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くらし、介護、健康

マシマロの手

作者: 池畑瑠七

ふんわりとやわらかく やわらかく

仔猫の白いお腹のような

ミルク色したマシマロのような 

あたたかな 手のひら


わたしの手は ガサガサに荒れて 硬くて

指先まで 氷みたいに冷えきっていた

仕事途中で抜けて 此処に来たもんだから

ごめんね 冷たいでしょう

ほんとだ 冷たいねえ

お義母さんの手 あったかいね


10日ぶりの彼女は

顔色もよく 車椅子に座って出迎えてくれた

エレベーターを出た先に 待っていた

私たち 見慣れた家族の顔を見た途端

笑顔よりも先に泣きだした彼女

手を振り 速足で車いすの傍まで歩み寄ると

言葉よりも先に 自分から私の手を握ろうと

その両手を差し出してきた


初めての事だった


小さくなった両手は とてもとても

とても やわらかで ふっくらとあたたかく

まるでマシマロのようだった


ごめんね、予約なかなかとれなくて

慣れないとこで大丈夫かなあって

ずっと心配していたよ

よかった 前より随分 元気になっててくれて


ほら かあさんのラジオ 持ってきたよ

ちいさな古い携帯型ラジオ

いつも傍らに置いて 一日中聴いていた

けれど じっと見つめて

「いらないわ」という


「ないほうがいいわ」


そのひとことの 深い深い意味


ふわふわな白い掌は

良くケアして頂いている事

体調が安定している事と同時に

自力で出来ることが

減り続けている事もまた 意味していた


その柔らかな手から ガサガサに荒れた私の手へ

口に出さない 辛さ 不安 寂しさ 心細さ

家恋しさ 希望と諦め

家族への愛情

色んな 色んな揺れ動く想いが

流れ伝わってきた



また来るね 

たった15分 手を振り別れた


施設を出 頼まれた歯磨き粉と

高カカオチョコを買いに

車に乗り込み ハンドルを握る

零れ落ちてきた涙で ミラーが曇る


実母の手を最後握ってあげることは 出来なかった


赤子のような いまの義母の手

沢山 握って さすってあげよう


こんなガサガサな手でも

まだ 何かの役に立つのだったら









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― 新着の感想 ―
想像していた相手ではなかったので驚き、そして胸に響きました。 人は歳を取ると最後は子どもに返っていくのかも知れませんね。 それは心だけではなく、手でさえも。 主人公が義母を想う気持ちに心打たれました。…
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