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銛、 広大無辺の大地より  作者: あま
小判鮫と釣り人
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死線と絶望

 

 この切羽詰まった状況で考えるべきではないが一つ、敵の容姿に関して訂正があった。俺は初見顔だけをみて「豚」と評した。しかし目の前にいる魔物をみるといわゆる豚人(オーク)とは容姿が大きく違った。創作の間では肥っているとか、醜いだとかとかいうイメージがあるが目の前にいる魔物は筋骨隆々で引き締まっており、顔は豚のパーツと口から出た牙から異形ではあるものの醜いとは表現し難い。ただまぁ、豚人(オーク)以上にこれを上手く表せる名詞が浮かばないので豚人と言っておこう。


 また人型の魔物をみると少し思うのが、なぜ魔物(こいつら)は俺に常時敵対的なのだろうか。同じ人型の豚人オーク小鬼(ゴブリン)がそれぞれを仲間として認識し同じ人型の俺()を殺しにくるというのは理解し難い。魔物と俺に何か決定的な違いでも存在しているのだろうか。扉から手を離し部屋に数歩踏み入れながらそんなことを考える。


『開放』


 氷が空中で生成される。しかも今までの小指の爪程度のちゃちな『氷弾』じゃない。硬い生物の骨を粉々にするための破壊力と脳や心臓、肺のような内側にあるものごと貫くための貫通力を兼ね備えた、人型魔物を一撃で殺すためのものだ。3秒ほどで生成が終わったのち目でギリギリ追えるかどうかというレベルの速度で射出される。小鬼(ゴブリン)豚人(オーク)どちらも俺がこの扉から出てきたことの驚きから戻ってきておりこちらに攻撃しようと走り出していた。距離にして20〜30メートルくらいだったのだが、射出された氷弾は素早く動き始めた小鬼(ゴブリン)どもに直撃し、運悪く顔面に直撃したものは走った前傾姿勢から撃たれた衝撃で後ろに吹っ飛ばされており血と脳の中身と頭蓋の破片が貫通した穴から華のように飛び散っていた。

 

 『装填』をしておいて良かったと心底思う。小鬼(ゴブリン)の数とリーダー的な存在であろうオークが一斉に襲いかってくることを防げた。銛をたった一人残った豚人(オーク)に向ける。


「…フガ」


 豚人(オーク)は吹き飛んだ小鬼(取り巻き)に目を向けるがくだらないものを見たかのように目線を戻した。正面からみると奴の体の大きさがよくわかる、2mから2m30はある巨体で筋肉ダルマだ。威圧感が違う。


 豚人(オーク)は持っている木製の棍棒を成人男性の太ももほどの太さがある腕と俺の頭を余裕で鷲掴みにできるほどの掌でかかげ咆哮をする。


「ブガァァァ!」


 ドッドッドッと自分の心拍が強く速くなるのがわかる。血が泡立つと表現出来るだろうか、全身の毛が逆立ち、背中が痺れるような感覚がする。奇襲や遠距離での戦いが多いため真正面からの戦闘は少ない、だからか平常心を置き去って胸が焦げるような気持ちが湧き出てくる。構えた武器の先にある敵に対して浮足立った感情があるのは良くないがいつ襲ってくるか分からない化け物に相対して落ち着く暇はなかった。


 「ブッフ!」


 巨体を生かした突進攻撃だ。棍棒で顔面を守りながら突進している。銛を奴の顔面に向かって構えておけば致命傷になり得るかもしれないがその場合奴の突進を真正面から受けることになる。突進方向から直角の方向に避けるのが得策だろう。


 距離が15メートルほどのところで右方向にサッと避けて距離を取るように動く。巨体が横を過ぎ去る。風をきる音を聞いて、通り過ぎたあとをみるために振り向く。そうすると奴はいつの間にか閉じていた扉に頭から激突した。


 ズガン、と音がした。壁の揺れが床に伝わり足に微細な振動が伝わる。交通事故を一度だけ間近でみたことがあるが、あれと似た感覚を覚えた。ただあれだけの揺れがあったにもかかわらず扉には傷一つ付いていない。迷宮は摩訶不思議だ。


 豚人は少し混乱していたようだが、数秒後には頭を振って構えをとり、こちらに大股で一歩踏み出してきた。タフさは見た目通りといったところ。


 魔導を一発叩き込んでみるか。


『氷弾』


 取り巻きを瞬殺したせいで、豚人はこれに絶大な警戒心を抱いているらしい。弾が生成されるのをみてから胸を棍棒で守っている。


 「っち、分かってるな。」


 『氷弾』に限らず、空気抵抗を出来るだけなくした固形物を発射するタイプは言ってみれば「点」でしか攻撃できない。しかも弾道は限りなく直線に近い放物線なので位置がズレやすい頭、足、腕にはとてもじゃないが当てれない。小鬼のときは前のめりかつ一直線に真正面から突っ込んできたから脳天やその他致命的な部位に当てられたが、距離が離れたうえで胴の大部分を守られると大ダメージを通すのは厳しい。1回見ただけで欠陥を看破されるとは思わなかった。


 しかし発射しなければ『氷』を維持するための魔素が持っていかれる。


「もしかしたら過去一厄介な敵かもな…」


 少なくとも貫通力を高めたタイプは通じそうにない。しかたないが取り敢えず『氷弾』

は放っておこう。脇腹あたりを狙って


 「『発射』!」


 そこそこの速度を出して発射されるが避けられて、後ろの壁に直撃しパキーンと音を立てて氷は砕け散った。


 遠距離からの攻撃が見切られている。


 ノシノシと今度はジリジリと間合いをつめる豚人。対して俺は前に歩いたり後ろに歩いたりして間合いの確認をしている。相手の武器は腕の長さを加味するとリーチは俺が銛で威力を出せる距離の約2倍ある。自分から殴りにいくのは自殺行為。微妙な間合いで前後に動くことによって、踏み込んだ攻撃を誘い後隙を狩るのが最も安全だ。


 豚人(オーク)は全力で伸ばしてギリ届くか届かないかをうろちょろする俺に腹を立てたようでさらに歩幅を広める。もちろん俺は後ろ歩きの形で距離を離しているので余裕で追いつかれてしまう。殺意を持った巨体に迫られるのは恐怖体験だ、心臓が早鐘をうち、全身の筋肉が収縮する。


 遂に奴の有効射程に入ってしまった。豚人は大きく振り被って巨大な棍棒を真っ直ぐ叩きつけてきた。


 「っふ!」

 固まった筋肉に力を込めて横に避ける。風が裂けるようなブンという音を肌に感じながら避ける。叩きつけられた棍棒が地面にあたる。重撃という言葉がここまで一致する攻撃は初めてだ。その棍棒の軌道は言ってみれば死線だ。


 攻撃をスカったこいつは思いっきり隙をさらしているようだが一旦薙ぎ払いや何も握っていない反対の手の警戒で様子見をしてみる。対面からの近接戦をリスクを嫌がってやらなかったため武器ごとの特性というか「隙になり得る行動」がわからないのが痛い。


 今度は腕を体の後ろ上側まで持っていき、そのまま振り抜く、横薙ぎの攻撃だ。バックステップで距離を取る。案外簡単に範囲外に逃れることができた。また重低音の空を切る音が響く。それは俺に物理的なダメージはないが「一発もらったら終わり」という精神的なダメージを与え続ける。


 そこから何回か攻撃をされたがどれも単調というか、とても避けやすい攻撃だった。薙ぎ払い攻撃は範囲は広いが威力を出すために振り上げた腕を斜めに振り上げるというわかりやすい予備動作がある。


 俺は棍棒についての武器特性を少しばかり理解した。棍棒は()の武器なのだ。棍棒のような持ち手と攻撃部分が離れている打撃武器を振り回すとき、最も威力が高まるのは遠心力のかかる中心であり、最も威力が高まる振り方は上から下つまり重力に従った振り方なのである。振り上げのような重力に逆らった振り方は威力と速度を下げる要因になる。


 そうと分かれば思いっきり後隙を狩ってやろう。


 豚人全力の振り下げ攻撃を軽く横に避け、銛を奴の太もも付近めがけて突く。


 「ギャ!ガァ!」

 痛覚はあるようだな。ただ、結構強めに刺してるはずなのに太いゴムに突き刺しているかのように全然奥深くへいけない。


 痛みに激昂して、奴は棍棒を持っていない方の手で感情のままこちらに掴みかかってくる。それに対して俺は


『発射』


 先に装填しておいた氷弾最後の一発を手に向けて放つ。もしものときのための一発だった。豚人(オーク)は言葉に反応して手を引っ込めたが弾が指先をかすめ中指の第2関節と薬指の第3関節より先が吹っ飛んだ。


 痛みを感じて唸り声の一つでも上げると思いきや興奮により痛みを感じてないのか棍棒を───一部欠損した部位のある───両手で持った。そしておもむろに振り回し始めた。なるほど片手で持っているときは振り回すと持っている腕側から持っていない腕側に振り下げると必ず隙間が生まれるが、両手なら問題ない。俺が奴に致命傷を与えるためには銛を喉や目のような柔らかい部分に突き刺すか魔素を大量に消費した魔導で消し飛ばすくらいしかない。


 俺の頭の中で論点になってるのはこの先の話だ。こいつを倒してドアが開いたとしてそこに敵がいたら魔素無しで戦う必要がある。豚人はボスではあるが今の俺にとって通過点でしかないのだ。奴は狂乱に陥りながらも最も───面倒くさいという意味で───有効な手段にたどり着いたのだ。


 正常な理性なく棍棒を振り回すオークが突進してくる。


 右半身への振り下ろし、切り返しの振り上げからの左から右への薙ぎ払い、兜割りのような真正面からの振り下ろし。連撃かつそれぞれが致命の一撃。


 距離を取ると振り回すのをやめて息を切らしていた。



 狙い目は薙ぎ払いの後の大きめの後隙と連撃中のスタミナ切れ。ここで銛を突っ込み、抉り、穿つ。興奮も醒める激痛で動きを止め、殺しきる。


 またバカ正直に(オーク)はやってくる。縦振り、縦振り、斜め振り下ろし、反対側から斜め振り上げ。 強力な膝狙いの横薙ぎ払い。


 ここだ。攻撃をかわすために後ろに下がろうとしたその時


 「っっっったぁ」


 何か踏んづける傷みによって声にならない悲鳴が出た。


 驚いて下をみてみると氷の破片が付近に散らばっている。あの時撃った氷弾が砕けたものを踏んでしまった。そして避けようとした攻撃が左腿に直撃して足を折る。


「ッが!」

 痛みで意識が飛びそうだ。だがここでおちるわけにはいかない。


「フフガ」


 まるで戦いは終わったかのように、嘲笑うかのように奴は佇む。そして棍棒を振り上げて、脳天をかち割るために振り下ろす。しかし、それは悪手だ。獲物を仕留める時、その時こそが双方ともに最も死に近しい。だからこそ、追い詰め、確実に一切取り入る隙なく終わらせる手段と過程を経るべきだからだ。

 俺はトドメとしての振り下ろしを転がるように避ける。そして決死の攻撃を仕掛ける。


 動く足にありったけの力を込めて跳び上がる力を使って銛を突き出す。


 奴の喉元の比較的柔らかそうな部位に刺さる。だが、まだ足りない。これでは決着はつかない。もっとだ。もっと深く、広く。


 「はぁぁ!ぁぁ!」


 突き刺した部分から血が噴き出てくる。髪の毛と顔面にもろにかかるがそれがどうした。


 「あぁぁ!」

 さらに深く。相手を殺す意思だけで。


 暴れる豚人。されど、重量の乗っていない攻撃など効くはずもなく。遂に動かなくなった。


 死亡を確認して尻もちをつくかのような感じで座る。現実時間ではそう長くないだろうが体感の時間では丸一日戦ってた感覚がする。聴こえるのは自分の心音と呼吸だけだ。


 興奮が冷めてきた。感じなかった足の痛みがどんどんとやってくる。よろよろと立って死体を確認すると、豚人の胸当て装備の下に何か結晶体が埋まってる。剥ぎ取って手に取ってみるとこの結晶体に魔素が多く含まれているのがわかる。


 【繋がったかしら、変ね最近は無くなってきてたのに。】

 「ん?なんだ?」

【ああ、良かった。繋がった。そのね、なぜかわからないけどね、貴方に時々話かけてるのになぜか伝わらないときがあって。最近は話したいときはちゃんと繋がってくれたんだけど今回だけ異様に繋がらなくてね。】

「そうなのか。」


 入ってきた扉とは違う扉の方でガチャンと音がして、その扉が半開きになる。足を負傷した俺からするとあの扉を開けるのは骨が折れるのでなかなか有難い配慮だ。


「行くか。」


 扉に向かって痛めた足を庇うようにして歩いていく。速度は遅いが不安のような負の側面を感じさせないあしどりだ。


 ドアに手を置き、ドアの先をみたときだった。俺はトラウマ()と目があった。


絶望した。

希望はなかった。

外への渇望が消えた。

ここは迷宮だった。

絶望した。


 


 

 

 

 


 


 

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