転生してもそこはそれ!
母は私のミルクティーベージュの長い髪をブラシで梳かしながら、
「エララ、貴女には前世の記憶があるでしょ。だから魔女の血を引いているのよ」
と、何度も言った。
そして、その度に鏡越しに私と同じ髪色の母を見つめて、
「‥お母さん、私は確かに前世の記憶がうっすらあるけれど、魔女といっても魔力はあっても魔法が一つしか使えないのに魔女って言えるの?」
そう聞くと、母はいつもの事とばかりに笑った。
私は今世、どうやら魔女の家系に生まれたらしい。
だけど大体魔女といったら5個から10個魔法が使えるそうなのに、私ときたらたった1つしか使えないのだ!!
普通こったら転生したらば、何十個も魔法が使えて最強の魔女になるもんでねえの?!なんでそこはそれ!って設定なの?!‥なんて昔住んでた地域の方言がうっかり口から出た。
しかし、そんな母は「名乗ったもん勝ちよ!」と元気に笑い飛ばしてくれた。
お母さん、娘はそんな感じでいいのかとちょっと不安になります‥。
けれど15歳になったら自立して一人前の魔女として生きていかなければいけない。
使える魔法はたった1つ。
あまりにも武器が少ない。
なのに魔女といえば魔法が使えるんでしょ?って、周囲の人は期待に満ちた目で私を見てくる。無理、前世は日本人だったんだよ?!目立つなんてとんでもね!
「これは、あれだ‥。自立先で魔女だと名乗らないようにしよう!!」
私はネガティブだけどポジティブでもあった。
引いてダメなら引いて引き続けて、逃げてしまえ。
どっちに転んでも私は自活しなければいけないのだ。そんな訳であっという間に15の春。私は遠くの村に住む事が決定した。
「エララ、お世話になるお婆ちゃんには手紙を書いておいたから、魔女として頑張ってね!」
「‥‥は〜〜〜〜い」
「うちの村からはちょっーーっと離れてるけど、自立が大事な修行でもあるから頑張ってね!あ、パン焼いたから持っていきなさいよ。あと、ハムとチーズとお菓子と‥」
「お母さん、修行、修行だからね」
母の手作りの山盛りの食べ物を手渡され、前世の母からもこんな風に貰ったなぁなんて思い出しつつ、ずっしりと重い荷物が嬉しかった。20歳になるまでは会えない約束だからね。
そこから馬車で3時間揺られ、山の麓にある小さな村の、小さな家を貸して貰って、薬草や花を育てることは得意だったから、それを売って暮らすようになって4年。
私は薬草を買ってくれるお婆ちゃんにだけ魔女と名乗り、それ以外の村の人には自分の事は何も言わず黙っていた。生活は大変だけど、お陰で今日も私は平和に過ごしている。中世っぽい雰囲気だけど、電化製品ならぬ魔道具もあるから生活には困ってないしね。
「今日も平和で最高だ!」
庭先にここぞとばかりに咲き誇っている薬草やお花の手入れをしていると、山から爽やかな風が頬を滑り、甘い花の香りと小さなミツバチの羽音が耳をくすぐる。
なんて良い世界に転生したんだ‥。
前世は都会の小さなアパートの一室で過ごしてたけど、これはこれでいいな。‥時々、外食したり甘いものを食べたいって思うけど。
「‥ん?」
草原の丘の上に住んでいる私がふと、村に続く一本道を誰かが茶色の馬に乗って登ってくるのが見えた。‥こんな外れにある我が家に誰だろ?
深い紺色のマントに身を包んだその人は少し小柄な印象を受けた。
女性‥かな?
でも馬を乗り回す女性って、この村にいたっけ?
ああでも馬貸しのベルナルさんは女だてらになんでもやってるな‥。
なんて思っていると、茶色の馬に乗っていたマントに身を包んだその人が我が家の前にやってくると、ヒラリと軽々と馬から降り立った。
「‥エララ・ルィンベルさんでしょうか?」
紺色のフードを外したその人は、ハッとするほど綺麗な銀髪で、緑の瞳をした女性だった。前髪を後ろに撫でつけていたけれど、いくつか前髪がはらりと顔にかかり、それを横に流す仕草まで綺麗で目を丸くした。
す、すっごい綺麗だぁあああ!!
こっだら綺麗な人、初めて見たべぇえええ!!
と、感心しつつコクコクと頷くと、その人はホッとしたように息を吐いた。
「私はスーリオン・ヴェルローと申します。「花占いの魔女」の貴方にお願いがあって、こちらへ伺ったのです」
「え」
思わず開いた口。
な、な、なんで私が魔女って知ってるの?!
薬草を買ってくれるお婆ちゃんにだけしか言ってないのに??!驚く私に、スーリオンさんは私をじっと見つめ、
「リルリ様から、ここに来れば大丈夫‥と、言われまして」
「おっかぁかい!!!」
お母さん!!なんで私の事バラしちゃうの?!
思わず頭を抱えそうになったけれど、叫ばれたスーリオンさんは驚いたような顔で私を見ている。あ、すみません。方言が出ちまって‥、今世も田舎だから方言がめちゃくちゃ混じってんのよね。
いや、ともかく魔女の大原則。
人が困っていたら必ず助ける事。
これは絶対なのだ。
なので、私は小さく息を吐いて腰までしかない木の門を開いた。
「‥えっと、とりあえず家の中へどうぞ。力になれるかはわかりませんが」
「あ、ありがとうございます!」
パッと顔を輝かせた美女。
うう、綺麗な人の存在感てすごいな。
私は魔女だというのに魔法は一つしか使えない上に、外見もそこそこ‥いや、可愛い。私は可愛い。そんな事をうだうだ考えつつ、小さな家に招き入れたのであった。
新作!です!!
といっても、今回はまだまだそこまでストックがないので、
ゆる〜〜〜〜く書いていく予定です( ・∇・)
どうぞよろしくお願いしまぁああっす!!