪うようなことはしたくないのだろう。


「まあそれでも、ハウダート伯爵は終身刑だ。夫人の減刑がなされるとしても、どの道彼女も出て来られない。その結末は僕にとって不満はないものだ」

「そうですね。二人が自由にできないのなら、特に問題はありませんか……」


 ギルトア殿下とクレイド殿下は、向き合ってそんな会話を交わしていた。

 そうやって頷き合っている姿は、よく似ている。やはり二人は、兄弟ということなのだろう。


「さて、ハウダート伯爵夫妻に関しては、もういいだろう。次は我々の問題について話し合わなければならない」

「我々……それはつまり、俺と兄上ということでしょうか?」

「そういうことになる。先程も言ったが、父上は今回の件で責任を取り退位するだろう。その場合、当然僕か君のどちらかが王位を継がなければならない」


 ギルトア殿下は、先程までとは打って変わって真剣な顔をしていた。

 それは当然だろう。次の王、それはハウダート伯爵夫妻の今後よりも、重要な話だ。

 ただ、それを話す場に私がいるというのは変な話である。正直な所、とても場違いだ。


「いつかそうなるとは思っていましたが、兄上が王位を継ぐ訳ですか……」

「クルレイド、僕と君のどちらが王位を継ぐかは、正確には決まっていない事柄だが?」

「明言されているという訳ではないかもしれませんが、俺達も含めて全員わかっているはずですよ。王位を継ぐのは兄上だと」


 クレイド殿下の言葉に、私は少しだけ頷いた。

 この国では、基本的に長男が家を継ぐ。それは王位にも適用されるものだ。

 ギルトア殿下の素行なども特に問題視はされていないし、何もなければ彼が王位を継ぐはずである。それは国民も、わかっていることだ。


「僕としては、君に王位を継いでもらいたいとも思っているのだがね」

「え?」

「兄上、なんですって?」


 そんな私は、ギルトア殿下の意見に思わず声を出してしまった。

 クレイド殿下に王位、それはまったく考えていなかった可能性である。もちろん王位を継ぐ資格はあるが、驚くべき選択だ。


「王としての素質は、君の方があると思っている。僕という人間は、中々に汚れているからね」

「汚れている?」

「クルレイド、君は清廉潔白だ。どこまでも真っ直ぐな君こそが、王には相応しいだろう。君ならば、真に民のために動くことができる」


 ギルトア殿下は、そこで少し悲しそうな表情をしていた。

 そして彼はゆっくりと目を瞑り、その後に首を振る。


「だが、そういう者が王になることを今の世の中は許容してくれないこともまた事実だ」

「兄上?」

「やはり僕が、王になるしかないのだろうね。クルレイド、君は王位を継ぐには清廉潔白過ぎる。悲しいことだがね……」

「兄上、それは……」


 ギルトア殿下は、意見を一気に反転させた。

 いや、そういう訳ではないのかもしれない。彼が先程まで語っていたのは、願望であると考えることもできる。

 できることなら、クレイド殿下に王位を継いでもらいたい。しかし、今の国の現状がそうさせてくれない。それをギルトア殿下は、嘆いていたのだろうか。


「僕が王位を継ぐ。まずはそれを前提としよう。次に話すべきは、君の今後だ」

「俺の今後ですか……」

「ああ、しばらくは僕の元で暮らすことになるだろう。君はまだまだ子供だ。少なくとも成人するまでは、僕の庇護下にいればいい。まあ、父上もすぐに退位するという訳ではないしね」


 ギルトア殿下は、苦笑いを浮かべていた。

 クレイド殿下は、私よりも年下である。流石にそんな彼をすぐに放り出すようなことはしないようだ。


「それからのことは追々と考えていく必要があるが、ここで一つ提案しておきたいことがある」

「提案したいことですか?」

「ああ、君の婚約者に関してだ」

「……え?」


 そこで私は、ギルトア殿下の視線がこちらに向いていることに気付いた。

 その視線の意味を、私は考える。ただ、考えるまでもなかった。話の流れ的に、それはクレイド殿下の婚約者候補を指す視線なのだろう。


「あ、兄上、まさかとは思いますが……」

「ああ、僕はレミアナ嬢と婚約して欲しいと思っている」

「やっぱり、そういうことですか……」


 ギルトア殿下の言葉に、私はゆっくりとため息をついた。

 ここに私が呼ばれた意味が、わかってきた。この話のために、私は同席させられたということなのだろう。


「クルレイド、君の婚約者としてレミアナ嬢程適切な者はいないだろう。彼女……というよりも、ラムコフ侯爵家の者達は信用できる。こんなことがあった後だからね、僕は王家の婚約者としてハウダート伯爵家の手が及んでいない者達がいいと思っている」

「そ、それは確かにそうですが……しかし兄上、話が早急過ぎるでしょう」

「レミアナ嬢、あなたにとっても悪い話ではないはずだ」


 私は、ギルトア殿下の提案について考えていた。

 王家との婚約、それは非常に魅力的だ。クレイド殿下のことはそれなりに知っているし、彼はロンダーとも仲が良い。婚約者として、これ程いい相手は中々いないだろう。


「……もちろん、お父様の意見などを聞く必要はありますが、私としてはその婚約は受け入れたいと思います」

「レ、レミアナ嬢?」

「それならば、こちらの方からラムコフ侯爵に掛け合うとしましょう」


 私の言葉に、ギルトア殿下は笑顔を返してくれた。

 この婚約には、きっとお父様も賛成してくれるだろう。いい婚約であることは、間違いないのだから。


「……ま、待ってください!」


 しかしクレイド殿下は、何故だかとても動揺していた。

 もしかして、私との婚約が嫌なのだろうか。それはなんというか、少しショックである。


「クレイド、どうかしたのかい? 君は、レミアナ嬢の婚約に何か不満でもあるのかな?」

「不満、という訳ではありませんが……」


 ギルトア殿下の質問に、クレイド殿下は言葉を詰まらせた。

 それは私に気を遣ってのことかもしれない。クレイド殿下は紳士なので、本人を前にして婚約に不満があるとは言いにくいだろう。


「クレイド殿下、私に気を遣っていただかなくても結構ですよ。不満であるなら不満であると、はっきりとそう告げていただいて大丈夫です」

「あ、いや、レミアナ嬢、そういうことではないのです。婚約相手があなたであるなら、光栄の極みです」

「お、お世辞ですか……?」

「だからそういう訳ではありませんよ。本当に光栄に思っているんです」


 クレイド殿下は、私に勢いよく反論してきた。

 なんというか、彼は必死である。その言葉に恐らく嘘はないだろう。


「でも、それならどうして、そんなに慌てているんですか?」

「そ、それは……」

「ふふっ……」


 クレイド殿下の慌てる様子に、ギルトア殿下は噴き出していた。

 今まで我慢していたのだろうか。彼はとても楽しそうに笑っている。


「あ、兄上も人が悪いですね。こうなることをわかっていて、婚約の話を持ち掛けたのでしょう?」

「……いや、すまない。ただ、レミアナ嬢が君の婚約者として適切であるということは嘘ではない。今の状況で信じられる貴族というのは貴重だ」

「それはわかっています。わかっていますが……」


 笑うギルトア殿下に対して、クレイド殿下は立ち上がって抗議していた。

 どうやら、二人の間でこの状況は腑に落ちているようだ。

 しかし私からしたら溜まったものではない。二人だけで話を進められると困ってしまう。


「あの、これはどういうことなんですか?」

「レミアナ嬢、これはその……」

「何、ほんの少しの戯れさ。レミアナ嬢が気にするようなことではない」


 私の質問を、ギルトア殿下ははぐらかしてきた。

 私には教えてくれないということだろうか。かなり気になるのだが。


「……兄上、事情を話します」

「ほう?」

「このまま訳もわからないまま婚約するというのは、どうにもばつが悪いですからね」

「なるほど、そういうことならば僕は席を外すとしよう」

「あ、えっ?」


 クレイド殿下の言葉に、ギルトア殿下は素早く立ち上がった。

 彼はそのまま、部屋から出て行く。言葉通り、席を外したようだ。なんというか、迅速過ぎる対応である。

 よくわからないが、残ったクレイド殿下が事情を話してくれるらしい。私はそれを聞いてから、色々と判断すればいいのだろう。

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