東の魔女と白騎士。
男性に戻ったスーリさんと一緒に料理をした。
かなり緊張したけど、スーリさんも緊張してたのか渾身の力で割った卵が飛び散ったお陰で緊張も砕けた‥。ちょっと殻が入ってしまった為に、スーリさんは残念そうだったけど。
ジッと、少し端っこが焦げた卵焼きを恨めしそうに見るスーリさん。
「‥‥野営の時は、主に肉を焼いていたので大丈夫かと思ったのですが」
「卵はよく焼けてます。完璧です」
「しかし、殻が若干混入するなど‥!」
「次回、料理を食べた時に入ってたら優しい気持ちでそっと避けられますね。あと初めて焼いたのにすごく上手ですよ!美味しいです!」
「そう、ですか?」
パクッと卵焼きを食べると、卵の殻が若干入ってたけど味は普通に美味しいし、大概の物は熱を通せば大体大丈夫だべ。前世もそんな感じだったし。
ジャリっとした感覚を「カルシウムいっぱいだべ」なんて思いつつモグモグと食べていると、スーリさんは私をまじまじと見て、
「エララさんは、心が広いですね‥」
「どちらかというと大雑把なんです。けど失敗なら沢山してますし、上手くいかない事も多く経験してますから、立ち直りの早さと出来ない事への理解はある方だと思います」
自分でもそれもどうかと‥と思うけど、スーリさんは緑の瞳をキラキラさせ、「‥なんと素晴らしい」って言ってくれるから嬉しくなっちゃうっていうね!?
いや、でも結局出来てないっていうね?!
なんでも感動してくれるけど、結局あんまり成長してないのよ〜〜。
今だってスーリさんが褒めてくれるから、私の魔女としての自己肯定感が穴からようやく顔をちょっと出した感じだし‥。
「とても前向きに物事を捉える力があるんですね!見習わねば‥」
「どう考えてもそれはスーリさんですよ‥。異性になっても自暴自棄にならず、なんとか解決策を探してここまで来たんですから」
「では私達、双方が素晴らしいという事ですね」
「‥なるほど、そんな解釈もありますね」
スーリさんのそのどこまでも認めてくれる姿勢に、思わず感心してしまう。
でも、それくらい自分を認めてあげてもいいのかもなぁ。
チラッと、視線を上げれば、朝陽を浴びながら綺麗な所作で卵焼きを口に運ぶスーリさんを見て、本当ーーーーーにイケメンだなぁと惚れ惚れと見てしまう。人をそんなジロジロ見ては失礼だから、さっと自分のお皿に視線を移したけれど、せめて美しさでもあれば‥なーんて思ったけど、それじゃあ私ですら無くなっちゃいそうだ。
「エララさん、朝食を食べ終えたら早速占いをお願いしても?」
「あ、はい!ええと、どれくらいで治るかって目安を知りたいんですよね」
「はい。仕事にあまり穴は開けられませんから‥」
騎士さんな上に、副隊長だから忙しいだろうしね。
私は残っていたパンをさっと口に放り込んで、サッと席を立った。
「卵焼き、とても美味しかったです!お皿は後で片付けるので、まずは占いましょう!」
「‥わかりました。次回こそ美味しい卵焼きを作りますね!」
「うーーん、まぁそこはおいおいで。占い、まずは占いましょ!」
どこか天然な感じのスーリさんのお皿もささっと受け取って、それをシンクに置いてからテーブルの上を綺麗に拭き、それから花の入った箱を持ってきた。
緊張したような顔をしたスーリさんの目の前に、花の箱の蓋を開けたその時、
「チチ‥!」
鳥の鳴き声に後ろを振り返れば、さっき開けっ放しだった窓にちょこんと青い小鳥がクローバーを咥えて立っていた。
「あれ?!さっきの小鳥ちゃん?」
「クローバーを咥えてますね。もしかして届けてくれたんですかね?」
スーリさんがちょっとワクワクした顔で、青い小鳥を見つめた。
え、スーリさんの発想可愛いなぁ。と、思っていると、スーリさんが青い小鳥の方へそっと手を近付けると、クローバーを小鳥が差し出した。
「え、本当に届けてくれたんですかね?!か、可愛い」
「はい、とても可愛らしいですね!」
『あら、そう?それは良かったわ』
女性の声がして、一瞬私とスーリさんの動きが固まった。
ん?
もしかして鳥が喋った?
私とスーリさんが同時に青い小鳥を見ると、小鳥の首元に小さな丸い鈴がついている。その鈴が小さく揺れると、
『私のお気に入りの使い魔を助けてくれて有難う』
「え!?使い魔!??って‥、じゃあ、東の魔女様!?」
私の言葉にスーリさんが目を丸くした。
「東の魔女様?!」
「はい。使い魔を使えるのは東西南北の魔女様だけなので‥。この国でしたら、東の魔女様だけです」
『あら〜、ちゃんとお勉強してて偉いわね!』
可笑しそうに青い小鳥の首元に付いている鈴がコロコロと揺れて、これは本当に東の魔女様だ!と確信してしまった。けども、本当にいたんだ!という驚きと、うちの小さな家にまさか東の魔女様がいらっしゃる現実に夢じゃないよね?と、軽くパニックだ。
そんな私の横で、スーリさんが青い小鳥を見て、
「あの!魔女様、どうか私のこの呪いを解いて頂けないでしょうか!?」
『あら、随分と困った呪いねぇ』
「はい!‥できればお願いしたく、」
『でもその呪いは私じゃなくて、貴方の隣にいる魔女が解けるわ』
「「え」」
私とスーリさんの声が重なって、お互い顔を見合わせた。
呪いを、私が解く‥?!
それって花占いが当たってたってこと?
目を丸くした私を青い小鳥が見上げ、
『花占いでもちゃんと出ていたでしょ?魔女が呪いを解けるって。それが貴方よ』
「ええええええ!!??私??というか、あの占い当たってたんたべか?」
『貴方が人の為に占ったんだもの。そりゃ当たるでしょ』
「え‥‥」
至極真面目に返され、半ば呆然とした。
私の占いはちゃんと人の役に立つもの、だったんだ‥。
スーリさんが嬉しそうに青い小鳥を見つめ、
「魔女様、感謝します。その事実を知る事が出来て私は本当に幸せです」
『謙虚で高貴な騎士っていいわねぇ〜〜!そのクローバーも何かあった時に貴方達を助けてくれるから、持っているといいわ。それじゃあ、助けてくれて有難うね〜!』
そういうと、青い小鳥は窓から軽快に飛び立ち、私とスーリさんはどこか放心したように青空を見つめ続けてしまった‥‥。
シマエナガとか可愛いよね。




