見た目はヤンキー、中身はオタク
鋭い雰囲気と目つき。
長い金髪、着崩した制服とスカジャン。
周りからヤンキーと恐れられる彼女の名は金城 姫香。
実は喧嘩が滅茶苦茶弱い。
鋭い雰囲気は寝不足で機嫌が悪いだけ。
鋭い目つきは夜更かしして乙女ゲームをやっていたから。
長い金髪、着崩した制服とスカジャンは彼女なりのオシャレ。
ヤンキーとは名ばかりでただのオタク女子である。
ヒメと出会ったのは中学時代、路地裏で複数の男に絡まれているところを助けた。
共通のオタク趣味があり、話しているうちに気がったので仲良くなるのに時間はかからなかった。
友達がいない俺には初めてのことだった。
なんでヒメに不良みたいな格好してるのか聞いたら、ヤンキー漫画のキャラのように強くて格好良くなりたかったらしい。
え、あ? 俺? 俺は普通の高校生ですよ。岡田 良太。
喧嘩になっても大丈夫なのは柔道を習ってるからってだけ。もちろん、自分からは喧嘩しないよ。元はいじめられっ子だしね。
ヒメとは高校が偶然同じになったので一緒にいることが増えた。
ある日のことだった。
ヒメを家まで送り、帰りがけにパン屋でパンを買った。
家に帰って美味しく食べていると、
「お兄ちゃん、わたしもそれ食べたいから買ってきて」
ワガママな妹にパシられ、再びパン屋に行くことに。
パンを買い終えた頃には日が暮れていた。
「ん? あれは」
長い金髪、黒と金を基調としたジャージ姿にサンダルを履いたヒメがいた。
公園で複数のヤンキーに絡まれいている。
「やばい!」
喧嘩が始まる前に走りだそうとしたとき、信じられない光景を見た。
ヒメが一撃で次々とヤンキーを倒していく。もう三人も倒していた。
小柄で細い身体からは信じられない力が発揮されている。
残りのヤンキーがやばいと判断したのか、倒れた三人を連れて全速力で公園から出て行った。
「マ、マジ?」
本当にヒメなのか。
ゆっくり近づいていくと見間違いではなかった。
目を細めていたヒメが目を見開く。
「りょ、良太っ!?」
ヒメも気づいたらしく、かなり動揺していた。
「な、なんでここに!? い、今の、もしかして……見て、た?」
「え、うん。ヒメって強かったの」
未だに現実か信じられず、確認するように聞く。
ヒメは気まずそうに両手の人差し指をつんつん合わせて様子を伺いながら口を開いた。
「う、うん。実は、その、あたし空手やってて、だから結構強いんだよね」
「知らなかった。見た目だけヤンキーのオタク女子かと」
「そ、それは間違ってないけど。……実は言えなかったんだよね」
「どうして?」
「……初めて会ったときにあたしを守って戦ってくれたじゃん。今までそんなこと一度もなかったからさ、なんか少女漫画の主人公みたいで。良太も強いし、格好良かったし。また守ってほしいなあって。で、でもあたしが強いとさ」
なるほど。
「強いことがわかればもう守ってくれないと思ったの?」
「う、うん」
なるほど。
俺が黙っていたらヒメが悲しそうな顔をした。
「や、やっぱり……もう一緒にいてくれないの?」
「え?」
「だって良太があたしと一緒にいてくれるのはヤンキーみたいな見た目のくせに弱いから心配だって前に言ってたでしょ。でもあたしが結構強いことがバレちゃったし」
「まあ最初に会ったときはそのつもりだったけどさ。今は、その、好きな人だから一緒にいたいって言うか……」
って、なに言ってんの俺!? どさくさに紛れて告白しちゃったよ。
ヒメが目をパチパチを瞬きさせる。
「え? い、今のほ、ほんと?」
「あ、う、うん。ヒメと話すの好きだし」
大きく息を吐く。
こうなったらやけくそだ。
「俺はヒメのことが好きだ。だからヒメが良ければ、か、彼女になってほしい!」
「うん、うん、うれしい。あたしも良太のこと好きだよ」
ヒメは胸の前で両手を組み、顔を赤くして涙を流しながら何度も頷いていた。