白百合の騎士、口説かれる。
結局、私とスーリさんは魔物のこともあるので、一緒に村まで行くことにした。なにせ万が一、男性に戻ったら大変だしね‥。
アルの連れて来たベロは、いつもと違う雰囲気にそれはもう大興奮してて、あっちへこっちへと引っ張るので、飼い主のアルは今にも転びそうだ。
「アル〜〜、ちょっと大丈夫?」
「大分大変〜〜!」
「もし良ければ私が代わりましょうか?」
「い、いやいや、スーリオンさんにはそんな事させられません!」
赤い顔でアルが慌てて断った。
おいおい、スーリさん相手だと随分と態度が違うな。
なんてわかりやすい奴め‥なんて思いつつ、村の方へ歩いて行くと、それまで勢いよく引っ張っていたベロがピタッと動きを止めたかと思うと、低い声で唸り出した。
「ベロ?どうした?」
アルが目を丸くして、ベロを見た途端、ズシン‥と、何か響く音がした。
「え?」
ワンワン!!と、ベロが激しく森の方に向かって鳴き出した瞬間、スーリさんが腰に差していた剣をスラッと抜いた。
「す、スーリさん?」
「魔物です!エララさん、アルさん、後ろへ下がっていて下さい」
「ま、魔物??!」
こんな辺境のような村に魔物なんて初めて聞いたんだども?
しかし、スーリさんの言葉を聞いたアルに引っ張られるよう木の後ろへ下がったその時、
「わぁああああああ!!!助けてくれぇ!!」
突然、茂みの中から男性が焦った顔で出てきて、その後ろからその男性の倍くらいある大きな蜘蛛が出てきた。
「「ぎゃあああああああ!!!??」」
私とアルで絶叫し、アルの腕の中でベロだけがワンワンと勇ましく鳴いている。君、勇気あるねぇ!?あんな大きな魔物初めて見たんだけど?!
目の前の男性は足がもつれてスーリさんの横にスライディングするように転んだけれど、一方のスーリさんは目の前に迫りくる大蜘蛛にまったく動揺せず、剣を構えた。
ダンッと地面を蹴って空中へ飛び上がると、紺のマントが大きく翻り、そのせいか蜘蛛の動きが一瞬止まった。
スーリさんはそんな蜘蛛の頭目掛けて一気に剣を振り落とすとドンと鈍い音がし、一瞬びくりと長い足を跳ねた大きな蜘蛛がずるずると傾き、最後にドスンと倒れて地面を大きく震わせた。
「た、倒した、の?」
私の言葉にスーリさんが朝陽を浴びつつ、ゆっくりこちらへ振り向き、
「はい。もう大丈夫ですよ」
そう微笑んでくれて、心底ホッとした。
だってあんなに大きな蜘蛛見た事ないし!!っていうか、なんなの?あれが魔物?端的に怖い!!こっちは膝がまだ若干ガクガクしているのに、アルの腕からベロがポーンと勢いよく飛び出して、スーリさんの足元をじゃれるようにワンワンと鳴いた‥。
アルは呆然とした顔で、
「す、すげぇ‥、流石騎士だなぁ」
「そうだね。でも本当に無事で良かったよ。スーリさん大丈夫ですか?怪我は?」
「私は大丈夫ですが、そちらの方が‥」
スーリさんの横で倒れてゼイゼイと息をしつつ、信じられないような目でこっちを見ている男性とぱちっと目が合った。そうだった。この人、大きな蜘蛛から逃げていたんだっけ。私はすぐにしゃがんで、手を差し出し、
「あの、怪我はないですか?というか、なんであんな大きな蜘蛛に追われてたんですか?」
「し、知るか!魔物避けの石を持っていたはずなのに‥」
「魔物避け?」
「こんな田舎に魔物避けなんて必要ないと言ったのに、誰かが通報したせいで急遽届けることになって‥」
センター分けした、ちょっとツリ目の男性の言葉に昨日、スーリさんが魔物寄せの石が届けられていた事に気付いて通報してくれた事を思い出した。スーリさんを見上げると、スーリさんは静かに頷き、
「すみませんが、魔物避けの石を見せて頂く事は出来ますか?」
「え、ええ‥」
男性が体を起こして、ポケットから白い布袋を取り出すと、スーリさんがそれを受け取って中の石を覗き込んだ。
「‥これは、魔物寄せの石ですね」
「な、なんだって?でも、確かに魔物避けの石を持ってて‥」
「この青い石は確かに本来は魔物避けなんですが管理が悪いと魔物を寄せてしまう作用があるんです」
そういってスーリさんは石を一つ地面に置くと、一気に剣を突き立て石が真っ二つに割れると、中心から石が白く変化してあっという間に真っ白な石になってしまった。
「石が‥‥!」
「昨日、こちらの村に届けられた石も白色化が進んでいました。隣街でも珍しい魔物が出ているという話でしたから、恐らく管理の悪さから魔物が近寄ってきたのでしょう」
スーリさんの言葉に男性は目を丸くして、まじまじとスーリさんを見つめたかと思うと、ガバッと立ち上がっていきなりスーリさんの手を握った。
「素晴らしい!強いだけでなく、美しく聡明だなんて‥!ぜひ私とお付き合いしてくださ‥」
男性が目をキラキラさせて告白する途中、
「アホか!!!その前に助けてくれて有り難うございますだろうが!!!」
どこから現れたのか、スパーンと後頭部をはっ倒したベルナルさん。
一方、叩かれた男性は驚いた様子でベルナルさんを見ると、うっとりした顔をして、
「ベルナル!!強く、気高い、私の愛!」
「寄るな、触るな、近寄るな」
いきなり愛を囁いた男性に、ベルナルさんは心底うんざりした顔でしっしと手であしらった。え、ええと、その男性は一体何?
思わず私とスーリさんでアルを見つめると、
「隣街の魔物避けの石を取り扱ってる業者の息子で、強くて格好いい女性が大好きな奴でして‥。目下姉ちゃんを口説いてる途中です」
こそっと教えてくれたけれど、スーリさんは目をパチパチと瞬かせ、
「口説く‥‥」
「完全に口説かれてましたね」
「‥‥遺憾です」
「心中お察しします」
大変不本意な顔をしたスーリさんを誰が慰められるのだろう。
私はちょっと考えて、
「お昼はお肉、沢山焼いて食べましょう」
そういうと、ようやくスーリさんは小さく微笑んで頷いてくれた。うん、お肉は騎士の笑顔を守る大事なものだな。
いきなり口説かれるとびっくりするよね‥。




