17 彼らの家庭事情
初対面の印象は、子犬っぽくもあり、子猫っぽくもある。
そんな南雲だったが、今では完全に『お猫様』と成り果てていた。
南雲のご主人様になって一週間。
俺は昼休みになると、必ず飲み物を買ってきて屋上で南雲と弁当を共にしている。
毎回、昼食に誘ってくれていた綾小路は遂に誘ってこなくなった。
本気で南雲と付き合っていると思って、気を遣ったらしい。
「おそーい」
「いつもと同じ時間だろ」
弁当と二人分のお茶を持って屋上に向かい、給水塔の裏に回る。
南雲がつまんなそうに俺を迎えた。
ついでとばかりに、お茶代の小銭を渡してくる。
パシリではあるものの自腹を切る必要はなくて、南雲は毎回代金を支払ってくれるのだ。
いじめではないのがまた憎めないところだ。
実質、自分の飲み物を買うついでに南雲の分も買うだけだからそんなに手間ではない。
料金と交換でお茶を手渡して、隣に座る。
以前、あぐらをかいて座ったら「スカートでそんな座り方するな」と南雲に注意されたのを思い出した。
「生徒会長と、不良少年と。あと、綾小路さんのことだけどね」
お茶から口を離した南雲が唐突に喋り始めた。
「綾小路さんと鬼塚くんは、二人とも結構なお金持ちのお家なんだって」
二人の両親が稼いでいるであろうことは知っていた。
綾小路がお嬢様なのは覚えていたし、鬼塚は家がデカかった。
この家に生まれてきて、どうして不良やってんだって、聞いてしまいそうになった。
どうせ答えてはくれないだろうから、必死で飲み込んだけど。
「あれ? 伊集院は?」
幼馴染で三人でよく遊んでいたと言っていたなら、伊集院家も同じくらいの金持ちでありそうなものだけど。
「生徒会長は別に、お金持ちでもなんでもないよ。むしろ、鬼塚くん家のお手伝いさんだったみたい」
伊集院が、鬼塚家のお手伝い?
三年生で生徒会長で、鬼塚に対しても偉そうな伊集院よりも、鬼塚のほうが金を持っていて身分も上だったってことか……?
身分差のある三人が幼馴染だった疑問は解決された。
伊集院一家が鬼塚家と親しくしていたなら、そこから子どもたちが仲良くなってもおかしくはない。
「正確には、生徒会長のお父さんが、鬼塚くんのお父さんに、雇われていたらしいよ」
「父親同士、か……」
南雲は伝えることは終わったとばかりに、弁当に向き直った。
鬼塚と伊集院の仲が悪くなった原因に、家庭環境が関係するのだろうか?
どうして綾小路まで気まずくなってしまったんだ?
鬼塚と綾小路の、金持ち同士の間でも何かあるのか?
知れば知るほど、クエスチョンマークばかりが浮かび上がってくる。
「乙女ちゃん」
「なに……んむっ」
南雲に名前を呼ばれて振り向くと、口に卵焼きを押し込まれた。
「うまい……」
ふわふわの甘い卵焼きだった。
「糖分ないと、考えられるものも考えられないでしょ?」
「…………」
モグモグと卵焼きを咀嚼する。
「僕の知ってることは全部教えてあげるから、今はお弁当食べなよ」
「……サンキュー」
初対面ではあまり良い印象ではなかった南雲が、いつの間にか優しくなっている。
どういう心変わりかは知らないが、俺は素直にお礼を言って、弁当にありついた。
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