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第135話 入城

 物音を立てずに地下通路へと続く階段を出て、最後の物陰となる路地裏で呼吸を整える。全員が外に出たこと、心の準備ができたのを目配せで確認して、


「三、二……一!行くぞ!!」


 手で合図を出して一気に表へと出る。予定通り、最後の隠し通路を抜けて、表通りへと出るとそこは大路に繋がっており、視界を右に向ければそこには異様な数の騎士達とその奥には確かに石煉瓦でできた城壁が聳え立っていた。


 携えた武器と魔力を開放して一気に大路を駆け抜ける。今まで変化の無かった一帯に不意に現れた不純物に注意を張り巡らせていた騎士たちが気が付かない道理はない。


「ッ!!貴様ら何も────んがッ!?」


 驚愕と警戒に満ちた声音を張り上げるが、それを途中で物理的に遮る。


「〈龍滅〉のお通りよ!道を開けなさいな!!」


 真っ先に騎士へと斬りかかり先陣を切ったのは我が派閥の戦闘狂殿(フリージア)だ。彼女は良く通る綺麗な声音で高らかに周囲に宣誓をする。その後を俺達はぴったいりとくっついて行く。


「敵襲!敵襲だ!」


「影龍様の予見通り、”血”の守護者が来たぞ!!」


「一気に囲んで殺してしまえ!数はこちらの方が上!たかが子供の集まりなど簡単にねじ伏せろ!!」


 当然ながら俺らの存在を認めた騎士達はわらわらと群がるように武器を抜き放ってこちらの進行方向を塞ぎに来る。


 確かに、彼らの言う通りこちらが六人なのに対して向こうは百人以上の過剰戦力。圧倒的な数の暴力による制圧が効果的でそれが一番効率的なのように思えてしまうが────


「私が全部貰っちゃうわよ、レイ?」


「お好きにどうぞ」


 その条件が当て嵌まるのは、相手が普通の一般兵に限った話である。


「あはは!やったっ!!」


 数日前のあの淑女然とした彼女は何処に行ってしまったのか、今はとても貴族御令嬢様がするには物騒すぎる、不気味に引き攣った笑みを湛えて眼前の戦闘狂は騎士へと肉薄していく。


「ここでお前らを打ち取って一気に名をあ────ふげ!?」


「我らが主に歯向かうとはおろか────なんば!?」


「その命、貰いうk────んだべ!?」


「雑魚はお呼びじゃないのよ!消え失せなさい!!」


 次から次へと襲い来る影の兵士たちは戦闘狂の前には何の意味もなさずにたった一撃で無数の屍を築き上げていく。


 鎧具足に身を包んだ騎士たちが面白いぐらいに吹っ飛んで、捉え方によればとても可笑しな光景が繰り広げられる。それを少女の楽し気な笑みが助長させる。


「快進撃とは正にこのことだな」


「フーちゃん、楽しそう」


 殿下とお嬢が呑気な感想を漏らすが、言葉とは裏腹にその表情は真剣そのものだ。偶にフリージアが打ち漏らした敵を一撃必殺で切り伏せて、しっかりと彼女の補助を熟している。


 依然として襲い来る影の騎士達を切り伏せながら直走る。フリージアが暴れ散らかしたお陰で今まで遮られていた城門へと続く道の視界が開けて、その肉眼でハッキリと認識できるまでなった。城門まではもう目と鼻の先だ。消耗は最低限、障害にもならない、立ちはだかる敵の全ては取るに足らない。


 ────問題なく中には入れるだろうが……。


 しかし、異様にしつこくてうざったらしい。最低限ではあるが、確実に俺達の体力と魔力はこいつらによって浪費されているし、門に近づくにつれて次から次へと騒ぎを聞きつけてか中から新しい騎士が新しく投入されていた。それがさらに魔力の消費を加速させる。


「小賢しいことを……!!」


 多分……いや、十中八九、影龍の狙いはソレだ。一騎当千の騎士を放ちこちらを仕留めに掛かるのではなく、あえて雑魚を大量に嗾け、物量による怒涛の連続で俺達の集中力を削っているのだ。


 なんともいやらしい戦法だ。世界を見下す龍にしては聊か小物感が強すぎる気もする。しかし、理には敵っていた。


 ────ここで奴のいいように消耗させられるのも気に入らない。


「一気に突っ込むぞ。雑魚の相手を真面目にしてやる義理もない」


「わかったわ!!」


 距離的にも突き抜けられる間合い、俺は先頭を直走るフリージアに目配せをした。それに彼女は待ってましたと言わんばかりに体内の魔力を放出させる。


凍囚(ディレイス)!!」


 途端に彼女の周囲に冷気が迸り、魔法を起動させる詠唱と共に地面に白い霜が浮かび上がる。それはスイルベルの森でも見せた補足した敵の動きを拘束する氷の茨だ。



 俺は無差別に足に絡みつこうとする氷の茨を避けるように高く跳躍する。その勢いのままに地面と両足が茨によって縫い付けられた影の騎士達を嘲笑うかのようにすり抜けて、そのまま固く閉じかけようとしていた城門の扉をぶち破る。


「はい、お邪魔しますよッ!!」


 どんな時でも初めて訪れるお宅にはちゃんと挨拶をしましょう。常識人として基本の礼儀(マナー)だね。ついでにフリージアの魔法で外に縫い付けられた騎士たちが後から入ってこないように城門も氷壁で閉じてもらう。これで戸締りも完璧だ。


 そうして俺達は帝城へと入場を果たした。


 ・

 ・

 ・


「さて、外の奴らは弾き出したがそれでもまだうじゃうじゃと居やがるな……」


 城門の大扉が砕け散る音と、新しく門を閉じた氷壁の冷気が場内を支配する。眼前には城の絢爛さを表すかのように庭園が広がっており、その奥には本殿が鎮座している。その何とも立派な庭園にも当然と言うべきか多くの騎士が侵入者を待ち構えるように警備をしており、不意に姿を現した侵入者を前に呆然としていた。明らかに予想外の出来事に流石の騎士達も驚いているらしい。


「悪いが、そのまま何も言わずに倒れてくれ」


 少しばかりの申し訳なさを胸の内に抱えながらも俺達は再び駆け出し、眼前に立ち塞がった(突っ立ていた)騎士達を屠っていく。


「そのまま城の中に入っていいんだな、レビィア?」


「はい!ここからですと隠し通路を使うよりそちらの方が速いです!」


「了解」


 念のために侵入経路を再確認して庭園の中を突っ切っていく。


 外で感じられていたものよりも、この庭園の時点でハッキリと影龍の気配を感じる。加えて城門前でも相当だと思っていたが中は更に手厚い警備だ。次から次へと先ほどと同じように騎士や兵士やらが斬りかかってくる。


 ────まるで巣穴から延々と出てくる蟻だな……。


 影のような色合いからしても一度想像してしまうともうそれにしか見えなくなってくる。


 妙な感覚にゲンナリと進んで行くと、庭園の中でも一際たくさんの花々や装飾、そして四阿なんかが用意された場所に出る。そうしてその四阿で優雅に椅子に腰かけた黒灰の騎士(・・・・・)が一人────


「予想よりも早いな。たかが子供だと思っていたが腐っても〈血統魔法〉の使い手か……」


 俺達の存在を認識するとゆらりと椅子から立ち上がり、側に立てかけていた一本の赤色の槍を投擲した。


「ッ!!」


 宙をふわりと飛んだ赤色の槍は俺達の前に立つように地面に鈍い音を響かせて刺さった。そうしてその騎士は一瞬にして四阿から槍が突き刺さった地面へと移動して、慣れた手つきで槍を地面から抜き放った。その一連の動作だけで眼前に現れた騎士が今までの奴らとは一線を画す手練れだと認識する。


「さて、君たちが”血”の守護者とそのご一行で間違いないね?気分よく帝城に向かっているところ申し訳ないけれど、ここは通行止めなんだ」


 その雰囲気、立ち居振る舞いには覚えがある。どこか〈比類なき七剣〉にも匹敵するであろう強者の風格を纏ったその騎士は、


「五天剣……」


 帝国最強の騎士であり、今までの雑兵と比べるには釣り合いが取れなさすぎる、正しく強者である。


 あのクソトカゲとの戦闘を前にできれば眼前の騎士の相手はしたくはなかった。だからこそ考える。如何にしてあの強者を欺き、振り切って奴の先にある城内へと侵入するか。


「もし通りたいならばこの私を倒して────おっと……?」


 思考を巡らせていると不意に眼前の騎士の動きが明らかに鈍くなる。それはまるで上から不可視のナニかに押しつぶされているかのようで……その光景にはどこか見覚えがあった。そんな俺の困惑を晴らすように殿下の声が耳朶を打った。


「先に行けレイ。ここは俺とシュビアが請け負おう」


「どうぞお任せあれ」


 そう言って、二人の男女が俺達を庇うように先に立ち、自慢の武器を構えた。


「……任せた。先に行って待っている」


「ああ、すぐに追いつくさ」


 逡巡し、そうしてここは彼らの判断の方が正しいと思い至る。俺はフリージア達に目配せをして走り出す。


「ちょっと勝手に────って、おお……まだ重くなるか」


 依然としてグラビテル嬢の【重力魔法(グラビティアーツ)】にてその身が重力に檻に閉じ込められた黒灰の騎士。その横を素通りして俺達は先を急ぐ。


 四阿がある広場を走り抜けたのと同時に、俺は背後から莫大な魔力の発露を感じ取った。

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