4 他の登場人物たち
「きりーつ、れい」
午後の授業も無事に終了した。
昼休みは酷い目に遭った……。
だがそのおかげで、ここがどういう世界で俺が何者なのかを知ることができた。
俺はこの少女漫画の世界で、のうのうと過ごすわけにはいかない。
平和ボケしたまま生きていれば、イケメン達に迫られどちらかのイケメンと付き合うことに……。
それだけは絶対に避けねばならない!
俺の当面の目標は──恋愛フラグをへし折ること!
おそらく少女漫画のストーリー的に、大きなラストイベントが待ち構えているはずだ。
なんとしても、ラストイベントで誰とも結ばれたくない!
拳をぎゅっと握りしめて、ガッツポーズをする。気合入れだ。
あいつら男どもがときめくようなシーンを、一瞬だって作ってやるものか!!
「あの……早乙女さん?」
「はい?」
鈴が鳴るような声が、俺の名前を呼んだ。
金髪の縦ロールが似合う美少女。
この女の子は、確か……綾小路麗華。
お金持ちのお嬢様だったはずだ。
いわゆる主人公のライバルキャラだが、高貴なのに嫌味たらしくない優しい性格。
子供ながらに、綾小路が一番好きなキャラだったのを思い出した。
綾小路が両手でお上品にスクールバッグを持ったまま、困惑した表情で俺を見つめていた。
「その……不思議な行動をされていたので、あまり気分がよろしくないのかと思って……」
言われて、俺は己を見つめ直す。
帰りの挨拶を終えた途端に、ガッツポーズする帰宅部の女。
頭がおかしいんじゃないかと。遠回しに言われてる!?
「い、いや、元気、元気! この通り!」
右肩をぐるぐる回してみせると、綾小路はホッと息をついた。
「それならよかったですわ。ごきげんよう、また明日」
どうやら、嫌味ではなく本気で心配していただけだったらしい。
そういや、綾小路ってそういうキャラだったわ……。
「ご、ごきげんよう……」
不慣れな挨拶を返すと、綾小路は満足げに微笑んで教室を出て行った。
「……かわいい……」
ポソっと。
口から漏れる感情。
いけない、と思った。
今の俺は女子なのだから。
女子同士の恋愛について、俺はちっとも知らない。
そもそも、綾小路が同性に好かれてどう思うかも皆目見当がつかない。
これはきっと、しまっていたほうがいい感情……。
「早乙女さんって、女の子が恋愛対象なの?」
「うわっ!?」
急に図星を突かれて、心臓が口から出るかと思った。
気配もなく後ろから声をかけてきたのは、眠そうなタレ目が特徴的な背の低い男子。
ふわふわの癖毛とミルクティーみたいな髪色が、小動物を連想させる。
名前は、確か……南雲。
南雲湊だ。
「な、なんだよ、南雲〜? 急にどうした? 悩みがあるなら聞くぞ?」
笑顔を取り繕って、南雲の背中をバシバシ叩くと、
「生徒に人気なさそうな体育教師のノリ、やめてくれる?」
と、俺の手を跳ねのけた。
「ていうか、そんなキャラだったけ? 早乙女さん」
うぐ……っ。
男相手になると、途端に馴れ馴れしくなっちまう。
イケメンに好かれるのもごめんだが、不審がられて学校で浮くのも嫌なんだ、俺は。
これは態度を改めないといけない。
南雲は、一人反省する俺を無視して続ける。
「頭おかしくなっちゃった?」
こいつ、ストレートに頭の心配をしてきやがった。
少女漫画の人気キャラじゃなかったか? お前。
記憶の糸を手繰り寄せるが、南雲はメインヒーローではない。
主人公の恋愛お助けキャラかつ、当て馬キャラだった。
本当に、これから俺に恋をする人間の態度か?
「はっ倒すぞ!」
「お〜、怖」
わざとおっかなびっくりした仕草をして、南雲は教室を出て行った。
なんなんだ、あいつ。
ちょっかいかけやがって。
「もしかして、これで主要キャラは全員会ったか……?」
メインヒーローの二人、ライバルキャラ、当て馬キャラ。
俺を含めた五人で、これから物語が展開していくわけだ。
肝心のストーリー、全然覚えていないんだけどな!
ていうか、こういうのって普通、好きな作品の主人公に転生しないか?
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