美女な騎士、仕事してた。
翌朝、鳥の鳴き声と共に目を覚ます。
「う〜〜〜ん!今日もいい天気だな」
グッとベッドの上で伸びをして、ささっと身支度をしてから籠を持って外へ出る。爽やかな風と共に朝陽を浴びた薬草や花が小さく揺れて、それを見るだけで心が軽くなる。
「うんうん、今日も綺麗だねぇ」
ちょんちょんと指で花を突いて、早速手入れをするべく井戸から水を汲んで、花達にかけようとすると、ザリザリと地面を歩く音に後ろを振り返る。
振り返れば美青年。
うわあぁあ、美の情報量がすごいな!?
「おはようございます。今日も良い天気ですね」
「スーリさんおはようございます。昨日はよく眠れましたか?」
「はい!薬草のいい香りで寝すぎてしまったくらいです」
穏やかに微笑むスーリさんの髪は、起き抜けだからだろうか、前髪が前に下りていてちょっと幼く見える。でも格好いい。ううむ、美形っていいなぁ。
と、スーリさんの耳の後ろの髪がぴょんと飛び上がって、
「あ、髪が‥」
つい呟くと、スーリさんが照れ臭そうに後ろの飛び上がった髪を撫でた。
「‥いつもこの部分だけが跳ねてしまうんですよね」
「水で直しますか?今、丁度水を汲んだところですけれど」
「ありがとうございます。水、少し頂きますね」
スーリさんがはにかんで、井戸の桶に手を入れて跳ねてしまった髪を直そうとするが、どうにも頑固な癖らしい。いくら濡らしてもぴょんぴょん飛び跳ねてしまう‥。小さく吹き出して、
「触ってしまいますけど、良かったら直しましょうか?」
「‥‥良いんですか?」
「全然構いませんよ。えっと、ちょっと失礼しますね」
水で指先を濡らして、スーリさんの方へ手を上げると反対にスーリさんは屈んでくれた。たったそれだけなんだけど、そういう細やかな配慮すごいなぁって思うのと同時にちょっと自分で言っておいてなんだけど、照れ臭い。
‥女性の時は、少し高いくらいだけど、男性だとこんなに違うんだな。なんて思いつつ、そっとスーリさんの耳の後ろの頑固な癖毛を撫でた。
すると、一瞬で絶世の美女になって‥、わかってはいたけど驚いてしまう。
男性でも女性でも綺麗なんて羨ましいなぁなんて思いつつ、照れ臭さはどこかへ行ってしまって、私はそのまま耳の後ろの根元の方を軽く濡らした。
「髪の毛って、根元を濡らした方がすぐ直るんですよ。だからここを重点的に濡らして‥、本当はドライヤーでもあれば良いんだけど、この世界にはないからタオルでそっと抑えておくと良いですよ」
「そう、ですか‥」
持っていた綺麗なタオルで癖毛の部分をポンポンと抑えるように叩くと、癖毛はすっかりおとなしくなった。ううむ、銀色の髪の毛ってなんて綺麗なんだ。
「はい、綺麗に直りましたよ!」
「‥ありがとうございます」
すっと立ち上がったスーリさんは、どこか照れ臭そうだ。
「魔女様にまた新たな知恵を教えて頂いて‥」
「いやいや、普通に知っている事なんで」
「‥私はどうもそういった事に興味が無くて」
「まぁ、騎士さんだから‥?」
いやぁそれはないな〜〜。きっと本当に関心がないんだろうな。これだけ格好いいのに自分に無頓着ってちょっと面白いけど。未だ照れ臭そうなスーリさんにふふっと笑って、
「スーリさん素敵だから、どんどん興味を持ったら周りの人が放っておかなそうですね」
「‥そうですかね?」
心底、それはないって顔をしてるけど、スーリさんって自分の顔の良さを自覚してないのかな???私だったら‥、うん絶対調子に乗る自信しかないな。なんて思っていると、ワンワン!と犬の鳴き声が玄関の方から聞こえてきた。
「‥こんな朝早く来る相手なんて、アルだな」
散歩の途中でこっちに寄ったのかな?
スーリさんに「ちょっと行ってきます」と言ってから、玄関の方へ行くと汗だくのアルが黒髪をぴょんぴょんと跳ねさせ、
「エララ!!スーリオンさん、いるか!??」
「っへ?スーリさん?」
「なんか、魔物!魔物が村の入り口で倒されてるんだけど‥、でっかすぎて皆びっくりしてて‥」
「魔物???」
確か魔物は近寄らないようにって、魔物避けの石を配置してあったよね?すると、スーリさんが私の隣からひょこっと顔を出し、
「‥‥うっかり寝過ごして、知らせるのが遅くなってしまいましたね」
「え?」
「昨夜の魔物避けの石なんですが、あれは魔物寄せの石だったんです。隣街へ行って、ギルドで確認をお願いしたらどうも手違いがあったらしく‥」
「ええ!!?だ、大事件では??!」
「はい。すぐに調査をお願いして、隣街から持ってきた魔物避けの石を設置したんですが、量がいかんせん足りなくて、昨夜退治を少し」
「「少し」」
私とアルの声が重なって、まじまじとスーリさんを見つめた。
どっからどう見ても綺麗な女性のスーリさんが魔物退治‥。あ、違った。本来は男性だった。と、玄関の前に立っていたアルが、
「あれ、一人で倒したんですか?」
「1匹だけでしたし。あ、血抜きはちゃんとしてあるので大丈夫です。皮は剥いで素材として使えるのでギルドの方でお願いしたいと思ってまして‥」
「血抜き‥?皮‥?」
あまりにも物騒なワードに目を丸くしていると、アルが腕を大きく広げて、
「俺が2個分くらいある大きな狼の魔物だ」
「は?」
「姉ちゃんが絶対スーリオンさんだって言ってたんだけど、当たってたな」
「ベルナルさん凄いね」
「いや、その前にスーリオンさんだろ」
至極真っ当なツッコミに「そういえば」と気が付いたけれど、スーリさんってやっぱり凄いんだなぁと、隣で立つ朝陽を浴びてキラキラと光る美女を見た。‥うーん、違和感がすごい。
髪の毛の寝癖って、なんで直らないのなんでだろ‥。




