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41 これが……わたし……!?

「早乙女さん! 綺麗ですわ〜!」

「そうかな……?」


 綾小路が俺のウェディングドレス姿を見て歓声を上げた。

 俺からすると、TPOに合わせて上品かつシンプルなドレスを身につけている綾小路のほうがよっぽど綺麗だ。


 結婚式。

 ではなく、チャリティーイベント当日。


 ウェディングドレスの被写体に選ばれてしまった俺は、朝早くに、教会から改装されたというチャペルへ訪れていた。


 ニコニコした綾小路に迎えられ、俺はパンツスーツを着用したデキる大人風の女性たちの手によって、用意されていたウェディングドレスに着替えさせられた。


 着替えが終わった俺を歓声とともに出迎えてくれた綾小路は、そのまま、また違う部屋へと俺を連れて行く。

 そこには、化粧担当らしい女の人たちが待ち構えていた。


「よろしくお願いしまーす!」

「よ、よろしくお願いします……」


 笑顔のハキハキした挨拶から、プロ感が漂っている。

 俺は言われるがまま大きな白いドレッサーの前に座り、顔に色のついた粉だの肌色の液体だのを塗りたくられていった。


「い、伊集院は?」

「伊集院くんは別室で着替えていますわ。早乙女さんのヘアメイクが終わったら、顔合わせをする予定ですの」


 伊集院も俺と同時刻の待ち合わせを要求されていた。

 彼もまた俺のように、ヘアメイクを施されている真っ最中なのだろうか。

 あの整った顔立ちにこれ以上、手を加える余地があるとは思えないが。


「──終了です。お疲れ様でした」

「あ、ありがとうございました……!」


 おもむろにヘアメイクさんが終了を告げた。

 テキパキと広げた化粧道具を片付けていく。

 鏡に映った俺は、美少女からハイパーウルトラ美少女へと変貌を遂げていた。


「これが……俺、なのか……?」


 この世界に転生して、初めて鏡を見たときと同じ感想が口から漏れていた。

 ピンク色で統一された目元、頬、口紅。髪もアップヘアになっているが、語彙力のない俺では、この髪型の名前がわからない。

 三つ編みがたくさんあるから、とにかく手が混んでいることだけは理解できた。


「う、美しいですわ……! 早乙女さん……!」

 隣で綾小路が感涙している。


「いや、泣くほどじゃあ……」

「……早乙女?」


 綾小路を宥めていたら、また別の声に呼ばれた。

 声の主のほうに振り向くと、扉が開いている。

 さっきまで仕事をしてくれていたヘアメイクさんと入れ替わりに、伊集院が入ってきた。


「あ、伊集院……、似合ってんな……」


 伊集院と白いタキシードはバカみたいに似合っていた。

 アクアブルーのサラサラヘアは前髪をあげていて、いつもよりキリリとした印象になっているし、細身の体のラインがよく映えるタキシードは、伊集院のために作られたと言われても信じてしまいそうだ。


「早乙女……、綺麗だな……」

 ほろり、と。

 伊集院の目から一筋の涙が溢れた。


「えっ!? えっ!?」

「綺麗ですわ、早乙女さん〜!」

 綾小路は相変わらず泣いているし、伊集院は静かに泣いている。


 どういう状況なんだ、これ!?

 俺のウェディングドレスには、そんな破壊力が秘められていたのか!?


「泣くなよ、お前ら〜」

 とりあえず、引退試合を終えた野球部よろしく、俺は二人の肩を抱き寄せた。

 二人は俺の胸で泣いている。

 ……なんだこりゃ。


 その後、ギャラリーもチャペルに続々と到着した。

 みんなそれぞれチャペルという舞台にふさわしい正装をしていて、普段なかなかお目にかかれないレアな格好に、ドキッとした。


「乙女ちゃーん、きたよ〜」

「南雲! 似合ってんな!」

「えへへ〜、ありがとう」


 南雲はベージュのチェック柄のスーツを着ていた。

 ミルクティー色の髪とマッチして、良い感じだ。

 俺がメイクをしてもらった部屋までわざわざ足を運んでくれた南雲は、「どっこいしょ」と高級そうなソファに座り込んだ。

 俺はその対面にあるドレッサーの椅子に腰をかける。


「それで、乙女ちゃん……、聞きたいんだけどさ」

「うん?」

「本当に、これでいいの?」


 これでいいって……。


「これでいいもなにも、投票で決まったことだろ? それに伊集院と写真撮影をしたからって、なにが変わるわけでもあるまいし……」

「本当に、そう思ってる?」

「…………」


 南雲がいつになく真剣な目線を向けてくる。

 声のトーンも低く、誤魔化しは通用しなさそうだ。


「もう一度聞くよ、乙女ちゃん」

 南雲が息を吸う。

「生徒会長と不良少年、どっちを選ぶの?」


 ……今、なのか?

 今が、その選択のときなのか?


「早乙女さん!」


 答える寸前、綾小路が電子端末片手に部屋に入ってきた。

 その後ろには、伊集院。


「あら、南雲さん。これから撮影の打ち合わせですので、少々席を外していただけますか?」

「……はーい」

 南雲は俺に意味ありげな視線を残して、素直に退出していった。


「観覧客のみなさんも、かなりいらっしゃっていただいていますわ! 学校をあげてイベントを開催した甲斐があります!」


 今朝、会ってからずっとニコニコが絶えない綾小路。

 俺は窓を見やる。

 ちょうど教会の門が見える場所だった。

 シックな正装をした高校生たちがたくさん入場してきている。


 男女比はやはりというか、圧倒的に女子が多かったが、男子もちらほらいた。

 しかし、鬼塚の姿は見つけられなかった。


 ……鬼塚は来てくれないのかな。


「では、撮影会の段取りを説明しますわね……、早乙女さん?」

「あ、いや、なんでもない。続けてくれ」


 さっきまで南雲が座っていたソファに、伊集院が腰をかけた。

 綾小路は立ったまま説明を始めようとしている。


 いかんいかん、気を引き締めないと。

 では、と綾小路が咳払いをする。


「テーマは新郎新婦入場です。まず、伊集院さんが入場します。その後、早乙女さんが入場し、お二人には誓いのキスの代わりに、指輪をはめていただきます」


 それで撮影会は終了です、と綾小路は説明を終えた。

 思ったよりあっさりしているんだな。

「……分かった」

 と、伊集院がうなずく。

 俺もうなずいた。


「それでは、早速、準備に取り掛かりますわ!」

 綾小路は伊集院に二つの指輪を手渡し、颯爽と消えてしまった。

 裏方の仕事が溜まっているんだろう。

 彼女は大人になったら、キャリアウーマン間違いなしだな。


「早乙女……」

「ん!? なんだ!?」


 気づいたら、伊集院がソファから立ち上がり、俺の隣まで来ていた。

 彼の細くて長い指が、俺の頬をそっと撫でる。


「正直、俺はお前とこういう格好で撮影できて、すごく嬉しい。独りよがりかもしれないが、言わせてくれ。ありがとう」


 伊集院が微笑んだ。

 俺はその笑顔に、なぜかズキンと胸が痛んだ。

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