37 どっちを選ぶの?
「もう一人、ヒロインを仕立てあげようと思うんだ」
「……はぁ」
翌日の昼休み。
俺は南雲と屋上の、いつもの給水塔裏で、作戦会議を決行していた。
綾小路のお見合いをぶち壊したこと、綾小路に告白されたこと、伊集院と鬼塚を仲直りさせたこと。
それらを事細かに、南雲に説明した。
今日は弁当ではなく購買のパンを頬張りながら、南雲は興味があるのかないのか読めない相槌を繰り返していた。
「……他の人に取られるくらいなら、僕がキスしちゃえばよかった……」
「なんか言ったか!?」
「なーんにも」
ときどき、物騒なことをつぶやいてくるな……。
「それで? 乙女ちゃん的には、新キャラを増やそうってことなの?」
「人をキャラ呼ばわりはしたくないけど……、まぁそういうことだ! 綾小路の気持ちには答えられないが、好意を踏みにじりたいわけじゃない! そしたら、もう綾小路以外の女子に、二人を押し付けるしかないだろ?」
「……うーん」
あれ?
名案だと思ったのに。
南雲は俺を天才と褒め称えるどころか、渋い顔をして首を傾げていた。
「な、なんかおかしかったか……?」
不安になって問いかける。
南雲はチョココロネをアイスココアで喉に流し込んだ。
どういう味覚してんだ。
「……綾小路さんの気持ちを踏みにじりたくないのは、よく分かったんだけどさー、生徒会長と不良少年の気持ちは踏みにじっていいわけ?」
「え?」
伊集院と鬼塚の気持ち?
「だって、二人は好きな人がいるって言ったんでしょ?」
「だから、二人の恋を応援するっていう話で……」
「それが、乙女ちゃんだったらどうするの?」
……俺?
俺のことを好きにならないように、今まで必死でルート改変を行なってきたのに?
「まっさか! 俺じゃないよ!」
「……僕も超能力者じゃないから、予想の域を出ないけどさ……。乙女ちゃんだったら、どうするのって話。乙女ちゃんが好きなのに、乙女ちゃんから他の女子と付き合うように勧められたら、すっごくショックでしょ?」
僕もショックだった、と南雲は付け足したが聞こえないふりをする。
「それは、二人の気持ちを踏みにじってることにはならないの?──それとも、知らないふりをすれば済むの? それって、ずるくない?」
ぐいぐいと南雲が近づいてくる。
熱のこもった演説とともに。
「ま、待ってくれよ……! 二人が俺を好きな前提で話が進んでるぞ! 確定じゃないんだから、そんなに責めてくれるなよ……」
「……確定みたいなもんでしょ」
まぁいいよ、と南雲は話を終わらせた。
俺は一旦ホッとする。
「でも、一つだけ聞かせて。生徒会長と不良少年、どっちかを選べって言われたら、どっちを選ぶの?」
どっちかを選べ?
なんだその、少女漫画にありそうな二択は。
どっちかを選ぶどころか、どっちも選ばないように過ごしてきた俺に対して、なんて質問をするんだ。
「…………」
しかし、南雲の目は至って真剣、そのものだ。
どちらも選ばない、という選択肢はないのだろう。
どっちかを選ばないと死ぬ、みたいな条件下で選べと聞いてきている。
茶化して誤魔化せそうもない。
そこで、俺は初めて、二人を恋愛対象として比較した。
不良だけど心優しい鬼塚。
真面目でクールだけど放って置けない伊集院。
少女漫画ヒロインの早乙女乙女は、いったいどっちを選んだんだろう?
「言っとくけど、ヒロインとしてじゃなくて、ちゃんと『キミ』として選んでね」
南雲がしっかり釘を刺してくる。
恋愛対象が女子である男の俺が、男を選ぶなんてちょっとどうかしているが、それでも真剣な南雲に乗せられて、俺も真剣に熟考した。
暖かくなってきた春の終わりの風が、俺と南雲の髪を撫でる。
「俺は……──」
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