21 ご主人様とペット
翌朝。
教室に入ると、いつもは遅刻ギリギリに登校してくる南雲が俺より先に席で寝ていた。
珍しいこともあるもんだ。
昨日、南雲父の会社に突撃してからどうなったのか気にならないと言ったら嘘になるが、他人の家庭環境に首を突っ込むのも野暮というものだろう。
寝ているところを起こすのも悪いしな。
南雲を無視してスクールバッグを机に置いた。
「……おはよ、乙女ちゃん」
「……おはよう」
鞄を机に置いた音で起きたのか、机に突っ伏していた南雲は伸びをした。
窓から差し込んでくる日光を南雲の色素の薄い猫っ毛がキラキラと反射する。
「乙女ちゃん、今日はお昼、作戦会議しよっか」
「作戦会議?」
「そう」
南雲は立ち上がり、俺の背後に回った。
俺の左肩に、顎を置いて、囁く。
「乙女ちゃんが、恋愛フラグを立てないようにするための、作戦会議」
……近いな。
いや、猫とご主人様の距離感なんて、もともとこんなもんか。
正直、この世界でどう振る舞えばいいか、一緒に考えてくれるのは助かる。
一人足りないが、文殊の知恵だ。
「分かった、昼休みな」
「うん」
顔が近過ぎるせいで表情は見えないが、南雲が微笑んだ気配がした。
「さ、早乙女さん……、ご、ごきげんよう……」
今、登校してきたらしい綾小路が、頬を桃色に染めて両手で鼻と口を覆っていた。
「あぁ、綾小路、おはよう」
初対面時に比べて、ようやく綾小路の美貌と金持ちオーラに慣れてきた俺は、至って普通の挨拶を返す。
そうだ、南雲にも綾小路と仲良くしよう計画について意見を聞かないとな。
俺が昼休みの作戦会議について議題を考えていると、
「あ、あの……、仲がよろしいのは大変結構なのですが……、あまり人目のあるところでは、そのような行為はお控えになったほうが……」
「え?」
綾小路がかなり言いにくそうに、言葉を選んでいるのが分かる。
しかし、当の俺は何を注意されているのかさっぱりだった。
なんのことだ?
そのような行為?
「え〜? 別によくな〜い? 何がいけないのさ〜?」
察しの悪い俺に代わって、俺の左肩に顎を乗せたままの南雲が返事をした。
──あっ!
こいつか!
男同士だと思ってすっかり油断していたが、側からみればクラスでイチャイチャしているバカップルだ。
俺は南雲の顎の下を、手のひらで思いっきり押した。
「おい! 離れろ!」
「なんでよ、乙女ちゃん。いいじゃ〜ん」
なぜか抵抗する南雲と攻防を繰り広げながら、俺は綾小路に苦笑いで謝罪する。
「ごめんな、綾小路!」
「いえ、お二人がそういう関係なのは、知っていましたし……」
そういう関係じゃないんだって!
そういう関係を防ぐための関係なんだって!
「水をさしてしまってすみません……! 失礼します……!」
「あ、綾小路!」
弁解する暇も与えられず、綾小路は小さくお辞儀をして足早に自分の席へと戻ってしまった。
俺は南雲に振り返る。
「南雲〜! どういうつもりだ!」
「どういうもこういうも、ご主人様とペットのスキンシップじゃん」
南雲の言葉にクラスがざわついた。
「ご主人様とペット……?」
「早乙女さんがご主人様ってこと……?」
「南雲をペットにするなんて、やるぅ〜」
ま、待ってくれ……!
風評被害だ。
俺は脅されてこいつのパシリをやっているだけで……!
「違う、違うんだみんな! 俺の話を聞いてくれ!」
一斉に囁かれる誤解を一人一人解いていきたいところだったが、どいつもこいつも、目を合わせた瞬間に避けられる。
クラス全員にヤバいやつ認定されてしまった。
クラスメイトの男をペット扱いしている、女王様気取りのヤバい女。
俺だってそんな女子がいたら距離を置く。
「よかったね、乙女ちゃん。これで、クラスメイトとの恋愛フラグは撲滅されたよ」
「そういう問題じゃないだろ!」
飄々としている南雲の胸ぐらを掴み上げるが、余計にクラスがざわつくだけだった。
噂は一気に校内を駆け抜け、俺の名は瞬く間に全校に轟く羽目になった。
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