紳士な騎士と弱気な魔女。
あっという間に夕方になってしまった。
まだ日は暮れてはいないけれど、この辺はすぐ暗くなるから心配になる。まぁ、あの強さだから熊が出たって大丈夫そうだけど。それでもうっかり女性になってたら危ないよねぇ。
「スーリさん、大丈夫かなぁ‥」
窓の外をチラチラと見ては思い出すのは、さっきの占いだ。あの7枚目はなんだったんだろう。うう、魔女なのに!自分の唯一の魔法なのに確信が持てないとか、どんだけだ!
「せっかく今世は魔女なのに‥」
一人落ち込んでいると玄関のドアをトントンとノックする音が聞こえた。
スーリさん、かな?
急いで玄関のドアを開けると、男性の姿に戻っていたスーリさんが少し驚いたように私を見て、
「‥エララさん、せめて確認をしてからドアを開けて下さいね」
「っへ?」
「不審者だったら危ないでしょう?確認は大事ですよ」
「は、はい」
‥騎士さんに注意されてしまった。
とはいえ、確かに平和ボケしてたかも?こくこくと頷くと、スーリさんはにっこり微笑んでくれた。うーん、まるでお巡りさんみたいだ。
「ええと、とりあえずお帰りなさい」
「すみません、少し遅くなってしまって‥」
「いえいえ、無事ならなによりです。お茶でも淹れますね」
「ありがとうございます。でも、その前にお渡ししたい物がありまして‥」
「え?」
渡したい物?
まさか肉とか??と、スーリさんはマントの中から小さな布の小袋を取り出した。
「あの、これも庭に設置していいですか?」
「へ?」
「魔物避けの石です。隣街まで行ってきたんです」
「ええ!?隣街??徒歩で1時間掛かるのに?」
「丁度良い運動の機会だったので‥、それにそんなに掛かりませんでしたよ?」
「そんなに‥」
‥流石、騎士さんだ。
答えが違うぜ。
「石はもうあったのに取りに行ったんですか?」
「念の為に。エララさんは普段は一人暮らしでしょう?魔女様には安心して過ごして欲しいですしね」
「ま、魔女様‥」
魔法が一つしか使えない私に、そんな風に言ってくれるなんていい人だなぁ。それなのに私ときたら花占いに確信が持てないとか‥。
「ありがとうございます!早速石を置いてきますね」
「では私も置きましょう。今度は私が裏手に置いてきますよ」
「え、でも暗いし、」
「暗いからこそ、ですよ」
にっこりと微笑むスーリさん。
夕飯もたくさんお肉を焼いてあげよう!そう心に誓って、一緒に玄関を出ると辺りは真っ暗で、村がある林の方を見ると微かに村の明かりが見えた。
「綺麗ですね」
「はい。ちょっと離れた場所にある家なんですけど、玄関の窓からも明かりが見えるから‥、結構元気を貰えるんです」
「元気を?」
「あっちでも誰かが頑張って生きているんだな〜って、勝手に励まされてるんです」
‥って、なんかちょっと恥ずかしい事、言っちゃった?
照れ臭さを誤魔化すように笑うと、スーリさんは穏やかに微笑んで、
「とてもいい考えですね。エララさんらしいです」
「そうです、かね?」
「はい。私はどうもそういう情緒が乏しくて‥、あそこに何人いて、どの時間帯まで起きているか、何の仕事をしているのかと分析してしまいまして」
「仕事病ですね‥」
「完全にそうですね」
村の方を見つめて頷くスーリさんに、また吹き出しそうになった。
この人はどこまでも仕事好きなんだな。だけんども面白い。こんな騎士さんなら緊張しないんだろうな。それぞれ早速石を設置して、家に戻ると、
ぐぅううう‥。
と、今度はスーリさんのお腹が盛大に鳴いた。
「あ」
「‥今度はスーリさんですね。さ、じゃあご飯早速作りますね!」
「それなら私も手伝います!」
「いや、疲れているでしょう‥」
「どんな時も鍛錬です!」
キリッとした顔で宣言したスーリさんをまじまじと見上げ、本当騎士さんって面白い生き物だなぁ。そこまで言うなら‥と、ジャガイモをマッシュしてもらった。なにせ力ならあるだろうしね。
そうして、山盛りのポテトサラダにお肉を添えるような形になったけれど、美味しい夕飯を食べ、スーリさんは「お仕事の邪魔をしてはまずいから‥」と、小屋の方へ行った。‥多分、男性だから一緒にいるのはまずいと思っての事だろうな。
「体を触ったら女の子になっちゃうから、別に大丈夫なのに‥」
うちの窓から隣の薬草置きの小さな明かりが点いた小屋を見つめたけれど、気遣ってくれる優しさがくすぐったいくらいだ。
「騎士って、みんなあんな感じなのかな‥」
感心しながら私は自分のベッドに倒れ込み、明日は花占い頑張ろう!と気合いを入れてから、目を瞑った。
薄れゆく意識の中で自分で占ったあの結果は、結局正解なのか、どうなのか‥と、頭を掠めたけれど、健康優良児の私は眠ってしまった。
職業病ってあるよね‥。
私の友達は電車に乗ると「人の血管見てしまう」そうです。
ええ、看護師です。採血しやすいか見ちゃうそうな。




