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20 信じてあげるよ

「あっはっは! 卒業式に撥ねられて気がついたら女子高生に転生してたって!? 何それ! 運が良いんだか悪いんだか! 爆笑〜!」


 南雲はとんでもない大嘘つきだった。

 約束はいとも容易く反故にされ、やつは涙を滲ませ腹を抱える始末である。


「笑わないで、真剣に聞くって言ったじゃねぇか……!」

「うん、だから、真剣に聞いてるって、ぷくく……!」


 堪えきれていない笑いを隠すでもなく、南雲はうなずいた。

 どこをどう見たら、真剣に聞いてるって言えるんだ。


「嘘つくんじゃねぇ! 散々笑いやがって……! お前に話した俺が馬鹿だった!」


 無言で屋上まで引っ張られたときから、腹を立てていたというのに、ちゃんと話した末に爆笑されて。

 とことん自分勝手な南雲に呆れ果てた。


 くるりと踵を返す俺の手首を、南雲が掴む。

「待って、嘘じゃないよ」

「離せよ」


 俺は教室に戻って、綾小路と親睦を深めるんだ。

 振り解こうとしたが、力の入った南雲の手は簡単には離れない。


「いい加減に……!」

「だって、僕、乙女ちゃんの話、信じてるもん」

「……は?」


 信じてる、だって?


 転生なんていう突拍子もない話を?


「……あんだけ笑い倒しておいて?」

「笑ったのは……その、悪かったよ、謝る、ごめん」

 意外とすんなり、素直に南雲は謝罪の言葉を口にした。


 マイペース、自分勝手、悠々自適。

 人に嫌われるのが、おおよそ怖くなさそうなワードばかりが似合いそうな南雲が、己の非を認めている。

 なんか調子が狂うな。


「でも、僕は本当に、君が転生したって話を信じるよ。体は女の子なんだけど、中身は完全に男ってことなんでしょ?」

「……そ、そうだよ、そうなんだよ!」


 俺の話を完全に理解した南雲の要約に俺は興奮する。

 この世界で初めて、俺の身の上を信じてくれる人間が現れた!


「あ、あと、この世界についてなんだけど……」

「この世界について? 転生ってだけでも面白いのに、まだあるの?」

 転生した経緯はあらかた説明したが、まだ語っていない部分がある。


「……ここ、少女漫画の世界なんだ」


「……少女漫画の世界?」

 クエスチョンマークが南雲の頭上に、数えきれないほど浮かび上がっているのが見える。


 ……さすがに、今度こそ信じてもらえないかもな。


「この世界は、俺が前世で読んだことのある少女漫画の世界で──俺は主人公でヒロイン。伊集院と鬼塚から迫られて、どっちかと付き合う羽目になるんだ!」


「…………」


「俺はその運命を変えたい……! どっちとも付き合うことなく、高校生活を無事に終えたい!」


 熱がこもった俺の野望を南雲は無言で聞いていた。

 今度こそ笑いもせず真剣に。


「生徒会長と不良少年が、絶対に乙女ちゃんを好きになるのか……」

 顎をつまんで、思案する南雲。


「え……、これも、信じてくれるのか……?」

 びっくりする俺に、南雲はにこりと笑いかける。


「言ったでしょ、乙女ちゃんの話、信じてるって」

「だって……、転生した話より馬鹿げてるだろ……? 自分の生きてる世界が少女漫画なんて……」

「信用度で話すなら、正直、どっちもどっちだよ」


 ……確かに。

 南雲は続ける。


「転生したっていうのも、生徒会長と不良少年に絶対恋をされるっていうのも、全部僕の疑問に答えてくれるから、信じるしかないよね」

「南雲の疑問?」

「うん。乙女ちゃんが男らしすぎるとか、学年もクラスも違うイケメンたちと偶然にしては接点が多すぎるとか」


 ほ、ほんとだ……!

 言われてみれば、クラスメイトでもない、昔からの知り合いでもない、親族でもないあいつらと、不自然なくらいエンカウントしてやがる……!


 くっ、これが少女漫画の力か……!


「その割には、乙女ちゃん全然嬉しそうじゃないし、むしろ嫌がってる感じすらあるし。でも、転生して中身が男で、少女漫画のヒロインだっていうなら納得。僕としても、恋愛したくないタイプの友達ができて嬉しい」


「そ、そうか……」

 南雲の事情は知らないが、本人が嬉しそうにしているからオールオッケーだな。

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過去が重いよ南雲...!
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