花占いの魔女、気合を入れる。
その晩もスーリさんは我が家に泊まっていった。
そこはいい。そこはいいのだ。
問題は祝福のキスを男性の時って話だ!それって、男性に戻ってから?ひとまず男性の時の状態で試すってこと?‥要確認しておけば良かった。でもそれを明日また聞くのも心臓に悪い‥。
「うん、全部明日の私にお願いしよう!」
そうして私はさっさとベッドに潜り込んだ。
人間悩み過ぎてもいいことないしね!
あっという間に朝になり、いつもより早く起きた私はサクッと身支度をして朝食を作る。ついでにお茶も淹れておこうとポットに手を伸ばすと、
「お邪魔しますわ!!!」
「っへ?」
突然玄関のドアが開いて、そっちを見れば真っ青なサリエさんが立っている。え、今日は随分早いな‥なんて思っていると、ズカズカとサリエさんがこちらへやってくると、
「貴方、占いはできる!?」
「え?!」
「ミューラがどこにもいないの!こんな事、初めてで‥」
「ええ!?」
「護衛の騎士も見ていないと言うし‥、荷物は置きっ放しだし‥、」
そう言いながら綺麗な瞳からみるみると涙が溢れてきた。
わわ、どうしよう!慌てて洗ったばかりの布巾を手渡すと、サリエさんは奪うようにその布巾で涙を拭いた。
「あの、いつから姿が?」
「‥今朝ですわ。夜は確かに挨拶をしてから部屋にそれぞれ戻ったの。でもそれ以降部屋を出た様子はなかったと騎士も言っていて‥」
それって、犯罪に巻き込まれた可能性、ある‥?
「き、騎士団に連絡は?」
「とっくにしたわ!でも、他にも仕事があって忙しそうで‥、」
「あ‥!呪い関連で忙しいんだった」
「だから、貴方ミューラを探して欲しいの!」
サリエさんが私の手を握ると、その手が小さく震えていて‥、なんと声をかけていいのか戸惑っていると、
「サリエ嬢?!」
玄関のドアが開いていたのを不審に思ったのか、スーリさんが急いでこちらへ駆け寄ってきた。
「一体何を‥、」
「大丈夫です。ミューラさんが、あの魔女さんが姿を消してしまったそうなんです!」
「え!?魔女様が?」
スーリさんが驚いたように声を上げ、私はもう一度確認しようとサリエさんの手を握った。
「ミューラさんとサリエさんは、隣街のカトカに泊まってたんですよね?」
「そ、そうですわ。けれど騎士団に相談しても掛け合って貰えなくて‥」
「という事だそうです‥。それで私にどこにいるかを占って欲しいと‥」
「確かに一大事ですね。ですが、魔女様に手を出す輩があの街にいるとは考えにくくて、」
「そういえば‥」
魔女に対してあの街の人達は好意的だったし、何より魔女だと名乗れば歓待しそうな勢いだった。そう考えれば犯罪に巻き込まれたとは考えにくい。とはいえ、せめてどこにいるかくらいは占なった方がいいよね‥?花占いしかできないけど‥。
「とりあえず、どこにいるかなんとなくでわかりますか?」
「占ってくださるの!?」
「ミューラさんや、サリエさんを放っておくことも出来ませんから」
「‥貴方、」
「ただですね、私は花占いしか出来ないんです‥」
「え?」
驚愕の顔をしたサリエさんの視線が辛い。
ううっ!!だってそれしか出来ないんだもん!
「魔女なのに花占いしか出来ない?それって、ただのおまじないと変わらないのでは?」
「いえ、一応的中率は百パーセントなんです‥。ただ一回しか占えないので、よく考えて場所を特定して頂ければ‥」
どんどん言葉が小さくなる私にサリエさんは「なんてこと‥」と、信じられないものを見る目で私を見つめるので、もう居た堪れない。どこかに消えてもいいか?
「サリエ嬢、エララさんの花占いは確実です。ひとまず場所を占って頂いては?それを元に私も探しに参ります」
「スーリオン様‥!」
サリエさんが嬉しそうに目を細めるけど、あ、あのー‥、ちょっとピンクな空気出すのやめてもらっていいですかね‥。どこか釈然としない雰囲気に心がささくれそうだったけれど、花の種が入った箱を持ってきた。
「‥それは、なんですの?」
「花の種です。ええと、どれか一つ選んでもらってもいいですか?」
「わかったわ」
白い花の種の粒を選んだサリエさんに、しっかり握っておくように言ってからもう一度確認しようと顔を上げた。
「サリエさん、ミューラさんがどこか行きそうな場所はありますか?」
「‥‥わからないの。いつも一緒にいたし、彼女はどこに行っても楽しそうにしていたから」
うーーん!
そっだらこと言われると、場所を特定できねぇからおらの占い当たらない可能性の方が大きい!どうしたものかと思っていると、スーリさんが少し考え、
「エララさん、犯罪に巻き込まれたかだけでも占えるでしょうか?」
「え?」
「魔女様の占いの的中率は確実です。犯罪に巻き込まれたとなれば、騎士団は総力を上げて探します」
「わかりました。サリエさん、ひとまずそれでもいいですか?」
「お願い、しますわ」
覚悟を決めた顔をして頷いたサリエさん。
私は早速花の種を握りしめたサリエさんの手に、手を重ねる。
『花の力よ、小さき者に力を貸して』
そう言うと、サリエさんの手の中から白い光が漏れ出て、指の隙間からするすると芽が出て、茎が伸び、あっという間に薄い黄色の花が咲いた。
「花が‥!」
「では、サリエさん。犯罪に巻き込まれたか、そうでないか、心の中で言ってもいいし、声に出してもいいので、花びらを一枚ずつむしって下さい」
「わ、わかったわ‥」
小さな声で、サリエさんは「犯罪に巻き込まれた」「巻き込まれてない」と呟くように言うと、最後の一枚に指を止めた。
「巻き、こまれた‥‥」
呆然とするサリエさんに、私とスーリさんは顔を見合わせ、それから一枚残った花びらを凝視した。
ちなみにサリエさんを抱きしめるエララを見て、
「‥自分も抱きしめて欲しい」とちょっと思ってるスーリさんです。




