花占いの魔女、褒めてみる。
自分の顔を不思議そうにさすったスーリさん。
美人過ぎるからジロジロ見られんだろうな。でもいい気分じゃないよねぇ‥。と、店の奥からガタッと大きな物音がした。
「あら、エララ?」
ごそごそとドライハーブが吊るされた奥から、黒髪のポニーテールを揺らしつつスッキリした顔の美人なベルナルさんが出てきた。
「ベルナルさん、こんにちは。お婆ちゃんは?」
「今さっき散歩に行ったのよ。婆ちゃんに頼まれたお金渡しておくね」
「え、確認しなくていいんですか?」
「あんたいつも薬草を選定して持ってきてくれてるじゃない!大丈夫よ。あと、またうちの犬が逃げ出したみたいで‥、今回もありがとうね。後ろの人も手伝ってくれたんですって?」
ベルナルさんがちょっとワクワクした顔で、スーリさんに視線を送ると、スーリさんはにっこり微笑み、
「初めまして、スーリオンと申します。エララさんに会いたくてこちらへ来たんです」
「へ〜〜!エララってばすっごい美人さんと知り合いだったのね!」
「は、はは、そう、ですね」
男性って、どんどん言えねぇ空気になってく〜〜!!
しかしスーリさんが私を心配して、女性ってことにしてくれてるし‥。ここは大人しく黙っておこう。
「えっと、じゃあこれ薬草です」
「ん、ありがとう。婆ちゃんに渡しておくね」
「はい、では失礼します!」
色々突っ込まれるとボロが出そうな私は急いでスーリさんの手を握ると、そそくさと店を出た。思わず緊張していた息を大きく吐くと、隣に立っていたスーリさんが面白そうにクスクスと笑った。
「大丈夫ですよ、何かあればちゃんと私が説明しますから」
「そ、そうですけど!でも、それじゃあスーリさんが誤解されちゃうじゃないですか‥。それに自分が呪われているなんて説明しなきゃいけないなんて、あんまりいい気分しないでしょ」
じとっとスーリさんを睨むように見つめると、スーリさんは驚いたように私を見たかと思うと、嬉しそうに微笑んだ。
「‥エララさんは、素敵ですね」
「す、素敵???」
それは絶対スーリさんでしょ‥。
可愛いとか、綺麗とか、清楚な感じとか?
と、ぐうう‥と、私のお腹が勢いよく鳴った。
なんだって私の腹は今、このタイミングで鳴るんだ??!
赤い顔でお腹をさすりつつ、
「‥す、すみません。お昼と夕飯の食糧を買ったら家に戻りましょっか」
「はい。あ、そうだ!エララさん、これ」
「へ?」
スーリさんがマントの中から、可愛らしく包まれた飴を取り出して手渡してくれた。
「飴‥」
「どういう訳か、ご年配の女性達にこの姿だと飴を頂く機会が多々ありまして‥」
「ああ、なるほど‥」
「せっかくですし、一緒に食べましょう。これで少しお腹も紛れますし」
「そうですね。ありがとうございます」
スーリさんが男性だったらお婆ちゃん達、緊張しちゃうんだろうけど、女性だったら親しみやすいから飴くれるのかもなぁ。甘い飴を口の中に放り投げると、ふんわり甘くて美味しい。
「美味しいですね!」
「はい。私も以前はあまり甘いものを食べる機会がなかったのですが、女性になってから甘いものが美味しいと感じるようになりました」
「味覚の変化もあるんですかねぇ‥」
「そこがまだ未知数で‥」
「普段は食べ物は何が好きなんですか?」
「‥やはりお肉が一番好きですね。あとはチーズとか、」
「じゃあ、お肉にチーズをのせて焼きましょう!美味しいんですよ〜〜」
私の言葉に、スーリさんの顔がパッと輝いた。
「お肉にチーズ‥!」
うわぁ、可愛いな!??
こりゃ確かにお婆ちゃん達が飴ちゃんをあげちゃう訳だ。
小さく吹き出して、私はスーリさんの手を引っ張った。
「あっちにお肉屋さんがあるので、早速行きましょう!」
「はい。あの、ですが、その、手を‥」
「手?」
スーリさんの手をしっかり握っている自分に気が付いて、慌てて手を離した。
だからぁああ!!スーリさんは男性だっぺよ!
「‥‥重ねがさねすみません!!!」
「いえ、なにせこの姿ですからね」
「まぁ私は緊張しなくて助かります」
「緊張?」
「普段は女の一人暮らしですからね、アルはまぁともかく、素敵な男性が近くにいると緊張しちゃって」
「素敵‥」
目を丸くして私の言葉を反芻しているスーリさん。
もしかして素敵な男性だという自覚がないの???
「スーリさん、素敵な男性ですよ?」
私が念の為、スーリさんに伝えておくと、スーリさんはますます目を丸くしたかと思うと、ほんのり顔が赤くなった。あ、照れてる?もう何万回も言われてるって思ったのに。
すると、スーリさんが私に手を差し出した。
「スーリさん?」
「‥もし良ければ村の女の子と同じように、今は扱って頂けませんか?」
「え、いいんですか?」
「その方が不自然でないと思うので」
「確かに‥?」
うん、まぁ今は外側は女の子だしね。
別に女の子同士、手を繋いで歩くのもおかしくはないか。
私は綺麗なその手をそっと握ると、剣だこがある事にその時になって初めて気が付いた。思わず指で、スーリさんの手を撫でると、スーリさんが首を傾げた。
「どうかしましたか?」
「いや、剣だこがあるなぁって‥。騎士さんの手って、女性になっても格好いいものですね」
「‥そう、ですか」
「そうですよ!仕事している人の手って素敵ですよ」
ニコッと笑ってそう伝えると、スーリさんは口をもごもごさせたかと思うと、ちょっと横を向いて「お肉屋さん、行きましょうか‥」と、呟いた。
お肉、すごく好きなんだなぁ〜〜。
職人さんとか本当に素敵ですよね‥(違う)




