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3 俺はお前らを好きにならない!

 なんとか午前授業をやり過ごした昼休み。

 校舎中をうろついてようやく発見したのは、人気のない裏庭。


「はぁ……。ぼっち飯か……」


 前世では部活の友達やクラスメイトと和気藹々と昼休みを過ごすことが多かったので、久しぶりのぼっち飯だ。

 女子に転生したからと言って、急に女子だけの輪に入れるほど俺のコミュ力は高くなかったのだ。


 木々の間から差し込む太陽光が眩しい。

 風は少し冷たくて、春の陽気を感じさせる。


 俺は比較的綺麗な木の根元に腰を下ろし、弁当を広げる。


「にゃあ」


 学校にそぐわない鳴き声がどこからか聞こえ、辺りを見回すと、子猫が木陰からのそのそと出てきた。

 目がくりっくりの三毛猫だった。


「学校に猫なんているんだ……」


 前世の高校生活三年間では遭遇しなかったな。


「にゃお」

 人を恐れていないのか、俺のすぐそばまでやってくると、ころんとお腹を空に向けて寝転んだ。


「か、可愛い……!」

 こんな風に愛想を振りまけば人間から餌をもらえるなんて、誰から教わったんだ?

 まったく、その通りである。


「何か食べたいのか?」


 猫が食べても害のなさそうな食べ物が入ってないか、弁当の中身を物色する。

 冷凍食品のオンパレードで、いかにも猫が腹を壊しそうなラインナップだった。

 冷凍食品は美味いが、動物に与えるなら話は別である。


「ごめんな、お前が食えそうなもん、持ってないや……」

「にゃあ〜!」

 俺の言葉が分かるかのように、猫は不服そうに鳴いた。


「そんなこと言われても、お前も腹壊したくはないだろ……?」

「にゃお〜ん!」

「えぇ……」

 猫相手に一生懸命説明するが、鳴き声はさらに強くなるばかり。


 ……どうしたもんか。

 俺は頭を悩ませる。


 学校の購買に猫の餌なんて、売ってるわけないし。

 今からコンビニにダッシュして、猫用の餌でも買ってこようか……?

 先生にバレなければいけるか?


「にゃにゃぁ〜ん!」

「わ、分かった! ちょっと待ってろ、コンビニ行ってくるから」


 俺が猫の圧に負けて、通学路で見かけたコンビニまでダッシュしようとした、そのときだった。


「どけ!!」


 ──そうして、鬼塚が空から降ってきて冒頭に戻るわけだ。


 ……ん?


 と、ここで俺は一つの違和感を覚える。


 生徒会長と……仲が悪い不良……?

 少女漫画……。

 木の上で昼寝……。

 

 ──あっ。

 

 点と点が線になった感覚が、俺の脳天をぶち抜いた。


「ああああああああああっ!!」


 急に大声を出した俺に、高身長の二人組がびっくりした表情で俺を見つめていた。

「な、なんだよ急に……」

「驚かせるな……」

 とち狂ったのか、とでも言いたげな二人の視線を浴びせられる。

 しかし、こっちはそれどころではなかった。


 ……思い出した!


 こいつら、昔、姉ちゃんから借りて読んだ少女漫画に登場するキャラだ!

「不良の鬼塚おにづか!」

 びしり、と鬼塚を指差す。ビクッと鬼塚の肩が跳ねた。

「生徒会長の伊集院いじゅういん!」

 次に、伊集院を指差す。伊集院もビクッとした。


「俺は、早乙女乙女さおとめ おとめ!」

 少女漫画の主人公でありヒロイン!

 

 つまり、俺は──!


 少女漫画のヒロインに転生しちまったってことか!!


 思い出せ、はるか昔、小学生の頃に途中まで読んだ少女漫画のストーリーを!


 確か……確か……!


 犬猿の仲の二人が、俺を取り合う物語だったはずだ……!


 最終的にどっちとくっついたかは──覚えてない! 

 くそ、肝心なところを!


 つまり、このまま流れに身を任せていたら……!


「こいつらに迫られちまうってことか……!?」

 口をついて出た言葉に、事態の重さを再認識して俺は頭を抱える。


 男に迫られるなんて、俺は絶対に嫌だ!!


 まだ彼女ができたことも、告白したこともされたことも。

 女の子と手を繋いだこともない!


 それが、こんなところでイケメンかイケメンの選択を求められるなんて……!


「お、おい……」

「なんなんだ……?」


 突如として叫んだかと思えば、頭を抱え始めた俺を本気で心配し始めた大男二人が、おっかなびっくり俺に手を伸ばしてきた。


 パァン!


 俺は、その手を払いのけた。

 そして、再び二人に人差し指を突きつける。


「いいか! よく聞け!」

 伊集院と鬼塚は俺に圧されるがまま素直に黙った。


「俺は! 絶対に! お前らのことを好きにならない!!」


「…………」

「…………」


 はぁはぁ、と息切れしてから、とんでもないことを言ってしまったことに気づく


 こいつらを本気で怒らせたら、普通にワンパンされちまう……!


「じゃ、じゃあ、そういうことだから!」

 そう言って、俺は出せる全速力を発揮した。


「はぁ……?」

「どういうことだ……?」


 突然のこと続きで、二人がまだ呆然としているのをいいことに、俺は食べかけの弁当を拾ってさっさとその場から退散した。


 好きにならないって宣言する少女漫画のヒロインなんていないだろ……!


 知らんけど!




***




 伊集院と鬼塚は、走り去っていく早乙女の後ろ姿を、ただ見送ることしかできなかった。


 二人とも、そのよく整ったルックスで、女子から言い寄られた回数は両手両足では数え切れず、バレンタインデーなどはほとほと憂鬱なイベントでしかない──そんな人生を歩んできた。


 好意を寄せられた経験は星の数ほどあれど、わざわざ面と向かって『好きにはならない』と宣言されたのは、初めてのことで。


「なんだ、あいつ……」

 と、鬼塚はつぶやいた。

 心なしか、その口元は笑みを浮かべている。


「おもしれー女……」


 鬼塚の言葉に、伊集院が小さくうなずいた。


「……ふっ。今日ばかりは、お前に同意する」


 犬猿の仲の二人だったが、このときだけは、意見が合致したのだった。

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