TSUNAMI
「逃げろー!!!」
阿鼻叫喚の最中、サイレンが響く。息を切らし、アスファルトで舗装された車道のど真ん中を走る。せめてクロックスでは無く、山登りのスニーカーを履いてさえいれば少しは違ったのかな。
慌てて飛び出た為か、マトモな物を持っていない。手掴みでポケットに入れたのは服用薬と元カレに貰った安物のネックレス。
そして、リレーバトンのように手に握っているのは、先程まで眺めていたテレビのリモコンだ。銀行の預金通帳や財布くらい持っていけば良かったが、恐慌状態であった私にはそんな冷静な判断など出来なかった。
薄汚れたガードレール。迫りくる白波。過呼吸を起こした私の鼻に痛いくらい潮の匂いが貫いて響いた。
思い返せば、10時37分。津波の第一波はたったの30cmだった。
「なんでたかが30cmでここまで大騒ぎするの?」
東北の大震災を経験していなかった私は正直、津波を舐めていた。
第一波の次には第二波。
そして、第二波の次には第三波が来るだなんて考えもしなかった。
大震災の様子を幼いながらもニュースで眺めていたハズであるのに。どこか他人事と捉えていたのだろう。同じ国の人間であるのに。
コレは罰なのか。
私に対する天罰なのか。
常々そうだ。
その場に居るのにいつも傍観者を気取って、最後に傷付く馬鹿な私に向けて放たれた言葉、「面倒臭い」。足を絡ませて転んだ私に破滅的な感情が押し寄せる。
「逃げろ」
危険だ。離れねば。
出来るだけ高い場所へ。
それなのに声が聞こえてくる方向は海の底。
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